セリーヌ視点
ローグタウンに来てから一週間ほど経過して、それなりに付近の海賊は狩り尽くして落ち着いたある日、私宛に本部から連絡が来た。
ぷるぷるぷるぷるぷる…ガチャ
「こちらセリーヌ。
私は海軍の通信用電伝虫の受話器を置いて、ガープじいちゃんがローグタウンに不在なのにため息をついた。
本部から命令が届いたが、その内容は
「かとり伍長とセリーヌ軍曹はガープ中将と共に本部に戻られたし。」
要は、私達に命令が来たから本部に帰還しろというものなのだが、問題はガープじいちゃんは本部に無断で私達を残してフーシャ村に行ってしまったことだ。そして後一週間ほどフーシャ村で過ごす予定だ。
つまりさっさとガープじいちゃんに連絡しないと不味い。
でもじいちゃん電伝虫に出ねえ…!
なので私はスモーカー大佐に頼み込んで軍艦を回して速攻でフーシャ村へと向かうことにした。
そのまま本部へと戻れば何とかなるだろう。
私とかとりはローグタウンの港でスモーカー大佐とたしぎさんに別れを告げていた。
「すみませんスモーカー大佐、たしぎ伍長。短い間ですがお世話になりました。」
私とかとりは揃って敬礼する。
慌ててたしぎ伍長も敬礼したが、スモーカー大佐はぶっきらぼうに頭を掻くと淡々と答えた。
「お前らは仕事しただけだろうが。別に世話らしい世話なんざしてねェよ。お前らのおかげで、この海域は当分平和なもんだろう。ま、よくやったな。」
たしぎ伍長はそんな不器用なスモーカー大佐の褒め言葉に少し驚いだようだったが、私達に微笑んで別れの挨拶をしてくれた。
「お二人とも、元気でいて下さいね。女海兵仲間ができて、嬉しかったです。」
かとりも朗らかに言葉を返した。
「こちらこそ!小百合の目利きありがとね。一緒に目標に向かって頑張りましょ!」
かとりは基本的に二丁拳銃で戦う中距離戦闘型だが、近接戦の脆さを課題としていた。だから私と組み手訓練をしたりしていたのだが、それを補うために業物を得られたのは本当に嬉しいことだった。
私としても、かとりに負けないように頑張らないと!
「それじゃあ、互いに励みましょう。次に会うときは、海軍の"高み"です。私達全員、今よりずっと立派な海兵になって会いましょう。」
私が少しかっこつけてそう言うと、かとりもニヤリと笑って頷いた。たしぎさんも笑顔で頷く。が、たしぎさんは帰り際にバナナの皮につまずいて派手にすっ転んでいた。
スモーカー大佐の怒鳴り声を聞きながらも、私達は軍艦をフーシャ村に向けて出航させたのだった。
フーシャ村までの航路は、実に長閑なものだった。かとりと私は船の甲板で海を眺めて黄昏ていた。
「東の海は平和ね…偉大なる航路と違って化け狸とかでないし。」
「じいちゃんが言ってたよ。最弱の海ってのは、つまるところ平和の海ってさ。」
そう。強力な海賊も数えるほども居らず、それに対しての屈強な海兵も必要ない。血が流れないこの海のことが、私は好きだ。
かとりも同じらしかった。嬉しそうに言葉を続ける。
「…そんな海もあるのね。いつか、全世界の海をそれぐらい平和にしたいわね。…それがあたしの夢なのかも。」
かとりのルビーのような真紅の瞳はやる気に満ち溢れていた。…彼女は真っ直ぐだ。正義のヒーローになりたい私が言うのも変かもしれないけど、彼女以上に真っ当な海兵もそう居ないと思う。
「なんか…私かとりと一緒に居られて本当に良かったよ。」
「なによ。小っ恥ずかしい事言っちゃって。あたしに惚れちゃった?」
そうふざけながら言うかとりに、私は微笑んで答えた。
「もうとっくに惚れてるよ。」
髪色と同じぐらい赤くなったかとりの顔が、私には愛おしかった。
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フーシャ村は、私が出ていった時と変わらぬ姿で私を出迎えてくれた。
日差しは穏やかで、暖かな風が頬を撫でる。
軍艦が現れたのを見て、港の漁師のおじさん達がざわついてこちらを眺めている。
私は軍艦から飛び降りて満面の笑顔で彼らに挨拶した。
「久しぶり!私だよ、セリーヌだよ!」
すると、彼らは驚いた顔をした後、嬉しそうに言葉を返した。
「セリーヌちゃんかい!?大きくなったな!」
「もう7年も会ってねえから分かんなかったよ!待ってろ!今皆んなに知らせてくる!」
そう言って彼らは走り去っていく。軍艦を停泊させて降りてきたかとりは呆れたように言った。
「あんたがそんな風に船から飛び降りるなんて珍しいわね。…よっぽど嬉しかったのね。」
私は照れ臭く思いながらも素直に頷いた。すると、かとりは意外な提案をしてきた。
「一日ぐらいここで過ごしたら?それぐらいの遅れなら船を急がせれば取り返せるわ。」
「いいの?」
「ええ。ガープ中将の船なんだしそれぐらい遅れるのも本部は想定してるでしょ。」
…まあ確かにじいちゃんだしなあ。それにここに寄ったのも元はと言えばじいちゃんの行動が原因なんだし…。よし、ならそういうことにしておくか!
