正義の不在証明   作:カバー

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オリジナル国家の話なのでオリキャラ多めですが、今回の章限りでスパッと出番終わらせますのでお許しください


正義の違い

 

 

 

 

セリーヌ視点

 

 

 

見渡す限りの、ゴミの山。

どうやらここは本当にレイーキナ王国のゴミ捨て場も兼ねているらしい。壁に隣接したダクトから雑多なゴミ類が吐き出されている。

そこに老人や子供達が群がり、我先にと使えそうなものを漁っている。

その光景を横目で見ながら、私とかとりは島の奥地へと進んでいく。

 

 

 

「…胸糞悪くなるわね。裕福な表の裏側に、こんな…。」

 

 

かとりは思わず顔を顰めてそう周りを見回しながら私の後に続いて歩く。

 

「…多分、もっと奥に行ったら住宅地があるはず。そこで詳しく話を聞こう。…裏でしか得られない情報もあるかもしれない。」

 

「そうね。表の方はイスカ少尉達に任せましょう。」

 

 

 

私とかとりはそう結論づけて島の奥へと向かう。…見られてるな。やはりここで海兵は珍しいらしい。見るからに危険そうなごろつきや、浮浪児がこちらを見てはヒソヒソと小声で囁き合っている。

 

「…ねえ。君たち。その、お腹空いてない?よかったら…。」

 

そう言って私は手持ちの携帯食料を手に持って浮浪児達に近づく。すると、彼らは携帯食料をひったくって走り去っていった。

 

 

 

「やっぱり、警戒されてるね。」

 

私の呟きに、かとりは頷いて答えた。

 

「海兵だから、襲われないだけマシなんでしょうけどね…。」

 

そして暫く歩いていくと、見るからに廃材や、瓦礫で作られたであろう住居の群れが姿を現した。

私達がその住宅地に足を踏み入れようとすると、大柄な男達三人が立ち塞がった。禿頭のその中で一番歳をとっていそうな髭面の男が、ドスの効いた声で言った。

 

 

「おどれらァ、海兵がこんな場所に何の用じゃ。レイーキナ王の野郎が差し向けたんか!?」

 

私はできうる限り穏やかに言葉を返した。この場所では私達が余所者だ。

 

 

「落ち着いてください。私達はただここに話を聞きに来ただけで…。」

 

「ふん!そんな話信用できんわ。海兵は世界政府の犬じゃろうが。王の野郎が"人攫い"にでも寄越したんか!?」

 

 

…ちょっと待って。人攫い?…何の話だ。もしかして、国王が国民を攫っているのか?

 

「ちょっと待ってください。人攫いって何のことですか?まさか王が国民を攫っているとでも!?」

 

「…ほんとに知らんのか。」

 

彼は私たちの顔をジロジロと眺めると、毒気が抜かれたように呟いた。

かとりは困惑した様子で言った。

 

 

 

「でも、そんなことあり得るわけないでしょう?世界政府加盟国が、そんな…。」

 

「ふん。あの野郎はわしらを国民と思っとらんよ。」

 

 

 

そう屈強な老人は鼻で笑うと、話を続けた。

 

「国民と呼ばれるのはあの壁の向こう側の貴族達だけよ。わしらにはもはや人としての権利すらない。」

 

「たびたび衛兵達が来る時は、わしらからみかじめ料を奪い取るか、人攫いの時だけよ。」

 

「でも、人攫いをして何を?」

 

 

私が純粋な疑問でそう尋ねると、彼は淡々と答えた。

 

 

「何でも人身売買オークションで売り飛ばすらしい。…そうじゃない奴は、バラして中身を売るんだとさ。」

 

「なっ…。」

 

 

信じられなかった。そんなの、海賊よりよっぽど極悪じゃないか。…まさかブランニュー准将が言っていた職業案内所って。

 

「その人身売買って、職業案内って呼ばれてたりします?」

 

怒りを噛み殺しながら私が尋ねると、老人はあっさりと答えた。

 

 

「ふん。世界政府の連中はそう呼んどるらしい。何が職業案内じゃ。鎖で繋がれて餌を与えられる職業などあってたまるか!」

 

「……………せない。許せない!そんなこと、政府が許していいはずがない!」

 

 

「セリーヌ…?」

 

 

私は思わず頭に血が昇ってそう怒鳴った。すると、老人と他の二人は顔を見合わせて頷きあった。そして私達に向けて微笑みかけた。

私達が来てから初めての笑顔だった。

 

「お前さん、優しいな。」

 

細身の背が高い三人の中で一番若い男は笑って言った。

 

「なんか誤解して悪かったよ。あんたらなら入れても大丈夫そうだ。なっ、ゲン爺さん。」

 

ゲン爺さんと呼ばれた先ほどの禿頭の巨漢の老人は、その言葉に頷くと私達に提案をしてきた。

 

「お前さんら、情報が欲しいならわしの娘の酒場に来い。比較的懐がマシな奴らはそこに集まっとる。隠し港も近いからの。」

 

 

 

私とかとりは顔を見合わせた。…裏の港。もしかしたらそこからハナフダが出入りしている可能性もある。…行くしかない。

 

