曇らせ大好き明美さんの子 作:スティック/糊
え、短い?
気にしたら負け。
伊勢山皇大神宮の本殿に向かう道中、ミチミチと人が多くいる中でなんとなしに人の流れに乗っているとメッセージアプリとメールの両方から通知が入った。
純花と景からはグループチャットにしっかりとした
『明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします』
との文字。
同じような語句で返信する。
メールにはジンさんと魚塚さん、由美さんとバイト先の店長夫婦から。
大体テンプレ通りで返信していくのだけど、由美さんが少し違った。
『明けましておめでとう。お年玉あげるから昼頃に顔出しなさい。あと確認したら折り返し連絡』
と簡潔な挨拶、と言うか命令。
お年玉って歳じゃ、なんて思ったが高校生は十分にその範囲だった。
折り返しの連絡の要求は秀吉さんの影響なんだろうな。
『明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。昼頃出頭します』
『うちは警察署じゃないわよ。ま、楽しみに待ってる』
そんな連絡を見て思わず笑ってしまう。
由美さんはやっぱり姉御って感じだ。
友人二人からは雪景色の写真を送り付けられたと思いきや二人が雪深さバトルを始めた。
二人の祖父母の地域は日本有数の豪雪地帯らしく、謎の張り合いが起きていた。
私は賑わう境内の写真を送った。
『あったかそう』
『二人とも布団あったかくして寝な』
そんな返信をしながら本殿へ到着。
賽銭は少し奮発。
願い事聞いてもらうのに珈琲代にもならん金額じゃ申し訳ないので野口を一枚投入。
鈴は混雑の為が一時取り外されているようなので二礼二拍手一礼。
今年一年大きなトラブルなく過ごせますように、そう願い帰路を目指した。
〇
自宅に着くとバイクに荷物を積んだまま車庫にぶち込んでひと眠り。
まだ長時間運転は慣れておらずそれなりに疲れた。
後防寒着はもう少しいのを買おうと心に決めた。
目が覚めると時刻は10時少し前。
4時前に家に帰ってきて寝たからそこそこと言った所か。
由美の姉御からは来る時間が決まったら連絡、とのメールが来ていた。
風呂入って目安が決まったら連絡を入れよう。
宮野明美遺産の我が家の風呂は私が生まれるころなら最新式、今では旧式でロクに使われないまま放置されていたこともあってここに引っ越す前はプラパンガス危機の点検だのなんだの結構大変だったのを覚えている。
ジンさんにも一度壊して新築にした方が早い、何て言われたが成るべく彼女が残したままを維持したくて、十数年前から変わっていないところも多くある。
唯一と言っていいほど大きく変えたのが風呂場。
お風呂にそこそここだわり強い系の私にとってバランス釜は受け付けられなく、ユニットバスをぶち込んだ。
プロパンガスなのがネックだけどそれ以外はかなり気に入っている。
足をしっかり延ばせるサイズの風呂が好き。
温かみのある木目調と掃除のしやすい水はけのいい床が気に入っている。
尚ジン出資である。
最新の風呂って素晴らしいね。
脱衣所も冬場でも過度に冷えることのない断熱性能を誇っているお陰で真冬でも服の着替えがしやすくて助かる。
この一年で自分の体もそれなりに変わった。
タッパは以前と変わらず160半ばほどで、体重は数キロ増え、56㎏。
孤児院時代は正直なところ運動量に対して食事量が足りなかったが、高校に入ってから十分な栄養を得るようになってからどんどん健康的な体になっていく。
入学当初、同年代よりはそこそこある胸と運動量から得られるくびれと細めの腰回りだったのが、今ではそれなりの肉付きに相変わらずのくびれとなっている。
すっかり女の体だ。
それなりにしっかり運動しているのに引き締まるだけで過度な筋肉感が見えないのが本当に不思議ボディー。
前世はそこそこ筋肉系だったので、見違えてしまった、と思ってしまう。
金髪ショートヘアーも少し明るめの金からハニーブロンドな色合いが少し増している気がする。
