曇らせ大好き明美さんの子 作:スティック/糊
ふりゃーはまだ先。
伊豆バーベキューから5日後。
人生初の米花町は母の墓参りでした。
ありふれた菩薩寺で参拝をし、お寺のすぐそばにある墓地で宮野家の墓を探した。初めて訪れるお寺さんなので拝礼もせずに直接墓地に行くのもいかがなものか、と9時頃を目安に訪れた。
偶然にもすぐに宮野家の墓は見つかった。
彫られている名前も記憶している通りだ。
お寺まではバイクで来たので礼服を着ていないが、あの母なら許すだろう。
祖父母は分からない。
寺近くの花屋で墓参りに、と包んでもらった花を生けようと思ったが、お盆からそう日が立っていないからか花は綺麗なままだったので墓前に供えた。
しっかりと管理されているお墓だ。
お供えものも生ものを用意するのも憚られたし、置いて帰るのも迷惑になるだろうから花束だけ。
コンビニで買ったお線香に火をつけて、しゃがみ、目を閉じ手を合わせた。
初めまして、ぶっ飛んだ母から生まれた孫です。
母も目的は果たせたでしょうか。
ジン本人が始末したと謝罪をされ、それを受け入れました。
正直、顔写真一つ残していない母のポン具合に数度頭を抱えましたがとりあえず平和に暮らしています。
実父に会う気はないです。
正直話すことなどほとんどないけど、あの世で仲良くやっていてください。
以上、孫より。
「じゃあね、また。一年に一回くらいは来るようにする」
目を開け、立ち上がり、墓を後に使用を踵を返そうとするとすぐ後ろに人が来ていることに気が付かず、ぶつかってしまった。
「す、すみません」
「―――キミは」
ぶつかった先にいたのは濃いグレーの着物に黒の紋羽織、そして眼鏡が特徴の背の高い男性。
「少し、時間を貰っていいかな」
そう言って彼は私に少し待つように言い、懐からちょっとお高い線香を取り出し火を―――つけられなかった。
「……ライター借りても良いかな」
「どうぞ」
お参りに来てライターを忘れ、線香に火をつけられなかった、どこか締まらない男、羽田秀吉との初めての出会いがコレである。
〇
「さて、好きに頼んで」
「は、はぁ」
墓参りが終わり、スクーターでやって来たという彼の後ろをバイクで追いかけ、やって来たのは喫茶店。
将棋の対局で出前を取る時に個々のデザートを好んで注文するという。
「では、珈琲を」
「分かった。注文するね」
そう言って彼は人のよさそうな穏やかな顔をしながら、珈琲とケーキを二つづつ注文した。
いつかは親類の誰かに当たるんだろうな、とは思っていたのでストレートにぶちまけることにした。
多分この人なら降谷零との交友とかないだろうし。
赤井秀一へだけは一切情報が漏れないようにさえしてくれれば限りなく安パイ。
初めて会う親類としては当たりである。レアリティSSR。
これまた赤井家に認知されてない私のはとこ純花ちゃんはUR。
「改めまして、羽田秀吉と言います。宮野家とは母方の親族にあたるよエレーナさんと厚志さんの甥にあたって、明美さんとは従兄になる」
「宮野明美の娘、宮野玲奈と申します」
「――スゥ、明美ちゃんの娘さんかぁ」
すんごいキリっとした顔で、自己紹介をしてきたが私が明美の娘を名乗るとすごく大きく息を吸い、力なく机に倒れこんだ。
おそらく私の容姿から宮野家の親族であることは容易に想像がつき、過去の組織関係で色々なことが生きて想像しやすいのは宮野姉妹が知らない末の妹説とかだろう。
「従姪に当たるという事でしょうか」
「そう、みたいだね。個人的にあり得る可能性としては年の跳ねれた従妹なのかな、って思ってたんだけど」
私の考察通り、私は年の離れた従妹だと思われていたらしい。
「ちなみになんだけど、他の親類と会ったこととかって…」
「無いですね。母が私を生んだのは16の時と聞いているので母の妹も私の存在は知らないはずです」
「う゛ェ!?」
どうにか顔を上げ、再び私に質問をしてきたがまた突っ伏した。
畳みかけとこ。
