曇らせ大好き明美さんの子   作:スティック/糊

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ご都合主義でやんす。


ば、バンド?

 

「文化祭でバンド、しない?」

「唐突」

 

 夏休みが終わり2学期を迎え1週間、放課後週に2回程度恒例になった私のバイト先の喫茶店で給仕をしていると景が唐突にぶっこんで来た。

 

「夏休み中、パパのとこにジンジンが来ることがあってさ」

 

 そんな言葉と共に、伊豆バーベキューから数日後、ジンが諸伏宅にやってきて、景光と情報交換、と言うかパパトークをしていたらしい。

 心配性の諸伏パパを高坂パパことジンが心配のし過ぎ、少しは娘を信じてやれなど色々諭してくれたという。

 

 そこから少し昔話になり、諸伏が売れないバンドマンを装いスナイパーをしていた話に転がり込み――

 

「気が付けばパパにベースを教わってた」

 

 どうしてそうなった。

 

「まぁ、色々と会ったのさ」

「私、ドラムとキーボードならできるよ」

 

 今度は純花からの援護射撃。

 曰く、ジンに連れて行ってもらった小洒落たジャズバーにハマってた時期があり、ジャズと言ったらサックスか?とサックスに手を出した時期があったらしいが、ドラムやピアノに落ち着いたという。

 ジャズバーではおしゃれなノンアルカクテルを色々覚えたそうだ。

 

「玲奈ちゃんは楽器経験とか……」

「あると思いで?」

 

「おや、バンドの話かい」

「マスター」

 

 小さな喫茶店であるためか、二人がカウンターの端っこを陣取り、カウンター越しに私が会話するのが日常的だったのでマスターの耳には容易に入ったのだろう。

 普段からよく来てくれるからサービスだ、なんてケーキなんかをサービスしてくるくらいしか首を突っ込んでこないのだが、マスターのとある琴線に触れてしまったらしい。

 

「ベースとドラムのリズム隊がそろっているならギターが良いだろう、偶然そこにヘッドとキャビがある何、ギターなら私のを貸そう。すぐにとってこよう」

 

 そう言ってマスターは客が私の友人しかいないことを良い事にさっと二階の居住スペースに向かってしまった。

 マスターがすぐそこ、と言ったのはこの喫茶店の地下にあるキャパ50人程のライブハウスのことだ。

 

 …そう、マスターは珈琲とバンドのことになると早口になるおじさんなのだ。

 依然はそれなりに売れていたバンドのギターをしており、今では趣味の喫茶店と若者が気軽に音楽に触れられるようにと割安でライブハウスを経営する完全趣味人である。

 ナイスマダムなマスターの奥さんはバイクのことになると人が変わるツーリング大好きウーマンである。

 奥さんにバイクのことは未だに言えていない。

 会話の中でバイクワードをこっそり混ぜてくるので避けるのに必死である。

 

 

「さ、下に行こう」

「えーと、まだ営業時間が」

「そんなもの臨時休業だ」

 

 ギタリストを増やすためならその程度安いものさ、と素早く入口に臨時休業の札を掛けるマスターに完全に趣味でやっているからできる暴挙だと私は完全に口を引きつらせた。

 多分ここの常連さんは営業時間内に喫茶店の札がかかってライブハウスのシャッターが開いてれば察する。

 

「ね、玲奈ちゃんもしかしてマスターって」

「珈琲とバンドのことになると早口になるおじさん」

「なんかごめん」

「ええんやで」

 

 突然の流れに状況を把握できていない景が藪蛇ったとバツが悪そうに謝罪してきた。

 私はやんわり流し、こうなったらマスターは止まらねぇな、とおとなしく彼の後ろについて地下のライブハウスへ向かった。

 

 

 

 ライブハウスのメインルームの脇にある練習スタジオに案内された私たち。

 

 電気をつけ、流れるようにMarshall JCM800のパワーボタンを入れ、ハードケースから、女子受けもよさそうな淡いバーガンディミストのテレキャスターを取り出した。

 ………口を開いたらアカン。

 

 これ絶対ビンテージのテレキャスやんけぇ!

 68年式とかだったら確実に3桁万円超えるレアもんじゃぇねか!