「案内するわい。ついてこい。」

 

私達は巨漢の老人、ゲン爺さんの後について歩き始めた。

…正直、私はもうこの任務に乗り気ではなかった。貧しい人を攫って人身売買するオークションなど糞食らえだ。いっそハナフダに完膚なきまでに潰されてしまえばいい。

 

でも、ハナフダはかとりの両親の仇だ。

放っておけば、民間人に被害を生み出し続けるだろう。

ならば倒すしかない。でも、結果的にオークションを守ることになる‥。

 

「はぁ…。」

 

私はため息をこぼした。もうオークション壊すの待ってからハナフダ倒せないかな…。でも中将二人いるから普通に守りきれそうなんだよな。

 

ため息をつく私に、かとりは呟いた。

 

「…セリーヌ。気持ちは分かるけど海賊を倒すのが最優先よ。ここの人達に必要以上に私達が関与すべきじゃない。」

 

私はあまりにも冷静なかとりに無性に腹が立って皮肉を溢した。

 

 

「私は皆に幸せになって欲しくて海兵になったんだ。かとりは仇が討てれば満足かもしれないけど、私はそうじゃない。」

 

瞬間、かとりは私の襟を思いっきり掴んで私の耳元で、諭すように話し始めた。

 

 

「…いい!?私はあくまで冷静にあんたを心配してるだけよ!この任務は天竜人絡みなの!だから青キジ大将まで出てる!」

 

「英雄の孫娘だからって、下手打ったらほんとに洒落にならないのよ!?」

 

 

…かとりが私を心配してくれてるのは分かる。だから何なのだろうか。己の正義を貫かない理由にそれがなるのか?

 

 

「…分かったよ。私は正義が貫けるならそれでいいけど、かとりはそうじゃないんだね。」

 

「アンタねえ…!」

 

 

私とかとりが本格的に言い合いになろうとした途端、ゲン爺さんが呆れたように私たちの方を振り返って言った。

 

 

「お前さんら、喧嘩しにきたのか?さっさと来い!」

 

私とかとりはムッとしたまま顔を見合わせて、互いに言葉を出した。

 

「取り敢えず今は。」

 

「ええ、一時休戦ね。」

 

 

私達は若干距離を取りながらゲン爺さんについていく。暫くオンボロの住居の間を歩いていくと、一際大きな、多少は他の建物よりマシな建物が現れた。

それでもオンボロの域は出ないけど。

ゲン爺さんは小汚い木の扉の前に来ると、私達に思い出した様に尋ねた。

 

「お前さんら、私服は持っとるか?そのピカピカした制服以外に。」

 

「…潜入用に一応持ってますけど、それが何か?」

 

「ここじゃ海兵は歓迎されん。着替えたほうがいい。ほれ、そこの暗がりで。」

 

私達は顔を見合わせて、年頃の女の子としてはあるまじきだが、外の目立たない暗がりで渋々と服を着替えた。

 

それを確認したゲン爺さんは頷くと薄汚い木の扉を開けて建物の中に入っていった。

私達も続いて中に入ると、雑多な闇市の酒場といった感じだった。

小汚いチンピラ連中がジョッキを持ち上げてピンクスの酒を歌ったり、明らかに胡散臭いサングラスをかけて小汚い布を頭に巻いた男が商談をしていたりする。

 

 

 

ゲン爺さんの姿を見ると、カウンターをボロ布で拭いていた、エプロン姿の恰幅のいい茶髪の女性が近づいてきた。

 

「あら、父さん!海兵の件は大丈夫だった?そちらのお嬢さん方は?」

 

すると、ゲン爺さんは彼女の耳に顔を寄せて、ボソボソと何かを呟いた。すると、その恰幅のいい女性は私達を手招きして二階へと上がっていった。

私たちもついていく。階段は登るたびにギシギシと軋んだ。

そして宿らしき小汚い一室にまで来ると、私達に言った。

 

「驚いたわ。父さんが海兵をここまで連れてくるなんて。…父さんが信じるなら私も信じるけど。」

 

 

「ありがとうございます。そして、海兵として、まず申し訳ありません。この王国の人攫いのことなんて、気づいてもなかった…。」

 

私が頭を深々と下げると、かとりは慌てて私に囁いた。

 

「ちょっと、それより情報を聞くのが先でしょ!」

 

私は敢えてそれを無視して頭を下げ続ける。やがて、ゲン爺さんの娘さんはため息をついて私に微笑んで言った。

 

「だろうとは思ってたさ。でも謝ってくれてありがとう。少し胸が空いた気がするよ。」

 

「…私もお嬢さんのことが気に入ったよ。情報が欲しいんだって?何を知りたいんだい?」

 

 

すると、かとりが私が口を開くより早く尋ねた。

 

「その、海賊ハナフダの話を聞いたことありませんか?そうじゃなくても、海賊が人手を集めてるとか、変な連中の出入りとか‥。」

 

その疑問に、現爺さんの娘さんはうーん…と唸った後、そう言えばと呟いて、私達に話し始めた。

 

 

 

