セリーヌ視点
ジェルマ王国にて食料などの物資の補充を済ませた海軍の私達は、まずホワイティ王国に、百獣海賊団、もしくは白ひげ海賊団が居ないかを調査することとなった。
ジェルマ王国はひとまずこの海域には留まるが静観する構えのようだ。
もし仮に百獣の船が来たらさっさと撤退するだろう。
痛い目を見るのは海軍だけということだ。
…そう思っていたのだけれど、どうやらジェルマもそれでは不味いと思ったらしい。なんと王族の一人が海軍に同行することとなった。
その王族とは…
「あら?ふふふ。どうしたの?そんな風にじーっと見ちゃって。」
「あ、いえ!何でもないです!」
私の左隣で小悪魔のように笑う、セクシーなレイジュ王女だ。
既に戦地ということで、ジェルマの特殊合金でできた「レイドスーツ」を着ているらしいのだが、ミニスカートに綺麗なおへそと66の刺青のある太ももが丸出しのスーツなのだ。
えっちすぎない?いや本当に見る場所に困る。
…私は童貞の男の子かっ!!
そんな風に悶々としながらも頭を振って任務へと思考を切り替える。
だが、一海兵である私にすら分かっていた。
この任務は時間の無駄だ。
「どう考えたって四皇の二勢力が来るような規模の島じゃないよね…。」
「ほんっとにね。何とち狂ったのかしら王様は。」
そう私は右隣のかとりと小声で会話を交わしながらも、モモンガ中将と共に戦争で荒れ果てた廃墟を進み、島の中央部にある山の奥地へと向かう。
オニグモ中将は軍艦と共に外の動きに目を配っている。
すると、前方の草陰からガサガサという人が動く音がした。モモンガ中将も即座に太刀を抜いて臨戦体制に入る。
どうやら野生の動物でもないらしい。
「何者だ!出てこい!」
そうモモンガ中将が大声で怒鳴ると、震えながら小さな…5歳ぐらいだろうか。そのくらいの子供達が現れた。
「子供…?ホワイティ王国の市民か?」
その泥まみれの子供達は、私たちに泣きながら次々と叫んだ。
「お願いです!ここから出ていってください!」
「海軍なんだろ!なんで正義のヒーローが弱いものを虐める側に付くんだよ!」
「海賊が居ないって分かったら、また攻められるんだよ!」
…甘かった。何だかんだで私達は正義の側についているとこの場面になるまで私は信じていた。
何が正義だ。子供を泣かせて。
こんなことが現実に起こっていいのか?
ガープじいちゃんなら、こんな時どうやって…。
そうやって俯いている私を、レイジュさんはどこか同情を感じさせる瞳で見つめていた。
モモンガ中将も静かに押し黙った。そして暫く葛藤したように目を瞑ると、苦虫を噛み潰したような顔で淡々と子供達に答えた。
「………だとしても、海賊が居るのか調査せねばならん。」
「総員!着いてこい!」
そう言ってモモンガ中将は子供を避けて森の奥地へと続く道へと足を踏み入れた。
私たちも続いていく。すると、泣いていた子供達のうち、活発そうな丸刈りの男の子が石を掴んだ。
「ふざけんなっ!!」
そして石をぶん投げた。その投石は、レイジュさんに向かって…咄嗟に私は、彼女を庇って投石にぶち当たった。
「……ッ!!」
不意打ちで石をぶつけられて、少し頭の皮が切れて血が流れる。
…だが、それ以上にどうしようもなく胸が痛んで。私は何をしているんだ。子供を泣かせるなんて、最低だ…。
「大丈夫ですか?レイジュ王女。」
私は頭の血を袖で拭いながらも無理やり笑顔を作ってレイジュさんの無事を確かめる。彼女はどこか困惑した様子で呟いた。
