けたたましく鳴るサイレン。それは今までに何度も聞いた怪獣発生の合図である。
「ったく、ちっとも待っちゃあくれねぇな」
悪態をつきながらもキョウは戦闘準備を整える。つい先程脱いだばかりのスーツを再度着用し、7号と共に通常兵器を装備しようとした所で異変が起きた。兵器が起動しないのだ。
本来通常兵器は隊員のみ使用ができるように生体認証がかけられている。万が一敵対怪獣や一般人が拾ったとしても作動しない為の安全装置だ。ブレードなどの兵器はその限りでは無いものの、脳内に響く声がその携帯さえも拒否している事を表している。
「おい、どういうつもりだ」
〝ワタシイガイノブキヲツカウナドユルシマセン〟
「あのなぁ……お前の力はおいそれと使っていいものじゃ無いのだが」
〝ナラバスキニスレバイイデショウ、ワタシハシリマセン〟
「……」
遂に面倒くさい彼女のような事を言い始めた7号。それに折れたのはキョウの方であった。ため息を吐きながらブレードを格納庫に戻し、更衣室を後にする。
廊下に出る頃には、別行動のカフカ以外全員の準備が整っている。待たせてしまったことについて謝罪した後、先頭にたつ鳴海の傍に寄る。
「悪いな、コイツの機嫌が悪くてよ」
「使いこなせてない武器ほど怖いものは無いですよ」
「それは重々承知だが、多分放っておいたら帰ってきた頃にはこの基地無くなってるかもしれねぇぞ」
「……はぁ、まぁいいか」
「第一部隊出動だ。蹴散らすぞ」
常時とは違う戦場を知るものの目となった鳴海は、隊員を引連れて現場へと向かった。
◇
「木梨小隊、三宅小隊、状況は?」
『こちら木梨。エリア内4体の怪獣確認、間もなく制圧見込み』
『こちら三宅。こちらはすでに制圧完了しました』
「よし」
迅速かつ的確な対応で、現着した第一部隊は次々に怪獣を屠っていく。耳に届く通信の素早さから、その練度が尋常ではないことが分かる。それと同時にその優秀な部下を束ねている鳴海自身の実力も伺える。
「まずは全体の状況を把握、市民の安全確保が最優先だ。標的は状況に応じて始末するか討伐区域に誘い込め」
『了』
「四ノ宮キコル、それから怪獣8号。討伐区域に入った怪獣を根こそぎ始末だ。区域内の住民避難は済んでるから、遠慮なくーー」
「結果を出せ」
淡々と指示を飛ばすその言葉に励ましなどの意図は一切無い。ただ実力を示せなければここに居場所は無いという事実を述べているのみ。しかし、その言葉は今の二人にとってこれ以上無いほどの発破になった。
「堤」
「おう」
「アンタは怪獣8号付近の区域を担当しろ。何かあったら……分かるな?」
「了」
『討伐区域東部に怪獣誘導完了。討伐部隊対応願います!』
キョウが移動を開始した直後、キコルの担当する東部区域に怪獣が侵入したという報告が届く。
『四ノ宮キコル、出ます』
直後、戦場に響き渡る轟音。少し離れた位置に居たキョウの耳にも、その戦闘音は届いていた。
『し、四ノ宮隊員標的撃破!』
「やるねぇ」
『四ノ宮隊員続いて標的撃破!』
最初の報告から間髪入れず次々に撃破報告が上がる。怒涛の勢いで討伐数を稼いでいくキコルは、無事好調なスタートダッシュを決めることが出来たようだ。
『討伐区域西部に怪獣複数誘導完了!討伐部隊対応願います!』
キョウがカフカを目視できる距離まで接近すると、タイミング良く管制室から報告が入る。
『怪獣8号、標的とエンゲージ!』
カフカの降り立った道路のすぐ側から身を踊り出す蟻型の怪獣。周囲の建物を次々に破壊しながら獲物に向かって一直線に突進していく。
勢いよく振り下ろされる前肢を、人間の姿のまま前に飛び出すことによって回避しながら接近。恐らく前回の暴走から完全変身に対する忌避感を持っているのだろうか。スーツの下のみを変身させた部分変身で、急速に接近したカフカは怪獣に向かって拳を振るう。
「げ」
しかし、その拳に以前のような圧倒的な破壊力は無く、怪獣にまるでダメージを与えられていないように見えた。想像していたよりも力が出なかったことで一瞬硬直したカフカに怪獣の大顎が襲いかかるも、それもすんでのところで回避する。
(……もしやアレがトラウマになってるのか?)
