曇らせ大好き明美さんの子   作:スティック/糊

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年末

 

 ライブハウス“江古田3”から変わってこれまた常連さんでマスターのマブが運営する120人キャパのライブハウスで2回目のナモナイのライブは行われ、満員御礼となり無事終了。

 

 物販も行われているが私たちが売り場に立つことはなく、ライブの従業員さんが売り場に立ってもらっており、私たちは控室で神妙な面持ちのまま3人そろってゲンドウポーズを取っていた。

 

「いたね」

「いたわ」

「やっぱアレ、カミーユの人?」

 

 途中MC入れながら無事8曲やり遂げたのだが、薄暗い照明の中でもひと気は目立つ緑のスーツの眼鏡の公安警察官のインパクトにやられていた。

 

「なんで風見居んねん!」

「隣に若い子居たね、年の差?」

「あ、それ風見んの娘」

 

「「娘おるんかい!」」

 

 二人でツッコミを入れながら景の話を聞けば風見さんが大学生時代に学生婚して生まれた娘さんらしい。二人娘さんがいて今日いたのは姉の方で景とも度々遊んでいるとのこと。

 

「……変装効いてるよね、大丈夫だよね」

「まぁ、ヅラかぶって全員普段着ないガーリーな服に寄せてメイクの方向性もがっつり変えたから大丈夫、なハズ」

 

 そして何より気になったのが身バレしないか。

 CDだして、ライブやって何を言っているのかと言う話だが、私は遺伝子上の親類に身バレしたくなくて、純花も遺伝子上の父方の親類に身バレをしたく無い、そこが中心。

 

 故に身バレの変装の意味を込めて量産系昨今の女子をイメージした変装を行った。

 

 景が黒髪ボブから茶髪のロング。

 純花が黒髪のセミロングから金髪パーマ。

 私が金髪ショートから黒髪ロングに。

 

「…このウィッグめっちゃでき良くない?」

「私も前世コスプレかじってたけどこれめっちゃいい奴」

「昨今お父さんが鈴木園子並みに便利キャラになりかけてるけどこれは公安お得意のお店の奴」

 

 ちなみにカットは純花がやってくれました。

 ……将来的に度々ヘアカットしてもらいたい。

 美容室苦手の身として放置しすぎて一時期エレーナの2pカラーになった見としては高手先が器用な人がいると頼りたい気持ちに非常に駆られる。

 

「ま、気にしても仕方ないバレた時はバレた時。ジンジンSEC〇Mに期待しよう」

「せやな」

 

 

 〇

 

 

 何事もなく年末を迎えた。

 二人と会うのは年明けの学校。

 

 私はどこへ向かって年を越そうか考え、何も考えつかぬまま衝動的に買いそろえたキャンプ道具をバイクに積み込み積雪してそうな山辺を避けあまり休業してなさそうな横浜中華街へ向かった。

 割と日中は営業しているお店が多く、キャンプ飯を考えながらちょこちょこと調味料を買い漁る。

 

 中華はいい。

 キャンプ飯と言えばオシャレなダッチオーブンだのアヒージョなんかがもてはやされいるが、一人短時間でサクッと飯を食べるなら中華が楽だ。

 

 確かに不自由を楽しむというキャンプの目的に利便性などと言い出したらある意味本末転倒だが、気分が中華になっていた。

 年末の特番が悪い。

 

 香辛料買いあさってカレーもいいかもしれない。

 

 ……そうなるとパエリアとかもアリになってくる。

 

 ‥…昼、適当な所で中華にして夜にパエリア。

 そうしよう。

 

 こういう時行き当たりばったりで気楽に決めるのも一人の良い所かもしれない。

 

 何処の店がいいのだろうか。

 正直に言えば横浜中華街は初見で気になったところになんとなく入っているだけなので全く分からない。

 事前に純花経由でジンさんに聞いておくべきだったかもしれない。

 

「おっと、お姉さんヒマしてる感じ?一瞬付き合ってくんない?」

「お断りします」

 

 スマホ片手に店について調べていると、まぁ、いわゆるナンパと言うやつにあった。

 中途半端にチャラい感じの2人組。

 

 心底めんどくさそう。

 

「まぁ、まぁそんなこと言わずにさ」

「放してください」

「イイからいこうぜ、美味しいとこ知ってっからさ」

 

 案の定というかなんというか強引に腕を掴まれ連れて行かれそうになる。

 ―――これは正当防衛になるそれなりの理由になるよね、未成年の女子一人に成人男性2名で婦女暴行の前触れだし。

 

「はい、そこまで。そこのお嬢さん嫌がってるのわからない?」

「なんだテメェ」

 

 どこか聞き覚えのあるポケ〇ンのコジ〇ウボイスが仲裁に入った。

 

