セリーヌ視点
…何もできないまま私の初戦闘は終わりを迎えた。挙げ句の果てに肋骨がジャックの一撃で折れたようで、ズキズキと痛んだ。が、一週間ほど寝続けたのと、ジェルマの科学力でもう完治寸前だった。
そんな私は、今なんとジェルマ王国の医務室で他の海兵と同じくベットで休息していた。私は明日には起き上がれるらしい。他の海兵も似たようなものだった。
青キジ大将とかとり以外負傷兵しか居ない状態では軍艦を動かすこともおぼつかない。
結局ジェルマの船内の港に停泊させてもらうこととなった。
青キジ大将が様子を見にやってきたイチジ王子と交渉していたが、うまくいったようだ。
「旱害のジャックは撃退しましたが、後から百獣の増援がジェルマに八つ当たりしてこないとも限らないんでね。俺が居た方が安心でしょう。」
「俺たちとしても負傷兵の手当てをしてくれるんなら、ウィンウィンじゃないですかね?」
その青キジ大将がずけずけとした物言いで言ったが、正論ではあった。もし仮に大看板クラスがまた襲ってきたら、大将格でなければ撃退できないだろう。じいちゃん?アレは例外。
「悔しいなあ…。」
私は無意識に涙を流していた。涙が顔をつたって枕に染みつく。初陣だと意気込んで、何もできなかった。自慢の拳はジャックにはまるで通じず、白ひげ海賊団のエースに助けられた。
青キジ大将が来なかったら、あのまま死んでいたかもしれない。
「強く…なりたいな。」
このままじゃ、ほんのささやかな、一人でも多くの人が普通に幸せに暮らせる時代は築けない。
強くならねばならない。
…そう思って拳を握りしめていると、ジェルマの医務室の扉が開いて、見慣れた燃えるような赤い髪色の女の子が入ってきた。かとりだ。
私の泣いた後を見て、彼女はそっと私の目をハンカチで拭った。
「………分かるわよ、あんたの気持ち。私だって、何もできなかった。」
「…一緒に、強くなりましょ。」
本当に私は、人には恵まれていると思う。かとりが居なかったら、多分私はここで折れていた。
「ありがとう、かとり…。」
すると、かとりは照れくさそうに手を叩いた。
「はい!湿っぽい話は終わり終わり!…あんた、今回の事件解決の顛末知らないでしょ。あたしが教えてあげる。」
「…ほんとに?助かるよ。」
そこから、かとりは少し苛立った様子で話し始めた。
「…まずはね、ハラクローイ王国の王様を、あのイゾウって白ひげのとこの海賊が攫ったのよ。…実力的には、四皇の隊長だものね。海軍も予想外のところを突いてきたのもあって、あっさり攫ったらしいわよ。」
「それで、その王様に命乞いさせて、ジェルマを脅して撤退させたのよ。」
「でも、ジェルマはお金も貰わずに任務を途中で放棄したの?面子が立たないんじゃ?」
私が疑問に思って尋ねると、かとりは呆れたように首を横に振った。
「それがね、ハラクローイ王国の王様は、きっちりジェルマにお金を払ったみたいよ。任務より自分の方が大事だったみたいね。イゾウの要求を聞いて退いてくれてむしろ感謝してるみたいよ?」
「それで、ホワイティ王国が正式に白ひげのナワバリになったこと、そしてジェルマは依頼主から感謝されて面目を保てたから、一件落着ってわけ。」
そんな風に言うかとりは、どこか今回の顛末が気に食わないようだった。
私としては、今回は最上の結果だと思う。
ホワイティ王国の子供達は、白ひげのナワバリで平和に過ごすようになり、ジェルマも…まだ分からないがカイドウもひとまず鎮静化した。
なんなら白ひげに会ってお礼を言いたいくらいだ。
そうかとりに言葉をこぼすと、彼女は心底苛立った様子で言葉を返した。
「あんたねえ…白ひげだって所詮海賊なのよ?あんなクソどもに感謝なんてする価値ないわよ。」
「…でも、私は感謝してるよ。おかげで一般人を守れた。本当は私が守りたかったけど…まだ力が足りなかった。」
かとりはそれでも何か言いたそうに口淀んでいたが、私を気遣ったのか黙りこくった。すると、また扉が開いて、今度は3メートル近くの青いスーツに白いベストの…青キジ大将が入ってきた!
