セリーヌ視点
…レイジュさんとの忘れられない夜から一週間が過ぎた。
私は半ば放心しながらジェルマと別れ、また海軍本部での修行へと戻った。
あれから、私は何というか…女性の体をそういう目で見てしまうようになった。
その煩悩を振り払いたくて、とにかくひたすらに拳を振るった。
廃船場でひたすらに軍艦を殴った。
ドン…!ドン…!
ゴツン…!
私の軍艦はかとりのそれよりも徐々にへこみ始めていた。悔しそうなかとりを見て、こっそり優越感を感じてしまったのは内緒だ。
煩悩を振り払うのもあったが、とにかく私は強くなりたかった。
あの時の記憶が常に私を苦しめたからだ。
「何だ今のは?パンチのつもりか?」
…百獣海賊団の大看板、「旱害」のジャック。それは遥かに格上なのは分かっていた。愚連隊とまで称される暴力特化の海賊団の大幹部なのだ。
数多の海兵が挑み、その度に命を散らした海賊の頂点、四皇の懐刀。
だが、少しは通用すると思っていた。勝てはしなくても、足止め程度はできるはずだと。
私の2年間で、それぐらいは成長できたと思っていた。
それがどうだ。虫けらのようにジャックに吹き飛ばされ、レイドスーツの装備していない生身のニジ王子に敗北した。
「私は弱い…!新世界の壁の高さを身を持って理解した!」
ならばどうするべきか。今のままで良いのか?
私達は、このままで良いのか?
かとりも同じ悩みを持っているようだった。
だから私達は決断した。今までの努力が無駄だとは思わない。でも、次の段階に進まないといけない。
私達は特訓を久しぶりに観にきたガープじいちゃんに頼み込んだ。
「覇気を教えてほしい?もう教えとるぞ?」
そう言って、ガープじいちゃんは煎餅を頬張りながら私たちの目をじっと見つめ、ニヤリと笑って答えた。
「いや。そんなの教えてもらったことないけど…。」
「ま、基礎の基礎じゃからそう思っても無理はないか。どれ、納得させるために説明…あー…面倒じゃな。よし、待っておれ!」
ガープじいちゃんはそう言うと、ちょっと待ってろと言ってどこかに歩き去っていった。そして数分ほどすると、何と青キジ大将を無理やり引きずってやってきた。
「わし説明とか苦手じゃからクザンに解説させるぞ。」
事情を聞いたらしい青キジ大将は、ガープじいちゃんの横暴にため息をついてやれやれと首を振ると、私達の目の前で横になって気だるそうに語り始めた。
「ったく…ガープさんはいっつも人遣いが荒れなあ…。あー…なんだ。覇気についてか。つっても基本は教官とガープさんから学んだだろ?」
「はい。ですが詳しくはまだなので是非ご教授頂きたいです。」
「教授っつってもなあ…これは大体本人の資質次第だ。まず覇気ってのは大体の人間にあるもんだ。気づいてないだけでな。…例外もあるが。」
「ま、それは置いといて。まずはご存知見聞色の覇気だな。相手の気配を読むっつーか…あー…まあ大体そんな感じだ。」
そう告げると、青キジ大将はチラリとかとりの方を見て、言葉を続けた。
「そこの赤毛のお嬢ちゃんが俺が来るのを事前に察知したって聞いてるぜ。それが見聞色の覇気の一種だな。」
その言葉に、かとりは自分が覇気を使っていたと告げられ、思わず顔を赤くしてガッツポーズをした。よほど嬉しかったらしい。
「他にも、極まってくると未来を見るだの、他人の心を読むだの何だのできるようになる…らしい。」
…これは初耳だ。そんな超人じみた真似も覇気を極めればできるようになるのか…!まるで超能力者じゃないか。
「次も知ってるだろうが、武装色の覇気。簡単に言うとだな…体がめちゃくちゃ固くなる。」
「簡単に言い過ぎじゃないですか!?ていうかそれだと鉄塊と一緒では?」
私が思わず突っ込むと、青キジ大将はため息をついて顔を掻きながら淡々と答えた。
「あー…ま、そうだな。武装色の特別な点は、自然系能力者や一部の超人系能力者に攻撃を通せることだ。極論、俺も覇気ありで殴られたら痛い。」
…それって更に凄いのでは?今の所私たちに自然系能力者への対抗手段はない。それが手に入るなら、凄まじい戦闘力の向上が期待できる。
「武装色が得意なのはガープさんと後は…ゼファー先生とかだ。この二人に殴られたら俺はめちゃくちゃ痛い。」
「ゼファー?」
私が聞き覚えのない名前に問いかけると、ガープじいちゃんがその疑問に答えた。
「わしの同期じゃ。歳を取ったが、元海軍大将。強いぞ。」
…海軍も層が厚い。ここで上に行くには、本当に身につけないといけないことばかりだ…。
私が気合を入れようと頬を叩くと、青キジ大将は私を見てしれっと言った。
