え?お前が怪獣8号?ウケるんだけど   作:狭間です

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第五話

 

 

 

「ふぃ〜いい湯だなぁ」

 

 カフカの入隊から二ヶ月。キョウは別小隊の隊長として任務をこなしつつも、カフカの様子を常に観察していた。やはり怪獣の影響か、他の隊員がメキメキと解放戦力を伸ばしている中ようやく0から1%へと上がったのみだった。

 

「どうよカフカの様子は」

「目立った異変は見られんな。まぁあまりに変わらなさ過ぎてこのままやったら期限までに昇格するのは絶望的やな」

 

 他の隊員が入浴する少し前に、隊長及び副隊長の入浴時間が設けられている。

 

「それなのに、アイツ僕の前で堂々と副隊長の座を奪う宣言までしおったで」

「目標はデカい方が良いさ」

「お笑い要員としては100点の人材やわ」

 

 監視という名目もあるが、保科にとってカフカが面白い存在である事は変わりないようだ。そろそろ上がるかとキョウは腰にタオルを巻き、湯船から立ち上がる。

 

「にしてもホンマにエグい身体してんな」

「んだよきめぇこと言うなや」

「どっちかと言うと30超えてその身体してる方がキモイわ」

 

 キョウのしなやかで実用性に振られた肉体美は、世間一般の30代とは比べ物にならないものであった。いくつか残る傷跡はあるものの、その少なさから彼自身の実力が伺える。

 

「俺はアイツらの約束を見届けるために長生きしねぇといけないからよ。健康には気を使ってんだよ」

「約束?」

「あぁこっちの話だ。まぁアイツの事だからぽろっと何処かで漏らすだろうからそのうち分かるさ」

 

 もう話すことは無いと風呂場を後にするキョウ。疲れた身体を休めるため床に着くが、数時間後にサイレンによって叩き起されることをこの時の彼は知る由もなかった。

 

 

 

 

「堤小隊、配置に着いた」

『了、作戦開始まで待機して下さい』

 

 突如相模原に現れた推定サイズ全長150m超えの超大型怪獣。巨大なキノコのような見た目をした本獣から、今も尚無数に余獣が生み出され続けている。

 

「堤副隊長!装備の準備終わりました!」

「よーしお前ら、そろそろ作戦開始時刻だ。集中しろよ」

 

『マルヨンマルマル相模原討伐作戦開始します』

「作戦を伝える」

 

 管制室が作戦開始を告げると同時に、小隊内のチャンネルを付け指示を出すキョウ。

 

「標的は神縄断層で発生後地中を移動しながら成長し、増殖期に入り地表に出現したと思われる。本獣は亜白隊長が中隊を率いて処理に向かっているため、俺らが対処するのは無数に生み出される余獣の方だ。いつも通り重要機関や主要交通網を避けた討伐区域の中での戦闘になる」

 

「いいか、新人が含まれる隊は最後尾に配置されている。俺らが撃ち漏らした1匹が新人の命を奪う可能性を秘めている。今年は豊作とはいえまだまだヒヨっ子。全力で数を減らしにいけ」

 

 口々に返事を返す中、後ろの方から新人達の雄叫びが聞こえる。どうやらやる気は十分らしい。

 

「いつものように、最後に一つ」

 

 こちらもそろそろ動き出そう。

 

「死ぬなよ」

 

 その言葉を皮切りに一斉に動き出した堤小隊。彼らは無駄にキョウのしごきを受けてきた訳ではない。全ては任務のため、怪獣を殲滅するため、そしてーー。

 

 死なないため。

 

 死という物を他の誰よりも忌避した堤の考え方は、防衛隊内でも異質なものであった。どれだけみっともなくても生き残る。そんな考えをモットーに日々の訓練を続けてきた。その熾烈なしごきは、厳しいながらも着実に隊員の実力を底上げしていたのだ。

 

 ワラワラと湧き出てくる余獣を次々に屠っていく。キノコ型ということもあり一体一体の耐久度や脅威はそこまで高くない。しかし、やはり問題はその数の多さだ。どれだけ練度の高い隊員が集まっていたとしても、人数的物資的資源が明らかに足りていない。

 

「また一体抜けたぞ!」

「クソッ!いくらなんでも多過ぎだろ!?」

 

 特に中域を担当している堤小隊は、その数の多さを一番感じているだろう。それでも、文句を言いつつも着実にその数を減らして行っている。

 

「せめて核の位置が正確に分かれば……!!」

『そんな君たちに朗報だ。保科小隊の新人が核の位置を発見したらしい。首の付け根だ。そこそこ硬いらしいがお前らなら大丈夫だろう。それとケツにある白い器官がどうやら増殖器官の役割を持っているらしい。余裕があればそこも破壊しとけ』

「やるじゃねぇか新人!」

 

