「惜シかったね」
「っ!?」
蟻型の頭部が突如として変形し、必殺の一撃を見舞おうとしていたキコルの足場を崩す。誰もが冷や汗を流したそんな場面でも、9号に立ち向かう者は思考を止めることは無い。
「!」
キョウの援護射撃、そしてカフカによる強力な足払いで蟻型の怪獣は大きくそのバランスを崩した。完全変身していないながら理外の力を出したことにより、蹴りを放ったカフカの脚は鈍い音を立てながら、あらぬ方向へと曲がってしまう。
「キコル!」
その痛みを大声でかき消すようにカフカはキコルに呼びかける。
《隊式斧術 六式
その名が冠された通り、キコルの巨斧は9号の身体をまるで達磨落としのように切り刻む。しかし彼女は、並の怪獣ならば確実に死を与えるこの技ですら9号に致命傷を与えることは無いと確信していた。
「今よ!!」
「おう!」
だからこそ、彼女は仲間を信じる。たとえその身を怪獣の姿に変えようとも、共に試験を通過し訓練を積んできた仲間を。
「っ!」
そんな信頼を向けられても、カフカは未だそれに応えることが出来ない。
(クソッ……やはり
今日何度も試した変身は、キョウの予想通り失敗に終わった。当たって欲しくない予想ほど当たるとはよく言ったものだ。9号が変身を阻害しているだけという事実はなく、カフカの自身の精神的な問題により変身が出来ていないのである。
「!」
そんな状況でも敵はカフカの回復を待ってくれる筈がない。すぐさま身体の修復を終えた9号は、急激にその身を膨張させ無差別攻撃を放つ。
「キョウ兄!?」
キコルとカフカに向けられた攻撃を弾き、いなし、防御仕切ることの出来ない攻撃はその身を固めることで肉壁となり防ぐ。衝撃波によって吹き飛ばされた両名を庇うように、キョウはガンブレードを地面に突き立てながら何とか立っている。
「副隊長!」
「ハァ……ハァ……今の俺には、こんぐらいしか出来ねぇからよ」
「……怪獣に取り込まれちまうこと、仲間を殺しちまうことへの、俺自身の恐れーー……」
カフカは自分の心の内を正確に分析する。一度暴走したことで、あまつさえキコルの目の前で四ノ宮長官を殺しかけたこと。あの時は邪魔の入らない一体一の状況、今暴走したらどうなるか分からないが少なくとも良い結果にはならない事は確信している。
「そういうことね」
しかし、そんな泣き言を言っている暇など無い。ここは戦場だ。僅かな気の迷いで生死が分かれる、そんな場所なのだ。それに9号を斃すことの出来る人間は1人しか居ない。
「「私達(俺ら)を舐めるな」」
キコルは再度巨斧を携え、キョウはボロボロの身体に似つかわしくない程綺麗なガンブレードを構え9号に突貫する。
「私たちだけじゃない!」
動くのもやっとなキョウに代わり、彼の声をキコルは代弁するように力強く叫ぶ。
「亜白隊長を、保科副隊長を、レノや同期のみんなを!」
「何より、あんた自身を!!」
一度通った攻撃は二度と通用しないようで、何度か打ち合いをした巨斧は音を立てて砕け散る。しかし彼女はすぐさまサブアームのハンドガンに切り替え、9号に果敢に立ち向かう。キョウも肺に血が溜まっていく感覚を根性で押さえつけ、文字通り血反吐を吐きながら攻撃をいなし続けている。
「
「……ウォォォオォオオオ!!!!」
お世辞にも均衡を保てていたとは言えない戦況の中、カフカの雄叫びが戦場に響き渡る。
「ったく」
その大声に、先程まで休むことなく降り注いでいた9号の攻撃が止まる。
「いつもあんたは遅いのよ、日比野カフカ!!」
何事かと目線を向けたその先には、幾度となく自分の邪魔をしてきた怪獣8号の姿があった。疑念から確信に。怪獣側と防衛隊側の思惑が両方とも合致する。
『報告!討伐区域西部にて、怪獣8号出現!!』
『きたか』
『よって作戦第2フェーズに移行』
彼が無事変身を果たした事で、事前に考えられていた作戦がようやく進行する。通信を聞き、各戦場は小隊長を中心に慌ただしく動き始めた。反撃の時間だ。
「あー……やっぱり」
「君が怪獣8号だったカ」
