正義の不在証明   作:カバー

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海軍編
プロローグ


 

 

世はまさに、大海賊時代

 

 

 

「俺の財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ…探してみろ!この世の全てをそこに置いてきた!」

 

海賊王ゴールドロジャーが自身の公開処刑の場で高らかに宣言したその言葉は、新たな時代を告げた。

 

 

世界中の荒くれ者、海賊達が熱狂し、海へと飛び出る時代。偉大なる航路を直走り、無辜の民の屍の山を作り、己もその一部となっていく時代。

 

海賊王がワンピースを残したとされる、ラフテルを探すという無謀な旅がまかり通る時代。

 

故に、そこは決して陥ちてはならぬ。

不動の正義の象徴にして、民の安心を守る最後の砦。

 

三日月の島に、高く聳え立つ城のような基地。

そう、ここはマリージョア。G-1からなる偉大なる航路の治安を守る基地の全てを指揮する、海軍本部である。

 

 

その城下町とでも言うべきだろうか、和風な建築物が並び、活気のある街中を、一人の海兵が鼻をほじりながらずかずかと歩いていた。

道端で談笑していた海兵達が、慌てて敬礼を取る。

子供達が羨望の目で見つめるその男は、海軍の英雄、ガープ中将である。

 

ゴール・D・ロジャーとも競い合ったという、大海賊ロックス。

彼の悪の行進を、海軍中将ガープが止めた。

先日の金獅子のシキの撃破も人々の記憶に新しい彼は、まさしく英雄だ。

 

本人はそんな周りからの視線など気にもせずに、気ままに歩いている。

黒髪の短髪には、若干銀色がちらほらと見え始め、厳つさを醸し出している口髭も同様である。

 

 

「おれも歳を取った…。」

 

そう街角のガラスに映った自分の姿を見て小さく彼は呟くと、目的の場所へと足早に向かった。

ガープは60歳半ばの高齢でありながら、鋼のような肉体を持っているが、本人としては老いを感じるらしい。

 

そこは一軒の質素な家であった。ボロくもないが、立派でもない。まさに模範的なパッとしない家である。

そんな失礼な感想をガープは抱いた。

ガープはその家の扉をノックもせずに無造作に開けると、中にずかずかと入り込んでいった。

 

そして2階の扉を開けると、あっけらかんと、ベッドで寝込んでいる小柄な老人に挨拶した。

 

「まだくたばっとらんか?」

 

その老人は、今気づいたとばかりに起き上がると、青白い顔で微笑み、ガープに答えた。

 

「相変わらずクソ失礼だなガープ!俺はお前の10歳以上年上だぞ!」

 

その彼の答えに笑みを深めて、ガープは豪快に笑って食べかけのリンゴを差し出した。

 

「階級は同じだろうが!ほれ、見舞いだ。」

 

「食いかけ!?相変わらず自由だな!」

 

「あ、すまんすまん。」

 

そう悪びれもせずリンゴを食べるガープを、ベッドの彼は微笑ましそうに見つめて、ベッド脇の窓から遠くを見て呟いた。

 

「俺はもう長くない。…分かるんだ。寄る年並みには勝てねえなあ。」

 

ガープは珍しく静かに黙って目を閉じると、淡々と呟いた。

 

「…癌だったか。医者はなんと?」

 

「持って二、三ヶ月だと。で、だ。俺もいよいよ身辺整理しなきゃいけなくなっちまった。」

 

 

 

ガープの頭には一人の赤子のことが浮かんだ。

ゴッドバレーで目の前の海兵と出会い、駆け落ちし、身籠った女性の子供。天翔る、竜の血筋。

それを知っているのは、ガープと当事者の目の前の男だけだ。

 

 

「セリーヌはどうする?おつるちゃんにでも預けるのか?」

 

目の前の男は、もう天涯孤独だ。両親も他界し、妻も子供を産んで一年前に死んだ。それから、目の前の男は随分と弱った気がするとガープは思った。

 

「いや、お前に預けたい。」

 

 

「……………………………は?」

 

思わずガープは言葉に詰まる。

そして言葉の意味をたっぷり数秒かけて飲み込むと、慌てた様子で答えた。

 

「冗談じゃない!おれは託児所じゃないぞ!なんでどいつもこいつもおれにガキを押し付けるんだ!」

 

目の前の先輩はガープの動揺に声をあげて笑うと、軽く咳き込んで、朗らかに答えた。

 

「お前がそう言う男だからだろ?事情を知ってるのはお前しか居ない。頼むぜ。」

 

「勝手なことを…。」

 

「俺の妻はな。自分の娘に"あんな場所"で一生を終えて欲しくないと常々言ってたのさ。おつるちゃんやセンゴクを信用しないわけじゃないが、お前は天竜人に貸しがある。」

 

「上手いこと言いやがる…。」

 

ガープは珍しく振り回されながらも、何となく人生の宿敵と同じ印象を、目の前の先輩に感じたのだった。

 

ガープは答えを保留にして、その場を去った。

その男が他界したのは、その日の夜中のことだった。

癌による死亡。この時代の海兵では、非常に珍しい大往生だった。

 

軍による葬儀が終わり、ガープは途方に暮れた。

よりにもよって、おれが他所の子供を二人育てる。

海賊王の血筋と、天竜人の血筋の子供を同時に育てるなど、歴史上自分だけだろう。

 

すやすやと託児所で眠るセリーヌに関しての書類手続きは、ガープの知らないところですんなりと終わっていた。

ガープが育ての親だ。書類上でも。

 

 

 

「どうするんだい?セリーヌは?私が育てても良いんだよ?」

 

「おつるちゃん。…いや、託された以上、おれが育てる。」

 

そう答えると、海軍中将おつるは呆れたように言葉を呟いた。

 

「あんたが背負うことないんだよ?事情は知らないが、訳ありなんだろ?」

 

「流石おつるちゃん、察しがいいな。…だからこそだ。」

 

カープはぶっきらぼうだが、義理堅い男だった。

とはいえ、彼も海軍の英雄であり、現役の中将だ。

海賊王ロジャーからの子供、エースと同じように見知った山賊のダダンに預けようとも考えたが、女の子の育て方を彼らが知っているとは思えなかった。

ガープも女の子の育て方など知らない。

 

そこで、自身の孫であるルフィもつい先日預けた、フーシャ村に同じく預けることにした。酒場のマキノならそこら辺も大丈夫だろう。

 

エースを山賊に預けたのは、彼が海賊王の…鬼の血を継いでいる故に、世界中から命を狙われる身だからである。

 

最弱と呼ばれる東の海の田舎の、ひとのよりつかないコルボ山の中ならエースも見つからないと思ったのだ。

だが、セリーヌは天竜人の血を継いではいるが、存在はガープ以外誰も知らない。

 

狙われる恐れもないだろうと踏んだのだ。

 

 

そして将来は…

 

「まあ、最強の海兵だな。女でもそこは変わらん。」

 

 

 

ガープは、海兵以外の生き方を知らなかった。故に、まあ、当然の結論だったのである。

こうしてセリーヌの物語は幕を開ける。

その物語は、非常に長閑なフーシャ村での、少年と少女との出会いから始まる。

 

 

 

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