 

 かわいい色合いですね、とかテレキャスって言うんだっけ、とか言ってる二人に対して内心穏やかじゃないよ、私。

 

 マスターのスリーピースバンドならギータ―はボーカル兼任するよね、と言う後の発言が手に取るようにわかる自分が嫌だ。

 ここでテレキャス用意するってだいたいそう言うことだし。

 

「さ、自由に音を出してみると良い」

 

 もはや唇噛んで渋い顔したい。

 

 そう言ってマスターがシールド繋いで、ドンシャリな良い感じにEQ調整した状態のテレキャスを渡してくる。

 

 ……逃げ場ない感じ?

 

 マスターからテレキャスを渡された私は開放弦をダウンストロークでならす。

 流石ビンテージ、アンプ直結でもすごくいい音してる。

 

 少しおぼろげな記憶を頼りに前世で馴染みのあったカッティングフレーズを鳴らす。

 コードが抑えやすいな、おい。

 前世よりも身長が10数センチ低いというのに女性特有の長い指が抑えやすい。

 それに体のコントロールが事情に容易だ、前世ぶりのギターだが存外前世で食っていた職業事は魂に刻まれていたよう。

 

 気が付けば少し夢中になっていたようで、締めにメジャーコードを抑えピックをアップダウンしてミュートした所で我に返った。

 

 マスターが拍手をし、それに釣られたように二人も拍手をする。

 

「これで満足かコノヤロー!」

 

 あっさりとギター好きが露見し、思わず顔を両手で覆った。

 

「ギターは本当に金が飛ぶから手を出さないようにしてたのに!」

「そんな君にはこのテレキャスを――」

「シリアル的に68年ごろの3桁万行きそうなヴィンテージとか恐れ多すぎますが!女子高生には雑にスクワイヤとか、バッカスあたりで良いんです!」

「ほう、ちなみにここに良い感じのボードがあってだね」

「TSminiにRATって、初期型ァ!」

「BD2も」

「技じゃないですかヤダーMarshallよりJCでならす方が楽しい奴ぅ」

 

 そんなマスターのごり押しをポカンと見る二人。

 

「ギター好きで黙ってるなんて水臭いじゃないか」

「だからギターに手を出すと数十万くらい平気で飛ばしちゃうから手を出さなかったんですぅ!」

「と言うかあわよくば君にギター始めるきっかけになればと用意したギターだ、貰ってほしい」

「ここまでバイク通勤してて、立ちごけしたら立ち直れなくなるので勘弁してくd―――はッ!?」

 

「へー、玲奈さんバイク、乗ってるんだー?」

 

 いかにマスターからギターを受け取らないかと言い訳を並べていると背後からマスター妻が来ていることに気が付かなかった。

 

「玲奈さんバイク、なに乗ってるのかなー?」

「え、SR400final editionを少々ぅ……」

 

「いい趣味してるじゃないか。ちなみにツーリングに興味とかって」

「まだ高速は流石にぃ……」

 

「そっかそっか、ちなみにアメリカンはお嫌いかな」

「状態のいいSR400見かけてなければレブルに手を出してたと思いますぅ…」

 

「18歳になったら大型、取ろうか。ハーレー用意してあげるね」

「ひぃん!」

 

 こんな金の卵がすぐそばに居たなんて、と笑うマスター夫妻を目じりに、少し引いた位置にいた二人に“なんか、ごめん”と帰り際、謝られた。

 

 なお、文化祭でバンドはするものとなったし、バイクは店の裏手に止めて良いものとなった。

 いろいろとダメージを受けているところにギターボーカルよろしく、と押し付けてきたのはちょっとだけ根に持ってる。

 

 

 〇

 

 

 マスターが文化祭までの間練習スタジオを格安で貸してくれることとなり、バイト終わりにバンド練習が日常となった。

 マスターは高校まで足を運ぶのは流石に、と言うことで文化祭直前になったらうちのハウスでもライブしてね、と言うのが格安の条件である。

 高校でライブをするための機材も貸してくれるという。

 箱に人が入るかどうかとかより、こいつらのバンド聞きたいなーと言う欲望のみでステージに立たせる男、それがマスターである。

 結局テレキャスターは押し付けられたのでセミハードの背負いやすいケースを押し付けられたその日に買うことになったのは別の話。

 

「二人とも上手すぎない?」

「こんなもんだよ」

「私も久々だから家でずっと電子ドラム叩いてるからじゃないかな」

 

 軽いノリで結成された3Pバンドはシンプルなギターベースドラムの構成。

 楽曲も前世で二人も知っているような曲に決まった。

 結成1か月ちょい、学校の文化祭の為だけに実質オリジナル曲を出すバンドとは。

 

