セリーヌ視点
ジェルマの船は凄まじい機動力で、私が回復する頃にはあっという間に海軍本部付近の偉大なる航路の領海へと入った。
凪の帯をどうやって海楼石なしに突破するのかと思ったら、なんと赤い土の大陸を船を移動させる電伝虫がそのままよじ登ったのには驚いた。
そして百獣海賊団の動きもないので、青キジ大将も含めた海軍がジェルマと別れて軍艦で本部へと戻ることが決定した。
流石にタライ海流にはジェルマを入れるわけにはいかない。あそこは政府関係者以外入れることはできないし、正義の門を開くのもダメだ。
その二日ほど前に、ジェルマの兵士と訓練していた私のもとに、青キジ大将が気だるそうに歩いてやってきた。
そして、凄まじい無茶振りをしてきたのだった。
「…もう一度言ってくれませんか?」
「だから俺の代わりに今晩のジェルマの王族との会食に出て欲しいって頼んでるんじゃない。」
「気は確かですか?」
「お前がガープさんの孫娘だって聞いたらお前も呼んでいいって言われたからさあ。それにほら。会食とか面倒だろ?」
「だから俺はサボる。お前が行ってくれ。」
そう言って青キジ大将は鼻をほじくっていた。
清々しいほどのぶん投げをキメた彼は、そんじゃよろしくと返答を返す前に去っていった。
私はただ、唖然とその様子を見つめることしかできないのだった。
その日の夕暮れ時に、訓練を終えてジェルマの一般兵用の施設でシャワーを浴びていると、きちっとした黒と白色のクラシカルなメイド服を着たメイドさん達に連れられて、あれよあれと言う間にメイクされ、さらしを外され、煌びやかなドレスを着せられた。
…冗談じゃなかったんかい!
そして王室へと連れてこられた。入り口の正面には客人を見下ろすかのように立派なジェルマのマークがあしらってある玉座があり、長い金の長髪に顎髭が特徴的な、ジェルマ王国の国王、ジャッジ王が座っていた。
その玉座の背後では、ジェルマの66という文字を背負った、鷹の壁画がこちらを見下していた。
部屋の中央には円形のテーブルがあり、0から4と記されている独特の円形の椅子がそのテーブルに設置されている。
…レイジュさんが0で、イチジ王子が1、みたいなことだろうか。まさにそんな感じで王子達は座っているし。
じゃあ3は誰用だ?
その3の席は、空席になっていた。
円形のテーブルの端に、客人用なのか高級そうな樫の木の椅子が場違いに置いてある。
ジャッジ王がこちらを見て咳払いした。
私は慌てて観察をやめて、できうる限り丁寧にお辞儀をする。
「本日はこのような席にご招待ありがとうございます。海軍大将青キジは急用で来れないため、私が代わりに参上させて頂きました。」
その言葉を、癖っ毛が凄いリーゼントのような青髪のニジ王子が鼻で笑って冷たく言った。
「海兵風情が王の呼びかけに来ないとはどういう了見だ?大将って呼ばれて調子に乗ってんのか?」
今度は緑髪のオールバックのヨンジ王子がステーキをナイフで切ってフォークで口に運びながら言葉を続けた。
「その代わりがお前なのも理解できないな。せめて中将が来るべきではないか?」
「えっと…私がガープじい…ガープ中将の孫だからお呼ばれしたと聞いたのですが…。」
その言葉に、ジャッジはとりあえず座れと顎で示したので、落ち着かないが客人用の椅子に座った。すると、メイドさんがすぐに空いているグラスに炭酸水を注いでくれた。
ジャッジさんは私が炭酸水を飲んだのを眺め、淡々と言った。
「お前はあの"英雄"ガープの孫だと聞いている。血筋は重要だ。その才能を持って、我らの特別性を証明したくなった。」
その言葉の意図がまるで理解できず、私は問いかけた。
「証明とは?」
「お前には我が息子、ニジと決闘してもらう。我らが血統因子の優秀さを示すためにな。」
その言葉に、ニジ王子は獰猛に笑い、こちらを挑発するように言った。
「おいおい、こんなガキ相手に?女のガキだぜ?痛ぶって終わっちまうよ。」
それまで黙って場を見守っていたレイジュさんが、私と同じらしい炭酸水を飲み干すと、そこで初めて口を開いた。
「お父様。私も同感です。我らの優秀さは既に明らかです。無意味なことでは?」
ジャッジはそんなことは分かっているとばかりに頷くと、乾いた口調で言葉を返した。
「ガープは特別だ。私も一度見たことがあるが、あの男の戦闘の才能は並のそれではなかった。今一度その才能の血を持って、我らの科学の力強さを示すのだ。」
