【コミカライズ】探索者イリアスは人見知り   作:差六

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第十五話「迷宮協会での会議」

 僕がびっくり生命体に目を見張っていると、それに気づいたアリスがひっそり耳打ちしてくれた。

 

「あちらは迷宮協会の会長、シルヴァ様です」

「えっあれがあの、というかアリス知ってたの?」

「はい。以前式典などでお話したことがありますから」

 

 なんでまた、と思いかけて思い出した。そういえば時々忘れるけれどアリスは元『聖女』、前は聖王国の超偉い人だった。

 

 迷宮協会の会長は大陸のあちこちを飛び回っている、会議やら儀式やらに顔を出して回っているらしいから、超偉かったアリスが面識あるのも当たり前の話。だからあんな異次元系の見た目にもアリスは驚かなかったんだ。

 

 僕がそんなとても失礼な納得している間にも会議は進んでいく。

 

『ヘーゼル、アンタならもう誰が裏にいるかなんて分かってるんでしょ?』

『……まあ、ね。剛腹だが、認めがたいが、予想はついてるよ。なにせ身内の考えだから』

『そんな、まさか兄さん!』

『主犯かどうかはまだ分からない。でも間違いなくお祖父様、前里長のホリーはこの件に関わっている。破邪の牙を持ち出せるエルフは限られていて、その中でも国交の回復に反対しているのはお祖父様くらいだからね』

 

 ユズリハさんが咄嗟に出した声を、動かした腕を、ヘーゼルさんの声は的確に縫い留めた。

 

 黙って俯いてしまったユズリハさんへ一瞬だけ視線を向けてから、シルヴァさんは軽く息を吐く。

 

『何はともあれ、まずは話を聞くべきでしょうね。今は滞在先に?』

『ああ。既に逃亡済みかもしれないが、確か『錬金術師』のワイラーという女性の家にいるはずだ』

『ひゅー、色んな意味でお盛んね』

『茶化すな、昔からお祖父様はお祖母様一筋だ』

『質の悪い冗談だったわ、ごめんなさいね。それにしても『錬金術師』、か』

 

 『錬金術師』、『錬金術師』。聞いたことあるけど、どんなクラスだったっけ。最近分からないことがあるといつもアリスに教えてもらってばかりだから、たまには自分で思い出すこともしないと。

 

 前に『錬金術師』のお客さんから聞いた、自慢された感じだと、『錬金術師』は数多く存在するものづくり系クラスの一種。その中でも幅広く色んなものを作ることが出来る合成の専門家だ。

 

 クラスに与えられる恩恵は知力の上昇、主に記憶力と集中力が増すらしい。特に実験なんかしている時、その効力は最大限に発揮されるとお客さんは言っていた。

 

 そしてスキルは、色々あるけど『仮説証明』というものが代表的だった気がする。実験の準備をした後に使うと、頭の中にその結果が浮かび上がるとかなんとか。そんな変な効果があるそうだ。

 

『対象の姿を写し取る『転写』の魔石、御禁制のそれが現場から発見されたわ。彼か彼女か、とにかくあれを使ったんでしょう。これは相当対象に近しい者の協力がないと作れないもの。ヘーゼル、里にこれ作れるエルフ、協力した奴の心当たりはある?』

『当然いるし、協力したのは恐らくお祖父様だろう。だが魔石の加工者、『付与術師』も『錬金術師』もとうの昔に私が抑えている。彼らは皆人間との国交回復に賛成しているから、今更祖父に力を貸すことはありえない』

『……ありえないと言えば、例の変身も謎の魔石によって成されたらしいわね。やっぱりその人にも来てもらう必要があるわ』

 

 作るのも使うのも禁止されているものに加え、オウルですら見たことのない魔石。その『錬金術師』の人が凄い腕を持っていて、そして滅茶苦茶怪しいことは僕でも分かる。

 

 一体どんな人なんだろう。好奇心のまま想像の翼を広げていると、深刻そうに瞳を伏せるユズリハさんの姿が映った。いけないいけない、真面目な話真面目な話。

 

