正義の不在証明   作:カバー

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叶わぬ夢

 

 

 

 

セリーヌ視点

 

 

 

今日は平和の海と呼ばれる東の海から偉大なる航路へと入る入り口である、ローグタウンへの応援に私とかとりは来ていた。

 

何でも基地長のスモーカー本部大佐が偉大なる航路へと入ろうとする海賊を根こそぎ捕らえて、脅威の海賊の出航者0人の記録を作っているらしいが、流石にローグタウンに来る前の海賊船が多すぎて、付近の海での被害が多発し、応援が呼ばれたというわけだ。

 

案の定、街に入る前の海で海賊船と遭遇した。

かとりの"見聞色の覇気"のおかげで悪天候でも即座に敵船を発見できた。

 

「私が先行する!かとり!援護よろしく!」

 

私は敵船の頭上に月歩で移動し、落下しながら敵船に拳の狙いをつける。一気に拳骨に武装色と鉄塊を乗せて…

 

「せやああああ!!!!!」

 

落下して敵船の中央部に拳骨を叩きつける。木が粉々にひしゃげる音がし、海賊船はたまらず木が軋む悲鳴をあげて揺れ動いた。

 

「ひいっ!化け物!化け物だ!」

 

「海に逃げろぉ!!」

 

海賊達は泡を吹いて海へと飛び込んでいく。だが悪天候に加えてかとりの見聞色の探知能力もある。一人も逃げきれずにあっという間に全員が捕縛された。

 

 

 

「セリーヌ軍曹!かとり伍長!お疲れ様です!」

 

船に戻ると海兵達がそう敬礼をしてくれる。武装色の覇気を身につけた私と、見聞色の覇気を、身につけたかとりは、次第に一般兵の中でも頭角を表し、14歳にして既に一般兵を卒業することに成功した!

覇気の本格的な修行をしながら任務で各地を奔走して、一ヶ月ほどでここまで来た。まだまだ私達は上を目指せる!

 

かとりはふふんと鼻を鳴らすと、私に向かってご機嫌な様子で話し始めた。

 

「部下が居るっていいわね。…そういえば、ローグタウンって確か海賊王…あの最低野郎が処刑された場所じゃなかった?」

 

相変わらず海賊のことになると口が悪いかとりに苦笑いしながらも、私は首を縦に振る。

 

「そうだね。…大海賊時代の始まった場所か。一回処刑台見てみたいなあ。裏には処刑台を見下ろせる高級ホテルがあるらしいよ。」

 

「それって悪趣味…でもまあ見てみたいのはそうね。歴史的には価値ある場所だし。」

 

そんな風に雑談していると、軍艦は無事にロッキーポートの港へと停泊した。今回は私達を指揮しているのは他でもないガープのじいちゃんだ。ただ、今もそうだが気まぐれに寝ていたり何だったり…今回来たのもフーシャ村に顔を出すついでらしい。その間私達に代わりにここで仕事をさせようという腹だ。

 

私は大いびきをかいて寝ているじいちゃんをなんとか起こして、港へと降り立った。

…流石に要所の港だ。活気がある。

すぐそばに露店や店が立ち並び、新鮮な魚介類や雑多な物が売られている。

 

港の前には既に海兵達数人が出迎えのために待ち構えており、私達を前にして敬礼をした。

そしてその中から一人の筋骨隆々としたガタイの良い白髪頭の男性が現れた。葉巻を口に咥えており、ダンディな雰囲気だ。

 

そしてその背後には、赤緑の眼鏡を頭につけた、ショートボブな黒髪がボーイッシュな女の海兵がいる。

…かわいいな、あの娘。しかも以外とボーイッシュなのに…いや、ダメだダメだ!私は必死に煩悩を振り払うと、白髪頭の男性、恐らくスモーカー大佐に敬礼をして挨拶した。

 

「本官はセリーヌ軍曹であります!ガープ中将をお連れしました!」

 

「ああ、ご苦労。話は聞いてる。」

 

 

 

そうぶっきらぼうに彼は言葉を返すと、ガープじいちゃんを見て挨拶しようとした。

 

 

 

「久しぶりです、ガープ中将。あんたほどの人が出張るほどじゃあ…「ぐおお…。」

 

スモーカー大佐の発言を、場違いないびきが遮った。怪訝そうに顔を歪めると、場の全員がガープじいちゃんの顔を眺めた。

すると、黙りこくって目を閉じて真面目にしていたガープじいちゃんの鼻から、鼻提灯が出てきた。

 

「ぐおお…。」

 