……髪延ばすとケアがめんどくさいのは前世ロン毛系バンドマンだったので覚えがある。
短い髪だし、そこそこ適当なケアをしているだけなのにサラッサラなこの髪は遺伝なのだろうか。
気にしても仕方のない事か。
適度に眉毛の形を整えるくらいしかメンテらしいメンテをしてこなかったが、友人二人との交友が始まるようになってからは肌ケアが始まり、中々のモチモチ肌である。
……にしても幼めな顔立ちはどうにかならんものか、と思ってしまう。
それなりに似合ってはいるのだろうが、この乳のサイズにこの顔はどこか犯罪臭がする。
未成年としては手を出したらガッツリ犯罪なのだけど。
バランスを考えると髪延ばした方がいいんだろうな。
シャツの襟にかかる程度で切りそろえられた髪を弄りながらそんなことを覚えた。
〇
冬らしさと少し小綺麗目なカジュアルなパンツルックに編み上げのブーツとライダージャケット、とは別に一枚コートを積み、連絡のメールを送って羽田宅に向かう。
手土産は昨日の八景島の物だ。
「いらっしゃい、明けましておめでとう」
「はい。あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします」
羽田宅に到着すると秀吉さんが出迎えてくれた。
さ、上がってと言われ手土産を渡してから上がる。
「友達と年越しだったのかな」
「いえ、友人が親の実家に言ったのでボッチでした」
「……なんかごめん」
「気にしないでください」
「お、来たわね。あけおめ」
「由美さん、あけましておめでとうございます。秀吉さんにお土産渡したのでよかったら後で食べてください」
「んな気にしなくていいのに」
リビングまで行くと肝っ玉オカンスタイルでテレビ前の立派なソファーに座る由美さんが顔だけこちらに向けて言う。
テレビの邪魔にならないくらいの位置に移動して挨拶をすると、由美さんの腹部がそれなりに大きくなっているのが見える。
あの時なんとなしにに指摘した妊娠の症状は確かにあたりで現在6か月くらいと言ってただろうか。
そんなことを考えていると左手の袖が引かれる。
「玲奈さんあけおめ、将棋しよ」
「茜ちゃん。あけましておめでとう、これお年玉」
「ありがと、代わりにわたしが玉落とすね」
「楽しみにしてる」
惹かれた袖の先を見ると由美さんに鋭さ足して幼くした風貌の少女がいた。
正月仕様なのか可愛い着物姿だ。
茜ちゃんと呼んだ彼女は羽田家長女で現在10歳。
羽田名人が11年前にタイトルを完全制覇して由美さんにプロポーズしてできた子だ。
つまり由美さんのお腹にいるのは第二子。
一昨年の羽田名人タイトル完全制覇が印象的過ぎて去年結婚したものだと勝手に思っていたと以前羽田家に呼び出された時に由美さんに言った所ゲラ笑いされながら「流石に30までは待ってやんないって言ったあたりで私が妊娠しちゃって、その年の秀吉がタイトル全部取っちゃってさ」なんて笑いながら教えてくれた。
初めて羽田家に遊びに来た時に茜ちゃんに会えなかったのは奨励会に入会目指して秀吉さんの研究会の人の所で将棋をうっていたからだそうな。
そして2回目となる羽田家訪問にて茜ちゃん初遭遇。
会うたびに将棋を挑まれている。
ちなみに今回で羽田家には4回目の訪問となる。
茜ちゃんに将棋を挑まれるようになったのは秀吉さんがこの子引っ込み思案で、なんて言いながら将棋のルールわかる?なんて言われたのが始まりだ。
児童養護施設の年下の子がめっちゃ年収高いと目を付けて本当に小学校低学年の部を2年生で優勝して、師匠見つけてそこに養子入りした子にそこそこ付き合わされた経験がそこそこ生きた。
その子は最年少記録ぶち抜いて13歳11ケ月で4段、いわゆるプロ入りしている。中々のモンスターである。
当然の様に自称親戚が湧いたが将棋連盟が全力でバリアしてた。
まぁ、本気でプロ目指してる子に勝っちゃって男泣きの様に静かに泣かせてしまったのだ。やべぇな天才学者と公安ゴリラの遺伝子。
次は全体負けない、と力強い目で言われてしまいそれ以来挑まれ続けている。