「私ももう少し練習時間増やす」

 バンド発起人が一番下手とか示しがつかないよ、と景が燃えていた。

 

「それにしても玲奈ががっつりギター弾けるの驚いた」

「一応、前世バンドマンだったから」

「バンドマンでバイク乗り、いかにもって感じだね」

「まったくモテなかったけどね!」

 

 二人のディスりを捌きつつ、課題曲として前世での有名曲の練習を続ける。

 

「ドラムの安定感が有難すぎるよー」

「ほんとそれ」

「ほめても何も出ないよ」

 

 なんというかTHE女子高生バンドって感じだ。

 

「前世で文化祭バンドやるぞーみたいな話に憧れて初めて見たけどやっぱハードル高いよぅ」

「まぁ、私たちもだいぶご都合主義みたいなところあるし」

「確かに別パートの楽器経験者2人いるの強い」

 

 それはそう。

 

「なんかパパが文化祭来たそうにすっごくソワソワしてるんだけど」

「うちもお父さんがさらっときそう。どうしよ」

「とりあえず仮面かマスクでもかぶっておく?」

「それは色物過ぎるけど一番安パイ」

 

 実際問題としてはそこが一番ネックだろう。

 正直なところバレたらバレたで別に構わないのだが、バレた後のめんどくさそうな騒動が発生する可能性があることが嫌なのだ。

 下手すると警察関係者パワーの力技とかありそうなところが特に。

 私も純花も今の生活が一番生に会っているところで、今までの生活が変わることを何より恐れている。

 

「えー、そんな今の日常が崩れるとか一番嫌ですが、という気持ちを込めて一曲作ったんだけど聞く?」

「「もちろん聞く」」

 

 結果文化祭では歌わず、このライブハウスで歌う歌が一曲増えました。

 

 

 〇

 

 

 アッという間に月日は流れ、10月後半江古田高校を翌週に控えた日曜日、ほぼ身内しか存在しないライブハウス“江古田3”に気が付けば喫茶店の常連さんらが集まり、名前すらないバンドのソロライブが開催されることとなった。

 文化祭が近くなるにつれ、どんどん機嫌がよくなるマスターに常連さんが気になって問いただした結果、喫茶店の看板娘が歌うと聞いて、とまさかの満員である。

 

 文化祭でライブするぞーと言う青春を走った結果が文化祭前にソロライブ50人規模の箱満員。訳が分からないな。

 

「結局曲数は5曲、オリジナル曲4曲、気が狂ってない?」

「少なくとも結成1か月ちょっとのバンドのそれじゃないのは確かでしょ」

「二人が2曲づつ作った結果だからね!?」

 

 やって来た観客は皆常連さん……とジンニキとウォッカ。

 そんな感じで多少緊張はするものの、比較的リラックスできているし、こんな雑なMCトークができる余裕すらある。

 

「えー、本日はまさかの50人キャパ満員と言うことで非常に驚いております。そう、主犯のマスターさんあなたが原因ですからね」

 発起人でリーダーとなった景がマスターを名指しすると周囲に笑いが生まれる。

 

「素人女子高校生が精一杯青春した結果です、緩く聞いてください、先ずは月9ドラマの主題歌から――」

 

 前世の曲は文化祭の方で、ライブハウスでは好き放題やったろうと言う結果がコレである。

 この短期間で数曲覚えるのもしかしてこのバンドスペック高いのでは?

 

 ドラムがカウントを取り、歌が始まる。

 ベタなJPOPの王道コード進行を繰り返しながら、喉を温めるように歌っていく。

 この世界でのヒットソングをウォーミングアップとか自由過ぎませんかね。

 

 歌い終えるとそこそこの盛り上がり。

 

「と言うことで皆さんも聞いたことのある曲だったのではないでしょうか。はい、そうです、ここからオリジナル曲4曲とか言う無謀です。でも、完成度は高いので楽しんで行ってください、ここからぶっ通しです」

 

 2曲目そう言って私のギターソロから始まったのは盛り上がりを求めたロックテイスト。

 ウィスパーボイスなのに歌う時はカッコいい声が出るとか脳がバグるとよいしょされ、調子に乗って作った楽曲だ。

 やりたいことがあるならやらなくちゃ、そんな曲。

 それなりに刺さったみたい。

 独学だけどボイトレで肺活量鍛えておいてよかった。

 

 3曲目は純花がなんか青春っぽい曲欲しいよね、とその場で即興で叩き始め、それに私がそれっぽいノリで乗り込んで、これのコードなに?と目を回す景を目じりにできた曲だ。

 

 4曲目は純花の趣味前回のジャズテイストのロック。

 お陰でテレキャスだとなんか違う、とGibsonのレスポール買っちゃったけど!