「それに…お前は覇王色の覇気を持っていると聞いた。王になる才能を持っているのなら、優劣はつけておいて損はない。」
…何だか、凄まじく面倒なことになっている。なんか青キジ大将が嫌がってた理由も分かってきたな…。でも。
これはチャンスだ。より強くなるために、一番重要なのは実戦だ。傷が治ってからのこの数日間は、不気味なほど似通った兵士たちと鍛錬はしたが、あくまで鍛錬だ。
「ありがたい申し出です。こちらこそ一戦願いたいです。」
そう私が答えると、レイジュさんは小さくため息をつき、今まで笑っていたニジ王子は真顔になった。
「てめぇ…俺を舐めてんのか?」
「いえ。ただ強い人との戦闘は、正義のヒーローになるために得難い経験ですから!」
そう言うと、私は力をつけるために料理を口に運んだ。…この魚のポアレ、美味しい。見たこともない魚だった。香ばしく皮が焼けており、七色のソースがかかっている。
私は気になって近くのメイドに尋ねてみた。
「このお魚はどんなお魚なんですか?」
「こちら、ヨロイオコゼのポアレでございます。」
そうにこやかにメイドさんは答えたが、私は少し驚く。ヨロイオコゼと言えば、全体の毒抜きまでかなり時間がかかる魚だったはずだ。毒のある皮を剥がせば短時間で済むが、これは皮ごと焼いてある。相当手が込んでるな。ひえ〜。普段食べてる海軍のおばちゃんのカレーとは次元が違う料理だ。
「毒抜きとか大変じゃないですか?」
「いえ!こちらの毒抜きはレ…あ、い、いえ!まあ、大したことありませんよ。大したことは。」
そう明らかに何かを誤魔化したような答えに、私は首を傾げながらも料理を丁寧に味わったのだった。
すると、ニジ王子がその魚のポワレを口にした途端、おえっと吐き出した。
「おい!小骨が残ってるぞ!雑な仕事してんじゃねえよ!料理長を呼べ!!コゼットは居るか!!」
そう彼が立ち上がって怒鳴り散らかすと、一人の大人しそうなおさげ髪の女の子が慌てた様子で駆け出した。
「はい!!申し訳ありません!!とんでもない失態を…!」
すると、ニジ王子が料理の残っているお皿を思いっきり振りかぶった。
…まさかあの女の子に皿を投げつける気か!?
皿が本当に投げられた次の瞬間、私は咄嗟にコゼットさんの前へと駆け出していた。そして私は手で受け止めることができず、顔面でその皿をコゼットさんの代わりに受け止める形となった。
ニジ王子は呆気に取られた顔で困惑した声をあげた。
「ああ?お前何がしたいんだ?」
…やばい。どうしよう。ぶん殴りたい。
そう思ったが、私は海軍で、彼は王族だ。ここで手を出せば、海軍の皆に迷惑がかかる。
私は勤めてにこやかに顔に笑顔を貼り付けて、ニジ王子に言葉を返した。
「すみませんニジ王子。私みたいな客が増えたのでコゼットさんも疲れが出たんでしょう。たかが海兵なのにこの場にいる私が罰を受けるべきです。」
その説明で、どうやら納得したようだ。イチジ王子が淡々と述べた。
「よく立場を分かってるじゃないか。お前が罰を受けるなら、コゼットは許そう。良いだろ?ニジ。」
「別にどうだっていいさ…。」
…こいつら本当に王族か?とんでもねえクズ揃いだな…。
そう心の底では苛立ちながらも、私は呆然とするコゼットさんに、顔をハンカチで拭いて耳元で囁いた。
「美味しかったですよ。お食事ありがとうございます。」
…どうやら強くなりたいという目標以外に、ニジ王子をぶん殴りたい理由ができてしまったようだ。
決闘でぶちのめしてやろう。そう思って、私はお辞儀をして会食の場を後にしたのだった。
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「加減はしねえぞ?」
「望むところです。よろしくお願いします!」
昼間私も利用していた広間の訓練場で、私とニジ王子は対峙する。ニジ王子は、例のジェルマの形状記憶合金を使った"レイドスーツ"は使わないらしい。
…舐められたもんだ。
「一撃で決めてやるよ!!」
ニジ王子は凄まじい速度で私の周りを飛び回り、私を嘲笑うかのように翻弄しようとする。
…言うだけはあるな。この速度に追いつくのは私の剃でも不可能だ。
なら開き直ろう。一撃は貰ってやる。だがお返しはするぞ。
「鉄塊・剛!!」
私は全身に力を集中させ、体を最大限鋼のように硬くする。そしてじっと攻撃が来るのを待った。
次の瞬間、背後から声がした。
「"
私の肩を背後から掴んで、ニジ王子が私の背中に膝蹴りを打ち込んだ。
かろうじて耐えるが、鋭い痛みが全身を走る。これは…電気!?
