正義の不在証明   作:カバー

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のどかなフーシャ村

 

 

セリーヌ視点

 

 

 

フーシャ村

 

最弱の海と呼ばれているらしい、凶悪な海賊達が存在しないこの海域でも、屈指の長閑な場所だ。

街の大人達に聞いたところ、ここはゴア王国という世界会議参加権を持つ屈指の大国の一部らしい。

 

ただ、貴族達は壁を作って、街の中央部に篭りそこで優雅に暮らしているのだそうだ。

こんな中央から離れた田舎のことは、中央の誰も気にも留めていないとかなんとか…

 

でも、ゴア王国で最高の場所は間違いなくここだと私は断言できる。

 

さんさんと照る美しい太陽に、気持ちの良い風が吹き、善良で親切な人達が過ごしている。

厳格な村長も、穏やかな酒場のマキノさんも、よくりんごをごちそうしてくれる果物屋のおじさんも、皆のことが私は大好きだ。

 

私はこの場所で育ったのだ。もう6歳になった。

じいちゃんと似ている銀色の髪を気持ちよく風で吹かれながら、私は草原に寝っ転がってゆっくり眠るのが好きだ。

 

 

だから私は思ったのだ。人の役に立ちたい。

ガープじいちゃんから私とルフィにぃを引き取ってくれ、暖かく育ててくれたフーシャ村のみんなのために。

 

「ありがとうよ、セリーヌ!魚の配達頼んじまって。」

 

「ううん、これぐらいならお安いご用だよ!また何かあったら言ってね!」

 

私は魚屋さんのお爺ちゃんが腰を痛めたというので、代わりに注文の入っていた魚の切り身を届けに行ったところだ。

感謝の声で、疲れも吹き飛ぶ気がする。

 

ルフィにぃにもたまには手伝ったら!と言ったが

 

「いやだね!俺は自由にしてるんだ!なんか最近のセリーヌ、村長みたいだぞ!」

 

 

そう言って、にぃはいつも通り無邪気に棒切れ片手に走り去っていった。

…全く、あれじゃ将来海兵になれそうにない。

 

そんな風に思っていると、村長が、いつもの眼鏡をかけて木の杖をつき、つかつかと建物の角から歩み寄ってきた。

 

私を見ると、感心した様子で問いかけてきた。

 

「魚屋の手伝いか?」

 

「ああ、そうなんだ。セリーヌのおかげで大助かりだよ。」

 

 

 

村長は嬉しそうに頷くと、私の頭を撫でてくれた。少しくすぐったい。

 

「流石はセリーヌだ。全く、ルフィのやつに爪の垢を煎じて飲ませるべきかもしれん!」

 

「つめのあか?」

 

 

 

私が意味がわからずそう問いかけると、彼はにこやかに噛み砕いて説明してくれた。

 

「真似をさせねばならん、ということだ。ルフィのやつ、また遊び呆けて走っておる。ガープに捕まっておったがの。」

 

私はその村長の言葉に驚いて声をあげた。

 

「じいちゃん来たの!?」

 

「ああ。いつもの特訓をするから、呼んでくれと頼まれた。浅瀬で待っとるそうだ。」

 

「わかった。村長さん!魚屋さん!待たね!」

 

私は挨拶して、一目散にいつもの泳ぎの特訓の浅瀬に向かった。ガープじいちゃんは、たまにこの村にやってくると、特訓と称して私たちに色んなことをした。

 

海を泳がせたり、森の中腹に放り込んだり…。

あの時は死ぬかと思った。何とかルフィにぃと、食べられるものを選別して、生き残れたけど。

 

私が慌てて駆け寄ると、大きな背中が海岸沿いに見えた。私が慌てて近くまでジャンプして岩場を降りると、私に気づいたのかガープじいちゃんが、白髪で真っ白な頭を掻きながら振り返った。

花柄のオレンジ色のシャツを着ている。

 

 

「おお、来たかセリーヌ。待ちくたびれたわい。ルフィはもうやっとる。お前もやってみせい。」

 

そうガープじいちゃんの指さす先では、近くの水面がばちゃばちゃと跳ねていた。

そこには泳いでいる…泳いで?うん。溺れてるね。とにかく必死にバタバタと動いているルフィにぃが居た。

 

私は慌てて海に飛び込んだ。

丁寧に覚えた動きで足と手を一緒に動かし、速やかにルフィにぃに辿り着く。

 

「大丈夫?ルフィにぃ!」

 

「ぼが…だずげで…」

 

私は慌ててにぃを肩にしょってガープじいちゃんの所まで泳いだ。

 

そして力を込めてルフィにぃを地面にまで引き摺り出した。

ガープじいちゃんはルフィにぃをひょいと軽く片手でつまみ上げると、呆れたようにため息をついた。

 

