エルデンクエスト   作:凍り灯

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彼らの道行きに絡むことのない一人の男の話







その灯の名前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと礼を言えばいいか」

「お世話になりました、カーレ様」

 

エレの教会。

すっかり周囲の木々は寂しくなってしまったそこで、放浪商人であるカーレがとある一組の親子を見上げる。

一人は立派な騎士甲冑を身につけているものの、顎髭は不衛生に伸びてしまっている壮年の男性。一人は妙齢の女性で、金髪を後頭部で結っており、何より目元を全て隠すように布を巻いているのが特徴的だ。

 

彼らはメリディアンがこれより南の地、"啜り泣き半島"より連れてきた親子だ。

 

────待て、護衛の騎士もいない娘一人をここに置いていくのも危険だろう

────コイツを俺たちが守ってやる義理は?

────ブライヴ、お前にはないな。だが私にはある

────…はぁ、好きにすればいいさ

────すまない…メリナ?

────…仕方ないか…あなた、立てる?

 

────城の混種たちの反乱、城主の父は娘を先に逃がし城に留まっている。娘は、護衛を失いながらも一人生き残り途方に暮れ、通りがかった褪せ人に父への手紙を預けた、が…一人残した方が遥かに危険と考えたメリディアンが提案する。

 

そうだ、カーレのとこに預けよう。

 

ブライヴは天を仰いだ。メリナもこめかみを抑える。アレキサンダーはまだいない時の話だ。

カーレも流石にギョッとしたが、文句だのなんだの、それどころではなくなることになった。

 

「────いや…こういう時はお互い様さ」

 

普段の彼よりもややそっけなく、どうにも、上の空のようにも見える。それには理由がある。

 

 

 

"黄色い火"だ。

 

 

 

…彼の目は、その親子に黄色い火が(くすぶ)っていることを彼に教えていた。

特に娘の方は、()()()()宿()()()()()。"狂い火"が身を(むしば)み始めたのだろうが、彼女からは本来あるはずの苦痛を感じない。目が見えないほどに進んでしまっているというのに、普通ではありえないことだ。

黄金律から"狂い火の病"と恐れられたそれは、狂的な苦痛を目にもたらす…それが、ない。

 

ああ、巫女様に()()()()()()。カーレはずっとずっと、それが頭から離れない。

 

────カーレは放浪商人だ。

彼の一族は、かつて大商隊として栄えた商人だった。豊かな生活が続き、それを途絶えさせないためにと日々努力を絶やさずに生きていたつもりだった。

 

一体、何が悪かったのだろうか…黄金律は彼らを見放した。

 

意味も分からず異教の疑いなんてものにより一族郎党捕らえられ、王都の地下深くに生き埋めとなる。忌み子たちが幽閉された地下よりもずっとずっと深くに。

子供も女も老人も関係なく、狭苦しい地下で次々と窒息するように息絶え、死臭がしない場所など一切なくなるような惨状。

 

どうして言葉で言い表すことができようか。ただ何もかもが地獄だったのを朧気(おぼろげ)に覚えている。

 

それでも、多くが死に絶えてでも生き続けた。何故か?とても単純なのだ。

 

 

呪いだ。

 

 

俺たちは怨嗟の声を上げ続けた。呪うために。許せなかった、許せるはずがなかった。

黄金への呪詛に塗れた怨嗟の音楽が、地下へと鳴り響き続ける。間違いなく狂っていたのだろう、ただひたすらに、死ぬまで音楽を奏で続けた。

悲しく、美しい音色に、せいいっぱいの呪詛を乗せて。

 

一体どれ程の時間がたったのか。そんな時に、

 

 

エルデンリングが砕けた。

 

 

そして、()()が呼ぶ声に応えた。

 

リングの砕けが影響したのだろうか?

俺たちは歓喜した。

絶望の呪詛は、確かに届いたのだと!黄色い目でその声なき声に耳を傾け、壊れた世界となった地上へと這い出ていく。まるで一つの意志のように。逆流する一本の川になったかのように!

 

 

巫女 を 探せ 王 を 探せ

 

そして すべて を 一つ に

 

苦痛 絶望 呪い 罪 苦しみ

 

みな 過ちに より 生まれた

 

戻せ もどせ もどせ モドセ

 

黄色い 火 で 溶かし 戻せ

 

全て を 大きな ひとつ に

 

巫女 ヲ 探セ 王 ヲ 探セ

 

 

────そこから先を、カーレはあまりよく覚えていない。気付けば各地に散らばり、褪せ人を待つばかり。

あの時の死に塗れた絶望も、全能感のある高揚も、何もかもが夢のように。

 

カーレは気が付いた。

身に覚えのない異教の烙印(らくいん)。だが、きっといたのだ、俺たちの中に、アレを崇拝する誰かが。

 

「全てを一つに」

 

そう呟けば、心地よい絶望が胸を満たし、何かが熱を持つ。探さなくては、巫女を、王を。

 