私達は部下の海兵達を引き連れて村の中心部へと進んでいく。
魚屋のおじさんは随分白髪が増えた。
そして通い慣れたマキノさんの酒場にまでたどり着くと、その前に村長が立って待っていた。
相変わらず木の杖を持って、厳格そうな雰囲気を出している。
…顎髭が生えたし、やっぱり魚屋のおじさんと同じで白髪が増えている。
私を見ると、彼は嬉しそうに話しかけてきた。
「セリーヌか!大きくなったな!」
「村長さん!お久しぶりです!じいちゃんは?」
私がそう尋ねると、彼は呆れたようにため息をついて答えた。
「ガープのやつ…今はコルボ山でルフィのやつと取っ組み合いでもしとると思うぞ。」
「あはは!!変わってないみたいだねェ、ルフィにぃも。」
思い出される昔の記憶。ルフィにぃはよくじいちゃんから逃げ回って、捕まっては拳骨を喰らってた。なんだか本当に変わってない故郷が嬉しくなって、私は笑った。
「じゃあ私はルフィにぃとじいちゃんを探しにいくよ。うちの海兵達はマキノさんの酒場で休ませてもいいかな?」
「もちろんだとも。海賊に比べればずっと立派なお客だ。そこのお嬢さんは?」
そう言って村長さんは私の隣のかとりの方を見た。かとりは丁寧に自己紹介をした。
「セリーヌ軍曹の…友人のかとり伍長です。今日はお世話になります。」
「ほお!そうかそうか。是非セリーヌの話を聞かせてくれ。歓迎するよ。」
「ええ、是非。それじゃ私達は酒場にいるわね、セリーヌ。ゆっくりしてきて。」
私はかとりの気遣いに感謝すると、コルボ山へと足を踏み入れた。…相変わらず野生みのある山だ。それに山賊も居るのだから手に負えない。
でも確かルフィにぃは山賊の世話になってるんだったっけ…じいちゃんも何考えてるんだか…。
しばらく山を進んでいくと、激しい戦闘音…というか多分じいちゃんが暴れている音がし始めた。私はため息をついて慌ててそっちに走って行った。
「いてええええ!!」
「ルフィ!どうじゃ!?立派な海兵になる気になったか!?」
「俺は海兵にはならねェ!!海賊になるんだ!!」
「ばかもんがあァァァ!!!!」
ドゴォン
「いてえええええェ!!!」
…本当に懐かしいなあ、この会話。私は会話が聞こえてくる方へと茂みを抜けて開けた場所へ出た。
すると、二人はこちらに気づいたようだ。ガープじいちゃんが声をかけてきた。
「何じゃい、セリーヌ。まだわしが来てから一週間しか経って居らんぞ?」
「え?セリーヌ!?セリーヌなのか!?」
そう驚いているルフィにぃを見て、私も少なからず驚く。昔は完全に子供なルフィにぃだったが、今は体つきもがっしりしてきて、青年の体つきだった。
「久しぶりだね、ルフィにぃ。」
「ほんっとに久しぶりだなァ!お前しばらくここに居るのか?」
私は朗らかに笑って答える。
「いやいや。明日には海軍本部に戻るよ。召集があったからね。」
その言葉にじいちゃんが反応した。
「なに?本当か。なら何故わしに連絡しなかった?」
「じいちゃんが電伝虫に出ないからでしょ。」
そう呆れて私が答えると、ガープじいちゃんは懐を探った後、ぶははと笑って言った。