「あ、青キジ大将!お疲れ様です!」
「あー…そういうのいいわ。面倒だし。誰も見てねえんだからさ。」
かとりが慌てて敬礼をするのを見て、青キジ大将はやんわりと敬礼を辞めさせると、私達の方をじっと見つめると、ぽつりと呟いた。
「ま、小耳に挟んじまったけどな。お前らの言ってることは、どっちも正しい。ただ、自分の正義を貫くには力をつけなくっちゃな。」
「…青キジ大将は、どのような正義を持っているんですか?」
私がふと気になって尋ねると、彼はぬぼーっとした顔で答えた。
「俺のモットーはだらけきった正義だ。」
「だらけっ…!?」
かとりが思わず驚いて絶句し、私はなんてこのボケに返していいのか反応に困ってしまう。気まずい沈黙が場を包む。
青キジ大将はぼりぼりと頭を掻くとため息をついて言った。
「ま、お前らは強くなるよ。なにしろガープさんに教えてもらってるからな。」
「兄弟子として、まあ暇な時に様子見るぐらいはしてやらなくもなくも…面倒だからやっぱしねえわ!じゃあな!」
そう独特すぎるだらけきった応援をして、彼は嵐のように部屋を出ていった。
私達は、困惑してお互いの顔を見合わせることしかできなかった。
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その頃、海軍本部の元帥の自室では、海軍元帥センゴクが事態の報告を聞き終えて、安堵の息を吐いて椅子に腰掛けていた。三つ編みにした長い顎髭を撫でて、ゆっくりと椅子に体を預ける。
その正面では海軍中将ガープが煎餅を齧りながら来客用の椅子に座って寛いでいた。
「…ホワイティ王国は正式に白ひげのナワバリになった。ジェルマは命拾いしたハラクローイ王から金を貰い撤退。…最善に近い結末と言えるだろう。」
そのセンゴクの呟きに、ガープは言葉を続けた。
「セリーヌも含めて負傷兵は多いが海兵、民間人共に犠牲者なしか…確かに最上じゃのう。カイドウの奴は?」
「それが唯一の懸念事項だが、今は不気味なほど静かなものだ。白ひげが青キジが凍らせたジャックを船で百獣海賊団に引き渡したらしい。…その様子では戦争もなかろう。」
「ぶわっはっは!!そりゃ恥ずかしくて戦争もできねえな!!うむ、上々上々!白ひげは流石に分かってるな。ジャックを始末したら本当に戦争になっちまう。」
センゴクは珍しく微笑んで頷いた。それだけ緊張が一気に緩んだのだ。
「ああ。できれば四皇同士の抗争なんざ勘弁願いたいからな。その点白ひげは助かる。ただ、多少気になる点もあったが…。」
「何だ?」
ガープの問いかけに、センゴクは杞憂かもしれんが、と前置きして淡々と呟いた。
「黒い角を生やした奇妙な動物系能力者がジャックの部下に複数人確認された。単なる悪魔の実の能力かもしれんが。」
「近頃カイドウのやつも妙に静かだ。嵐の前の静けさでなければいいがな…。」
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百獣海賊団の本部、ワノ国では、醜態を晒したジャックが、黒と紺色のレザー製のスーツを着たカラスのような羽を生やした男、同じく大看板の火災のキングに、カイドウの前で痛めつけられていた。
「なァジャック…てめェどの面下げて戻ってきたんだ?」
「す、すまねえキングの兄御…!!」
「看板背負って無様に負けた挙句白ひげにお情けで生かして貰いましただと!?いい加減にしろよズッコケジャック!!」
カイドウは座敷に座り、その様子を眺めて酒瓶でワノ国の酒を味わっている。そして、上機嫌で呟いた。
「ウォロロ…そこまでにしとけ。醜態は活躍で挽回すりゃあいい。そうだろうが?」
「それでキングにジャック、例のジョーカーからの試作品の効果はどうだった?」
その質問に、キングがまず淡々と答えた。
「あのSMILEとやら…当たらなきゃ悲惨だが能力が当たれば悪くないです。雑兵の戦略底上げにはなるかと。」
「俺も同感でした。ハズレ引いた奴は使えねえが、当たった奴はそれなりに使えます。」
その言葉に、相変わらず上機嫌にカイドウは笑った。そして、酒を飲み干すとキングに尋ねた。
「ジョーカーのやつは本格生産までにどれぐらいかかると言ってた?」
「ざっと4、5年ってところだそうです。」
その言葉を聞いて、カイドウの笑顔が引っ込んだ。そして、酒瓶を投げ捨てると大声で怒鳴った。
「遅え!とにかく急げと伝えろ!時間はそうかけるなとな。」
カイドウの怒り上戸だ。先ほどまでの上機嫌が嘘のように苛立った様子でカイドウは叫んでいる。
それにも怯まずにキングは淡々と答えた。
「そう伝えておきます。」
「…ウォロロ!動物系能力者の大量生産!それが叶った日には、俺たちは文字通り最強となる!世界政府だろうが白ひげだろうがぶっ潰せるほどのな!!」
キングとジャックはニヤリと笑った。この人こそ海賊王にふさわしい。
心の底から、改めて彼らはそう思ったのだった。
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ところ変わってホワイティ王国では、白ひげ海賊団を代表してエースとイゾウが国王と謁見していた。
まあ、実際は国王がエース達に土下座しているのだが。
彼は震える声で何度も礼を言った。
「ありがとう…!ありがとう…!本当に、この国を救ってくださって…!」
エースは居心地が悪そうに頭を掻いている。イゾウは淡々と国王に言葉を返した。
「…国王。あなたの軽率な行動で百獣海賊団まで巻き込んだことについては、苦言を呈さなくてはならない。」
「ま、人の旗勝手に使うなんて俺らからしてもいけすかねえしな。感謝しろよ?爺さん。」
エースも不満げにそう言葉を漏らすが、国王の涙ながらに何度も頭を下げて謝罪と礼をする様子を見て、二人ともすっかり毒気が抜けてしまった。
エースが国王に向けて言う。
「許してもらいてえんなら…そうだな…。」
「俺たちを、パーっともてなしてくれや!それと、親父を裏切るような真似は絶対すんなよ!」
「ええ!もちろん!勿論です!」
そこからホワイティ王国総出で二人をもてなす宴会が開かれた。
女も子供も男達も、皆が笑顔でさけをのみかわした。
その笑い声は、一晩中消えることはなかったという。