私は歯を食いしばってその一撃に耐えながら、ニジ王子の腕を確かに掴んだ。
「あぁ?離せてめえ!」
「ぜああああああ!!!」
私は全身の痛みを無視して、ニジ王子をそのまま一本背負いの形で地面へと投げ飛ばした。
そして渾身の力で倒れたニジ王子の顔面を殴った。
「鉄塊・砕!!!」
確かな手応えが拳ごしに伝わる。ニジ王子の鼻から確かに血が流れ出た。
「てめえ…!!」
次の瞬間、さらに腹部に鋭い痛みが走る。電撃の蹴りがまた突き刺さった。
私はニジ王子を掴んで起き上がれなくしたまま、全力でまた顔面を殴った。
「調子に…乗ってんじゃねえよ!!!」
それからは泥試合の様相を見せた。蹴りと拳の応酬が続く。そして十分ほどそれが続いた後、私の意識は朦朧とし始めた。
そしてついに、視界が真っ暗に染まった。
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起き上がると、見知らぬ天井だった。ジェルマの医務室のそれよりやたらと華やかな気がする。シャンデリアがあるし。
すると、端正なまつ毛と澄んだ青い瞳が私の顔を覗き込んだ。
「やっと起きた?もう深夜よ?」
…その艶やかな声を聞いて彼女が誰なのか分かった。レイジュ王女だ。
私は痛みの強い腹部を摩りながら上半身を起こした。
「レイジュ王女…ここは?」
「私の部屋よ。それ私のベッド。」
「はあそうですか…。ってなんですとぉ!?」
あまりの事実に思わずビビって辺りをキョロキョロと見渡す。品のいい家具の数々だが、ソファなどは見慣れない素材でできている。このベッドもピンク色で可愛らしい毛布を除いてみると、やたらと近代的だった。
「面白いでしょ?ここはジェルマだもの。家具だって最新の素材で快適に過ごせるようにできてるわ。」
そう面白そうにこちらを見下ろすレイジュ王女が理解できなくて、私は当然の疑問を口にした。
「それで、なぜ私がここに?」
「私が医者にここまで運ばせたから。ニジのやつ、鼻から血を流してぶつくさ言ってたわよ?まあ勝ったからそこまで機嫌悪くないけど。」
その言葉に私は勝敗を初めて知った。…そうか、私はニジ王子に無様に負けたのか‥。海兵になってから負け続きだな。
「悔しい?実戦でレイドスーツがあったらボロ負けだったでしょうね。」
「…分かってます。私は、弱い。」
その言葉に、レイジュ王女は炭酸水の入ったグラスをテーブルから手に取って、一口飲むと呟いた。
「ええ、貴女は弱い。でも貴女は私たちより優れたものを持っている。」
「優れたもの?」
「優しさよ。」
その言葉に、私は思わず自分が情けなくなって苦笑いした。そして軽口で言葉を返した。
「ははは…取り柄がない人には優しいって言えってやつですか?」
「私は本気よ?」
そう言って、彼女は私をじっと見つめた。その目つきは、どこまでも真剣だった。だから私は黙って話の続きを促した。
「私の兄弟達は、血統因子を改造されて生み出された改造人間。生まれた時から情というものがない。」
「…唯一一人を除いてはね。でもそれも昔の話。」
そう言って、レイジュ王女はソファから立ち上がって窓際により、海を眺めた。その目は、どこかここには居ない人を探しているようだった。
「じゃあ、レイジュさんも…感情がないんですか?」
「あら、そう見える?」
「見えません。だから聞いてるんです。」
悪戯っぽく彼女は笑うと、私の答えに淡々と答えた。
「ええ、私には情がある。でも父の命令には逆らえない。だから似たようなもの。…だからかしら。」
「貴女のその優しさが、やたらと眩しく見えるのよ。母が子供に求めていたのは、そんな何気ない優しさだったのかもしれない。」