それを遠目に観察していたキョウは、その額に僅かに冷や汗を垂らしている。自らの手で人を殺しかけてしまうという出来事は、そう簡単に思考から振り払うことは出来ない。自責思考的かつ優しいカフカにとっては尚更だろう。だがまだそうと決まった訳では無い、9号が何らかの妨害をしている可能性も捨てきれはい。
しかし、彼が迷っている間にも怪獣は待ってくれない。距離を取ったカフカに対して口から消化液を発射し、その軌道上に存在していた道路や車を真夏のアイスのように一瞬で溶かしてしまった。
(……)
しかし、キョウは動かない。否動いてはいけないのだ。ここで助太刀してしまえば、カフカの戦闘能力を示す機会が無くなってしまう。どれだけ危ない状況になろうと、おいそれと突っ込んでいけない。そんな歯がゆい状況に、彼は物陰で拳を強く握り込むことしか出来ない。
そんな彼の思いに呼応するように、カフカは覚悟を決めた顔で全身に力を込める。パキパキという音を立てながら、その身体を怪獣のものへと変貌させていく。
『怪獣8号に高エネルギー反応!変身きます!!』
「え」
カフカの身体と共になぎ倒されていく瓦礫の山。土埃が治まった中から現れたのは、未だ人間の姿を保ったままのカフカであった。
「おい、何が起こった」
『へ、変身失敗……!?』
丁度変身が首元まで差し掛かった時、怪獣化が一瞬にして解かれそのエネルギーを霧散させたのだ。精神的問題か、それとも核が傷付いたことで変身能力に何らかの支障が出ているのか。そんな思考が頭を交錯する中、また新たにサイレンが鳴り響いた。
『今度はなんだ!?』
『討伐区域内に新たに強力な怪獣反応……!!本獣発生の可能性あり!!』
『出たか』
「思ったより早かったな」
管制室から聞こえる本獣発生の知らせに、鳴海、長谷川、キョウの三名はそれぞれ反応を返す。
そう、本来地下にコロニーを形成し滅多に地表へと出てこないはずの蟻型怪獣が一斉に出現したこと。そのイレギュラーを引き起こしている何者かが居ると彼らは仮定していた。そんな事をしでかす奴はここ最近の怪獣災害から大体の予測は着いている。
『発生ポイントは!?』
『こ、これは……怪獣8号の直下!?』
管制室からの声が聞こえた瞬間、カフカの足元が地響きをあげる。大きな音を出しながら陥没した地面から、ソレはゆっくりと姿を現した。
「……おいおい、随分と成長したな」
「お、お前はーー……怪獣9号!!」
そこには、まるで冬虫夏草のように蟻の頭から上半身を生えさせている怪獣9号が居た。
「あー……?おかしいな。怪獣8号の反応があったから出てきたのにいない……。もしかシて」
「キミが怪獣8号?」
以前よりいくらか流暢になった言葉で、今回の目的をつらつらと述べる怪獣9号。その威圧感は以前より数倍に跳ね上がっているように感じさせる。
「……!?がぁぁぁっ!!」
問いかけをすると同時に指を突きつけ、その指先から弾を発射させカフカの左肩に風穴を開ける。その痛みから思わず膝を着く彼に向かい、9号は再度言葉をなげかける。
「ま、試せば分かるか」
『オペレーションルーム、怪獣8号の変身は!?』
『ダメです!再び失敗!』
『どうする!このままだと怪獣8号を失うぞ!!』
『識別クラスの怪獣だ、堤に時間稼ぎをさせて僕がーー』
『新たな怪獣反応ーー……って、9号がもう一体!?』
『なんだと!?』
「こちら堤。どうやらもう一体居るらしい」