「墓の存在を知った経緯も高校生になってからで、高校で出来た友人の義父が昔悪の組織と言うやつの関係者で母と交友があったそうで、墓を教えてもらいました」
「ゴフッ」
「父は降谷零と言う男らしいです。絶対に会いませんし、ましてや親子関係を認めることもありません」
「ダハッ」
「赤井秀一とか言ううちの母が死に至った原因のくそ野郎にだけは私の存在がバレたくないのはあります。自分の従兄妹にロミトラかまして組織に潜入して中途半端にポイ、ひょっこり帰って来たと思えば元恋人の妹に盗聴とかストーキング行為。そんなまともじゃない親類とか顔も合わせたくない。死ねばいいのに」
「―――――」
秀吉さんは灰になった。
〇
「えっと、その、じゃあ、秀一兄さんと降谷さん以外なら顔を合わせてもいい、ってことかな」
「そうですね。引き取りたいとか養子に迎えるだのを言ってこない限りは」
「……(母さんと志保さんは絶対言うと思う)」
秀吉さんが何か言ってきたけど聞かなかったこととする。
「親類との面会の日取りは設定するね、秀一兄さんには伝えないように妹にも厳命しておく」
「…秀吉さんが胸の奥にそっとしまうか駒置きくらい遠くに置いてもらえると一番いいのですが」
「知ったからには報告しないと僕がフルボッコに会うから、どうか顔合わせをしてほしい」
「すごくしぶしぶ分かりました」
そんなことを言っているとふと喫茶店の外に視線を感じた。
「……羽田さん、外にいらっしゃるのは奥様でしょうか」
「ゆ、ゆみたん!?」
「本日奥様とのご予定や、親類(推定)との話をすることになった等の事前に説明は」
「してません!」
「私も説明するのでお呼びください」
「わ、分かった!」
座っていたのは割と窓際に近い席であったことから快活そうな女性がこちらをガン見して、特に秀吉さんを鬼の様な形相で見ていたのでおそらく男女関係のそれ。
彼の指にシンプルな結婚指輪が付いていたし、昨年同一年に7大タイトルを制覇していたはず。
彼が結婚していることを推察するのは容易だ。
急いで入口に向かった秀吉さんは、うん。
奥さんにぶん殴られていました。レバーブロー、あれは痛い。
赤井家は報告連絡相談がへたくそなのか?
あ、奥さんが秀吉さん胸倉つかみながら引っ張って来た。
「で、あんたは高校生くらいに見えるけど」
「初めまして、宮野玲奈と申します。彼の親類で従姪に当たります。先ほど母の墓参りの際に偶然会いまして、お茶を奢って貰っていました」
「……確かに、お盆に対局で行けなかった従姉の墓参りに行ってくると言ってたわ」
「いろいろと複雑な所があるので後ほど時間が出来ましたらお話させて頂ければと思います。すぐに証明できるのは免許証に記載された氏名に偽りがない事だけです」
「いい、いい、大丈夫。完全に私の早とちりだったみたい」
「明らかに棋士でもない女子高生くらいの女の子と2人きりとか奥さんは気が気じゃないはずです。心中お察しします」
「―――スゥ、初対面で威圧的になってごめんなさい」
「お気になさらないでください。原因の大半は報告連絡相談がへたくそと思われる羽田さんだと思われます」
「ほんとそれ」
そう言って彼女は胸倉を掴んでいた手を雑に放し、羽田さんは床に倒れた。
お詫びにここの料金は持つ、と言って男前に伝票を摘まみ上げ、こちらが待ったをかける前に会計を済ませてしまった。
……男前だ。
「話の続きはうちに来ると良いわ。チュウ吉はスクーターで移動してたはずね、貴方…玲奈ちゃんだったわね、移動手段は?徒歩で来たなら私の車に載せてくわ」
「私も家からお寺までバイクで。喫茶店までは羽田さんの後ろをついてきました」
「そう?住所も教えるけど心配だったら後ろついてきて」
「分かりました。えと、その羽田さんは?」
「その内復活するでしょ」
中々にドライな羽田妻が行くわよ、と声をかけてきたので急いでバイクに跨りスムーズにでていく車を追いかけた。
……秀吉さんは小鹿の様にプルプルしながら喫茶店を出る所だった。
〇