目的の対象に邂逅できた事に喜びを隠せない9号は、その口角を上げ、無機質ながらも不気味な笑顔を浮かべた。途端、斃したはずの余獣が活動を再開させる。恐らく奴の能力だらう。さらにはその形状を変化させ、より強力な姿へと変貌を遂げる。
「ありがとうな、二人とも」
「!」
ゆっくりと二人に歩み寄ったカフカは、その肩に手を乗せて労いの言葉をかける。
「俺まだいまいち自分のことは信じられねぇ……。けどよ、お前らの事なら100%全開で信じられるよ」
「……あっそ!」
「すまねぇついでにアリンコのほう任せていいか?」
「堤副隊長は休んでいても良いですよ?」
「ペッ、馬鹿言え。アイツら程度、生命維持機能フルにぶん回しながらでも片付けられるわ」
キョウは口内に溜まり固まりかけていた血を地面に吐き捨てながらも、しっかりとその両足で立って見せた。
「この私と副隊長を雑魚散らしに使おうってんだから」
「勝たなきゃ殺すわよ」
「おう」
「ちゃんと見といてやるから、行ってこい」
「ぶっとばしてくる」
力強く踏み出したカフカは、以前よりも数段と早くなったスピードで9号へと走り出した。その行く末を邪魔しようとする余獣を、キコルとキョウの二人で次々に片付けて援護をする。
「あー……、この前は世話になっタね怪獣8号」
「?」
「あれからボク、文字通り一皮剥けてね」
余獣を相手にしながらでも聞こえてくる、無機質で気味の悪い声は自身の成長を誇るようだった。
「今はもう、君を殺せーー……」
カフカの足元から生えてきた触手が彼の足を拘束する。カフカをその場へと縫い止め、9号はさらに変容したまるでキャノン砲のような腕で狙いを定めた。
余獣を相手していたキョウは、カフカの動きを阻害している触手に照準を合わせるがその必要は無かったようだ。
「……あ?」
目にも止まらぬ速さで怪獣9号へと突っ込んだカフカは、その脚部である蟻型の身体をすり抜けた。否、すり抜けたのでは無い。的確に核のある部位に突撃したカフカは、怪獣の身体を大きく抉りながら9号の背中側へ通り抜け急停止していた。
「あれコレアリンコのほうの核か!」
命のやり取りをしていたとは思えない程気の抜けた台詞がキョウとキコルにも聞こえてくる。実力を発揮し、怪獣のものへと姿を変えようとも変わらない彼の性格に思わず笑みを浮かべる両名。
「まぁいいや、キコルとの戦いを見るにお前の核も
「!!」
図星だったのか、9号のカフカに対する攻撃がより苛烈なものになる。徐々に周りで時間を稼いでいた余獣の数も少なくなりつつあるため、本格的に援護に入る余地が生まれ始めたが、ボロボロで活動限界寸前の身体では足でまといになるだろう。
それに、そんもの必要無いのかもしれない。
「捉えタ!ーーっ!?!?」
先程より数を増やし入念にカフカの動きを止めようと触手を生やすも、それを引きちぎりながらカフカは遥上空へと跳躍する。暴走時程では無いが、明らかに以前よりその出力が上がっていることに気付く。一度飲み込まれたからこそ、その力の使い方を知ることが出来たのだろうか。
「覚悟しろよ」
まるでジェット機のような勢いで地上へと降りてくる。脚部を変形させ推進力を獲得し、彼は日中でも輝く一筋の彗星に成った。
「今度は逃がさねぇぞ」
咄嗟に防御姿勢を取った9号。しかし、その判断虚しく怪獣9号はその下腹部を支えていた蟻型と共に深々と地面にめり込んだ。
『こ、これが本来の怪獣8号……!!』
『凄まじいな……』
拳を振り抜いた体制で着地したカフカの足元には、その体躯の数十倍でも足りない程のクレーターが出来上がっていた。
「本当にお前は……」
彼の成長を見守っていた身として、キョウはその姿を間近で見られた事に対して感極まっていた。怪獣を全部斃すという約束をしたのにも関わらず、その夢を諦めかけていたにも関わらず、目下人間の最大脅威と言える怪獣9号を一撃で殴り潰したのだ。
(あー……いカん、上手く再生できナい。βと合流して融合を)
(核ヲ損傷、融合のためすぐこちらへ向かえ)
