しばらくぶりなので簡単登場人物紹介です
イリアス
人見知りの主人公。十一歳。半人半竜。『竜骸』として活動している。ボケ時々ツッコミ。
アリス
元聖女のヒロイン。聖女歴十三年、人間一年生。最近人生が楽しい。ツッコミ時々ボケ。
オウル
ツンデレ世話焼き暴力系爺。なんだかんだ言いながら子供達を可愛がっている。ツッコミ。
先生
イリアスの師匠。存在しない前作にて敗北したヤンデレの末路。死ぬほど面倒くさい。
エリー
一般迷宮協会職員。十五歳。通称英雄ちゃん。自分をツッコミだと思っているボケ。
大陸『ノア』の中心に存在する夢幻迷宮は、人類社会の中核を担う存在だ。古くは滅亡しかけた人類の復興から始まって、現代ではありとあらゆる文化文明の根幹を支えている、まさに人類の屋台骨と呼んでも過言じゃないだろう。
その迷宮の最奥には僕を育ててくれた白銀の魔女、先生が望むものがあるらしい。いつも鉄仮面なあの先生が、僕に分かるほど表情を崩す何か。それを持って帰って先生に喜んでもらいたい、笑って欲しい。そう思った僕が家を飛び出したのは当然のことだった。
こうして僕は夢幻迷宮を管理する街、迷宮都市『デルファ』へと旅立った。その後災厄の探索者『竜骸』として色々と問題を起こしながらも人類未踏地の地、迷宮四層への転移魔法陣までたどり着く。
そこで僕は、生涯最大最強の敵と出くわした。
意味不明な転移魔法陣の作動条件、『仲良し二人組で使ってね!』。通称人見知りを殺す魔法。
人見知りの僕では数十年数百年、最悪一生かかると思った難敵だったけれど、意外なことにそうはならなかった。一か月もしないうちに僕にも友達が出来た。
それがアリス。頭が良くて綺麗で優しくて、僕を心配してくれる大事な女の子。あと、大陸中で信じられている宗教、聖教『トラゴエディア』の元『聖女』。その縁でこの間聖教の中心地、聖王国メイシスとちょっとだけ揉めた。
とにかくそんなこんなで友達になれた、『竜骸』のことも受け入れてくれたアリスのおかげで、僕は迷宮の繰り出した無理難題を乗り越えたはずだった。
けれども、意気揚々と魔法陣を試した僕達の前に再び現れたのは、あの悪夢のような文言。
『仲良し三人組で使ってね!』
おひとりさまおことわり問題そのに。
一回り大きくなった最強の敵に打ちのめされ、僕達はあえなく迷宮から帰路に着く。その道中もずっと一生懸命慰めてくれていた隣のアリスとは違い、帰って来た僕にオウルがぶつけた言葉は、あまりにもあんまりなくらい雑だった。
「そうか。そんじゃもう一人、アリス以外にもダチ作らねぇとな」
「反応軽いよ!」
「軽いも何も、それ以外言うことねぇだろ。それともなんだ、当てでもあんのか?」
「知ってるでしょ、無いから困ってるの!」
「……ふふっ」
ぐうの音も出ないほど正論ではある。それでも意地でうめき声だけはあげた。
というかアリス、なんで今笑ったんだろ。笑いごとじゃないし、かと言って僕のことを馬鹿にした風でもないのに。
不思議なツボだなぁと思いつつ、体勢を崩して机の上に突っ伏す。何が面白いかなんて人によるから、一々理由を聞いてもしょうがない。
そんなことよりも友達、もう一人友達を作る。そっちの方が重要で大きな問題だ。分かってはいるけれど、いくら考えても前回と同じく、全然全く手がかりも何にもない。
ため息とともに顔を上げると、呆れた顔をするオウルと目が合った。こっちは完全に僕のことを馬鹿にしている。
「オウルは友達多いよねー。どうやってあんなに作ったの?」
「どうやってとか言われてもな。まあ多分、酒でも一緒に飲んだんじゃねぇか」
「なんだか、男の人って感じですね」
アリスの言う通り時々街で見かけるお酒を飲んで、楽しそうに肩を組んで大騒ぎしているのはおじさんとかお兄さんばかりだ。
あれが男同士の一番分かりやすい友達の作り方なのかな。なら参考にした方が、でも一緒にお酒を飲む、つまりは食卓を共にする。その時点で僕には相当ハードルが高い気もする。
それでもやらないよりはマシなのかな。試したこともないし、もしかしたら一発で解決出来るかも。迷いと期待が言葉になってつい漏れ出た。
「お酒かぁ」
「いけませんよイリアスくん。お酒は大人になってから、です」
めっ、みたいな感じで指を立てて牽制されてしまった。でも毒の類は僕に効かない。だからお酒だって、アルコールも大丈夫だろうし一回くらいならいいんじゃ。
それにそもそも、子供は駄目っていうのも人間の話だ。半分竜の僕には当てはまらないと思う。
「僕なら平気だと思うけど、駄目?」