『兄さん』

『祖父を疑う辛い気持ちは分かる。だが』

『……夢は、見なかったのか?』

 

 不思議な質問に僕達、そしてエリーさんも一緒に疑問符を浮かべる。もっと不思議なのは、残りのヘーゼルさんとシルヴァさんの雰囲気がそれを聞いてひりついたことだ。

 

『シルヴァ、君から見てエリーさんは信用出来る方かな?』

『ええ。勤務態度は熱心だし、何よりアレを相手に今日まで職務を全うしている素晴らしい職員よ』

 

 まあ、と濁した言葉と共に流し目を送る。

 

『少し特定の探索者に肩入れ過ぎるきらいはあるけれど、そこは御愛嬌ね』

 

 多分僕、『竜骸』のことだ。肩入れかはともかく、とても親切にしてもらっている自覚はある。もしエリーさんがいなければ僕は迷宮協会でもっとたくさん苦労していたと思う。いつもありがとうございます。

 

 僕の感謝の念が伝わる筈もなく、エリーさんはシルヴァさんから逃げるように視線を逸らした。そしてそのまま話も逸らそうとしていた。

 

『……今更ですが、何故私はここにいるのでしょうか。この会議の参加者から、なるべく大事にしないという方針は分かりますが』

『そうね。公にすれば国交回復の雲行きが怪しくなるし、しがらみが多くなって対処も面倒になる。来週の通常総会で条約の決議を得るためにも少数精鋭、最小限の面子で出来るだけ密やかに、速やかに解決するつもりよ』

『…………でしたらそろそろ、私は退室した方がいいのでは』

『駄目、貴方もその最小限の一人。手当弾むから頑張りなさい、業務命令よ』

 

 撤退を拒否されてエリーさんは肩を落とした。ついでに視線を下げて息も漏らした。かなり不満そうだ。

 

『ごめんなエリー、こんなことに巻き込んで』

『いいえ。繰り返しになりますが、どれも決してユズリハ様のせいではありませんから』

『本当にごめん。ううん、ありがとうな』

 

 エリーさんの慰めにユズリハさんは行動で、抱擁で答えた。今度はちゃんと力加減をしてるみたいでエリーさんも苦しくなさそう。お返しにぽんぽんと背中を叩く余裕もある。

 

 一転して和やかになった雰囲気が動いたのは少し後、シルヴァさんがわざとらしい咳払いを繰り返してからだった。

 

『話を戻すと、兄さんのクラスは『予言者』なんだ』

 

 映像のエリーさんが、隣のアリスが息を呑んで目を見開く。ついでにオウルも、ほほうとか声を漏らしている。それくらい珍しいクラスらしい。

 

 けれども当然のごとく僕は知らない。『錬金術師』と違ってこっちはまったく覚えがない。このままじゃ話についていけない気がしたから、早速アリスに聞いてみた。

 

「『予言者』って何?」

「今からおよそ八百年前、とある魔女により人類が滅亡の危機に瀕した際現れたという、伝説のクラスのことですね」

 

 アリスが教えてくれた伝承によると、約八百年前にとても悪い魔女が大陸『ノア』に現れたらしい。その魔女はクラスやスキルを人の可能性を縛る呪いと断じ、不思議な力でそれらを封じ込めたとか。

 

 今と同じく、当時から人類社会はクラスとスキルを前提に成り立っていた。そのため二百年かけてようやく復興しかけた世界は、魔女の力により再びあっさりと崩壊しかけたらしい。

 

 そこで現れたのが未来を読み解く者、『予言者』のクラス。同じく特殊なクラスの『聖女』や『勇者』と共に軍を率いて魔女と戦い、最終的に勝利して世界を救ったそうだ。

 

 それが今の歴史上唯一現れた、確認された『予言者』の姿。だからその全容というか、正しい能力などは現代には伝わっていないともアリスは教えてくれた。

 

 そうなんだーと縦に頷く僕と違い、オウルは横に首を傾げる。

 

「あれも『聖女』と同じ特殊なクラスだ。最終セーフティラインっつう特性上、人類が滅亡しかけねぇ限り出て来る筈ねぇんだが」

「えっ? しかけてるじゃん、滅亡」

 