『三体も!?』
変身が満足に行えないカフカの援護に向かおうとしたキョウの目の前にも、奴は現れた。しかし、その奥に見える本体程の力は無い。恐らく分体で間違い無いだろう。
『っ!?倒したはずの怪獣が……!』
『ちっ、第3部隊の報告書にあったアレか!!』
次々に入る怪獣復活の報告から、完全に計画された行動だということが分かる。隊長格の元へ自分の分体を送り、その他は余獣を強化し復活させその足止めを行う。なんとも厄介な作戦を立ててくれたものだ。
『現れただけで状況がガラッと変わっちまった。これが怪獣9号か……!!』
そんな通信を聴きながら、キョウは目の前に現れた怪獣9号の分体へと声をかける。
「随分と手厚い歓迎じゃねぇかおい」
「……」
「話す脳も無いってか。それじゃあとっととくたばりやがれーーっ!」
危険を察知したキョウは咄嗟にバックステップする。すると先程まで彼が立っていた位置に大量の消化液がマグマ溜まりのように蓄積していた。視線を向ければ多数の余獣がわらわらとカフカへの道を塞ぐように姿を見せる。
(……これはちと不味いか)
どれだけ攻撃力が高かろうと、純粋な物量で押されれば援護に向かうまで僅かだがロスが生まれる。一刻を争うこの状況ではその僅かなロスが致命的な結果を生み出す可能性が高い。
「巻きで行くぞ」
〝ハヤクホンタイトタタカワセテクダサイヨ〟
「わかってっから力を貸しやがれ」
ここまできてまだ文句を言う得物を構え、怪獣の群れへと突貫していく。瞬間的に戦力を全解放し、9号の分体から放たれる弾丸を避けながら目の前の敵を薙ぎ払う。再生器官が何処にあるか不明なため念入りにその身体を切り刻んでいくと、ものの数秒の間に分体以外の余獣を片付けきって見せた。
「こいつで終わりだ」
余獣討伐の片手間に避けられていた攻撃に当たるはずもなく、一瞬で分体の胸元へと接近したキョウはガンブレードを深々と突き立てた。それと同時にトリガーを引き絞ると、その兵器の銃口は身体の内側からエネルギーを急激に膨張させ、分体の身体を木っ端微塵に爆散させた。
「くっ!!間に合え!!」
沈黙した余獣の残骸から身体を切り返し、カフカの元へと走る。一時的とはいえ戦力の全開放、さらには怪獣兵器の使用による反動がかなりキツい。焦りからか出力をミスってしまった。ビキビキと全身が悲鳴を上げているのを無視し、カフカへトドメを刺そうとしている9号に照準を合わせた。
しかし、彼は弾丸を放つこと無くガンブレードを下ろす。
間に合わなかったからでは無い、
「あー?」
「キ、キコル」
理解できないと言った間抜けな声を出しながらその身体をキコルの持つ巨斧によって文字通り一刀両断された怪獣9号は、下半身の余獣と共に重々しい音を立てながら地面に倒れ込んだ。
「君はーー……誰ダっけ?」
切断された身体を再生しながら、奴はキコルに向かってそんな事を言って見せた。かつて隊員試験の際に自らの放った怪獣が、彼女を完膚なきまでに打ちのめした事実を知らないとばかりに。
「覚えなくて結構よ、どうせ今日殺すから」
自身のことを気にもかけていないそんな台詞に、キコルは平静を装いながらも静かに怒りを燃やしていた。
「俺も混ぜてくれよ」
「キョウ兄!」
「堤副隊長!」
「あー、君は前にも見たナ」
