セリーヌ視点
私とかとりはひたすらに励んだ。誰よりも立派な海兵になるために、努力は誰よりも惜しまなかった。
日が出る前に二人して起きて仕事前の特訓。
10歳を超えて体ができてきたら、じいちゃんからとんでもない無茶振りをさせられた。
「よし!この軍艦を殴れ!覇気を使ってはいかんぞ!」
…そう言って海軍本部近くの廃船場に連れてこられた私たちの目の前には、数隻の軍艦が陸に上がっていた。
そして、そのうち2隻の装甲は…
「ねえじいちゃん。この軍艦の凹み何?」
「わしとクザンが素手で殴った跡じゃ。こうやって…な!」
そう言うと、ガープじいちゃんは凄まじい勢いで拳を振りかぶり、廃船となった軍艦に叩きつけた。
ドン!!!
凄まじい音と共に、軍艦が軋み、装甲がさらに歪んだ。…えー…じいちゃん本当に人間なの?
私たちは思わず唖然としてポカンとした顔を晒してしまう。
「さあ、やってみせい!!」
ペチン!!
ペチン!!
私たちが最初に軍艦を殴った時の音は、実に情けなかった。じいちゃんの時のそれとは似ても似つかない。私たちはその後も、必死に軍艦を殴り続けた。
そして私たちは拳から血を滲ませながら朝の仕事へと向かう。
「いっつ…!でも、ガープ中将はああやって強くなったのよね!」
そう言って私と共に訓練を受けているかとりは目をキラキラとさせながら熱血に私に興奮した様子で言った。
「かとりは前向きだねえ…。」
一緒に訓練を始めたかとりは、驚くほどしっかりとこの過酷な特訓についてきていた。
…正直言って、とても彼女の存在はありがたかった。
一人で軍艦を殴り続けるとか、正気でやれる気がしない。
そして朝から昼間はひたすらに廊下の掃除や新兵の服の洗濯、そして午後に海軍将校からの講義だ。
疲れて居眠りしようものなら、罰則として海軍本部の外壁を縄で括り付けられて外側から磨くことになった。
「こ、怖くなんてないんだから!」
「い、いや。怖いもんは怖いでしょ。」
そう縄から吊るされた私とかとりは震えながらぼそぼそと会話して気を紛らわしつつ、雑巾で海軍本部の、潮風でつく汚れを丁寧に拭き取った。
「無駄口叩かない!綺麗に磨きなさい!」
そう教官に上階から怒鳴られる。
一回ここから雑巾を落として上官の頭に雑巾が被さったことがあったっけ…。懐かしいなあ…。地獄見たなあ…。
それから夜はまた特訓だ。ガープじいちゃん直々にしごかれた。
「先に100周した方が特訓終わり!遅かった方は罰でさらに20周!!!!」
そう言って特訓の最後は決まって、私とかとりをじいちゃんは競わせた。訓練場をおもりを付けてひたすらに走った。
「ぬぎぎぎぎ!!!」
「はぁ…はぁ…おえっ…」
無我夢中で走って、負けたらさらに20周走った。
終わった後は胃の中のものをぶち撒けそうになるのを必死に堪えて、水を浴びるように飲んだのだった。
たまにおつるさんが見に来ることもあった。
「ガープのしごきは疲れるだろ?ほら、おかきお食べ。」
そう言っておかきを差し出してくれるのだが、私たちは胃の中がムカムカしてとても特訓の後は食べることができないのだった。
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だが海軍本部に来てから6年経って13歳になる頃には、軍艦を多少凹ませるようにはなってきた。
ゴン…!!
音も、ペチンとした情けない音から、ようやく金属を叩いている感じの音になってきた。
そして昼間の仕事も迅速に終え、講義に段々と集中できるようにもなった。
「人の命は平等です!助ける際には分け隔てなく…」
「何を言うとる!ジジイより若者の方が命に価値があるに決まってるじゃろ!」
「黙っててくださいガープ中将!!」
ガープじいちゃんは講義に来るたびに女のサングラスをした真面目そうな教員と口論になって、とても面白かった。
夜の特訓も、段々と本格的なものになってきた。
基礎的な体力作りはもう二人とも終え始めて、政府のエージェントも学ぶという、六式を教えてもらうようになった。
人体を武器にするという、超人的な六つの体技の総称である。
ただじいちゃんは、その内3つだけ覚えれば新兵としては十分すぎる程だと言っていた。
「まあ、お前等は最強の海兵になるんじゃがな!!」
そう言ってガープじいちゃんは豪快に笑った。
まずはそのうちの一つ、剃から私たちは学び始めた。
これはかとりより私の方が得意だった。瞬時に10回以上地面を蹴って、爆発的な速度で加速して移動する技だ。
ただそれだけなので格上の相手には見切られることも多い技らしい。ただ、自分の実力が上がれば純粋に結果で答えてくれる技でもある。
岩山を踏破するというために船で連れ出されて、血だらけになりながらもなんとか二人とも剃の方向転換をマスターした。
次は鉄塊だ。鍛え上げた全身に力を入れることで、肉体を鉄に近い硬度にする。
まさに防御の要となる六式の技だが、なんでも武装色の覇気という似た技も存在するらしい。
じいちゃんからは、それを学ぶのは六式を鍛えてからと言われたのだった。
特訓内容はシンプルで、ひたすらに体を鍛えることだった。
ガープじいちゃんから投げつけられる石に耐え切って鼻血を出しながらも笑った時、私たちは合格と言われたのだった。
最後の三つ目は月歩だ。
強靭な脚力を身につけて空を蹴り、空を自在に跳ぶ技だ。
これは剃の応用で割とすんなりなんとかなった。