「セリーヌはまあ及第点じゃが、ルフィはカナヅチじゃなあ、相変わらず。そんなんでは最強の海兵にはなれんぞ!」

 

いつもの問答が始まった。ルフィにぃは咳き込んで息を整えると、またお決まりの台詞を返した。

 

「俺は海兵になんてならねえ!自由に世界を見て回るんだ!」

 

「この…ばかもんがぁっ!!!!!」

 

ゴチッ

 

「いでええええええ!!!!!」

 

 

私はため息をつくと、水に濡れたシャツの袖を絞った。

ほんとうに、いつになれば二人はこのやりとりをやめるんだろうか。

 

「ははは…ガープさんも相変わらずね。」

 

「ひでえよな!じいちゃんはさ!俺は自由に生きてえんだ!」

 

 

 

場所は変わってマキノさんの酒場。私とルフィは濡れた服を着替えて、マキノさんの作ったアップルパイを楽しんでいた。

このアップルパイに牛乳を流し込むのが最高の瞬間だと私は思う。

 

「セリーヌと一緒に色んな場所を冒険するんだ!な!セリーヌ!」

 

「え?私海兵になりたい。」

 

その私の答えに、ルフィが飲みかけの牛乳を吹き出した。

 

「ええ!?何でだよ!嫌だろ、じいちゃんに殴られるの!」

 

「それはそうだけど…。一番手っ取り早く人を助けられる道じゃん。私は色んな人の役に立ちたい。」

 

私たちのやりとりを聞いて、マキノさんはくすくすと口を手で覆って笑った。そして、私に可愛い笑顔を向けた。

彼女は街の紅一点だ。

綺麗な緑の黒髪を纏めており、そこからチラリと覗く肩を見ると、妙な気持ちになる。

私がこんな風になるのはなかなか珍しいので、少し気になっている人だ。

 

そのマキノさんは私に向けて笑顔で言った。

 

「えらいね、セリーヌちゃんは。かっこいいと思う、その考え方。」

 

「えー!何でだよ!俺の方がかっこいいだろ!すっげえことするぞ!俺は!」

 

そんな楽しい時を過ごした私たちは、昼ごはんを食べ終わると、森の中のいつもの場所にぶらりと赴いた。

 

「よし!そんじゃ登るか!」

 

「うん!」

 

私とルフィにぃは一本の木の上へと登る。その枝の間に、木の板を立てかけてあるのだ。

ちょっとした秘密基地ってやつかな。

 

高いだけあって、良い眺めで実に清々しいのだ。

私はそこで本を読むこともあれば、海を眺めることもあった。ルフィにぃは本は読まないので、その分よく海を眺めていた。

 

「俺はさ、自由に生きるんだ。すごいことをやるんだぞ!お前もそうしろよ!」

 

「じゆうか…。よく分かんないかも。ルフィにぃはじゆうって何だと思うの?」

 

「そりゃお前…すげえこう…なんだ?とにかく自由は自由だろ!」

 

そんな風にわちゃわちゃと会話していると、海の遠くから大きな船がやってくるのが見えた。

なかなか立派だ。フーシャ村には珍しいことだ。

 

「なんだ?あの船。」

 

「なんだろうね。もっと近づいてこないと…ドクロ?」

 

私は思わず息を呑む。嘘でしょ。あれは…本で見たことがある。海賊船だ!

ガープじいちゃんはまだ居るだろうか!?

こんな村、海賊の襲撃を受けたらひとたまりもない!

 

「海賊だ!」

 

「海賊?なんで分かるんだ?」

 

「ドクロの旗!とにかくいこう、にぃ!」

 

「…そうだな!海賊なら、村を守らねえと!」

 

私とルフィにぃは大急ぎで木から飛び降りて、港へと向かう。

…間に合え!間に合え!

 

私たちが港につくと、乗組員と思われる大柄の男たちが、船を港へと停泊させていた。

漁師のおじさん達もざわざわと見つめているが、困惑している様子だ。

 

私とルフィにぃが駆け寄ると、船の上から一人の少女がこちらを見下ろしていた。青紫色の瞳が綺麗に輝いている。

右半分は艶のある赤髪で、左半分は真っ白な髪色だ。

変な髪型な子だなと私は思った。年は同じぐらいに見える。

こんな女の子がいるなら、海賊船じゃないのかも。

荒くれ者とは縁遠いし。

 

私たちがじっと見つめていると、彼女は口を開いて唐突に言った。

 

「なんか文句あるの?」

 

…もしかしたら海賊だったかも。なんか柄が悪い気がするな、この子。

 

「お前ら、海賊か!?」

 