 きっとこれを見つけたのはカフカだろう。清掃業者での経験や日頃の勉強の成果が出たのではないか。余獣の急所を伝えられた隊員達は一気に活気付く。無駄撃ちがどんどん少なくなり、その動きは洗礼されて行った。

 

 そして遂に亜白中隊による本獣に対する攻撃が始まった。一発、二発と高火力の弾丸を確実に命中させていく。その攻撃は核を完全に破壊し終えても続いた。

 

「ここからが正念場だ。本獣の残骸から大量の余獣が溢れ出して来るから、ツーマンセルを保ち他の小隊と協力しつつ一匹残らず片付けろ」

『了!!』

 

 本獣が討伐された事で、遊撃部隊である堤小隊は少数で固まり各地域に散っていった。

 

「さて俺もそろそろ動くかね」

 

 そう呟くキョウの通り道には、百を超える余獣の死体が動きを止めたまま転がっていた。

 

 

 

 

『こちら斑鳩小隊!保科副隊長!堤副隊長!市川、古橋との通信が途絶えました!通信バイタル共にこちらから全く感知出来ない状況です……!!』

 

 その通信が入ったのはキョウが周囲の余獣を粗方殲滅し終えた後の事であった。

 

「何があった」

『分からん、だが異常事態なのは確かや』

「斑鳩小隊にはお前の方が近い、すぐに向かってくれ保科。お前のカバーは俺がしとく」

『了』

 

 またか。この間の試験といい、イレギュラーが多い。カフカの怪獣化も原理は不明、何か大きな事が起ころうとしているのだろうか。

 

「保科の代わりにこの場を担当する」

『こちら斑鳩小隊D分隊、人型怪獣発見……!』

「……なんだと?」

 

 まさかと思い辺りを見渡すキョウ。そこに探している人物の姿は無い。乱戦に紛れているかもしれないという希望的観測は、その後に続く通信によって呆気なく砕け散った。

 

『特徴から怪獣8号と思われます……!』

『了、すぐに討伐分隊を送る。堤もその場が片付き次第捜索に入ってくれ』

「……了」

 

(不味いことになったな)

 

 副隊長として怪獣8号を無視し続けることは出来ない。かと言って遭遇し戦闘を保科に見られるようなことがあれば、どれだけ取り繕ったとしてもキョウが本気で殺しに行っていない事がバレる。前科があるとはいえこれ以上問題行為を起こせば除隊の二文字がチラついてくることは明白。

 

『こちら保科。地区Fにて怪獣8号とコンタクト』

『僕一人で十分やろうけど、念のため堤も来てくれ』

「了」

 

 ただでさえ小型から中型との戦闘を得意とする保科がいると言うのに、副隊長二人を相手にこちらへ攻撃せずに怪獣8号が凌ぎ切ることは不可能だ。どうにかこの場を長引かせるしか無いと思っているものの、新人たちが想像以上に優秀なおかげでみるみるうちに余獣の数が減っていく。

 

「堤副隊長!もうここは大丈夫です!保科副隊長の援護に!」

「……あいよ」

 

 斑鳩に声をかけられもう行くしか無い状況になってしまった。どう誤魔化すかという事を考えつつ、極力走らないよう駆け足で現場に向かっていると。

 

「……ん?」

 

 遠目に何か粒子のようなものが形作っている様子が目に入った。それはだんだんと人型を形成し、見た事のない怪獣へと変容した。これ幸いと堤は通信を入れる。

 

「こちら堤。地区F付近で別の人型怪獣とコンタクト」

『なんですって!?』

「討伐する」

 

 遭遇した人型怪獣もこちらに気付いたようで、何処か焦った様子で戦闘態勢に入る。しかし、キョウに戦闘の意思は無かった。

 

「まぁ一旦落ち着けって。別にお前を殺そうって訳じゃない」

「……ハ?」

「こっちも事情があってね、少しお喋りしようや」

「イミガワカラナイ……ナンナンダコイツハ」

「お前はここ最近増えてるイレギュラーと何か関係あるのか」

「……ソウダトイッタラドウスル」

「だからどうもしねぇって、俺は時間が潰せりゃそれでいいの」

 

『……怪獣8号、逃亡』

 

 保科から入った通信で、このお喋りにも終わりが来た。

 

「うっしもう用済みだ、行っていいぞ」

「……コウカイスルコトニナルゾ」

「しねぇよ。なんてったって」

 

「怪獣を殺すのはアイツの役目だ」

 

 終始理解が出来ないという雰囲気を醸し出しながらも、人型の怪獣は出現した時のように粒子となり風に流されて行った。

 そう、怪獣を殺すのは彼の役目では無い。彼の役目はただ一つ。それを成し遂げる二人を見届ける事のみなのだから。

 

「こちら堤。人型怪獣逃亡」

 

 

 

 

「「珍しく落ち込んでるな」」

「強かったか怪獣8号は」

 