 二人してぎょっとして振り返って来る。何故か気づいてないようだから、僕は絶えかけの種族の名前を二人に教えた。

 

「ほら、エルフ。このままじゃ絶滅するってヘーゼルさん言ってたよ」

「……そういやエルフもクラスシステムの対象内、一応人類の一種だったな。そう考えりゃ設計通りの挙動ではあんのか」

 

 エルフと人間の違いなんてちょっと寿命が違うくらいなのに、オウルはさも盲点だった、みたいな顔をしている。

 

 久しぶりに戦ったから、もしかして疲れてるのかな。残念な戦果に少し呆れていたけれど、なんだか心配になってきた。オウル結構なお爺ちゃんだし、まさかボケが始まったのかも。

 

 浮かんだ疑問を込め見上げた頭はいつも通り抑えられ、いつも通りぐるぐる容赦なく振り回される。その間もエリーさん達は『予言者』について話し合っていた。

 

『今まで兄さんは『予言者』の力、予知夢によって予想も出来ないような多くの危機から皆を助けて来たんだ。だから今回のことも、もしかしたら少しくらい見ていたんじゃないかって』

『見ていてこれなら私もお祖父様の味方、国交の回復に反対していることになってしまうね』

『あっそうか』

『それに期待に応えられなくて残念だけど、ここに来てから、デルファに訪れてからは一度も予知夢を見られていない』

 

 おかげで数年ぶりに毎日ぐっすりだ。そう肩を竦めたヘーゼルさんは、更に説明を続けた。

 

『何かに阻害されているのか、それともこの事件はエルフの危機ではないのか。原因が分からない以上、夢を見る方法も分からない。だから申し訳ないけれど、今はこの力は当てにしない方がいい』

 

 落胆がエリーさん達の間を漂う。そして何故かアリスは安心と不信と興味と、それ以外にもとににかくにも色んなものが入り混じった面持ちでその光景を見つめていた。これは、考え事してる時の顔だ。

 

 たまに見るけど、秋の空みたいに色とりどりで面白いな。何考えてるか聞こうかな。でも、もうちょっと見ていたいな。

 

 そんな思いでじぃっと眺めていると、突然オウルが僕の頭へ乱暴に手を置く。その動きでアリスの表情はいつもと同じ、穏やかで優しい春みたいなものに戻った。さっきのもいいけれど、こっちの方がらしくて落ち着く。

 

「見れてねぇのは多分、俺とお前のせいだな」

「僕とオウルっていうと、つまり魔法?」

「『予言者』の予知夢は因果律予測の一種、通常物理法則下でしか成立しねぇもんだからな。俺達みたいな変数が二人も近場をウロウロしてりゃ計算するだけ無駄になる」

 

 なんだ、先生も使ってたあれか。天気予報に便利だよね。

 

 僕としては『予言者』の力が知ってるものと同じだと分かって半分納得、半分肩透かしって感じ。

 

 でも当然アリスは違うみたいで、また表情がくるくる変わっている。今度は興味と好奇心が全開、聞きたいな、知りたいなって顔をしている。

 

「えっと、因果律予測っていうのは未来予知のこと、というより未来の計算、の方が近いかな」

 

 じゃあ説明してあげないとって考えても、思い浮かぶものは全部ややこしいものばかり。何も知らない状態で聞いたとしたらきっと、自分でも僕の解説は分かりにくいと思う。

 

 それでもと一応語ってみれば、アリスはうんうんと相槌を挟みながら聞いてくれて、しかも最後には僕より簡潔にまとめてくれた。

 

「現在の予兆を全て観察出来れば一秒先の未来を予知出来る、そして一秒先の全てを知ることが出来たとしたら、自ずと二秒先三秒先も、やがて遥か未来すら読み解くことが出来る、という理解でよろしいでしょうか?」

「そうそう、そんな感じ。でもその観察とか予測に魔法が関わると、世界の法則が塗り替えられると、通常物理法則しか考えてない計算は全部狂っちゃうから」

「予測も全て成り立たなくなってしまう、ということですね」

 

