正義の不在証明   作:カバー

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唐突な決着

 

 

 

 

互いに四皇のプライドを背負っている二人が睨み合う。8メートルを超える巨漢のジャックは静かに曲がりくねった太刀を再度構え、エースに向かって人型で突っ込んだ。

 

対する白ひげ海賊団の火拳のエースは淡い光を放つ、まるで蛍のような緑色の小さな炎の玉を無数に前方にばら撒いた。

 

蛍火(ほたるび)

 

そしてジャックがその場に足を踏み入れた瞬間、その蛍火が一斉にジャックに向かって炸裂した。

 

火達磨(ひだるま)!!!!」

 

 

 

爆炎がジャックの体を包み、焼き焦がさんとする。並の海賊ならこれで一発ノックアウトだろうが、相手は10億の男。

煙から無傷で現れたジャックの姿は、今までのどの姿とも異なっていた。

下半身はマンモスの四本足で、逞しい茶色の毛を生やしている。顔はマンモスの長い鼻といい変形しているが、上半身は人型のままである。

 

いかに効率的に無慈悲に刀を振るえるかを突き詰めた旱害のジャックの最強形態。その人獣型の破壊力は今までの比ではない。

凄まじい速度で四本足が駆ける。まさにマンモスのケンタウロスである。

 

 

「引く気はねえってか?」

 

 

 

対するエースも海千山千の新世界の強者。

口笛をふいて自身の足を炎へと変形させ、その脚を炎で爆発させて一気に加速してジャックへと迫った。

 

「火脚!!!!」

 

そして凄まじい速度でジャックの頭上へと飛び上がる。

エースの覇気を纏った爆炎の脚の蹴りとジャックの曲がりくねった太刀が激突し、激しい火花を散らした。

 

「能力にかまけた自然系じゃねえってわけだ…!!」

 

「生憎空手の強え魚人ともやり合ったもんでな!」

 

 

そこからはまさに新世界の化け物同士の対決だ。エースが猛烈な火力の火の槍をぶん投げたら、ジャックは斬撃の雨を降らせる。

砂浜で観戦している周りの負傷した海兵は、その戦いの行方をただ見つめることしかできない。

 

「…悔しい。これが新世界の…!」

 

「…………凄い!!」

 

 

 

かとりは嫌っている海賊同士の自分では足元にも及ばない凄まじい戦闘に苛立ちを隠せない。

一方レイジュに支えられているセリーヌは感嘆の息を吐いた。

純粋な強さの凄まじさに、彼女は肋が折れながらもただただ魅入っていた。

 

そんな中、モモンガ中将がハッとしたように我に帰ると、意識のないオニグモ中将を担いでセリーヌ達に命令した。

 

「今のうちに軍艦に傷ついた海兵達を収容するぞ!巻き込まれる前に!急げ!」

 

 

 

その言葉に我に返った二人は地面に倒れ伏している海兵達をできうる限り軍艦にモモンガ中将と避難させていく。その最中、かとりが驚いた様子で海の方を見つめた。

 

「どうした貴様!ぼさっとしている暇はないぞ!」

 

モモンガ中将の叱咤に、かとりは戸惑った様子で言葉を返した。

 

「何か…何か来ます!凄いのが…海の上を…自転車で誰かがこっちに来てる!」

 

 

 

その言葉に、モモンガ中将は、ハッとした様子で叫んだ。

 

「海の上を自転車…?まさか!」

 

 

一方、ジャックとエースの戦いは更に苛烈さを増していた。

 

エースが炎へと変身して素早くジャックの背後を取る。そして指を銃の形にして、ジャックの後頭部目掛けてまるで銃弾のように小さな炎の弾を連続で発射した。

 

 

 

ボボボボボ!!!!

 

 

 

が、ジャックはそれすらも耐える。多少身じろいだが、即座に背後へと振り返りざまに太刀を振るった。

それをエースは上空へと炎となって飛ぶことで回避する。

 

「流石にカイドウの懐刀か。タフだな。」

 

「てめえを殺すまで倒れやしねえさ。」

 

 

 

 

そうジャックは不敵に笑った。鉄製のマスクがエースの炎に反射して赤光りした。

エースがそのジャックの笑みを見て真顔になる。

いよいよ互いに小手調べは終わり、本気の力を見せようとしていた。

 

そして互いが動き出そうとした瞬間、二人が別の強者の存在に気付いた。

 

「「……………ッ!!」」

 

 

 

二人が即座に海へと目を向ける。いや、向けざるを得なかった。海から二人に匹敵、否。あるいは上回るほどの強さの強者の存在を感じ取った。

 

「どこのどいつだ…?」

 

 

 

が、その疑問は即座に解消された。ギコギコという自転車の漕ぐ音が静寂に満ちた辺りに響き、場に似合わない能天気な雰囲気の男が現れた。

 

側頭部から後頭部にかけて纏めてあるモジャモジャ頭を掻くと、海の上を自転車を"漕いできた"その海兵は、面倒そうにため息をついた。

 

「あらら。一体どうなってんのこりゃあ。そこのデケェ兄ちゃんはともかく、報告にねえ兄ちゃんも居るじゃないの。」

 

「百獣海賊団の仲間…じゃねえよな。その背中のイカす刺青、ハッタリじゃねえんだろ?」

 

そう言って男はエースの背中の白ひげのマークの刺青を指差した。

 

 

 

その能天気な男を見て、しかし二人の強者は体を強張らせた。

それもそのはずだ。その男は世界最大の組織とも言える政府の海軍本部の海軍大将。

その名を聞けば海賊は震えて逃げ出す存在。

海軍本部大将、青キジその人である。

 