「ちょ、じいちゃん!じいちゃん!寝てる場合じゃないって!ちょっと!?」

 

 

 

私が必死にがくがくとガープじいちゃんの肩を揺らすのを、周りは呆気に取られて見ていた。ガープじいちゃんの側近の帽子を被った人と、スモーカー大佐だけはため息をついている。

 

「お!いかんいかん!眠っておった!」

 

「……相変わらずだな、あんたは。」

 

「おお!スモーカーか!わしいつの間にここに来たんじゃ?」

 

「ついさっきだよ、じいちゃん。…というか任務覚えてるよね?」

 

 

 

私の呆れ声にじいちゃんはガハハと笑うと、私とかとりの肩をバシバシと叩いてスモーカー大佐に言った。

 

「それじゃわしはフーシャ村に行くとするわい!こいつらと軍艦があれば応援としては十分じゃろ!」

 

 

 

そう言うと、ガープじいちゃんは帽子を被ったいつものお付きの人と小舟に乗って去ろうとした。眼鏡をかけた女の海兵さんが慌ててガープじいちゃんに声をかけた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいガープ中将!本部から貴方が応援に来ると…!」

 

「めんどい!却下!わしの孫娘達で事足りるわい!」

 

 

 

そう鼻をほじりながらガープじいちゃんは無情にも切り捨て、笑いながら小舟を爆速で漕いで去っていった。メガネの可愛い女海兵さんはただ茫然と眺めることしかできなかった。

 

スモーカー大佐はどこか達観した様子で呟いた。

 

 

 

「変わらねえなあの爺さんも…。」

 

「ですねぇ…。」

 

「ははは…うちのじいちゃんがすみません。」

 

 

 

ガープじいちゃんと付き合うコツは、達観である。子供の頃にルフィにぃとサバンナに投げ込まれた時に骨の髄にまで染み込んだ実感である。

 

 

「…ま、あの爺さん何だかんだでできねえことは言わねえ…はずだ。実際軍艦で付近の海をパトロールしてくれるなら助かる。きりきり働けよ。」

 

「たしぎ!いつまで惚けてやがる!さっさと二人に街案内してやれ。終わったら基地まで連れて来い。俺は先に戻ってる。」

 

そう言い捨てるとスモーカー大佐は専用らしき煙を吹かしているゴツいバイクに乗り込んで走り去っていった。

 

 

 

「えっと…その、すみません、いきなりで驚いてしまって。私はたしぎ伍長です。19なんで、まだ新入りなんですけど…。代表してお二人を案内させてもらいますね。」

 

そう言って彼女はなぜか私達ではなく、私たちの部下の一人に話しかけている。かとりが困惑したように呟いた。

 

 

 

「…あの。私達こっちなんだけど。眼鏡かけた方がいいんじゃない?」

 

「え?あ!す、すみません!」

 

 

 

そう言ってたしぎ伍長は慌てた様子で頭につけていた眼鏡をかけた。

…最初からかけとかないと危なくない?でもかわいいな、やっぱりこの人。癒されるというか…。

 

「よろしくお願いしますね、たしぎ伍長。」

 

私ができる限り丁寧に頭を下げてそう言うと、彼女は慌てて答えた。

 

「いえ!私の方が階級的には下なので敬語は結構です!」

 

「でもあなたのほうが年上ですし…。」

 

 

 

私とたしぎ伍長がそう互いに遠慮し合っていると、呆れたようにかとりがため息をついて、私の頭を軽く小突いた。

 

「面倒だからどうでもいいわよ。ほら、さっさと案内してよ。」

 

「あ、はい。ご案内します!」

 

何故だか、持ち前の図々しさを発揮したかとりに安心感を抱きながらも、私は部下達にひとまず後で集合命令が出るまで解散を命じた。

部下達も基地の海兵と交流しながら街中に散っていく。

 

そして、私とかとりは、たしぎ伍長の後に続いてローグタウンのメインストリートへと歩み始めた。

様々なファッション店や飲食店が軒を連ねる中、一つの店の前でたしぎ伍長は立ち止まった。

店名は…ARMS SHOP…武器屋か?