ただ飛び続けて島を1周させられた時は疲労で死ぬかと思ったけど…。じいちゃんって、やばいな…。
そうして三式使いとなった私たちは、1年経って14歳となり、ついに海軍の新兵となることを許されたのだった。
他の新兵達と広間で整列し、私たちはセンゴク元帥から激励を受けていた。
「これからは一人一人が海軍の正義を背負うことを決して忘れるな!海軍本部の海兵になるということは、市民の安全と希望を背負うということなのだ!」
「ここは正義の総本山!諸君等の活躍を期待する!以上だ!」
「…ようやくね。ガープ中将の特訓はほんっっっとにきつかったけど、やっとこの日が来たわ!」
「かとりが居なかったら、特訓に耐えられなかったかもしれない。…これからもよろしくね、私の親友。」
「もちろんよ!」
私達は感極まって、ひしっと抱きしめあった。ようやくだ。ようやく立派な海兵となるための一歩を、私達は歩み始めたのだ。
かおりも私も、大人への道を歩み始めていた。
初任務に私たちは、大きく胸を弾ませていたのだった。
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…その頃北の海のとある島で、一つの戦争が終わろうとしていた。
巨大な電電虫のような特徴的な船から、続々と独特な白いマスクに黄色いスカーフをした、不気味なほど似通った兵士たちが降りて敵の兵士達を駆逐していく。
島の山の奥地の陣地内では、一人のしわがれた王冠を被った老人…ホワイティ王国の王が忌々しそうにその船を睨んで呟いた。
「戦争屋め…!!」
その船から、まるでヒーロー漫画のキャラクターのような、ド派手な赤色のヒーローのようなスーツを着た男と青色のスーツを着た男が現れた。
その青いスーツを着た、同じく青色のリーゼントのような髪型をした男は、隣の赤髪の二つの癖っ毛の主張が激しい赤スーツの男に話しかけた。
「もう落ちかけてんじゃねえか。俺等が来る必要あったのか?」
「…この目で見届けるのも仕事のうちだ。王を仕留めにいくぞ。」
そう二人は物騒な会話を交わすと、残っている敵の兵達を火花と電撃で薙ぎ払いながら山の奥へと進んでいった。
ホワイティ王国の王は、震えて黙りこくって座っていたが、やがて意を決したように立ち上がると、側近の部下達にとある指示を出した。
部下達はその山に一つの旗を掲げた。髑髏の旗を。
二本の角を生やしたその髑髏を見て、感情がないはずのその二人は怯み、面倒そうに赤髪の男が舌打ちをした。
「あれは…百獣海賊団の旗か!」
「どうするイチジ?流石にこれは…」
赤髪の男、イチジは考え込むと、ため息をついて呟いた。
「こんな非政府加盟国にカイドウの傘下になれるほどの金があるはずもない。これは…ハッタリだな。」
「だが、引くしかないな。万が一ということもある。」
「ああ。…出直しだ。」
そう。ここホワイティ王国は世界政府非加盟国である。上納金を払えず、海賊達もなんとか自分達で対処してきた。
懸命に努力し、島を一大観光地にまで成長させた。
だがそれを気に食わなかった隣国の政府加盟国、ハラクローイ王国の王は、ホワイティ王国を征服するためにある手を打ったのだ。
ジェルマ66
海遊国家ジェルマ王国が保持する、化学戦闘部隊。
かつては北の海をその武力で統一したとされるジェルマ帝国の正統後継者であり、クローン兵と科学技術で造り上げたバトルスーツで戦う精鋭部隊である。
彼らは金次第で積極的に他国の戦争や外交に介入した。その成り立ちから、戦争屋と呼ばれ、忌み嫌われる国家である。
そんな彼らに追い詰められたホワイティ王国は、最も愚かな選択をした。世界最強の海賊の四皇の旗の無断使用。ジェルマはそれを冷静に見極めながらも、撤退を選択した。
万一の場合を考慮したためだ。少しでも四皇に難癖をつけられる可能性を排除したのである。
この事件の噂は、世界中に瞬く間に広がった。当然、旗を使われたあの男の耳にも…
「俺の旗を無断で使っただと?おい!ジャックを呼べ!」
「へえ!皆殺しですかい!」
部下の一人がびくつきながらもカイドウの前に出て尋ねた。こんな時に限って、最高幹部の大看板は、キングもクイーンも不在だった。
「当たり前だ!!落とし前つけさせてやれ!!」
ワノ国の鬼ヶ島で、怒り上戸の四皇の、怒りの叫びが轟いた。
百獣の王の刺客…大看板ジャックが、ホワイティ王国にけじめを付けさせるために海へと出る。
そしてまた、海軍も無関係ではいられない。
ジェルマは仕事を達成するために、海軍へと対処を依頼したのだ。
任務を途中放棄すれば、信用がなくなるからである。ジェルマとしても、今回の件は厄介な仕事となった。
「面倒なことになったな…!」
「全くじゃわい。どうする?大将を動かすか?」
「…全面戦争だけは何としても避けねばならん。」
海軍元帥センゴクと海軍中将ガープは、海軍本部最上階の元帥の部屋でおかきを一緒に食べながらも、苦々しく呟いた。さらに会話を続ける。
「カイドウ本人が出てくることはないのか?」
「見たところ動きはなさそうだがな。幹部一人程度が無難なところだろう。」
「あの戦闘狂がそんなまともな判断するか?」
「……いざという時には、腹を括らねばならんな。」
海軍本部にも、ピリついた戦争前の空気が漂う。
そうして、シトリーの初陣の舞台が整おうとしていた。それは、あまりにも過酷な戦場だった。