出来うる限りワンピース原作の世界観を表現しますので、お付き合い頂けると幸いです。
セリーヌ視点
海軍本部から赤い土の大陸の上にあるマリージョアを通過して新世界へと入り、そこから凪の帯を通過して北の海へと向かうこととなった。そこにレイキーナ王国はある。
マリージョアには世界貴族である天竜人が住んでいる居住エリアがあって、遠くから彼らの豪華な居住する見事な城のような建物群が見えるが、海兵や政府エージェント用の通路はその脇にひっそりと存在する。
…まあ海兵用が変に豪華だと天竜人が騒ぐのかな、なんて思いながら歩く。登り降りする昇降機も、海兵用は心なしか小さい。
この通路がなければ魚人島にまで潜らないと新世界へは行けないので有難い。
そこからG1支部が用意してくれている軍艦へと乗り込み、厳しい新世界の海でも出来うる限り穏やかな航路で凪の帯に入る。
私はふと気になったことがあって、口説こうと花束を差し出したザッパをまた一発KOしているイスカ少尉に尋ねた。
「イスカ少尉、ちょっといいですか?」
「ん?なんだ?」
「海賊ハナフダは偉大なる航路前半の海で活動してたと聞いたんですけど、こんな遠い海域まで軍艦なしで来れるんですか?」
私達の軍艦は、ドクター・ベガパンクと呼ばれる政府の天才科学者によって、海のエネルギーを発する石、海楼石が船底に敷き詰められている。
故に大型海王類の巣である凪の帯を私たちは通過できる。だが海賊はそうではない。
凪の帯に出る=死と言っても過言ではないのだ。
イスカ少尉はいい質問だと言わんばかりに上機嫌に指を立てて答えた。
「いい質問だな!残念ながら、答えはYESだ。元七武海であるハナフダは七武海時代に政府の援助を受けている。」
「自分の海賊船に海楼石を敷き詰めてあるのは軍艦と一緒だそうだ。」
…なるほど。確かに七武海とは政府公認の選りすぐりの海賊。
他の海賊への抑止力となること、そして政府への上納金を定期的に払うことを条件に、政府と親密になれる。
軍艦と同じ装備を海賊船に仕込んでてもおかしくはない。
「………はぁ。」
かとりは相変わらず落ち込んだ様子で海を眺めて黄昏ている。それを見てイスカ少尉は私に尋ねてきた。
「おい、かとりの奴はいつもあんな感じなのか?」
「…いえ。普段はもっと気を張ってます。ハナフダの名前を聞いてから様子がおかしくて…。」
イスカ少尉はため息をついて小声で私に言った。
「あの調子だと実戦は厳しいんじゃないか?お前、あいつと親しいんだろ?悩みとか聞いてみてくれないか。」
「部下をそんな風に死なせるわけにはいかん。」
…この人は本当にいい上官だと思う。部下を思い遣って、何だかんだで気にかけている。
私はそんな美人将校の彼女に微笑んで頷いた。
「ねえ、かとり。喉乾いたんじゃない?ほら、緑茶。」
私は相変わらず黄昏ているかとりに緑茶を差し出した。海軍は紅茶より緑茶派らしく、備品にあるのは大抵緑茶だ。
かとりは力なく微笑んで、緑茶を受け取った。
「ん、ありがと。」
「……………………。」
「……………………。」
沈黙が続く。気まずくなったかのように、軍艦で休んでいたカモメ達は羽ばたいて去っていった。
私は出来うる限り穏やかにかとりに話を切り出した。
「ねえ、なんか元気ないね、かとり。…話してみたら?私なんかでよければ。楽になるよ?」
「……あんた以上の話し相手は居ないわよ、バカ。」
そう可愛い悪態をつくと、かとりは照れ臭そうに顔を赤くして答えた。
「…私の親、海賊に殺されたってのは話したことあるでしょ?」
「…そう、だったね。」
「その海賊ってのが、ハナフダなのよ。」
…なんとなくそうかもなとは思っていた。ただ、直接聞くと心に来るものがあった。私は両親を知らない。でも、ルフィにぃやガープじいちゃんがもし海賊に殺されたらと思うと…それだけで胸がざわつく。