ルフィにぃが虚勢を張りながら叫ぶと、女の子は首を縦に振った。そして強気に言葉を返した。

 

「そうだけど。だったら文句でもあるの?聞いてあげるよ?船長シャンクスの娘、このウタが!」

 

…本当に海賊船だった。私は必死に震える声で叫んだ。

 

「ここには奪うものは何にもないよ!それに私たちのじいちゃんは海兵ですっごく強いんだから!さっさと居なくなった方が身のためだよ!」

 

「なに?やろうっての?海兵なんてシャンクスが…!」

 

すると、少女の背後から一人の男性が船室の扉を開けて現れた。

麦わら帽子を被った燃えるような赤い髪のおじさんだ。目に三本の傷がついている。

 

「やめておけ、ウタ。俺たちは喧嘩しに来たわけじゃない。」

 

「見た所、海兵は居ないようだしな。咄嗟の判断が上手いな、お嬢ちゃん。それに、立派な保安官も居るようだ。」

 

そう言って彼はルフィにぃに微笑んだ。

 

「なんだ?お前?」

 

「俺はシャンクス。この船の船長だ。」

 

…よかった。私は胸を撫で下ろした。取り敢えずいきなり襲ってくるつもりはないようだ。

そうなったら私たちはまず死んでたと思う。

 

大人の海賊達に勝てる気しないし。

…まあ、まだ油断はできないけど。

 

なんせ、法を破るから海賊なのだ。

ルールが通じないということは、信用できないということ。そうじいちゃんから学んだのだ、私は。

 

私はこちらを不機嫌そうに睨んでくる少女…ウタと、睨み合ったのだった。

決していい第一印象とは言えない出会いだった。

 

 

********************************

 

…それから海賊達はこの村に入り浸るようになった。

主にマキノさんの酒場を中心にしてだ。

いかにも海賊らしいけど、これが困った。

 

時には面白半分で店の中で殴り合って、時には夜通しどんちゃん騒ぎをした。

 

街の人達は怖がって彼らが居る間にはあまり酒場に顔を出さなくなり、遠巻きに彼らを見つめていた。

 

…うん。正直言うと私もそうしたい。

でもマキノさんの顔を見ない日が続くのは耐えられなかった。フーシャ村はマキノさんの可愛くて綺麗な顔を見れないと魅力半減なのだ!

 

私はそんなわけで渋々とルフィにぃと酒場に顔を出した。

さらに困ったことがあった。ルフィにぃときたら…

 

「シャンクス!俺海賊になりてえ!船に乗せてくれ!」

 

…この調子だよ。いや、ほんとに。じいちゃんに殺されるよ…?

 

 

 

唯一の救いはシャンクスおじさんが意外とまともだったことだ。

 

「毎日毎日…。海賊なんてろくでもねえぞ。やめとけ。」

 

酒場に入り浸る海賊本人が言うと謎の説得力があった。でもルフィにぃはまるで動じない。

 

「だって、海賊ってすげー強くて、自由で、楽しいって言ってたぞ!」

 

「おいおい誰だ!ルフィにいらんこと吹き込んだ奴は!」

 

 

 

笑いながらシャンクスおじさんが酒場の全員に問いかけたので、私はため息をついて淡々と答えた。

 

「ラッキー・ルゥおじさんだよ。」

 

「な!?おい!セリーヌ!チクるのは無しだろ!」

 

「そうだぞ!チクるなんて海賊らしくないぞ!」

 

 

 

私はいーっと舌を出してルフィにぃと謎の肉をいつも食べている太ましいラッキー・ルゥおじさんに反論した。

 

「私は海兵になるんですぅー!海賊にならないよ!」

 

シャンクスおじさんはその答えを聞くと、ラッキー・ルゥおじさんをふざけて軽く羽交締めにして叫んだ。

 

「お前か!この!ったく。今日は肉抜きだなこりゃ。」

 

「勘弁してくれよお頭!」

 

そのやり取りを見て、副船長だという、黒髪オールバックのタバコをいつも咥えている、渋いベックマンおじさんを含めた全員がジョッキを掲げて大笑いした。マキノさんも笑っている。

…山賊にも酒を届けてるって言うし、流石に慣れてるなあ、マキノさん。不安になるけど。綺麗だし。スタイル良いし。

 

「はぁ〜〜…。」

 

私はため息をついて椅子に腰掛ける。

私が警戒するしかないのか…。すると、さっきまで笑っていたベックマンおじさんがタバコを捨てて近寄ってきた。

 

「よう、相変わらずご機嫌斜めだな。アップルパイ食うか?」

 

「食べる!」

 

そう、私以外彼らを警戒できていないのだから。

 

 

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