「最近、力仕事にごろつきを集めてる奴が居るってのは酒場で聞いたことあるね。詳しくは知らないけどさ。」

 

かとりはやっと出た手掛かりに噛み付く様に尋ねた。

 

「それが誰かって分かりますか?」

 

ゲン爺さんの娘さんは頭を掻いてバツが悪そうに言った。

 

「分かんないねえ。そんなに情報が欲しいなら、ここに泊まり込んだらいいさ。安くしとくよ。」

 

そう言ってガハハと笑うゲン爺さんの娘さんに例を言って、私達は一階へと降りてゲン爺さんにも礼を言って外に出た。

 

私とかとりは空を見る。…太陽が真上に登り始めている。

 

 

「そろそろ昼ね。一旦戻りましょう。…手応えあり、かしら。」

 

「そうだね。裏の港の存在も知れたし。あの酒場にいれば情報も入りそうだ。でも。」

 

私は何度目か分からないため息をついて愚痴をこぼした。

 

 

 

「もうこの任務嫌になってきたよ。最終的に人身売買の警備なんでしょ?」

 

「だとしても、ハナフダを潰せるかもしれない。それに、これが仕事よ。割り切らないと。」

 

…この件については私とかとりは全くの平行線らしい。私達は無言で壁へと向かい、海兵の制服に着替えて、表の世界へと戻った。

 

何物にも汚されない純白の美しい表の街並みが、今の私にはこの世で最も醜く見えた。

 

そして紳士服の紳士や、ドレス姿の女性、そして立派な鎧に身を包んだ衛兵という、"獣"達が行き交う港へと戻ると、既にイスカ少尉達はそこで待っていた。

 

「おお、お前ら。無事に戻ったか。…まあ、お前達二人は優等生だから大丈夫だと思ってたけどな。」

 

「俺の方がずっと優秀だろ…で、なんか情報手に入れたのか?」

 

グラントはそう皮肉げに溢した。私達はそこから意見交換を始めた。

私たちの報告を聞き終わると、イスカ少尉は端正な眉を揉んでため息をついた。

 

「この国がまさかそこまで腐っていたとはな…。」

 

「だが、セリーヌ達の情報は有益だ。この国にハナフダが出入りするとしたらまずその隠し港とやらだろう。」

 

「この表側の貴族連中も恐らくその存在に気づいていない。気づいていたら独占しようとするだろうからな。隠しというぐらいだしな。」

 

 

 

大柄のボナムは不機嫌そうに腕を組むと、忌々しそうに頷いて呟いた。

 

「ですね。…ったく。気分悪ィ任務に来ちまったぜ…。」

 

グラントはボナムのその苛立ちを鼻で笑った。

 

「はっ。だから何だよ。胸糞は悪ィが、俺たちの任務は海賊潰しだろ。分かりやすく単純明快じゃねェか。」

 

 

イスカ少尉も複雑そうな顔を見せた。私も同じだ。こんな愚かな人身売買に加担するような任務…。だが、イスカ少尉は迷いを振り払うかの様に頬を叩いて私達に命令した。

 

「よし!ならこれからはその酒場で泊まるぞ。当然他の客達には私たちが海兵だということは隠してな。」

 

「思うところは皆あるだろうが、今はとにかく励むぞ。いいな!」

 

彼女は真っ直ぐだ。迷いがあっても、それを振り払って正しくあろうとする。

でも、わたしには。

その姿が己の正義を押し殺している様に見えた。…この瞬間、私は初めて、海兵という存在に疑問を抱くことになったのだった。

 

私たちは私服へと着替えて街の裏側に入る。

 

「あの、よろしければお着替え、手伝いましょうか?」

 

ザッパがイスカ少尉にめげずにそうアプローチしたが、彼女は満面の笑顔で答えた。

 

「くたばってろ。」

 

 

 

そうしてまたゴミ山に戻る。あまりの惨状にまた気分が悪くなる。

そして先ほどの酒場にまで戻って小汚い扉を開けると、なんと小さなエプロン姿の茶髪の可愛らしい女の子が駆け寄ってきた。

 

「いらっしゃいませ!なんめい様ですか!」

 

グラントが思わず驚いて声を上げる。

 

「ああ?ガキがこんなところで何してんだ!」

 

 

 

すると、女の子はムッとして可愛らしく頬を膨らませて、グラントに言い返した。

 

「ガキとは失礼ね!あんただってチビじゃない!」

 

「な、なんだと!?」

 

次の瞬間、イスカ少尉はグラントの頭に拳骨を喰らわせた。そして悶絶する彼を尻目に女の子にかがみ込んで笑いかけた。

 

「お手伝いか?その年で大したもんだな!名前はなんて言うんだ?」

 

「私ね、サニャっていうの!お母さんのさかばを手伝ってるんだ!」

 

イスカ少尉はその少女の頭を撫でて、泊まれるか聞いてきてくれと頼んだ。少女は懸命に母を呼びに店の奥へと駆けていく。

 

…こんな少女までこんな所で過ごしているのかと思って、また、私の胸の奥のどうしようもない何かが軋む音がした。

 

 

 

 

 

 

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