「なぜ私を庇ったの?私はジェルマの改造人間。あの程度で傷つくことはないわ。」
「だとしても、その…嫌じゃないですか。子供から石をぶつけられるのって。それに、そんな風に考える前に動いてたっていうか…。」
「……呆れた子。」
彼女はふいに綺麗な顔を私の顔に近づけた。睫毛なっが。それに、唇が艶々しすぎでしょ。色っぽい…。そして可愛くウィンクすると、私の頭の血を彼女のマントで拭ってくれた。
そうして子供達の罵声と投石を浴びながらも、私達は島の奥地、王の元へと向かった。
海兵の全員が、悲痛な面持ちをしていた。
………結果から言うと、この国に海賊の影も形もなかった。王と呼ばれる白髪頭の老人は、震えながらも、百獣海賊団と白ひげ海賊団が自分たちの背後に居るのだと叫んでいたが、最早誰も信じはしなかった。
「…四皇の旗で戦争が中断されたことはニュースとして広まっている。後はここから海賊どもが動くか動かないかだな…。」
そうモモンガ中将はぽつりと呟くと、ひとまず軍艦まで戻るよう私たちに指示した。
そして私たちが海岸にまで戻ってくると、私達の二隻の軍艦の他に、もう一隻の軍艦がやって来るのが見えた。
「モモンガ中将、援軍の船ですか?」
私がそう尋ねると、彼は困惑した顔で答えた。
「いや。そんな連絡はなかった。どうなって…!?」
次の瞬間、その軍艦はオニグモ中将の軍艦と私達に向けて一斉に砲撃を開始してきた。
そして、海軍の旗を仕舞い込んで、新たな旗を掲げた。あれは…!!
「百獣…海賊団の旗!!」
そして双眼鏡でその船を観察していた海兵の一人が、恐怖に引き攣った声で叫んだ。
「あ…あの船首にいる男!8メートル以上の体格に、二つ結びの三つ編みの金髪!そして、あの二本の角…!!ま、間違いありません!」
「百獣海賊団の最高幹部、"大看板"旱害のジャックです!!」
「なんだとォ!!!!」
その襲来は、余りにも早かった。
ジャックの乗った軍艦は凄まじい速度で、オニグモ中将の指揮する軍艦に突貫し、一斉にゾオン系能力者の海賊の軍勢が切り込んだ。
その光景を見てモモンガ中将は即座に叫んだ。
「軍艦に戻れ!急げ!!オニグモ中将を救出し、ジェルマと合流する!」
…が、時すでに遅し。オニグモ中将の乗った軍艦は、容易く海へと沈んでいった。
「…くそ!!」
私はあまりの現実味のなさに呆然とする。ここまで呆気なく、軍艦が沈むなんて…。
悪い夢でも見てるみたいだ。
沈んだ軍艦から月歩で飛んでくる海兵の姿が見えた。あの特徴的な六本の腕。オニグモ中将だ。
「オニグモ中将!無事か!」
「…ああ。それよりもレイジュ王女は居るな?よし。ならこの場を離脱するぞ。この島は"仕方ない"。見捨てる。」
そう彼はあまりに冷淡に言い捨てた。モモンガ中将も何か言いかけたが、言葉を押し殺して無言で頷いた。
私は思わず我慢できずに声を上げた。
「見捨てるって…中将!この島の子供達はどうなるんですか!?」
私がそう怒鳴ると、場がしんと静まり返った。オニグモ中将は私を冷たい目で見下ろすと、吐き捨てるように呟いた。
「非政府加盟国の人間を守る義務はない。それよりも、加盟国のジェルマに損害を与えるわけにはいかん。おめぇ…海兵ならそれぐらい理解しとけ。」
「……………ッ!ですが!」
次の瞬間、オニグモ中将は私の頭に向かって銃口を向け、何の躊躇いもなく私に向けて一発の銃弾を撃ちこんだ。
…え?死ぬ?死ぬの?こんなところで?こんな風に…?