「何者か、と聞かれたら答えてあげよう。お巡りさんだよ」

「ゲ、ポリ公かよ」

「これ以上やるなら警察署でお話聞くことになるけど」

 

 ……その名乗り、ちょっと惜しい。

 って違う違う。

 

 仲裁に入ってくれた長身の人がポケットから警察手帳を取り出すと、ナンパ2人組は手を放し、スゴスゴと去っていった。

 

 

「お嬢さん大丈夫だ―――った?」

 

 去っていったナンパ二人組の背を見ながら“年末だって言うのにお盛んだ”とつぶやく長身の人はこちらを見ると固まった。

 …面倒ごとの匂いを感じ、一言礼を言って去るに限ると行動に移そうとする。

 

「助けて頂きありがとうございm――」

「あっ、伊達の財布警察に届けてくれた宮野ちゃんだよね?」

 

 ……ナンデ身バレシテルンデスカネ。

 

 と言うかあの財布伊達刑事のかよ、と言うかこの人萩原さんだ。

 爆死して本編に階層しか出てこなかったあの!

 

 母の曇らせ対象①やんけぇ……

 

 

 

 先ほどのナンパ男と大差ないが、半場強引にちょっと待っててと萩原さんに呼び止められ、去るにされず両手に肉まんを持った彼におひとつどうぞ、と半場強引に渡された。

 

 拒否しようとしたら「アラフォーになると2個はきついんだ」とすっごい悲しそうな顔をされたので思わず受け取ってしまった。

 

「えーっと、今更だけど怪しいものじゃなくてね。俺警察官で萩原研二っていいます」

 

 肉まんを食べるのに少しためらっていると警察手帳の掲示をしながら自己紹介をしてきた。

 

「……昨今の偽造事情から一般人は本物かどうか見抜けません」

「そうだよねー。あ、警察官には識別番号がって…階級章セットじゃないと分かりずらいし、最寄りの警察署に問い合わせて貰えば階級と所属と名前で本物って説明が付くんだけど」

 

 だいぶ失礼なことを言っているが、随分と真摯に対応してくれている。

 果たして私は何時彼と遭遇したか。

 

 伊達刑事の財布、となって警察官に名前が割れているとなると思い当たるのは八月下旬。と言うか夏休みの最終日に警察へ財布を届けに行った時。

 受付の人は、もう少し小柄で筋肉質だった気がするので違うはず。

 

 となると、検問の人か。

 背丈を思い返せば確かにこんな背丈だったはずだ。

 

 どうしよ、と悩んでいる彼に一応聞いてみることにしました。

 

「私のバイクに覚えは」

「SR400、パステルブルーの」

「……8月31日の検問されてた警察官とお見受けします」

「そう、それ!」

 

「ですが個人情報保護的にどうなんですか」

「すみませんでした!」

 

 と言うかよく覚えていましたね、何ていいながら肉まんをパクリ。

 

 これデカい角煮入ってる自分で買うにはちょっとためらうお値段する奴だ!

 

「っと、改めて伊達の財布拾ってくれてありがとね。あ、伊達って言うのは俺の同期の警察官なんだけど」

「こちらこそナンパから助けて頂きありがとうございました」

「いやいや、おじさん警察官だからこれくらいはするよ」

 

 どうやら警察に財布を届けたお礼として巡り巡って奢られているらしい。

 こちらとしては助けて貰っておいて奢られる理由にはならないのだが。

 

「……なんでしょうか。事案ですか」

「ん、とごめんねそうじゃない、そうじゃなくてね。昔おじさんが仕事中にポカやらかしたことがあるんだけどその時に助けてくれた人にどこか面影が似てるなって」

 

 不快にさせたらごめんね、なんて言われながら私の内心は汗だらっだらである。

 なんとなく母子関係と言うか雰囲気察せられていらっしゃる?

 

「宮野ちゃんは年の離れたお姉さん、とかいる?」

「児童養護施設出身なので思い当たる限りはいません」

「あっ、ご、ごめん」

「気にしないでください、親類がどこの誰か知ってる上で会いたくないから独り身でいるだけなので」

 

 そう言ってそう言って肉まんを食べきり、包み紙を適当に畳んでポッケに入れて「ごちそうさまでした」と一声かけて去ることにした。

 

 ……年末最後に面倒ごと引いたな。

 中華も食べ損ねたし。

 

 

 〇

 

 

 仕切り直し、と言わんばかりに方向性がズレ海鮮食べたいとなり、たどり着いたのは八景島。

 中華に関してはあの肉まんで満足したことする。

 

 なんとなく水族館で魚介を食べると言うのはどうなんだ、と言う気持ちもあるが私個人としては牧場で躊躇いなくステーキが食べられる人間なので気にしないことにした。

 