 だから僕やオウル、物理法則を超越した存在が計測地点の近くで好き勝手に暴れている場合、ほんの僅かな予知すら覚束なくなってしまう。

 

 それどころか再計算の繰り返しで脳に負荷が嵩んでしまい、最悪の場合クラスシステムの補助があっても頭がぱーんと弾け飛ぶかも。だから最初から計測しない、予知夢を見ないようにしているんだろう。

 

 向こうでは浮かばないだろう結論を内心まとめていると、不意にアリスが声を上げた。

 

「……オウルさん、『予言者』の力によりヘーゼルさんがイリアスくんの正体を知っている、という可能性は考えられますか?」

「なんだ急に。そいつはあれか、夢で見たって意味か?」

 

 頷くアリスを見て、僕はあっと息を呑んだ。それはまったく考えてなかった

 

 直接観測されたならすぐに察知出来る。そして『竜骸』をやっている時、『竜血活性』を使用している間なら因果律予測は成立しない。だから直に予知夢で知られたってことはありえない。

 

 でもたとえば、何も考えず『竜骸』も含めて隠し事を話しているところを見られていたとしたら。

 

 一つの可能性に辿り着き慌てかけた僕を抑えたのは、オウルが投げかけた物騒な質問だった。

 

「イリアス、お前エルフ滅ぼそうとか考えたことあるか?」

「えっ? 今のところないけど」

「だったら、なくはねぇが相当薄いな。『予言者』の予知夢はその種族の未来、生死を左右するものだけを観測する。イリアスにその気がない以上、あの坊主がこいつを夢見る確率はかなり低い」

 

 じゃあ安心だ。胸を撫で下ろす僕と違い、アリスはまだ思案に瞳を伏せている。

 

「納得いかねぇか?」

「……はい。失礼だとは思うのですが、どうしてもまだ違和感が」

「そいつは大事にしとけ。俺のも勘だが、お前の勘は多分よく当たる」

 

 オウルがアリスの頭の上に置いた瞬間、気が合うのかシルヴァさんも手をぽんと合わせていた。どうも一度会議の内容をまとめるつもりらしい。

 

『一旦まとめましょう。方針として、まず前里長のホリー及び『錬金術師』のワイラーを呼び出して事情を聴取、場合によってはその場で拘束する。これは今派遣する衛兵の選定をしているわ』

 

 さっきも言っていた通り、迷宮協会としては少数精鋭で解決したい。そして相手は謎の魔石や生物兵器を扱う不可解な『錬金術師』。そのため信頼出来る、腕の立つ者を選んでいる途中らしい。

 

 信頼はともかく、腕は大丈夫かな。恐らく迷宮協会の全傭兵、衛兵と戦ったことのある僕でも、キマイラに一対一で勝てそうな人なんて心当たりがない。

 

『次にエリーちゃんと、あの小さなお友達の安全の確保ね』

『なっアリスとイリアスも危ないのか!?』

『今日のは偶然だとしても、あそこに立ち会ってしまった以上完全に捨て置けるほどじゃないわ。万が一は、起こってしまえば最悪の一になるのよ』

 

 僕がいて、オウルもいる以上実際はゼロが一だ。誰が襲ってきても、もし先生と同じくらい強い何かが来たとしても、アリスのことは必ず僕が守る。

 

 だから心配はいらないのだけれど、当然そんなこと協会の人達は知らないし、僕から伝えることも出来ない。

 

 この会議中一番に焦るユズリハさんにちょっと罪悪感を感じつつ、迷宮協会の方針を見守る。

 

『あのお爺さんも相当な凄腕らしいけど一人では限界がある。とりあえず今日あの子達には、貴方のお父様にもここに泊まってもらいましょう。迷宮協会の名において、責任を持って全員保護するわ』

『ありがとうございます』

『お礼言ってどうするの。言っとくけど、一番危ないのは直接狙われた貴方なんだからね』

 

 予想はしていたけれど、お泊りが決定してしまった。がっくり肩が落ちる。

 