8号の攻撃によって痛手を被った9号は、彼らの死角で回復のため分体へと指令を送っていた。キョウと戦わせた出来合いのものとは別に作戦のため事前に用意していた分体は、本体と変わらないほど高度な意思疎通を可能としていた。しかし、その意思を通じて返ってきた返事は予想に反するものだった。
◇
「合流?あー……ちょっと行けそウもないねぇ」
鳴海の元へと送られた分体は、本来は怪獣8号と戦う為の足止め兼時間稼ぎ、そして情報収集の役割を与えられていた。そこにはあわよくば殺しても構わないという内容も含まれていたが、もうそんなこと随分前に諦めている。
彼らは、鳴海という隊長格の実力を完全に見誤っていたのだ。
(は?こっチの相手は怪獣8号だぞ)
「少し待テって」
「いま学んでるから」
『鳴海、状況はどうだ?堤副隊長もバイタルを見る限りかなり厳しい状態だ。万一の8号暴走への対策はどうする』
「いつまでも
ため息を吐きながら鳴海はゆっくりと武器を背中に構えた。
「ボクが行く」
スーツ越しに筋肉が躍動し、全身の血管通して力が漲る。
『鳴海隊長全開放!!周囲を接近禁止エリアに指定します!』
管制室から聞こえてくる報告をBGMに、鳴海は一気に相手を片付けるためにギアを数段階上げる。98%という防衛隊内でトップクラスの解放戦力を持つ鳴海。それもキョウとは違い継続戦闘が可能なほど維持できる実力を持っている。一度全開放すればすぐに使い物にならなくなる彼を除けば、その解放戦力は現防衛隊内で文句無しの一番だ。
「あー……それが君の専用ブキってやつカ」
斬撃と銃撃による波状攻撃。息をつかせぬ連続攻撃によって着実に9号を追い詰めていく。しかし、何度かダメージを与えた頃だろうか。
「!」
「もう学んだ」
『対応してきた!?』
9号は鳴海の攻撃の一切を受け付けなくなった。銃撃の隙間を潜り抜け接近し、確実に命を刈り取る横薙ぎを紙一重で避けきった。そのまま鳴海に対してカウンター攻撃を行う9号。
(……体を根のように張り巡らしたのか)
砲撃の衝撃でその攻撃を避けた先に、9号の爆発器官がまるで機雷のように待ち構えていた。
連鎖的に爆発が起こり、辺り一帯が一瞬にして爆風と土煙によって覆われる。
「鳴海隊長ー!!」
「戦いの中で進化しているな」
「ああ、そもそも第3部隊の報告時と姿が違う。人との関わりの中で学習し、変化し続けているーー……」
「
「今までの怪獣に無かった特性……脅威だな」
「……!」
管制室でドローンからその様子を伺っていた職員は、冷静に分析を続ける上官と、その口から発せられる9号の異常性に顔を青ざめさせる。
『それは怖いですねぇ〜』
しかし、職員は彼らがそれほどまで冷静でいられる理由を知ることになる。
『けど大丈ー夫!!』
「ボクがその上を行く脅威だから」
「は?無傷?」
余波の土埃によって僅かに身体が汚れてはいるものの、煙が晴れた先にしゃがみこんでいる鳴海はあれだけの爆発を全身に浴びたにも関わらず、その身に傷らしい傷を一つも負っていなかったのだ。
仕留めるまでは行かずとも、戦闘不能くらいにはなるだろうと予想していた9号もその理不尽さに思わず声を漏らす。
「さてと、スーツも温まったとこで」
いつもは気怠げに下ろしている前髪をかきあげ、その双眸を露わにする。
「狩りの時間と行こうか」
「……なんダその目、まるで怪獣じゃないカ」
獲物を射抜き殺さんばかりに見開いたその瞳は、通常の人のものとは大きく異なっていた。まるで怪獣に死を突きつける十字架のような模様が浮かび上がったソレは、目の前の獲物を刈り取る未来だけを見据えていた。
はい、お察しの通り鳴海隊長の武器からキョウのガンブレードはインスピレーションを受けています。しかし7号にはまだまだ隠された能力がありますので御安心下さい。
皆さんの感想、評価等本当に励みになっております!これからも頑張ります!
P.S.
今後についてのお知らせを活動報告に載せましたので、もし宜しければご覧になってください。