え?お前が怪獣8号?ウケるんだけど   作:狭間です

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 ちょっと短めです。今日中にもう一話更新する予定です。


第九話

 

 

 

「武器を収めろ、鳴海」

「……」

 

 己の核を傷付ける事で、その活動を無理やり停止させた怪獣8号。人間の姿に戻った彼に、りんかい基地の隊員は各々の武器を突きつけていた。その先頭に立って居たのが、第一部隊隊長の鳴海弦。

 

「ハァ……一向に援護の合図を送らないからそのまま死ぬ気かと思いましたよ」

 

 四ノ宮の言葉を聞き、鳴海は辺りに立っていた部下へ戦闘態勢の解除を指示した。

 

「馬鹿を言うな、想定以上だったのは認めるがな。医療班、直ぐに8号を収容しろ。核が損傷している可能性がある」

 

 全身から血を流しながらも、四ノ宮はボロボロのまま管制室へ連絡をする。あくまで任務を遂行しようとする姿に鳴海も思わずため息が漏れ出す。そんな状況の中に歩み寄って行く人影が一人。

 

「派手にやりましたね」

「……キョウさん」

「よっ、久しぶりだな」

 

 先程まで行く末を管制室で見守っていたキョウであったが、改めて結果を見るために現場へと足を運んでいた。

 

「肩貸しましょうか?」

「要らん。そんな事をしている暇は無いだろう貴様は」

「こりゃ手厳しい」

「そんで、どうするんですかコイツ」

「……」

 

 その問いに四ノ宮は答えることは無かった。防衛隊長官である彼の言葉は、容易に口に出して良いものでは無い。その決断ひとつで何十人、何百人もの人間の生死が左右されるのである。

 

「しっかし、ゲンが隊長とは。時間が経つのは速ぇな」

「キョウさんが無駄に立ち止まってるからじゃないですか?」

「可愛くねぇやつだな」

「……キョウさん」

「……なんだよ」

 

 久々の再会にも関わらず、キョウを見る鳴海の目は鋭い。ただの友人を見る視線と呼ぶには、些か恨みがこもっているようにも見える。意を決したように鳴海は口を開く。

 

「一年前のリベンジマッチ、いつやってくれるんですか」

「……」

 

「俺BS5持ってないから出来ないって言ってるだろ」

 

「だから僕の部屋でやればいいじゃないすか!?」

「ヤだよ。次やったら絶対負けるもん」

「負けるもんじゃねぇ、ふざけんな!こちとら得意なゲームで初心者にボコボコにされたイラつきが収まってないんですよ!?」

「知らねぇよそんなもん。ゲームにかけられる時間も金もねぇんだよ」

「それじゃあなんで僕は負けたんですか!!」

「ゲンが弱かったからじゃね?」

「!?!?」

 

 一年ほど前、ほんの気まぐれに付き合った鳴海とのゲーム勝負。惜敗で終わった模擬戦の腹いせに、ゲーム初心者であるキョウをボコボコにして気晴らしにでもしようと誘った鳴海。あまりにもしつこかったためそれを受け入れたキョウであったが、彼は想像以上にセンスが良く始めたてのニュービーである彼に完膚なきまでに敗北してしまったのだ。

 

「あっこら逃げんな!」

「嫌だねー!」

 

 それからというものの、鳴海はキョウに対し執拗にリベンジを迫るようになった。様々な言い訳を駆使してのらりくらりと交わしてはいるが、結局最後は脚力で逃げ切るのがいつもの光景だ。

 

 

 

 

「お疲れ、カフカ」

「キョウ兄」

 

 医務室に軟禁されているカフカに、無理矢理面会の許可をとり会いに来たキョウ。

 

 四ノ宮と激闘を繰り広げた怪獣8号は、その有用性を発揮するために兵器化をせずに生かしたまま運用することが決められた。上層部が集まっていた会議では猛烈に反対されたものの、桁外れの力に加えその力を兵器化して引き出せる可能性は低いという四ノ宮の言葉によって黙らされた。長官の決定であるためこれを覆すことは不可能だが、最後まで四ノ宮以外の上層部は肯定的な表情を見せることは無かった。

 

「……俺さ」

 

 兵器化されるという最悪の事態は免れたものの、彼の命は吹けば消えてしまうほど危うい状況にあった。

 

