え?お前が怪獣8号?ウケるんだけど   作:狭間です

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第一話

 

 

『怪獣』

 

 それはまさに災害であった。いつどこで発生するか分からず、ひとたびその姿を表せば数多の被害を出す。世界各国がこの問題に悩まされているものの、この国日本はその中でも屈指の怪獣発生率を誇る。

 

 

「おい!そっち行ったので最後だ!」

「了ッ!」

 

 

 しかし、人類はそんな災害を黙って見ているだけでは無い。古来から続く怪獣の被害に対抗する人々が居た。今の平和を守るため、明日の朝日を拝むため立ち上がった彼らは、『日本防衛隊』と呼ばれる組織を創設した。そして、彼らもまたその一員である。

 

 

「くたばれッ!」

「ッ!?バカ!正面に立つな!」

 

 猪型の怪獣は目前に立った人間に狙いを定め、その姿を消した。否、それは高速の突進であった。任務も終わりに近付き気が緩んだのだろうか、あれだけ側面から攻撃するという作戦だったのにも関わらず彼はその決まりを破った。目にも止まらぬ攻撃は地面ごとその場を抉り取り、隊員一人の命が呆気なく散る……

 

「カハッ」

「……お前、後で再訓練だかんな」

「す、すみません!」

 

 ことはなく、寸前で首根っこを捕まれ辛うじてその攻撃を食らうことは無かった。

 

「ッ!副隊長ォ!また来ます!」

「ん?あぁ」

 

 避けられた事に苛立ちを隠そうともしない怪獣は、のっそりと方向転換し再度彼らに向き直る。蹄で地面を掻きながら次の攻撃の準備を整える。しかし、声をかけられた当人はとっくに武装解除し自然体でそこに立っていた。

 

 次こそ刈り取る、そんな意気込みで怪獣は力を込めるが何かがおかしい。

 

 視界が、ズレる。

 

「最終目標討伐、作戦完了」

 

 怪獣は絶命する最後の最後まで、自らの首が体内の核ごと両断された事に気付くことは無かった。報告を受けた本部で映し出されるモニターには『解放戦力99%』という文字が表示されていた。

 

 

 

 

「今日はこれくらいで勘弁しといてやる。明日までに始末書提出しとけよ」

「…………了」

 

 第三訓練場にて行われた一時間にも及ぶ再訓練という名のしごきは、地獄を通り越した何かであった。先程やらかした隊員は息も絶え絶えでその場で倒れ込み、最後に一言返事をするだけで精一杯であった。

 今日は二箇所同時に怪獣が発生したため忙しくなる予定だったが、片方は亜白隊長が一瞬で片付けた。作戦開始前には仕事量も減り楽ができると思った自分自身を殴りつけたかったと彼は思った。

 

「お、宗ちゃんじゃん。どうしたん?」

「……キョウ、隊長が呼んどる」

「……俺何かやらかしたっけ」

「お前がやらかしとるんはいつもの事やろ。僕も一緒に呼ばれとるから」

「……お前も何かやらかした?」

「阿呆か。さっさと行くで」

 

 堤キョウ。訳あって数ヶ月謹慎を言い渡されていたこの男は、隊長から降格し第三部隊にて保科宗四郎と共に副隊長の任に就いていた。

 

 訓練場から隊長の執務室に向かう廊下で、保科は隣で大欠伸をする馬鹿に視線を飛ばす。

 

(……ホンマにこの人は)

 

 その男は、瞬間的な解放戦力だけで言えばこの第三部隊においては右に出る者は居ない。それ程までスーツの能力を引き出す事が出来ているのだ。しかし、刀の腕では保科より劣り、射撃装備の適性も低くは無いが隊長とは雲泥の差がある。そして解放戦力は高くなればなるだけ身体に負担がかかり、長時間継続すれば命に関わる。

 つまり、何もかもが中途半端な上に無駄に高い解放戦力を持ったこの男は、使い所に困る器用貧乏な人材になる筈であった。

 

 防衛隊で持て余されているそんな彼を副隊長に採用したのが、第三部隊の隊長である亜白ミナだった。

 

 自らと同じ様に、隊長は彼に何かを感じたのだろう。その決定に異論は無い。だが、心の底から尊敬出来るかと言えばまた話が変わる。フランクな話口調と普段の素行から、初めて会った時の緊張は一瞬にして消え失せたのを今でも覚えている。

 

どうぞ

「入ります」

 

 そんな事を考えていたら既に執務室前。ノックの後返事を聞き入室する。

 