「そういえば自己紹介してなかったわね。私はチュウ吉の妻の由美。あ、珈琲はちょっと切らしてるな……リンゴジュースとかで大丈夫?」
「え、あ、お構いなく」
「アレルギーとか?」
「アレルギーの類いはありませんが」
「じゃ、リンゴジュースにしとくわ。あ、適当に座って」
チュウ吉についでに珈琲買ってきてももらおう、なんてことをつぶやく彼女はてきぱきとコップにリンゴジュースを次いで来た。
どこに座ればいいのやらとしていれば彼女の対面にコップを置かれたので、失礼します、と席に着いた。
お姉さん力と言うか、姉御力高いなこの人。
「さて、邪魔した私が言うのもなんだけど何か困りごと?」
「ある意味困りごとと言えば困りごとですかね」
「よし、お姉さんが聞くわ」
そう促されたので要所要所搔い摘みながら説明をした。
彼の親類が巻き込まれた事件のこと、ちょっと特殊な生まれのこと。
結果的に今大きく困ることと言えば親類にあーだこーだ横から口を出されて環境を変えられたくないことを告げた。
少し長い話だったが由美さんはしっかり目を見て聞いてくれて、終わる頃には滝の様に涙を流しながら、
「う゛、チュウ吉に言えないようなことや友達にも相談できないようなことが有っだらこの由美様に言いなざい」
とすごく優しく抱きしめてくれた。
そこで私は場違いにも、おや?と気になることに気が付いた。
「……その、由美さん現在妊娠初期でしょうか」
「ふぇ?」
彼女に抱きしめられた時少し体温が高く感じられたこと、恰好はしっかりとしているけど足回りが少しラフなこと、軽度の浮腫みを感じられたこと。他数点。
あまりにも湿っぽい空気感に堪え切れなかったことは否めないが、気が付けば口に出していた。
「―――――すっごい心当たりあるわ」
「私の気のせいかもしれないので、検査薬や産婦人科に行かれることをお勧めします」
「よし、産婦人科には早めに行く。そしてチュウ吉には少なくともこの子が生まれるまではあなたの問題に首を突っ込むの禁止させる」
「えぇ…」
「チュウ吉には私が上手い事言っておくわ。あ、連絡先交換しておきましょ」
「は、はい」
こうと決めたらキッチリ動く行動力凄い由美さん。
もう姉御って呼んでいいかな…
「そういえばチュウ吉とは連絡先交換したの?」
「いえ、まだです」
「じゃ、電話番号教えておくから困ったことがあれば私でもチュウ吉でも連絡して頂戴。かけるかどうかは好きにして」
「ありがとうございます」
由美さんと連絡先を交換し、その日は解散となった。
秀吉さんは羽田家の駐車場を離れて50mほどの所ですれ違った。
奇跡的に回避ヨシ!
〇
玲『母の墓参り言ったら羽田秀吉にエンカウントしました』
景『え、大丈夫だったの』
純『やっぱり米花町はフラグの町ね』
玲『自己紹介はして赤井秀一断固拒否の姿勢を見せて親類の顔合わせの場をセッティングされそうになったけど救世主羽田由美の姉御のお陰で回避できました』
景『ふぁ!?』
純『あ、羽田名人結婚できたんだ』
景『そういえばあの人去年タイトル完全制覇してたね』
玲『墓参りで秀吉エンカウント→
喫茶店にドナドナ→
親類の顔合わせの場をセッティングされそうになる→
浮気現場(推定)と勘違いした姉御エンカウント→
姉御チュウ吉にレバブロ、チュウ吉瀕死→
羽田宅にドナドナ→
ざっくり半生説明、姉御が味方になってくれた→
姉御おそらく妊娠初期
「この子が生まれるまでは親族間の問題に首つっこっませない」
→
ワイ無事帰宅←NOW』
純『姉御…』
景『姉御!』
純『私も姉御なら親類として会っていいかもしれない』
玲『姉御は私の連絡先持ってるけど、秀吉さんは持っていないのでどうあがいても現状話を進めることが出来ないのでとりあえずどうにかなってる感じ。赤井家(長男除く)には情報が流れるかも』
純『いざと言う時必要なら逃げの手として私の情報開示していいから』
玲『純花ちゃんも必要なら逃げの手として私の情報開示していいよ』
純『わかった』
景『私も継続して黙秘しておくね』
玲『ありがと』