 

「すみません!私の愛刀をここに預けて磨いてもらってるんで、取りに行ってもいいですか?」

 

私は微笑んで頷いた。暇そうに赤い髪の毛を弄っていたかとりは、たしぎの発言に思いついたように呟いた。

 

「……そうね。私も武器欲しかったから、いい機会だわ。なんかあったら買っていきましょうかね。セリーヌは?」

 

「私は拳骨以外あんまり使わないからなあ…メリケンがあったら欲しいですけど。」

 

「なんか…メリケンの方が拳より先にぶっ壊れそうね…。」

 

そう苦笑いしながらかとりは呟くと、たしぎに続いて店内に入っていった。私も続いて扉をくぐる。

…武器屋というだけあって、店内は刀剣類でひしめいていた。…雑多に安物らしき剣が樽に詰め込まれている。

…武器屋というより刀屋だな、ここは。一応それ以外もちらほらあるけども…。

店内を見渡していると、店の奥から一人の男性が現れた。赤ら顔の禿頭のおじさんだ。

彼は手を揉んで営業スマイル全開で現れたが、私達3人の姿を見ると、笑みを消して呆れたように呟いた。

 

 

「ったく!客かと思ったら小娘三人かよ。ここはカフェじゃないぜ?」

 

 

その失礼な態度に、かちんと来たのか、かとりは苛立った様子で声を上げた。

 

「ちょっと!私達はこれでも海軍なんだけど。おじさん馬鹿にしないでよね!」

 

私はそれでも露骨に面倒そうな態度を浮かべる店主に、淡々と述べた。

 

 

「私とかとりで合わせてざっと100万ベリーは手持ちがあります。金払いはいいと思いますよ?」

 

そうなのだ。私達は女子であるが、それ以前に海兵。任務に任務に特訓と積み重ねて、それなりの額を使わずに溜め込んでいた。

 

「む?……なんだ。そういうことは早く言えよ。金払いが良いなら大歓迎ですとも!お前さんら何をお求めなんだい?」

 

 

 

その前にたしぎ伍長を私が指さすと、店主は思い出したかのように一振りの刀を持ってきて、たしぎ伍長に手渡した。

 

「業物、時雨だ。きちんと磨いといたよ。ったく、ひよっこ剣士がこんな上等な刀持ちやがって…。」

 

そう言われて眺めてみると確かに見事な造りの刀だ。二重丸のような装飾が並んだ白塗りの鞘が美しい。

かとりが興奮したように言った。

 

「業物時雨…聞いたことあるわ。結構な良い刀持ってるじゃない!目利きとかできるの?」

 

「え、まあ未熟ながら多少は…。」

 

 

 

そう聞くと、かとりは上機嫌にたしぎ伍長に頼み込んだ。

 

「なら、目利き頼むわよ。金持ってきてるんだから変なの掴みたくないもの。おじさん!私短刀が欲しいんだけど、良いのある?」

 

おじさん呼びに若干ムッとした様子の店主だったが、そう問われると自信満々に一箱の木箱を取り出して、カウンターに置いた。

 

「それなら上等なのがある。刃渡り20cmの平造り、ワノ国から渡ってきたという名刀…小百合だ。」

 

「………すごい。まるで刀身が水で濡れてるみたいだ…。」

 

その木箱の中から取り出された短刀は、まさに濡れているかのように艶やかで、見事なものだった。

かとりもたしぎ伍長も魅入っているようで、じっと見つめている。

店長はごほとん咳払いすると、私たちに言った。

 

「いや、これは見た通り見事なもんなんだが、折角の新規の客だ。負けに負けて…90万ベリーでどうだい?」

 

「90万………どう?たしぎ?妥当?」

 

そうかとりが恐る恐る聞くと、たしぎ伍長は大きく唸って刀を食い入るように見つめ、5分ほどしてから答えた。

 

「……確かにこれは良業物ほどではないですが業物です。いっそ私が欲し…いや、そうですね…。でもこれは短刀ですし、少し割高な気も…。」

 

「いやいや!バカ言っちゃいけねえよ!これ以上まけるのは無理だぜ!俺だって身を切る思いで…!」

 

かとりはそんなたしぎ伍長と店長の意見を聞いて、しばらく悩んでいたが、苦笑いして答えた。

 

「うーん…でも私の手持ち50万ベリーだけなのよね…だからどうしても無理かも…。」

 

「私も出すよ、かとり。私は別にそこまで武器が欲しかったわけじゃないし。」

 

そう微笑みかけると、かとりは少し顔を曇らせて私に尋ねた。

 

 

 

「いいの?」

 

「いいんだよ。友達だし。」

 

「……そう。ありがと。それじゃ後で返すから借りるってことで。おじさん、買うわ!」

 

おじさんはニヤリと笑って手を揉んだ。

 

「毎度あり!!」

 

そうして私達が店を出ると、たしぎ伍長が嬉しそうに私達に言った。

 