「いかんいかん!マキノの酒場に電伝虫置いてきてしまったわい!後で取りに行かんとの。」
随分と背丈が伸びたルフィにぃは、じーっとこちらを見て呟いた。
「そっかー。セリーヌは海兵になったのか。」
「まあね。」
「なあ、前も言ったけどよ。海兵やめて俺と一緒に海賊に…。」
そうとんでもない勧誘を仕掛けた途端、ガープじいちゃんの鉄拳がルフィにいの腹に突き刺さった。
「ぎゃああああああァ!!!」
「何か…昔と変わらないなァ、本当に。」
そんな風に家族の時を過ごすのは久しぶりで、私は何となく胸がぽかぽかする気がしたのだった。
そして三人で山を降りてマキノさんの酒場にいくと、すでに村人と海兵達で盛り上がっていた。
私たちが店に入ると、前と変わらず綺麗な黒髪のマキノさんが、嬉しそうに私に駆け寄ってきた。
「セリーヌちゃん!久しぶり!大きくなったわね。会えて嬉しいわ!」
そう言って彼女は私の頭を撫でてくる。前屈みになるので、マキノさんの胸元がチラチラと見える。
私は慌てて後ろにのけ反った。
「もう私十四なんだからそういうのやめてよ!」
「ふふ…。そうね。ごめんなさい。かとりちゃんから色々聞いたわよ。頑張ってるのね。」
「そのかとりは?」
私が尋ねると、マキノさんは苦笑いして答えた。
「間違ってお酒飲んじゃって眠っちゃったから、私のベットで眠ってもらってるわ。」
「はー…酒飲んだのか…。かとり…。」
私はため息をついて相棒の泥酔具合を悟る。ガープじいちゃんは呆れたように言った。
「何じゃかとりのやつ…。だらしないのう。わしにも一杯くれ!」
「ええ、すぐに。」
私達がカウンター前の椅子に座ると、マキノさんがジョッキに入ったビールと、ジュース二つを渡してくれた。
ルフィにぃがキョトンとした様子で私に尋ねた。
「かとりって誰だ?」
「私の相棒。海兵のね。」
そう答えると、ルフィにぃはそうかと頷いてジュースを一気飲みし、私に言った。
「…セリーヌと会うのも7年ぶりか。なんかもっと久しぶりな気がするなァ。」
「ルフィにぃは山賊と一緒の一人きりで寂しくなかった?」
私が尋ねると、彼は嬉しそうに笑って答えた。
「まあ、最初はお前が居なくて寂しかったけどな。兄弟ができたんだ。杯を交わしたんだぞ!エースと…いや、その話はいいや。」
少しルフィにぃは顔を曇らせたが、気を取り直したように言葉を続けた。
「エースも海賊になったんだ!俺もいつか追いつくけどな。」
「エース?エースって…火拳のエース?」
私が驚きながらそう尋ねると、ルフィにぃは顔を乗り出して聞いてきた。
「知ってるのか!?」
「あー…うん。前に任務で一回戦ってるの見たよ。話はしなかったけど、強かった。」
そう答えると、ルフィにぃは嬉しそうにしきりに頷いた。心底嬉しそうだ。
「だろ!?エースは強いからなァ〜。俺も喧嘩で勝ったことねえや。」
「ルフィにぃが負けを認めるなんて相当だね。ウタの時は自分が勝ってるって譲らなかったのに!」
「ウタには俺が183連勝中だ!」
「ははは…。久しぶりに聞いたなァ、その台詞。」
そういいあって私はルフィにぃと笑い合う。久しぶりの故郷の夜は、心地よく、あっという間に過ぎ去って行った。