「怪獣に飲み込まれる寸前に、ミナとキョウ兄のこと思い出したんだ」

 

 それでも彼は前を向き続ける。

 

「俺、絶対に防衛隊員として認めさせてみせるよ」

「……」

 

 真っ直ぐとキョウを見つめるその瞳には、既に火が灯っている。

 

「……おう、頑張れよ。ちゃんと見てるからな」

 

 カフカの頭を乱暴に撫でたキョウは、その言葉を残して病室を後にした。

 

 

 

 

「ちょぉぉおい!?なんか亜白が倒したみたいになってるじゃないかァ!!」

「うるせーぞゲン」

「……」

 

 処分が下されてから五日後、屋上に位置する休憩所で新聞を読んでいた鳴海が急に大声を上げる。そんな姿を呆れた目で見るキコルと、筋トレをしながら文句を言うキョウ。

 

「堤副隊長は何故ここに?」

「この後の会議で分かるさ。時間になったらゲンの端末に連絡が来るはずだから、とりあえず今はそれ待ってる」

「……それってさっきから鳴ってるアレのことですか」

 

 手に持った端末でエゴサをしつつ、フォロワーの減少を嘆いている間にも通知を知らせるバイブ音が永遠と鳴り続けている。

 

「いいんだよ、どうせ功さんと長谷川がいかつい顔並べて小難しい話してるつまらん会議だから。なんでこの僕が昼間っからそんなむさ苦しい場所に行かねばならん?」

「仕事だからだ」

 

 つらつらと御託を並べ続ける鳴海の背後から近寄ってきた第一部隊副隊長の長谷川によって、座っていたベンチごと思いっきり蹴飛ばされる。顔中に古傷を残した彼は、副隊長でありながらも素行不良の鳴海の教育係のような立ち位置にあった。

 

「さっさと行くぞ。四ノ宮と堤も着いてこい」

「いだだだだ!待て、一体なんだと言うのだ!?」

 

「怪獣8号についてだ」

 

 耳を引っ張られながら引き摺られ、その痛みから思わず反抗した鳴海は長谷川の一言で沈黙する。5日という時間をかけて、遂に決定した怪獣8号の処分。どのような結果になったのかキョウも知らされていない。

 

 長官室へ足を踏み入れると、そこには既に椅子に座った四ノ宮と緊張した面持ちで立たされているカフカの姿があった。

 

「日比野カフカ、そして堤キョウ」

 

 それを見て渋々といった様子でポケットに手を突っ込んだまま隣に並ぶ鳴海。残る三人はその後ろで待機している。

 

「お前らを、第一部隊に編成する」

「え」

 

 想像もしていなかった内容に思わず困惑の声を漏らしたカフカ。しかし、四ノ宮はそんな事も意に介さず言葉を続ける。

 

「史上最強クラスの怪獣と日本最強の対怪獣戦力、そしてどのような状況にも対応可能な万能戦力を合わせ、いかなる災害をも打倒する最強の部隊を作り上げる」

 

 イレギュラーが多発している近況。それを完全に対応するため戦力を集結させた部隊を作ろうと四ノ宮は画策しているのだ。

 

「お前にチャンスをやる。次の討伐でその力を示し、皆を納得させろ」

 

(おやっさんもなんだかんだ優しいなぁおい)

 

 以前にも言った通り、第三部隊以外の隊員は未だ怪獣8号の生体兵器としての活用を疑問視している。いつ暴走するか分からない怪獣を隣に置くというデメリットを上回るメリットを提示することができるのか。それを証明する機会を彼自身に与えたのだ。

 

「……はい、やってみまーー」

「お断りします」

「……え?」

 

 あくまで怪獣の力を求められている事を飲み込んだ上で、その命令を受けようとしたカフカ。しかしその隣に立つ鳴海から放たれた言葉はまさかの拒否であった。頭を抱える長谷川、笑いを堪えるキョウ、呆気にとられるキコルと三者三様の反応を見せる中、鳴海は気だるげな態度を崩さない。

 

「最強の部隊は、僕がいれば事足ります。では失礼ーー」

 

「足りぬ」

 

 もう言うことは無いと言わんばかりにその場を後にしようとする鳴海に対し、四ノ宮は低い声を響かせた。

 