……はい、年上のお姉さんの威厳として負けたらあかんとスマホに将棋アプリ入れてAI相手に空き時間に練習して勝ってます。
ちなみに秀吉さんの妹こと赤井真純にも会うたびに挑んでいるそうです。
秀吉さんに女流興味ない?なんて言われたが生活安定している身としてはノーである。
あと秀吉さんも戦いたそうにソワソワしないでください。
角落ちでやった時本当に頭疲れたので。
「じゃ、早指しで良いかな」
「や」
「……秀吉さんヘルプ」
「今日来客玲奈ちゃんだけだから大丈夫!」
「違うそうじゃない」
そう言いつつも時計をセットされ、振り駒まで準備されてる。
深くため息をつきながら茜ちゃんの対面に座った。
「また負けた。前まで居飛車だったのに振り飛車になってるぅ…」
「まぁ、そう言う時もあるよ」
どうにか勝てました()
「‥…ほんとに将棋に興味ない?」
「たまにやるくらいが一番いいです」
「くッ」
秀吉さんがなんか悔しそうにしているけど、うん。気にしない。
「じゃ、次僕とも――」
「いや、わたし」
「そこまで。今日呼んだ本題それじゃないから」
「あ、そうだったね」
羽田家ヒエラルキーは由美さんが頂点の模様。
「玲奈、こっち来なさい」
「あ、はい」
そう言って羽田家(和風屋敷)の一室に案内される。
そこには目に見えていい値段のする生地の着物、と袴等の一式が衣紋竹に掛けられ鎮座していた。
「私のおさがりで悪いけどあげるわ」
「うぇ!?」
「茜が将棋始める、って言うので気が付いたら家族全員で和服で写真撮りたいなんてチュウ吉が言いだしてね。そん時の」
「えっと」
「簡潔に言うわね。茜は茜でお義母さんが来るたびに色々持ってくるから過剰、管理してまで引き継ぐ予定なし。私のも買ってくるのよあの人!流石にストックがすごいし、チュウ吉が可愛いからなんて買ってきたけどアラフォーでピンクの桜はキツイって!あと現ナマだとあんたお年玉受け取らないから現物支給ね」
「……理解しました」
両手をわなわなさせながらそう告げる由美さんにそんなリアクションしか取れない。
お年玉にしては桁がちゃうんやないですかね、なんて野暮なことは言えないかった。
「着れそうだったら持ってって。衣紋竹も数台あるから一個運ぶわ……部屋のサイズ大丈夫?圧迫しない?」
「一軒家に1人暮らしなので大丈夫です、はい」
「そういやそうだったわね」
プロ棋士の妻になると度々着物着る羽目になんのよ、って少し愚痴りながら着物の着付けを教えてくれた。
「あれね、何喰えばそんなに胸がデカく何のよ、ってかくびれすっご。ある意味着物着るの大変な体型ね」
ま、補正すれば行ける行けるとすっごいポジティブに言いながらテキパキと気つけていく。
「お、流石私。完璧ね」
そう言って着付けが終わると姿鏡でその様子を見せてくれた。
「いやー遺伝子の暴力すっごいわ」
「由美さんの着付け技術ですよ」
「もー、そんなこと言ってもなんも出てこないぞ」
「お世辞じゃなくて、成人式までに髪延ばしたいと思うくらいには感動してます」
「このこの。でも確かにこれで髪延ばしたらすっごい映えそうね」
「ありがとうございます」
「ヨシ、スマホだしな写真撮るわよ」
友達に自慢でもしておきなさい、なんて言いながらカメラマン由美の姉御がポーズ指定まで入れながらパシャパシャと取ってくれた。
うん、中身があれだけど外見は中々の仕上がりになったな。
……成人式の着物服代浮いたな。なんて考えが一瞬浮かぶが今後親類バレした結果バカほどいろいろ貢がれる結果になることをになるとはこの時点では思っていなかった。
結局その日は流石に貰い過ぎだと夕食の手伝いをし、オノレ酒の当てを作りおって!あんたが成人したら絶対飲むからなと言われながら遅くなり過ぎない内に帰った。
友人らには写真が好評で、親類の家に行くとそうなるのは定めか、と彼女らも初めて親の実家に連れて行かれた時は着せられたとのこと。
引き取られたその年の正月に景は長野のそこそこ有名な神社でプロのカメラマンに撮影されたと言い、純花もジンと母が結婚した時に家族写真を撮るのに着させられたという。