「副隊長堤キョウ」

「同じく保科宗四郎」

「早速本題だ。以前から検討されていた防衛隊入隊試験の年齢制限の引き上げが決定したというのは覚えているな」

「ミナちゃんのゴリ押しが凄かったしな」

「上官へのタメ口はやめろと何度も言っているだろう」

「へいへい」

「……」

「りょう」

 

 無言で睨みつければ渋々ながらも返事をする。今までの経験上、これ以上何を言っても無駄だと判断したミナは、小さくため息を吐きながら背筋を伸ばす。

 

「今回の試験は保科、及び堤副隊長両名に担当してもらう」

「「了」」

「以上だ。そして堤は残れ」

「失礼します」

 

あんま隊長怒らせんといて下さいよ

うっせ

 

 すれ違う際に囁かれた小言に軽口を返すと、保科を抜いた執務室は静寂に包まれた。

 

 

「……良かったな、ミナちゃん」

「……まだ受かると決まった訳じゃないです」

「それでも希望は持てただろう」

 

「アイツはやるさ。そう言う男だ」

 

 とある日の約束。それを果たさんと亜白ミナはここまで上り詰めた。その約束を見守ると決めた男も、今ここに居る。後はもう一人。

 

「大丈夫だ。信じて待ってろ」

「……うん」

 

 そこには上官と部下という関係よりも、兄妹と言ったほうが適切な雰囲気を醸し出していた。僅かな笑顔を一瞬だけ浮かべたミナは、直ぐに隊長としての表情を取り戻す。

 

「さて、上官に対するタメ口及び返事の不備により、堤副隊長には反省文20枚提出の罰を与える」

「え゛」

「腕立てや走り込みでは罰にならないだろう」

「も、もう少し手心を」

「どうやらまだ枚数を増やして欲しいようだな」

「了!!失礼しました!!」

「明日のヒトロクマルマルまでに持ってきなさい」

「了!!!」

 

 これ以上何か言われたらたまったもんじゃないと、返事を素早く返したキョウは足早に執務室を後にするのであった。

 

 寮の自室へ向かいながら、彼は隊服の胸元から古びた手帳を取り出す。そこには幼い少女と少年、そしてその両名の頭に手を乗せる少し背の高い少年の三人が写っていた。

 

「まだ諦めんじゃねぇぞ、カフカ」

 

 あれから幾らかの年月は経ったが、彼らの中にある約束は風化してなど居なかった。

 

 

 

 

「へっぶし!!」

「……変な病気移さないで下さいよ」

「移さねぇよ!」

「おいそこうるせーぞ」

 

 怪獣専門清掃業者モンスタースイーパー株式会社。それが日比野カフカの勤め先であった。防衛隊の受験資格を得てから何度も受験したが、彼はついぞ一度も合格することなく年齢制限を迎えてしまった。合格まで食いつなぐために種就職したこの会社でも、32歳になった今では最早古参の域に達している。

 そんな中バイトとして入ってきたのが市川レノ18歳。今はもう防衛隊に入ることを諦めてしまったカフカとは相入れることは出来ないようで、ファーストインプレッションはお互いに最悪の一言であった。

 

 

「新人は腸だ、ついてこい」

(よっしゃあザマァみろぉぉぉ!!)

「カフカも腸だ」

「俺もかーい!!」

 

 今日もいつも通り怪獣の後処理。幾つかの清掃会社が部位によって分けて担当している。その担当には当たりとハズレの部位があり、その中でも腸という器官はハズレもハズレ、大ハズレなのである。

 

「二日連チャンッスか!?」

「君、腸作業上手いじゃん」

 

 嫌だ。物凄く嫌だ。しかし、これも誰かがやらなければならない仕事。上司からの指示でもあるため、拒否する事など出来ない。大声で自分に喝を入れながら、高圧洗浄機を手にグロテスクで強烈な異臭を放つ腸へと突撃して行く。

 

(なんだかんだ立ち向かっていく彼なら、いい隊員になったろうなぁ。なれてれば)

 

 そんな風に心の中で感想を述べた上司は、新人バイトのレノを引き連れ自らも現場へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 

「……」

(くくく、喰らってんなぁ)

 

 太陽が頂上にやってきた頃、彼らは作業を切り上げ昼休憩を取っていた。初仕事で一番辛いであろう部位を担当したレノは、持ってきた弁当にも手をつけずただひたすらに吐き気と格闘していた。

 

(俺もだけど)

 

 それを見て笑っていたカフカも、別に平気な訳では無い。何度もやっているとはいえ慣れないものは慣れないのである。

 