私は咄嗟に鉄塊で防御しようとするが、間に合わない。一秒後の死を覚悟して目を瞑った。が、いつまで経っても銃弾が飛んでこない。私が恐る恐る目を開けると、目の前にはレイジュさんが立っていた。そして、右手で銃弾を握りつぶした。
そして、振り向くと私に向かってウィンクした。
「これで貸し借りなしよ。海兵ちゃん。」
オニグモ中将は困惑した様子で黙りこくっている。
その光景を見て、モモンガ中将がため息を吐いた。そして、自分のモヒカン頭を掻くと、覚悟を決めた様子でオニグモ中将に告げた。
「部下達に軍艦内の電伝虫で青雉大将を呼ばせる。私たちでここで奴らを足止めするべきだ。」
「…貴様、セリーヌといったな。あそこまでの啖呵を切ったんだ。お前にも付き合ってもらうぞ。」
そのモモンガ中将の言葉に、オニグモ中将は顔を顰めて、糸目をさらに細くして呟いた。
「正気か?相手は10億の首だぞ。荷が重すぎる。それに政府非加盟国のために大将を動かすとなると、上が承知せんぞ。」
その言葉に、今度はレイジュが口を挟んだ。
「なら、私を守るためなら?私はここに残るわ。ジェルマが獲物を横取りされるわけにはいかないもの。」
「…………………理解できん。が、そう言われるのならやるしねぇな。」
そう言ってため息を溢すと、オニグモ中将も手の数と同じく六本の刀をそれぞれの手で鞘から抜き、臨戦体制に入った。
モモンガ中将も太刀をぬいて息を吐いた。
「かとり…準備はいい?」
「全く…無茶苦茶するわね、あんた。でも、乗ってあげる!友達のためだもの!」
かとりは自前の二丁拳銃を静かに構えた。
私も拳を構えて息を吐く。
いよいよだ。私の初陣。相手は10億の首。
一体…どこまで通用するか分からない。でも、やるしかない!!
オニグモ中将の軍艦を沈めたジャックの軍艦は、迷わずこちらへと一直線に突っ込んできた。
そして、砂浜へと無理やり船で突っ込むと、凄まじい勢いで無数の兵隊が降りてくる。
まるで世紀末かのような格好をした彼らの後ろから、一際大きい巨漢が現れた。
その男…旱害のジャックは、両肩の刀袋から、マンモスの牙のように非常に曲がりくねった変わった太刀を二刀両手に持ち、凄まじい殺気を放った。
「…………ッ!!」
これが、10億の男…!なんて威圧感。なんて存在感。まるで巨大な怪物に睨まれてるみたいだ…!
周りの人間が小さく見える。ジャックの部下達と思われる連中はニタニタと笑ってこちらを嘲笑っている。
だがその部下達も異形だ。ゴリラのような腕をした者、クワガタのような鎌を手に生やした者。なんかキリンから生えてる奴もいる気がする。え?キリンからなんか生えてるんだけど。なにあれ?やだ、こわっ。ただそれは数人だけだった。他の部下達は割と普通のただの人間だ。
その中から白い髪にゴーグルの男がジャックの前に立ち、がなり立てた。…あの男もだけど、異形の人間は頭から謎の角を生やしている。…気味が悪いな。
「おらおら!お前ら!海軍の愚図どもが!さっさと退かねえか!テメェらには用はねえ!舐めた真似しやがった国を滅ぼしてぇだけだ!!」
ジャックは私達一人一人を見定めると、ため息をこぼした。
「海軍大将もいねえのか。随分舐められたもんだな…。三秒数えてやる。さっさと失せろ。」
三…
心臓が高鳴る。
二…
手が震える。
一…
そして血が沸騰する!
「そうか。死ね。」
ジャックは無感動にそう呟くと、私達に向かって一気に突っ込んできた。
こうして、戦闘の火蓋が切って下されたのだった。
勝利条件は、大将が来るまで耐えること。
敗北条件は…死ぬことだ。