「駄目です。お酒は体によくありません。えっと、めっ、です」
「はーい」
実際言われてしまった。心配までされてしまったから大人しく引き下がる。というかアルコールが効かない、酔えないかもしれないって考えると、お酒を飲む意味が無いことに気が付いた。その状態、素のまま友達を作れるならそもそもこんなことになっていない。
ちらっと見えたヒントが幻だったことで、また体から力が抜けて机にもたれてしまう。
「じゃあどうすればいいんだろうねー」
「手ごわい難問ですねー」
「こいつら……」
二人一緒に首を傾げる僕達を目にして、オウルが額を抑えていた。どうせ頭を抱えるなら、一緒に悩んでくれればいいのに。
八つ当たり気味の視線に気づいたオウルが、しっしっと手を振るう。なんとなくその流れに従って顔を動かすと、アリスが瞳を伏せて何かを考えこんでいた。
「何かいいアイデアあった?」
「……いいえ、まだありません。ただ一つ、根本的な疑問が生じてしまって」
「根本的?」
「仮に一人お友達を増やすことが出来たとして、本当に奥へ進めるのでしょうか?」
「どういうこと?」
本当に前提を覆すアリスの質問に、僕も同じような疑問を返すしかない。問題そのもの、僕の解析が間違っているかもしれない、と思っている訳ではなさそう。
その証拠に、僕を見つめるアリスの視線に疑いはまったくない。なんだかもっと、より深いところを考えているみたいだった。
「これまでは二人組を求めていたのに、突然三人組に条件が変わっていたのですよね?」
「うん。ずっと二人組だったのに、今日いきなり仲良し三人組で使ってねって」
「……一人で訪れた時は常に二人組を、いざもう一人を伴えば三人組を。偶然と言うには、あまりにも対応があからさまです」
「対応? あからさま?」
「迷宮がイリアスくんの現状を見通して、問題をずらしたのかもしれません」
迷宮が見通す、僕の現状を。どういうこと? が一杯で、オウム返しだけが頭を過ぎる。
僕が全然理解していないことを察したのか、アリスは口元に手を当て思考に沈む。説明を考えてくれているみたい。そして一瞬でまとまったらしく、すぐに口を開いた。
「イリアスくんは、迷宮に意思があるという話を聞いたことがありますか?」
「えぇと、噂話くらいなら。酔っ払いの人達が話してたよ」
「酒場の与太話じゃねぇか」
「ところが、そうでもないんです。迷宮学の論文にも著名なものが多く残されています」
「めいきゅーがく?」
「文字通り、迷宮を研究する学問ですね。関係するもの全てを雑多に放り込んでいるため混沌としている分野ですが、実際に学んでみると結構面白いですよ」
この街の図書館にもいくつか論文が寄贈されていますから、ぜひ今度一緒に読みに行きましょう。晴れ渡る空みたいに輝く瞳で誘われてしまうと、僕の拒否権は必ず消えてなくなる。この一か月で散々学んだことだった。
曖昧に頷く僕を見て、アリスは目をさらにキラキラさせる。そのまま楽しそうにニコニコ微笑みを浮かべながら、迷宮に意思があるという話を続けた。
曰く、干ばつでデルファが深刻な水不足に陥りかけた数か月の間、一層『森』における水資源が通常の数倍になった。
曰く、とある病の特攻薬の原料、それも地上ではまず見かけないほど希少なものが、その病の流行時のみ異常なまでに群生した。
曰く、天候不良により大陸全土で飢餓が発生しかけた際、迷宮内部で保存の利く食材のみが採れるようになった。その上魔物や罠の危険度もかつてないほどに低下した。
「他にも人類社会の状況を見通したような迷宮の再編が、歴史上いくつも確認されています。こうした事例から、迷宮には何らかの判断機能が備わっている、というのが現在最も有力な学説です」
「へー」
迷宮のことはひとまず置いとくにしても、意思や思考を持つ魔法道具は確かに存在する。先生も持ってたし、デルファに来てからもいくつか見た。
たとえば聖王国との決闘でお世話になって、ヤードさんのお店でたくさん雷を落として来たアストラエアの天秤。あれも多分その類だった。
あの日天秤は契約を屁理屈で誤魔化そうとした僕達に怒り狂い、それでもアリスのお願いを聞いて矛を収めてくれた。条件付けで動くような道具じゃ絶対に見せられない融通、心ある優しさだ。
いい人、人でいいのかな、面倒だしいっか、いい人だったなぁ。ぼんやりした感謝と一緒に、迷宮にも意思があるという話に得心が浮かぶ。おかげで別の疑問が湧いて出た。
「あれ。じゃあつまり、僕は迷宮に意地悪されてるってこと?」
「かもしれません。理由は、分かりませんけれど」