「その弁当、食わねぇのか?」

「……ちょっと食えそうに無いっす」

「だろうな」

 

 それを見かねたカフカは、手元にあったゼリー飲料をレノに向かって放り投げる。

 

「食っとけ、腹に何か入れとかねぇと午後持たねぇぞ」

「俺は別に」

「あと、これもやる」

 

 朝に強く当たってしまった手前、施しを受けることに躊躇したレノに差し出されたのは鼻栓。32歳のオッサンが鼻栓を着けている様はあまりにもダサかった。

 

「これつけるとだいぶマシになるぞ」

「あ、いや、それはマジでいらな……」

「遠慮ばっかしてねぇで着けてみろ」

「や、マジで、パワハラっすよ先輩!」

 

 遠慮では無くガチで拒否したかった。周りに居るスタッフも見慣れた様子で彼らのやり取りを見て笑う。

 

 結局無理やり渡されたゼリー飲料と鼻栓は、その日の作業終了時には貰っておいて良かったと思える程の効力を発揮したのだった。

 

 

「「お先ー」」

「おーおつかれさーん」

 

 定時を迎え、徐々に帰宅していく同僚を横目に、カフカは残りの作業を片付けていた。

 

「……先輩」

「おう市川、おつかれ。なんだ?昼の仕返しに来たか」

 

「おかげで初日乗り越えられました。ありがとうございました」

 

「!……おう」

 

「それだけっす。それじゃ」

 

 投げかけられた言葉は、全く予想していなかった感謝の言葉だった。諦めたカフカと、それを軽蔑していたレノ。仲良くやれそうにないと思っていたカフカにとって、その言葉は本当に予想外のものだった。

 

「あ、そういえば」

 

「33歳未満に引き上げられますよ、防衛隊の募集」

 

 ぽつりぽつりと言葉を続けるレノ。

 

「少子化の煽りだとかで、別に他人の人生なんでどうでもいいですけど、諦めたって話してる時すげぇ寂しそうにしてたから」

「別にマジでどーでもいいんで、俺の勘違いだったら遠慮なく諦めてくれていいんすけど」

 

 徐々に恥ずかしくなってきたのか、言い訳のように付け足す言葉は少し早口になっていた。

 

「市川……ありがとな。お前思ってたより良い奴じゃねぇか」

「っ!別にそんなんじゃーー」

 

 

 瞬間、レノの背後の地面が隆起し、怪獣が飛び出す。

 

「グッ!!」

「先パーー……」

 

 死角からの急襲に反応の遅れたレノを、すんでのところで助け出したカフカ。

 

「……余獣?ーーがっ!」

 

 現状をまだ理解しきれていないレノを狙う怪獣。レノを蹴り飛ばすことで二の矢を何とか凌ぐ。

 

「市川走れ!!全力でこの場から逃げて防衛隊を呼べ!!」

「けど、先輩独りじゃ!」

「二人でもどうにもならねぇ!!」

 

 危機的状況にも煮え切らない態度を見せるレノに、カフカは額に青筋を立て大声で叫ぶ。

 

「防衛隊になるんだろ!!こんなとこで死んでどうする!!」

 

 その声を聞きようやく決心が着いたのか、レノは一目散に走っていった。

 

(あぁ、こりゃどうにもならねぇな)

 

 脇に見えた鉄パイプを拾ってみるものの、目の前に立ちはだかる怪獣に対して余りにも心もとない。振るわれる腕を何とか防御したものの、一撃で自らの骨と共に容易く折られてしまった。

 

 死を悟ったカフカの脳内に、あの日の約束が走馬灯の様に流れる。

 

 

 

壊れちまったな、全部。

うん

……

まだあのゲーム全クリしてなかったのに

気にするのそこ(そこかよ)?

私はミィコが死んじゃったのが悲しい

ミィコって三毛猫のやつか

 

俺(私)防衛隊員になる

 

 

ミナ見たいなガキンチョが何言ってんだよ

カフカくんだってまだ小学生じゃん!

じゃあどっちがカッケー隊員になるか勝負だ!

……うん!

 

キョウ兄はどうすんだよ。

 

……。しゃーねぇ、お前らの夢を見届けてやるよ。

決まりだな!

俺たち、そしてキョウ兄の三人でーー

 

 

怪獣を全滅させよう!!