「私の父さんは商人でね。珍しい悪魔の実が手に入ったからって、張り切って船で取引先に売りにいったの。」
「…その途中でそれが目当てのハナフダに船ごと襲われたの。私と弟達が生き残ってたのは、正直奇跡だったと思う。…あの無骨なマスク面は、一生忘れられない。」
思い浮かべただけで、ゾッとする話だ。
「…それで、海賊嫌いだったんだ。」
「ええ。大っ嫌い。七武海なんか言われて、ぬくぬくと海賊やってる連中が居るって思ったら反吐が出る。」
そう言い切ったかとりは、また黙って海を眺めていた。暫く私は同じく黙ってただかとりに寄り添った。
暫くそうしていると、彼女は思い切ったように頬を手で叩いた。そして笑顔で私に言った。
「ありがと!話聞いてもらったら楽になったわ。…私の最高の友達ね、セリーヌは。」
「友達ってだけ?」
そう私は揶揄いたくなってニヤリと笑ってかとりを見つめる。かとりは呆れたように、でも満更でもなさそうに私の額にデコピンをした。
「もうちょっとあんたが強くなったら、考えてあげる。」
「はは…気合い入るね、それ。」
そんなふうに雑談していると、マストの上で望遠鏡を覗いていたグラントが大声を上げた。
「島が見えたぞ!あれじゃねえか?」
私達は船首へと集まる。すると、うっすらと島の輪郭が見えてきた。
「…立派な島だな。」
そうボナムが呟く通り、レイーキナ王国は実に見事な島のようだった。綺麗な白い石造りの建物がひしめいて、その中央に立派な宮殿が見える。鮮やかな黄色や赤色で塗装されたその宮殿は、まさに物語に出てくるような城だった。
「あれが…レイーキナ王国。」
私達はこれまた活気のある、それでいて高級感のある港へと停泊した。
街ゆく人達も、男はシルクハットに紳士服、そして女性は色鮮やかなドレスと華やかだ。
私たちが軍艦から港へと降りると、小太りの紺色のスーツ姿の男性がつかつかと歩み寄ってきた。
「君たちが我々のオークションの警護をしてくれるという海兵達かね?」
「あ?誰だおっさん。」
不良然としたグラントは態度までそうだったらしい。知ってたけど。
イスカ少尉はグラントに拳骨を喰らわせると、不愉快そうに顔を顰めた男性に頭を下げて挨拶をした。
「申し訳ありません、部下が無礼を。はい、その通りです。貴方は?」
彼は咳払いをすると、私たちを見下して慇懃に答えた。
「私はこのレイーキナ王国の王の補佐の、シャルリオット宰相です。せいぜいキリキリと働くことですな。」
そしてグラントを心底軽蔑した目で見下して言葉を続けた。
「その様子では厳しそうですが。…いいですか!我が王は天竜人とも親交の深いロイヤルなお方なのです!」
「不甲斐ない真似だけはしないで頂きたいですねえ!…では私は失礼しますよ。昼は国王と宮殿で家族揃ってランチですので。」
「任務中の住居は適当に見繕ってくださいな。馬小屋ぐらいは貸しますけどね。」
そうペラペラと言い終わると、シャルリオット宰相はつかつかと偉そうに歩き去っていった。
「何よあれ。嫌な奴。」
小声でかとりが言った通りの人物だった。笑顔で応対していたイスカ少尉の笑顔も引き攣っている。
大きくため息をつくと、イスカ少尉は私たちに言った。
「よし、お前ら。まずは情報収集と寝床の確保だ。安心しろ。それなりに経費は貰ってきてる。」
「どうやって別れます?全員で固まってやるのは非効率ですよね。」
私がそう尋ねると、イスカ少尉は確かになと頷いた。そしてザッパとグラントをチラチラと見ると、ボソッと呟いた。
「ほっといたら何しでかすか分からん奴もいるしな…。一人一人ばらけるのはリスキーか。」
それに二人は即座に反応した。
「はあ!?どういう意味だよ!?」
「なら私はぜひイスカ少尉とお願いしたいなァー!!」
二人に無言でイスカ少尉は拳骨を喰らわせると、少し考えてから頷いて私たちに指示を出した。