「人に擬態し姿をくらませた怪獣9号、怪獣を指揮し防衛隊を意図的に攻撃した10号。奴らは明らかに今までの怪獣とは違う。我々は日々進歩し数々の怪獣災害を乗り越えてきた。だが、怪獣は依然未知の進化を続けている」

 

「大災害は、全ては対処可能だと我々が慢心した時、その常識を大きく覆す形で起こる。我々もまた、進化せねばならんのだ、鳴海」

 

「はぁぁ……功さんの僕への信頼はその程度のものですか」

 

 静かに四ノ宮の言葉を聞いていた鳴海は、心底面倒くさそうにカフカへと向き直った。

 

「堤はともかく、コイツは要らない。8号は、兵器化して僕が使うのが最も効率的だ」

「……鳴ーー」

「鳴海隊長」

 

 聞き分けの悪い鳴海を説得しようと開きかけた四ノ宮の言葉を遮ったのは、他でもない日比野カフカであった。

 

「俺はまだ死ねません。やり残したことがある、それを果たすまでは。だから、しがみつかせてもらいます」

 

 決意を込めた視線を向けながら、カフカは敬礼の姿勢を取る。

 

「第一部隊にお世話になります」

 

「……フゥ。お前の思いも境遇も決意表明も興味無い。結果と実力で示せ。もしまた暴走するようなことがあれば、即座に処分して僕のスーツにする」

 

「っ!ありがとうございます!!」

 

 もう既に部屋を後にした鳴海に対して、扉越しでも聞こえる程の大きな声でカフカは感謝を述べた。

 

 思いも境遇も関係ない、結果のみが全て。それを体現している彼だからこそ、この決断ができるのであろう。

 

「……日比野カフカは隔離室に戻れ、後で個別に用意した部屋へと案内させる。堤は残れ、残りは退室しろ」

 

 名指しされたキョウ以外の面々が退室し、二人きりになる。

 

「ありがとうございます、おやっさん」

「貴様には今まで隠蔽してきた罪がある。責任を持って日比野カフカの監視をしてもらうぞ」

「ゲンが居るなら心配は無さそうですけどね」

「……これを見ろ」

 

 静かに手袋を外した四ノ宮の拳には、今までの戦闘で幾重にも重なり合った傷跡が残っている。既に古傷となっているその中に、まだ治りきっていない新しいモノが一つ。

 

「これは8号と拳を交えた際についた傷だ」

「……」

「拳を砕かれたのは何年ぶりか、随分と懐かしい感覚だった。私の拳が砕かれる程の力だ、鳴海一人では手に余る」

 

 手袋を戻しながら言葉を続ける。

 

「第一部隊副隊長として、8号の監視及び現場の指揮をしろ。奴が暴走した場合、その対処も含まれる。以上だ、下がれ」

「了」

 

 扉を前に、キョウはもう一度振り返って敬礼をする。

 

「ありがとうございます!!」

 

 その声は、先程のカフカの声量に勝るとも劣らないそんなものであった。

 

 

 

 

「これにて午前の訓練を終わる!!解散!!」

「堤副隊長!」

「どうした四ノ宮隊員」

 

 外部の人間であったキコルとキョウは、その実力と向上心からもう既に第一部隊に馴染みつつあった。

 

「個別訓練か……。鳴海の方はどうなんだ?」

「何度行ってもゲームばっかりで受けて貰えません」

「俺がやってもいいんだが戦闘スタイルが違い過ぎて参考にならんだろう。俺が教えられる基礎の部分はとうに越えてる」

「……」

「時間が惜しいのはわかる。だが焦って判断を間違えれば取り返しのつかないことになるぞ。鳴海に教えを乞うのは間違ってない、そのまま進め」

「了」

 

 それを聞くなり、すぐさま踵を返し訓練所を後にするキコル。その姿を見送りながら、キョウは自分の身の振り方について改めて考えていた。

 

(カフカの監視と色物揃いの第一部隊の副隊長という立ち位置。更にはコイツ(7号)を手懐けないといけないときた。問題は山積みだが、今までのようにただ待つだけの時間はもう終わった。どちらにせよ動かないとな)

 

 彼らが準備を整え実力をつけようとしている間にも、災害は待ってくれない。闇に蠢く巨悪は、刻一刻とその脅威を増しつつあった。

 

 

 

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