 それに八景島にやって来たのはただ何となく、横浜中華街から逃げるようにバイクをなんとなく走らせた先に見えたからだ。

 少し前世の懐かしさを覚えたのもある。

 

 調べてみた所パエリア作ったりできる自炊プランの予約は数日前からしなくてはいけなかったので今度二人を誘ってみようかと思った。

 

 水族館なんて何年ぶりだろう、そもそもテーマパークにやって来たのも随分と久しぶりだ。何なら今世で初めて来たかもしれない。

 

 年末だからか、少し肌寒さを覚えながら流石にこの気温でジェットコースターは―――乗った。

 

 結構楽しかった。

 

 

 

 少しジェットコースターに吸い寄せられたが気を取り直していざ海鮮。

 

 フートコートと言うかレストランエリアを歩いていると、ここにもあった。中華。

 ……でも海鮮、海鮮の気分に変わったんd―――エビチリお願いします。

 

 

 どうしてこうも意志が弱いのか。

 ファミリー層向けのそこまで辛みのないエビチリを完食し、少し気分を晴らそうとまたアトラクションを探した。

 

 前世で馴染みのあった落ちる奴、ブルーフォールだったか、あれは施設終了してしまったらしい。

 じんわり浸ると言うより気分を晴らしたい気持ちが一杯だ。

 

 自身の生まれから逃げたいだけでどうしてこうもストレスを覚えてしまうのか。

 高校生の頃のメンタルってこんなもんだっけ。

 

 すっかり身と共に華奢になってしまった心情を言い表せないまま、深海を覚えるように水族館の方へ踵を返した。

 

 

 〇

 

 

 イルカショーなんかを楽しみながら閉館の時間を迎えると時刻は21時を回っていた。

 

 これからどうしようか。

 

 この暗闇の中テントを張る気にもならないし、そもそもキャンプ場のチェックイン時刻を大きく過ぎている。

 

 帰って庭キャン、をするのも違うけど家まで単純に2時間近くかかるしどうしよう。二年参りでもしようか。

 

 そう思いつつバイクのエンジンをかけガソリンが少ない事に気が付く。

 一番近場のスタンドが22時までだったので慌ててガソリンスタンドへ向かった。

 

 

 下手をすると途中でガス欠案件だった。危ない。

 バイクに入るガソリンの量などたかが知れているのでガソリンが高騰している昨今でもそこまで大きなダメージにはならない。

 

 一時期ガソリンスタンドでバイトをしようと考えていたこともあったし、乙四も取ろうと考えていた時期もあったが、希望に沿う範囲でのバイト先が見つからずに諦めた。

 

 なんとなく横浜に居るので西区の伊勢山皇大神宮で参拝をすることにし、桜木町駅前の駐輪場を目指す。

 

 去年まででは考えられない日常だったと改めて今年の一年を思い返した。

 

 孤児でどうやって将来食っていこう、男と女の性差から肉体労働は難しい、水商売はリスクがデカすぎる。

 特待生奨学金で返済義務を負わない奨学金を狙わないとまともに高校進学を考えるのも難しい。

 

 色々な不安を抱えて迎えた4月だったけど、どこかポンで自由人な母の残した遺産でこうして自由にさせて貰えている。

 人にも恵まれた。

 

 前世の夢だった音楽で食うという目標も達成できている。

 ものすごい偶然が重なった結果だけども。

 

 前世の画面越し、それも2次元と3次元の大きな差のある環境で今世で産みの親の正体を特定白など中々の無謀ゲーだ。

 

 結局産みの親の顔は結局写真越しで見るだけだった。

 

 親類が恋しいという中身の年齢ではない……親が恋しいなんて何歳になっても思うことだろうか。

 

 最近どこか人恋しいと思ってしまう。

 

 これを私は弱くなったと思う所もあるし、豊かになったと思うこともある。

 

 これは時間が解決してくれることかどうかも分からない。

 

 ただその人恋しい気持ちよりも面倒ごとから逃げてしまいたい気持ちが圧倒的に勝ってしまう。

 きっと母の遺産の存在を知らなければ、ちょっとアングラな方に転がっていたのは否めない。

 

 今はどうにか保てている。

 

 恋人でもできれば違うのだろうか。

 

 誰かにときめく、なんてことは今のところない。

 

 性自認は生理が来た時に自分は女なのだと深く思い知らされたこともあるし、前世が男であることからどこか男を怖く感じる所もある。

 かと言って女の人に興奮できるかと言われるとそうでもない。

 

 私はどうしようもなく中途半端でわがままなようだ。

 

 そんなことを考えながら、初詣目的か少し込み合う駅周辺でただ前の車が進むのを待った。

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