「ただまあ…」

 

青キジは砂浜に血だらけで倒れ伏している無数の海兵達を眺めて、その海賊二人を睨みつけた。

 

「ここまでやったってこたぁ…覚悟できてんだろうな?」

 

その圧倒的な覇気の威圧感に空気が震える。

その姿を見て、モモンガ中将が興奮したように叫んだ。

 

「よし!なんとか青キジ大将が援軍に!彼ならば…!」

 

 

 

が、その威圧を受けた海賊二人は、後ずさるどころか怯みもしなかった。

ジャックは苛立った様子で曲がりくねった太刀を構えて、エースは口笛を吹いてニヤリと笑った。

 

ジャックが重い口を開いた。

 

「覚悟だと?…おれを誰だと思ってる?」

 

「おれは百獣海賊団の旱害のジャックだ。大将なんぞでビビってられねえんだよ。」

 

 

 

そう啖呵を切ったジャックに、青キジはため息をついて額を揉んだ。そして体から冷気を漂わせた。パキパキと海面が凍っていく。

 

「どうにも久しぶりに…面倒な仕事になりそうだ。」

 

そして青キジは膨大すぎる冷気を一点に集中させる。そして、その冷気を右手から一気に二人に向けて解き放った!

 

 

「"アイス塊"…暴雉嘴(バルチザン)!!!!」

 

 

 

雉の形をした氷の巨大な塊が砂浜に向かって迫り来る。

それを見て、同じ自然系のエースもまた、右腕に膨大な量の熱を集中させた。そして、その熱気を炎として一気に解き放った!

 

 

 

鏡火炎(きょうかえん)!!!!」

 

 

凄まじい炎と凄まじい氷の奔流の激突が、砂浜で炸裂した。その本流を突っ切って、一匹の獣が颯爽と駆けた。

そのマンモスのケンタウロスは、青キジをマンモスの両足で踏み潰そうとした。

が、相手は海軍の最高戦力。

右腕を氷の塊で包み、強靭なグローブを作り上げた青キジは、右拳の一撃でジャックの体を吹き飛ばした。

 

「ぬおっ!?」

 

巨大な人獣型のジャックをも軽々と吹き飛ばすその拳は、まさに軍艦バッグの極地。

徹底的に鍛えた拳の力強さを、遠目から眺めていたセリーヌは感じ取った。

 

「凄い…凄い戦いだ!!!」

 

 

三つ巴の戦闘の、幕が切って下ろされた。

 

起き上がったジャックが怒りで顔を歪ませながら咆哮を上げ、エースが凄まじい量の熱気を放ち、その熱気を海軍大将の青キジが冷ます。

 

永遠に続くかと思われたその熾烈な戦いだが、一時間ほど続いた後、ついに均衡が破られた。

 

「………くっ…まさかおれが…!!」

 

自然系の凄まじい熱量と冷気、そして長時間の戦闘についに耐えきれず、ジャックが膝をついた。

その隙を見逃すほど甘い二人ではない。

 

エースが火の槍をその両手で踊らせ、ジャックの武器を支える両肩を狙う。

 

「神火 不知火!!!!」

 

二振りの炎の槍が、ジャックの両肩を狙い通り見事に撃ち抜いた。

 

「ぐぬっ…おおっ…!!まだだ!おれはカイドウさんの看板背負ってんだ!おれが…!!」

 

「悪りィが、ここまでだ。」

 

その隙に青キジがジャックの背中に触れた。

凄まじい速度でジャックの表面から熱を奪い、体が氷で包まれていく。

 

「ぐぬっ…おっ…」

 

そしてジャックは物言わぬ氷の彫像と化した。

そしてエースと青キジは睨み合う。エースもまだ余裕の笑みを崩さない。

 

 

「これでサシだな。」

 

エースが挑発するように言った。

 

「…ったく。お前さんとはあんまりやり合いたくねえんだがなあ。」

 

青キジが心底面倒臭そうにため息をついた。

 

全てを燃やし尽くす火炎と、絶対零度の氷が砂浜を覆っていく。

そして今まさに衝突しようとした瞬間、海岸に来るはずのない巨大な船、いや、国家が現れた。

 

その光景を見てレイジュが困惑した声で呟いた。

 

「お父様…?何故…?」

 

その光景を見て、エースは勝ちを確信した様子で能力を解き、寝っ転がった。

 

「だーっ。遅えっての、イゾウのやつ!」

 

「なに…?」

 

 

 

青キジは怪訝そうにエースを眺めた後、ジェルマの船を見つめた。すると、一艘の小舟がゆっくりと現れた。その船には、ジェルマの総帥である金髪のジャッジと…小太りなハラクローイ王国の王を縄で縛り上げた、ワノ国風の化粧をした侍の海賊、イゾウが乗っていた。

 

そして、高らかに叫んだ。

 

「話は纏まった!このホワイティ王国は今より我ら白ひげ海賊団のナワバリとなった!!立ち去るが良い!海軍!!」

 

 

しばらく青キジはこの状況にポカンとしていたが、やがて納得したように頭を掻くとぽつりと呟いた。

 

「やられたね、こりゃあ。」

 

「あー…モモンガ中将、引き上げだ。部下達収容して引くぞ。あと俺も乗せてくれ。自転車漕ぐの疲れたわ。」

 

「え?は、はっ!」

 

そうして、傷ついた海兵達を収容したセリーヌ達は、ジェルマと共にホワイティ王国のある島を去った。

こうしてホワイティ王国における大事件は、セリーヌが訳もわからぬまま幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

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