 

 

 

 吹き飛ばされた先で右脚も折られ、もう動くことも出来ない。こんな筈じゃ無かった。そんな思いを抱えながら、怪獣に喰われる寸前。

 

「!?市川、バカ……お前、何で」

「通報はしました!!」

「そういう事じゃ……」

「ここで先輩置いて逃げ出すようじゃ、きっと防衛隊員になんてなれない!!」

 

 勇気を持って戻ってきたレノ。どうにか道路標識を叩きつけ一撃は見舞ったものの、現状は変わらない。カフカの前にたつレノごと飲み込んでやろうと怪獣の顔面が迫る。

 

(クソ……!!俺は何て無力なんだ……!!自分も、友達の猫も、約束も……後輩一人でさえ守れない……!!)

 

「クソ……クッソォォォォ!!!」

 

 耳を突く轟音。それが連続して聞こえると同時に、怪獣の頭から足の先まで全身に穴が開いた。身体中の肉が欠損し、もはや自立する事も出来なかなった怪獣は、鈍い音を立てて地面へと沈んだ。

 

「目標撃破、怪我人が居る模様」

 

 背後からの声に首を捻る。そこに立っていたのは防衛隊きってのスーパースター、第三部隊隊長亜白ミナであった。ほんの一瞬、カフカと目が合ったその人は、直ぐに視線を逸らし後ろに控えている隊員に指示を飛ばし、自身は他の余獣の確認のためその姿を消した。

 

 命の危険が去ったことで、先程まで麻痺していた感覚が徐々に蘇ってくる。ズキズキと痛む肋と脚。

 

「……サイレン、鳴ってたんだな」

 

 

 

 

横浜南総合病院

 

 その後最寄りの病院へと救急搬送された二人は、レノは一日、カフカは一週間の入院が言い渡された。月明かりに照らされる病室で、カフカは改めて自分の無力さに打ちひしがれていた。あまりにも遠くに行ってしまった幼馴染の存在。それは彼にとって辛いものであるのは間違いなかった。

 

「先輩」

「?」

 

 それでも、レノにとってそんなことは関係無い。

 

「先輩が助けてくれなかったら俺は今日死んでました」

 

 尊敬出来る先輩。その人に伝えなければならないことがある。

 

「すげぇカッコよかったっす。……やっぱなるべきっすよ、防衛隊員」

「……」

「ま、先輩の勝手だし俺は別にどーでもいいんすけどーー!?」

「……だよな」

 

 カーテンで仕切られた隣のベッドから響く鈍い音、思わず身体を起こしそちらへと向く。

 

「……ありがとうな市川、お前やっぱ良い奴だよ」

 

 燻っていた己を自らの拳骨で叩きつける。

 

「俺、もう一回防衛隊員目指、しーー……え?」

 

 決意を胸に、もう一度前を向こうと思ったその時。目の前には謎の羽虫が浮いていた。いや、羽虫というにはかなりデカい。呆気に取られるカフカに向けてあろう事かその虫は言葉を発した。

 

「ミツ ケタ」

「怪じゅーーッ!?!?」

 

 カフカは瞬時に身構え、大声を出そうとした瞬間、その口に向かって小型の怪獣は入っていった。

 

 息が出来ない、体内を貪られる様な感覚とともに身体が変えられていくのを感じる。脚はギプスで固められ、そのばでガタガタと身悶えする程度しか出来ない。

 

「?先輩、まだ傷が痛むんですか……?」

 

 

「……え?」

 

「え……?」

 

 心配になりカーテンを開くレノ。その先には、先輩の姿は無かった。その代わりに座っている存在は、レノが困惑している事に気付きゆっくりと窓に視線をやる。

 

 そこには、自分の顔とは似ても似つかない骸骨面が映し出されていた。

 

「「ええぇぇぇぇぇぇ!?!?」」

「市川!オレオレ、オレだって!!」

「うわぁぁぁあ!!??」

 

 声が僅かに変質しているものの、カフカっぽい雰囲気はまだ残っている。止まりかけた思考を無理やり働かせ、現状何が出来るのか考える。恐らく目の前にいる怪獣がカフカであることは間違いない。何らかの原因で身体が怪獣になってしまったのだろう。だが、ここは多くの人が入院している病院。誰かにバレようものなら、通報の後防衛隊によって直ぐに討伐されてしまうだろう。

 

「「あ」」

 

 考える暇は無かった。大声を聞いて、もしくは単に徘徊していたのだろうか。杖を着いた病院着の老人が、こちらを見て既にスマホを耳に当てていた。

 

「どーなってんだコレェ!?!?」

 

 無情にも鳴り響くサイレンと、突如発生した怪獣の情けない叫び声が夜中の病院に響き渡った。

 

 




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