強力な助っ人の登場にキコルとカフカはその表情に喜色を滲ませる。しかし、今のキョウはお世辞にも万全とは言い難い状況にあった。肋の数本が折れている上に、7号の使用によって急激に体力を消耗しており、まだ慣れていないからかそのデメリットは無視できないほど大きいものとなっている。
「わりぃが、今の俺に奴を殺せるだけの力は出せない」
「……日比野カフカ、変身は?」
「ダメだ、何回も試してるけど失敗しちまう」
「そう」
「……奴が何かしてるのか」
「っ!来る!!」
のんびりと作戦会議をしている時間は無い。ほんの数回のやり取りも許されず、不可視の弾丸が次々と放たれる。
「俺と嬢ちゃんが奴の動きを止める。もし9号が変身を妨害してるなら復元までに一瞬の隙が出来るはずだ!」
「そうね。悔しいけど奴を倒すにはあんたの力が必要よ」
「了!」
「行くぞ!」
奴の本体は一つ、左右から同時攻撃すれば隙も生まれるだろう。
「あ?ズルイ、じゃアこうしよう」
そんな希望的観測は、9号の分裂という形で易々と砕かれた。まるで常識の通用しないその行動に思わず心の中で悪態をつく。
「っ!?」
「キコル!!」
「まずは一人目」
死に体のキョウと変身できないカフカを無視し、この場の暫定最大戦力であるキコルを真っ先に潰しに来た怪獣9号。弾き損ねた弾丸は彼女の脇腹を強かに抉った。
「ーーは?」
しかし、彼女は止まることなく9号へと接近し、先程から攻撃を放っている器官を根元から両断していく。かなりの重症を負わせたはずの相手が引くどころか向かってきたことで呆気に取られた9号は、その腕を次々に防御に回しその全てが切られる。
(本当に、大きくなったな。嬢ちゃん)
下半身の肢を切り落とし機動力を削いでいるキョウは、場違いながらも負傷をものともせず怪獣に向かっていくキコルにとある人物の姿を重ねていた。
思い出されるのは彼女の母、四ノ宮ヒカリの存在。当時の第2部隊隊長を務め、4号の力を身にまとい戦場を駆けるワルキューレ。誰よりも先頭に立ち、味方を鼓舞しながら戦う姿は隊員だけでなく市民にも勇気を与えていた。
その自らの命が尽きる最後の最後まで。
彼女に関する最も新しい記憶は、ニュースでも大々的に報道された彼女の葬式の場面だ。戦闘により原型を留めていなかった身体は通夜や告別式を待たず火葬され、葬式の際にはすでに骨壷に収められていた。
同じ戦場に居ながらも彼女を守れなかったキョウ、ましてや共に戦うことすら出来なかった功の無力感は誰にも計り知れないだろう。ただでさえ笑うことの少なかった彼は、その日から自他に対しより一層厳しくなったのを今でも覚えている。
「私のいる戦場で、仲間は死なせない!!」
キョウはまるである日の幻影を見ているような錯覚を覚えた。
(ヒカリさん……彼女は立派な隊員になりましたよ)
巨斧を自由自在に振り回しながら次々に9号の部位を欠損させて行く。その邪魔にならないよう最低限のサポートを行いながら、奴を追い詰める。
「これはーー……」
しかし、それでやられるようならば防衛隊は苦労しない。
「惜シかったね」
戦いはまだ始まったばかりだ。
皆様の感想はとても励みになっています……!ただ、まだ本作で書かれていない内容等のネタバレは控えて頂ければ幸いです。ネタバレ注意のタグを追加致しますので、今後は御遠慮願います。本作も原作も心置きなく楽しんでもらえるためのお願いです、ご理解ください。
頑張って執筆していく予定なので、これからもよろしくお願いいたします!!