 ミナとキョウが合流し保科の元へと顔を出す。そこには瓦礫の上にあぐらをかき、仏頂面を浮かべている保科の姿があった。

 

「うわーいっちゃん面倒臭いやつにダサいとこ見られた」

「記念に納めておこう」

「やめて!!……恐らく大怪獣ですね」

「!だとすれば福岡に出現したもの以来五年ぶりか」

「幸いこの数ヶ月8号の犠牲者は出ていない。見境なく人を襲うタイプではなさそう……」

 

 何か考えているのだろうか、言葉尻が徐々に消え思案している保科を置いて矛先はキョウの方へと向かった。

 

「堤のほうはどうだった」

「俺の方はまともに戦う前に逃げられちまったからなぁ。だが相当疲弊していたのと逃げることに全力だったのを見るに、あの場でなにか問題を起こしていたのは確かだろう」

「疲弊していたのに逃がしたのか?……まさか」

「いやいや今回は違うって!マジで攻撃が当たらなかったのよ!」

「……まぁいい、後は引き継ぐ。二人とも今は休め」

 

「どんなタイプであれ怪獣は討伐するのみだ」

 

「「了」」

 

 キョウはお咎め無しで済んだことに内心ホッとする。以前にも識別怪獣とは行かないまでも、強力な怪獣を逃した事で謹慎処分を食らっていたのだ。その後何処の基地にも居場所が無かった彼を見かねて拾ったのがミナだった。ここを追い出されたら本格的に何処にも行けなくなってしまうだろう。

 今回は運良く人型怪獣が出てきてくれたお陰で誤魔化すことが出来たが、また同じような事が起きたら今度こそ隠し切ることは出来ないだろう。最低でも正隊員になってからでなければ、実験動物行きから逃れるチャンスも得られない。

 

『隊長!!副隊長!!』

 

 そんな事を考えていると三人のプライベートチャンネルに向けて通信が入った。

 

「声でかいぞ斑鳩、どないした」

『すみません!それが古橋 市川から気になる情報が……』

「気になる情報?」

『はい。二人を襲い堤副隊長から逃げた怪獣は試験会場に現れたものと同一と思われるのですか、その怪獣が発見時ーー』

 

『人間の姿をしていたと』

 

「「「!?」」」

 

(人間に化ける怪獣?)

 

 カフカの場合は人間が怪獣化したケースにあたるが、あの人型怪獣はその逆らしい。人間に仇なす怪獣が悪意を持って人に化け、人間社会に混じって潜伏している。もしこの事が知られれば民衆は瞬く間に疑心暗鬼に陥るだろう。友達、恋人、親兄弟まで怪獣かもしれないという思考に陥ればパニックや暴動に繋がりかねない。

 

「……なんだかえらいことになってきたな」

 

 翌日、保科は怪物が化けていた人間が所属していた清掃業者に聞き取り調査を行っていた。人間に化けていたという事実を伏せ、行方不明者の捜索のためという名目で話を聞きに行く。本気で心配していた職員を騙していることに罪悪感を抱きつつも、悩むより一刻も早く潜伏きた怪獣を見つけ出し討伐することが優先であると決めた。

 

(しっかし妙やな)

 

 保科は人に化けた怪獣が、戸籍上は人間として存在しているという事実に言いようもない違和感を持っていた。一体何が起ころうとしているのだろうか。

 

 

 

 

 田舎の道路沿い、人気の少ない道のど真ん中でよろよろと歩く人影が一人。まるで幽霊のように彷徨う姿を、たまたま通りかかった車によって発見される。

 

「おい邪魔なんだよお前!車道の真ん中で何やってんだ!」

 

 クラクションを鳴らしても退こうとしないその人に、男は痺れを切らして車から降りて直接文句をぶつけた。

 

「おい聞いてんのか!?早くどけって!……あ?」

 

 いまいち反応が帰ってこない事に腹を立てさらにまくし立てれば、ようやく振り返った人がしたのは男に人差し指を向ける動作だけ。

 

「やめとこう、これ以上目立つノは得策じゃない……」

 

 ふらふらとすれ違い、何やら妙な事を口走る人。

 

「あー、けど……念のため顔変えとくか」

 

「おい今度は何ジロジロ人の車見てーー……」

 

 そろそろこの人を一発くらい殴っても構わないだろうと思い振り返った男の前に立っていたのは人、ではなく怪獣だった。

 

「え?」

 

 

 

 

 

『速報です。今回の事件を受けて防衛隊は試験会場及び相模原に現れた人型怪獣を長期討伐対象とみなし』

 

『コードネーム怪獣9号と認定しました』

 

「長嶺カンジ、34歳の一人暮らしか……好都合ダな」

 

「よく分からナい奴もいたかまアいいだロう。さて」

 

どうやっテ殺そうか怪獣8号

 

 




 9号の不気味さの表現難しい。感想お待ちしております。
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