 ちょっと大人な雰囲気を出したつまらない男はお呼びじゃないって曲。

 

 5曲目はこのオリジナル曲に染まる要因を作り出した私が今世で初めて作った曲。

 今の日常が崩れるとか一番嫌ですが、という気持ちを込めた曲だ。

 

 最後まで歌いきってもう汗だくで、途中から観客の様子より自分の演奏に集中しちゃったあたり、前世には遠く及ばず、バンドマンじゃないのにバンドマン失格だなーと思いながら最後の音をミュートする。

 

 すると、箱が揺れた。

 

 意味が分からないが、歓声で箱が揺れたのだ。

 

 次第に鳴り響く拍手に酔いしれる間もなく、拍手が手拍子にかわり、アンコールになった。

 

 え、アンコール歌うんですか、と驚いたようにマスターを見れば満面の笑みでサムズアップ。

 歌えとのことらしい。

 

「えー、アンコール来ちゃったけど、どうする」

「どうしよ、一ミリも考えてなかった」

「もう、文化祭でやる予定だったけどアレ、やっちゃおか」

「マジかー」

 

 そして、ここで歌う予定一ミリもなかった前世で3人が知ってて好きな曲、完全にアニソンだが、締めにはいい……のか?

 文化祭ライブの王道みたいなとこあるしいっかとのことで決まった曲だ。

 

「それではアンコール頂いたので最後の曲になります“オリオンをなぞる”」

 

 

 

 〇

 

 アンコールを歌い終わった後、追いアンコールをされたが、今日はここまで、と景が言い放ち、観客の悲嘆の声をスルーし、ライブを終えたのだ。

 ライブと言うか音楽好きが集まってる喫茶店だとは知っていたが、ここまでノリのいい人たちだとは。

 

「えぇ!?プロを目指す気ないのかい!?」

 

 ライブが終わり、いつもの喫茶店でマスターが打ち上げをしてくれることとなった。

 

「私は将来パパと同じくお巡りさんになるつもりなので」

「私もお父さんの仕事継ぎたいので」

「私も手堅い大手か弁護士かなー」

 

 三者三葉、それぞれある程度将来の方向性があるからかマスターのショック顔が更に深くなった。

 

「そもそも文化祭ライブ出たいねーで結成したバンドがどう転がったらプロを目指すんですか」

「で、でも君たちをスカウトしたいって僕の昔いたレーベルとか、大手の子とか色々名刺預かってるんだけど」

「そんなそんな、売れて生活できるほどにはなれませんて」

 

 私たちは割と緩いテンションでライブ楽しかったーくらいのものである。

 上記の様に

 プロとか考えてないですね、はい。

 

「どうやらお前らは自分の実力ってもんを理解してねぇみたいだな」

「そうは言われましても…」

 

 そこで出てきたのはジン。

 まさかのジンニキP誕生?

 

「なら、数字が出ればお前らも納得すんだろ」

「あ、レコーディングをするのかい?僕、そこら辺の伝手いくらもあるよ」

「なら任せた」

 

 まさかのジンニキP誕生らしい。

 

 ほへっとしている私たちをしり目に、お前らの文化祭が終わったら収録だ、とのお達し。

 純花はお父さんが言うなら、と異論はないらしく、私と景もジンには世話になってるから一度くらいやってみるか、と先のことはジンに丸投げすればいいだろうという投げやりのまま、インディーズバンドとしてデビューが決まった。

 

 CDよりもサブスクが力のある現代では未参入の所でもDLの様子を見てアルバムを作ったりなんかがあるらしい。

 そこで作ったCDをお店に置いてもらえるかどうかが大手との差みたいなもの。

 

 私たちCD出す予定ないしヨシ!

 

 そんなノリだったはずなのにとあるきっかけでアホほどバズり、景が“パパの扶養から外れちゃう!”と叫ぶのはそう遠くない未来。

 




楽曲コードってタイトルだけでも必要なんやろか
分からんけど乗せるために再編集。

2024/06/19
主人公アホの子にして書き直すので此処まで!
気まぐれに更新するかも...?

2024/09/01
アホの子だと書きづらいことに気がついたのでダラダラ書きます()
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