「気を張るのも結構だが、お前らガープさんから覇気の基礎練習ならされてるって聞いてるぜ。」
「…さっきも聞きましたけど、そんな特別なことなんて何もしてませんけど…。」
私がかとりと顔を見合わせてそう呟くと、青キジ大将は分かってないなと言わんばかりにため息をついて答えた。
「目隠ししながら投げつけられる石を避ける修行は?」
「…やってますね。」
「それが見聞色の覇気の基礎練習だよ。いいか?覇気は何も特別なものじゃない。基礎の延長線にあるものだ。」
「ま、要するに体の一部なんだから、使えば鍛えられる。覇王色ってのは例外だが…まあそれは取り敢えず放っといていい。」
そして、真剣な顔つきに変わって青キジ大将は私たちに喝を入れた。
「お前らの正義叶えたいなら、基礎を固めなきゃ話にならねえぞ。…軍艦バッグだってそうだ。お前らは確実に強くなっている。原点を忘れるなよ。」
「ま、そういうこった。せいぜい励めよ。じゃな。」
青キジ大将は立ち上がると、つかつかと手を振って本部の方へと歩き去っていった。
「「ありがとうございました!!」」
私たちは礼を言って敬礼する。
ガープじいちゃんはそんな私達の肩を掴んで、ニヤリと笑って言った。
「…お前達の覚悟は分かった。これからは訓練を3倍の量にする!覇気もしっかり身につけさせるから安心せい!!」
私とかとりは顔を見合わせる。今まででもキツかったのに、あれの3倍。正直死ねる気がする。でも。
「もちろんだよじいちゃん。強くなりたいんだから。」
「そうです!もう弱くて海賊に良いようにされるのはごめんですから!」
弱いままなのは、絶対に嫌だ。
「よく言うた!!さあ、ついて来い!今から特訓じゃ!!」
「「はい!!」」
こうして今日も、私達は強くなる。己の正義を、貫くために。
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レイジュ視点
私は自室の窓からジェルマの船の速さでどんどん景色が変わっていく海を眺めながら、彼女のことを思っていた。
どこまでも弱くて、愚かで、自分のことを無視して他人を助ける。
本当に馬鹿だと思う。正義のヒーロー?幼稚すぎる。
………でも、そんな彼女は、私なんかよりずっと眩しかった。
我が子を守るために劇薬を飲んだ母を思い出して。つい魔が刺して手を出した。
また会えるのだろうか。会ったところで、どうなるのだろうか。
でも、もう一度綺麗なものを観れるのなら、それも悪くないなと、何となく思ったのだった。
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????視点
俺はその日、始めてこの世に生まれた気がした。
東の海。平和な海と呼ばれるその場所の、とりわけ地味で穏やかな国で生まれた俺は、酷く退屈な子供時代を過ごした。
牛や羊の世話をしながら一生を終える?そんなのごめんだ。穏やかな顔をして慎ましく暮らすのが幸せだと言う父と母のことが、心底嫌いだった。
そんなある日のことだ。一人の男がこんな何の取り柄もない国…というか村にやってきた。というか空からおちてきた。
そんじょそこらの大男の数倍の体躯に、血走った眼球。鍛え上げられた肉体。そして、頭から生えた角。
百獣の王という呼び名が相応しいその男は、ただ自分が「自殺に失敗したから」という理由で、俺の村を焼き尽くした。
憎んだかって?
まさか。むしろ逆だ。尊敬した。心の底から。
俺もいずれはあの人みたいになりたいと思った。俺の好きだった恐竜のように巨大で、強いあの男のように。
後にその男は四皇と呼ばれるようになった。そして俺は海に出て、動物系古代種の悪魔の実を集め始めた。
やがてあの男を超える最強の男になるために。
………それがどうだ。俺はエースという新米の海賊にぶちのめされ、王下七武海の称号を剥奪された。
自分が業火に焼かれても生き延びていると知った時は、己の弱さを呪った。
なんて無様。なんて恥。
これでは、偉大なあの男のようになるなど…。
だから俺は鍛え直した。覇気を身につけ、能力を研ぎ澄ませた。
俺は船上に立ってポートガス・D・エースの手配書を破り捨てた。
いずれこいつもぶっ殺してやる。
この俺が。
俺は北の海のとある島にやってきていた。情報があったのだ。まずは動物系古代種の悪魔の実を出来うる限り集める。強い部下を揃えて、そして…俺が百獣の王となる。
「ハナフダ船長!目的地が見えましたぜ!!」
俺は、決して諦めない。
平和など、平凡など、糞食らえだ。
俺は最強の…トカゲの王になる男だ。