「よし。なら私とグラント、ボナムとザッパ、かとりとセリーヌで別れるぞ。」
…合理的だ。的確に問題児を保護者役と組み合わせている。だがザッパはそう思わなかったらしい。奇声を上げて叫んだ。
「そんな!ご無体な!私はイスカ氏やかとり氏、セリーヌ氏と…!」
「うん。ちょっと黙ってろ。」
そう笑顔で言ってイスカ少尉は空を見た。太陽が昇っている。朝特有の晴れやかな空気が満ちている。
「よし。なら昼にここで集合だ。いいな。くれぐれも騒ぎを起こすなよ。情報が最優先だ。最悪寝起きは軍艦でいいしな。」
「街に住み込んだ方が情報は集まるだろうからできればそうしたいが。…解散!」
ただ悲しみで涙を流すザッパをボナムは引きずって歩き去っていった。イスカ少尉もグラント軍曹の文句を聞き流しながら別方向へと歩いていく。
「それじゃ、私達も行きましょうか。」
「そうだね。」
私とかとりも街を見て回ることにした。
そして暫くとりあえず歩いてみた。すると分かったことがある。本当にこの街は綺麗だ。街道には埃一つなく、野良犬すら居ない。
建物は整然と立ち並び、純白の建物の塗装が眩しい。
…物乞いすらいない。一見するとこれは理想郷だ。でも…
「なんか…完璧すぎて気味が悪いね。」
「同感。この規模の国で、物乞い一人居ないなんてことある?…何かありそうね。」
しばらく島の奥へ奥へと歩いていくと、また異様なものが現れた。真っ白な高い壁だ。
まるで街を島から隔絶させているかのように、高く高く聳え立っている。
私はたまたま道を通りがかった、鮮やかなピンクのドレスを着たご婦人に尋ねてみることにした。
「すみません。少し尋ねたいことがあるんですが。」
「あら、可愛らしい海兵さん。ええ、何でも尋ねてください。」
そう人当たりの良い笑みでご婦人は微笑んだ。
「あの、この壁は何なんですか?向こうには何があるんです?」
私はほっとしながらご婦人に気軽に尋ねる。すると、ご婦人は暫く黙った後、ゾッとするような嘲りの顔を浮かべた。
「あら。何があるかって…。ただの、"ごみ"と"汚物"ですよ。行かない方が良いですわ。体が汚れますもの。」
「それでは、失礼。」
彼女は優雅にお辞儀をして去っていった。
私とかとりは顔を見合わせた。かとりはキョトンとして私に尋ねた。
「ごみ?汚物?何のことかしら。ゴミ処理場でもあるの?」
私は何となく察しがついていた。似たようなことをやっている例を知っているからだ。
私は淡々とかとりに言った。
「多分、もっと酷いと思うよ。とにかく向こう側に行こう。」
私とかとりは壁づたいに道を歩いて、立派な門の前に辿り着いた。銃を持った衛兵が複数人警護している。
…やはり、これは。
私とかとりが向こうに行きたいと言うと、衛兵は、先ほどのご婦人と同じような嘲りの顔をした後、あっさりと認めた。
門が開く。
そこには。
「何よ…これ。」
「………やっぱりね。」
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レイーキナ王国。そこは一見すると、まさに地上の楽園。着飾った老若男女が、華やかに街を彩り、貴族達が踊り舞う。
天竜人であるプルミング聖お気に入りのこの国は、まさに誰もが羨む場所だろう。
だが、それは表の話。
港と島の一部を壁で切り取った栄華の裏には、ゴミと下流市民の住むスラムが、ただ一面に広がっている。
衛兵も居らず、殺し、盗みは当たり前。
まさにここは、あの場所と同じ。
東の王国、ゴア王国を、意図的に真似、天竜人の入れ知恵で作られたこの国を見て、ある男は言った。
「ここは、まさに世界の縮図だ…。」
ここはレイーキナ王国。貧民街から定期的に人が攫われ、オークションに賭けられる、"国家"絡みの人身売買を行う場所。
ようこそ、レイーキナ王国へ!世界が羨む、理想郷はここにある。