「お母様はどうなされたのですか?」
私の問いに、レイジュさんはしばらく沈黙し、ぽつりと呟いた。
「死んだわ。」
「…そうですか。すみません。」
私が思わず顔を伏せると、彼女は手で口を抑えながら微笑んで、嬉しそうに言った。
「貴女のそういうところが気に入ったのよ。でもね、心底不思議でもあるの。」
「何故貴女はそこまで頑張れるの?他人を守るために自分が傷ついてもいいなんて、どこかおかしいんじゃない?」
その問いかけに、私は自信満々に胸を張って答えた。それは私の原点だ。だから自分が肯定しなきゃ自分を否定することになる。
「それはですね…正義のヒーローになりたいからです!」
「…………え?」
「ガープのじいちゃんみたいに、…物語で知った、色んなヒーロー…例えば、海兵のソラみたいに!」
「後はまあ…兄と親友と誓ったからですかね。」
そう目を輝かせて答えた私を、レイジュさんはぽかんと眺めていたが、やがて大笑いして腹を抱えた。私がムッとすると、謝りながらも彼女は言った。
「ほんとうに、貴女は眩しいわね…。私とは大違い。」
そう言うと、彼女は唐突に私に向かって歩み寄ってきた。そして、しゃがんで綺麗な青色の目で私の瞳をじっと覗き込むと、私の肩を掴んでベッドへと押し倒した。そしてレイジュさんは私の上に馬乗りになった。
私は思わず状況が理解できなくて呆然とする。
うわ、スタイル良いな、レイジュさん…。たわわに実った胸が私の目にはあまりにも毒すぎる。
「え、えっと…その。なんです?何なんです?この状況は?」
そう言って私が顔を赤らめて目を逸らすと、彼女は私の顔を柔らかな女の子の手で掴んで、視線をむりやり合わせた。
そして、唇を私に近づけると、私の唇と重ね合わせた。
「…………ッ!?ッ!?!?」
私の口内に、彼女の舌が侵入してくる。好き放題に口内を蹂躙すると、ぷはっという音を立てて唇を離した。…まだ口の中で甘い味がする。
「貴女…私のことそういう目で見てたでしょ?」
「ッ…えっ…と…の、ノーコメントです!」
私が必死で理性を働かせてそう答えると、彼女はますます頬を上気させた。
「ふふふ…うぶなのね。じゃあ優しくしてあげるわ。」
そう言うと、私のニジ王子との戦闘用に着た海兵の服を、丁寧にレイジュさんは剥がし始めた。そして、私の胸を巻いているサラシを見て、甘く私の耳元で囁いた。
「あら、いけないわ。せっかく立派な果実が実ってるのに。形が崩れちゃうわよ?」
そして、彼女は私のサラシを解きながら、私の耳を甘噛みし始めた。艶やかな舌が耳を舐めまわし、吐息が耳をこう…なんだろう。とにかく幸せだ。
「ふっあ…あっ…」
そして今度は長く艶やかな舌で私の首元を舐ると、優しく歯を突き立てた。
「ひっ……ん……だ、だめですレイジュ王女!」
辛うじて理性を働かせて抵抗の言葉を投げかける。だがそれは状況を煽ることにしかならなくて。
「あら?どこがだめなの?例えば…こことか?」
そう言って、彼女はつーっと…私の身体中を指で刺激し、今度はさわさわと触り始めた。
そして、私の胸の頂にまでくると、そっと爪先で先端を摘んだ。
「ふふ…夜は長いわ。まだまだ楽しみましょ?」
レイジュさんの豊満な胸と柔らかな太ももが体に密着する。こんなの…こんなの…耐えられないよ…。
そうして私は悪い蝶々さんに、パクりと色んな初めてを食べられてしまったのでした。
朝日が差し込む室内で、一糸纏わぬ彼女は私に舌を出した。
「ごち♡」
文字通り体の隅々まで食べられてしまった私は、もうこの幸福が忘れられる気がしないのだった。