────同時に、ひどく恐ろしいと感じる自分もいる。

 

俺はあいつであいつがあなたで、私は君で自分は俺だ。

 

あの皆が一つになったかのような感覚は、希望と絶望をない交ぜにしたまさに混沌。心地よい快楽であり、吐き気を催すような温かさ。ずっとずっと定まらない。

 

カーレはずっと、わからなかった。それはかつて王に最も近づいたと言われる指巫女を連れた褪せ人、彼が狂い火を宿した時ですらそうだった。

 

…その彼が、結局望まれた王となれなかった時にも、である。

 

「カーレ、世話になったな」

「ありがとうカーレ、また来るよ」

「今度はその音色をゆっくり聞きに来るさ、カーレ」

「カーレ」

「カーレ」

 

"カーレ"

 

カーレ、俺の名前。

俺だけの、名前のはずだ。そうだろう?そうだったはずだろう?今も、そうだろう?

 

「カーレ、また余計なお節介とはな…だが、おかげで面白いことになったのも、間違いない…礼を言うぞ」

「ブライヴ、お前がこうも馴染むとは、俺の審美眼も捨てたものじゃなかったな」

 

「いい音楽だ、カーレ…悲しさ、虚しさ…だが、恐ろしいほどの執念も感じる。何であろうと、素晴らしいものには間違いないさ」

「…わかるのかあんた。…そうだな、素晴らしいものか…考えたこともなかったな。あんたのハープも、俺は好きだがね」

 

「…カーレ、メリディアンが迷惑をかけた。あなたにも意地があるのだろうけれど、ハッキリと言ってあげた方がいい」

「あんたも大変だな…ブライヴのやつも、あいつは戦いのことになると力押しの傾向があるから気をつけろよ」

 

「うぅむ、貴公!カーレと言ったか!商人でありながら、いい戦士でもあるな!」

「戦士…?あんた、妙なことを言うな…そんな崇高なもんにはなれんと思うんだがね」

 

────ああ、恐ろしいんだよ。

 

わかっているさ。わかっている。

 

これは裏切りだ、一族の皆に対して、アレに対しての、子供たちの、女たちの、老人たちの、産まれてこなければよかったと叫んだ人々への、獣たちへの、死に生きるものたちへの、過去の自分に対しての裏切りだ。

 

…ここに預けられた娘はあまりに弱く無防備過ぎた、いつでも殺せた。そうすれば、()()()がこの身体を使ってくれる。彼女はきっと王を見つけ、導く。

そして一族の悲願を、呪いを成就させてくれる!黄金樹も、デミゴッドも褪せ人も何もかもを焼き溶かし、一つに還してくれる!そうして何者も産まれず、何者も苦しむことのない世界が来る!

 

何度も(よぎ)った、何度も、何度も。

 

けれど…俺には────

 

「────待ってくれ、"エドガー"…だったか」

「?どうしたカーレ殿」

 

ハルバードを持った騎士が立ち止まる。手を引いている娘、"イレーナ"と一緒に振り返った。

 

「俺と同じ格好をした、一族の商人があちらこちらにいると思う」

 

 

 

────…

 

 

 

「────近づくな、絶対に………頼む、訳を、聞かないでくれ」

「………わかった。恩人が任せたあなただ…その忠告、覚えておこう」

 

これでいいんだ。なぁ、ブライヴ?

なぁ、王には()()()()褪せ人。

 

あんたはきっと、違う在り方を目指す。

 

あんたはきっと、違う道を踏み出している。

 

けれどもその背に、灯に、誰かたちが導かれる、そんな気がする。

 

審美眼が冴えてる俺が言うんだ、きっと、間違いない。そうだろう?未だ名もなき褪せ人。

 

いつか"何か"になった時、俺にもその名前を教えてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの人と目を交わらすそこにいたがために、彼は違う道を選んだ。

意味がある事かはわからない、彼が何をしても、意味がないのかもしれない。

 

名前のない川の流れが一つ、途絶えて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









-放浪商人の帽子-

かつて、大隊商として栄えた商人たちは
異教の疑いにより、一族郎党捕らえられ
地下深くに生き埋めとなった

そして彼らは、絶望の呪詛を唱え
狂い火を呼んだ


-指痕の兜-

ヴァイクは、かつて
エルデの王に最も近づいた褪せ人の一人であったが
突然に王都の奥深くに潜り、狂い火に焼け爛れた

それは、己の巫女のためだったろうか
あるいは何者かが、唆しを囁いたのだろうか


-発狂伝染-

瞳と瞳で見つめ合う
それは、人の最も濃厚な接触であろう


-■■■の言葉より-

すべては、大きなひとつから、分かたれた
分かたれ、生まれ、心を持った
けれどそれは、大いなる意志の過ちだった
苦難、絶望、そして呪い。あらゆる罪と苦しみ
それらはみな、過ちにより生じた
だから、戻さなくてはならない
混沌の黄色い火で、何もかもを焼き溶かし
すべてを、大きなひとつに…


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