「よかったです、いい刀が正しい持ち主に渡って。これが海賊なんかに渡ったらと思うとゾッとします。」

 

それにかとりも神妙な顔で頷いた。

 

「まったくね。あんなクズどもに名刀なんて勿体ないわよ。」

 

私はふと思い出して呟いた。以前の件から白ひげについて調べた時、確か…

 

「あの海賊白ひげが最上大業物の薙刀を持ってるんだっけ。一度見てみたいなあ。」

 

私の能天気な発言に、たしぎ伍長はぎょっとした顔をして、かとりは呆れてため息をついた。

 

「…見た時が死ぬ気じゃなけりゃいいけどね。相手はあの"白ひげ"なのよ?」

 

「だよねえ。」

 

私達はまだあの旱害のジャックにも遠く及ばない。そんなことは私が一番よく分かっている。ただ私はどうも白ひげに敵意を抱く気にはならなかった。ホワイティ王国は実際彼のおかげで平和になった。むしろ私にとっては恩人に近い。

 

「……そうですね。今の時代、何故こうも"悪"が強いのでしょうか。刀が泣いています。」

 

たしぎさんは立ち止まって私達に振り返ると、語り始めた。何事かと私とかとりは顔を見合わせる。

 

「私はこの"時雨"で剣士としてもっともっと腕を磨いていずれ、世界中の"悪党"達の手に渡った名刀を集めて回るんです!」

 

「最上大業物12工、大業物21工、良業物50工!私の命を懸けて…!」

 

 

 

私とかとりは思わず絶句する。…途方もない夢だ。それはつまり、実質的に白ひげやらも敵に回すということで。かとりは感嘆したように言った。

 

「それなら、大将くらいにはならないとね。」

 

「え!?」

 

「いや、だってそうでしょ。四皇だのを相手取るなら、それぐらいないと。盗むならまだしも。」

 

 

 

たしぎ伍長はうっと言葉に詰まると、少し葛藤していたが、覚悟を決めた顔で言った。

 

「…そう、ですよね。そうですね!私はいつか、それぐらいになってみせます!」

 

私は彼女に心の底から感心して呟いた。

 

「凄いですね、たしぎ伍長にはそんな目標があって。」

 

「お二人にも目標はないんですか?その若さで一般兵じゃないなんて、並の努力ではないのでは?」

 

そう改めて問われると私は思案した。目標…目標か。かとりはあっさりと答えた。

 

「決まってるでしょ。海賊なんかに負けたくないからよ。だから強くなりたいの。セリーヌもそうでしょ?」

 

「ん、まあね。でも最終的な目標っていうと…やっぱり。」

 

私が思い出したのは、兄と、かけがえのない親友との約束。新時代を作ること。

 

「誰もが当たり前に幸せな、新時代をつくりたい…ですかね。なんかありきたりですけど。」

 

そう私がたしぎ伍長に伝えると、彼女も笑顔で答えた。

 

 

 

「素晴らしいと思います!一緒に夢、叶えましょうね。」

 

…その笑顔は、実直な彼女の可愛らしさを全面に出していて、ふにゃりとした笑顔に不覚にも少し興奮してしまう。

 

「あ、はい。…そうですね。」

 

「それじゃ、そろそろ処刑台の方に…きゃっ!」

 

すると、たしぎさんは小石に躓いて前のめりに地面に倒れそうになる。私たちの方を向いているので必然的にこちらに倒れてくるわけで。

 

むにっ

 

「…あれ?」

 

たしぎ伍長はそんな声を上げて、おずおずとメガネをかけ直して目の前を見た。…私のおっぱいを掴んでいる自身の右手を。

 

「…………ッ!?ッ!!!す、すすすす…わああ!!」

たしぎ伍長は顔を真っ赤にして立ち上がると、今度は慌てた調子で後ろ向きに倒れかける。私は慌てて彼女の手を取った。

 

「…大丈夫ですか?たしぎ伍長?」

 

「あ、あの…顔…ちか…いや!す、すみませんでした!!」

 

 

 

彼女はその場で見事なまでの土下座を披露した。

道の中央でそんなことしたら当然目につくわけで。

ざわざわとこちらを見て人たちが足を止める。

 

「ぷっ…くくく…はははははははは!!!!」

 

かとりはツボに入ったのか大笑いしてるし…取り敢えず夢の前に目の前の混沌を収めないといけないですね…。そう私は胸を不意に掴まれてドキドキしている心臓を抑えて、たしぎ伍長に話しかけるのだった。

 

 

 

 

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