僕はアリスと違って、考えてみると心当たりがなくもない。最近に限ってもアリスの石化を治した時はゴミ捨て場みたいな扱いをしたし、この間の決闘の日なんてライラックさんと一緒に負荷を与えまくって強制再編を招いてしまった。
もっと遡ると、この半年くらいでもっともっと酷いことをしてきたような。思い出せば出すほど、迷宮に心があるなら嫌われて当然のような気がしてきた。
「結局、そいつもただの推察だがな」
気まずさからさっと目を逸らす僕の頭に、オウルが大きな手を雑に乗せた。いつも通り頭をがしがしと撫でられる僕を眺めながら、アリスは緩やかに首肯する。
「元々奥へ進むための条件がいくつもあって、一つ目の二人組を達成したから二つ目が現れた、ということも当然考えられます」
アリスがさらっと語る可能性は、僕が考えないようにしていたことだった。
だってもしそうだったら、恐ろしいことに三人目の後も四人五人と続いてしまうかもしれない。最悪の場合、友達百人できるかな、とまで言われてしまうかも。
「なのでどちらにしても、まずは三人組を試す必要はあると思います」
「えー」
「えーじゃねぇ。それで通れんなら御の字。四人組って言われたら改めて考えりゃいいだろ」
「えぇー」
「しつこい。とにかくうだうだ言ってねぇでさっさと動け」
動けって言われても、そもそも動き方すら分からないから困ってるのに。いくら僕でもアリスと友達になれた経緯が滅茶苦茶なことくらい理解している。同じような出来事はきっともう起こらないし起こせない。
むむむと眉間に皺を寄せる僕から、何故かオウルは突然アリスに矛先を変えた。
「イリアスだけじゃねぇ。アリスもだ」
「私も、ですか?」
「お前もお前で、ある意味このアホ以上に問題がある。お前なら自分でも分かってるだろ」
「……」
アリスが僕より問題児。そんな訳ないと思うけれど、伏せた瞳はどこか沈んでいて、本人になんだか自覚がありそうだ。
話の流れからすると、友達のことかな。なんだろう。思い浮かぶのは数が少ない、僕しかいない、とか。それは勘違いだから、とりあえずそのまま訂正してみよう。
「アリス、僕以外にも友達いるよ?」
「何?」
「エリーさん。ほら、迷宮協会の」
「ああ、あの受付の嬢ちゃんか」
「そして僕の友達でもあります」
「ほーん」
滅茶苦茶軽い返事だった。しかも疑いに満ちている。失礼極まりない。
むっとする気持ちを抑えつつ、僕達がエリーさんと友達だって証明をする。ついでに、というよりもこっちが本命だけど自慢もしてみる。
「今度一緒にね、エリーさんち行ってコーヒー飲む約束したんだ!」
「は? コーヒー?」
「黒くて苦い、大人の飲み物だよ。オウル知らないでしょー」
「知っとるわ。ガキがいっちょ前にしゃらくせぇ」
「むっ。じゃあオウル飲めるの? 砂糖とか何にも入れないで」
「なくても飲めることは飲めるけどよ。ありゃ入れた方が絶対美味いぞ」
「あっ言い訳だー。実は苦いの嫌なんでしょー?」
「うっぜぇ」
またオウルが僕の頭に手を乗せる。今度の手つきはいつも以上に乱暴だった。ぐわんぐわんと揺れる視界の向こうで、アリスは僕達のじゃれ合いを微笑ましそうに見守っている。
「そうだ、でしたらエリーさんはいかがでしょうか?」
「……『竜骸』、たくさん迷惑かけちゃってるからなぁ」
「あ、あー」
迷宮相手なんて比にもならない。僕が自覚しているものだけでも山のように、知らないものを含めればもっとたくさん、きっと天を貫くほど高く積み重なっている。だから僕はともかく、エリーさんの方が凄く難しいと思う。
せっかく提案してくれたアリスには申し訳ないけれど、そういう訳でエリーさんには一切声をかけていなかった。というか行けると思っていたら、アリスと出会う前にお願いしてたし。
またしてもアイデアが潰え、名案を探り始めた僕とアリスの頭にオウルが両手を乗せる。今回はアリスにもしているからか、びっくりするくらい慎重で柔らかな手つきだった。
「とにかくお前ら二人とも、他にもダチ出来てんなら話は早ぇな。その調子でじゃんじゃん作ってけ」
「じゃんじゃんって、そんな軽く」
「一回だけならそりゃ奇跡か偶然かもしれねぇが、二回出来たなら何回でもいけるだろ」
「暴論だー!」
「さっきから当たり前のことしか言ってねぇはずなんだがな……」
「ふふふっ」
これに限らずオウルと僕がわちゃわちゃ言い合って、それを見てアリスが幸せそうに微笑む。僕達の日常は最近こんな感じだった。
五月終わりまでは火、金曜日の週二回投稿します。
次回「喫茶店『白紙の地図』にて」です。