『それで貴方の護衛は、どうしようかしら。元々つけてたのはこっぴどくやられて入院中だし、下手な人員はつけられないし』

『だったら、私がエリーを守る』

『ユズリハちゃんが? それは』

『お祖父様も私が傍にいれば無茶はしない。そうだろ、二人とも』

『……今日もわざわざお前を遠ざけたくらいだ。確かにそうだろうけれど』

『じゃあ決まりだ。よろしくな、エリー』

『こちらこそよろしくお願いします』

 

 お互いに頭を下げ合って顔を上げて、そこでちょっとだけ微笑み合って。こんな時だけど、やっぱりエリーさんとユズリハさんは仲良しだ。

 

 僕から見るとユズリハさんの強さはおおよそ十八リンドウさんくらい。正直物足りないけれど、デルファにいる探索者や傭兵を見渡してもユズリハさんより上の人は早々いない。

 

 それに二人が今言ったように、ユズリハさんが近くにいればあのお爺さんも今日みたいな真似はしないかもしれない。

 

 うん。力はともかく心はとっても信用出来るし、お爺さん避けも期待出来る。エリーさんのことはユズリハさんに任せてもいいかな。

 

 僕が上から目線の結論に至るのとユズリハさんが大事なことを思い出したのは、大体一緒だった。

 

『あっそうだ。なら明日の同行訓練行けないって、『竜骸』さんたちに伝えた方がいいよな』

 

 すっかり忘れてた。言われてみればそんなこともあった。

 

 ユズリハさんが参加出来ないなら明日はソマリさんだけ、というかそもそも僕も行けるのかな。会議の雰囲気からして、お泊りどころか解決するまで協会から出られない可能性もありそう。

 

 どうしようかな。ユズリハさんのことも考えて、いっそ後で延期を提案しようかな。

 

 僕が頭を悩ませて腕を組んだ瞬間、映像の向こう側でシルヴァさんも同じ動きを取っていた。

 

『そういえば、どうして『竜骸』はあそこに現れたのかしら?』

『散歩とおっしゃっていたそうですが、実際は分かりません』

『……『竜骸』の考えが分からないなんて今更ね。というかそれよりも、どうやってあそこにたどり着いたのかしら?』

 

 どうやってと言われても、あそこは馬車の定期便も何もないから歩いていくしかない。シルヴァさんは何を不思議に思っているんだろう。

 

『あの辺りは昔バカが作った迷路園がそのまま道に使われててね。その名残で訳分からないくらい、一時期案内なしで抜けられたら賞金が出たくらいには迷いやすくなってるのよ』

『……我が父ながら、どうしてあそこにお店を出したのでしょうか』

『さあ? あの子昔から夢見がちなところあるから、変な拘りとかあったんじゃないかしら』

『父のことを、ご存知なのですか?』

『まあね。あの子が駆け出しの頃、ちょっと面倒見てたことがあったのよ』

 

 アーサーさんとシルヴァさんの意外な関係が明らかになったところで、ユズリハさんが口を挟んだ。その口調はさっきの僕、エルフの滅亡云々を話した時と同じ。要するに当たり前のことを、当然のように語るものだった。

 

『なんでって『竜骸』さんも案内状を、エリーのところの会員証を持ってたからとかじゃないのか?』

『えっ』

『そんな、だとしたら大発見よ! 会員証の配布先を辿れば、そこから正体が』

『盛り上がっているところすまないが、それは無理だと思う』

 

 きゃぴきゃぴと喜びに溢れる野太い声を、ヘーゼルさんの挙手が一瞬で叩き落した。

 

『私がお店の会員証、この間あの方に送ってしまったから』

『は?』

『だから送った、会員証、二枚』

『二枚も!? なんで!?』

『助手さんの分も必要だと思って』

 

 あれそういう意味だったんだ。二枚送るから二倍来て欲しいみたいな、僕の知らないエルフ特有の圧力だと思ってた。

 

 どちらにしてもヘーゼルさんと会うつもりはないけれど、謎が分かってちょっと一安心。それはそれとして、あの二枚もその内返送しよう。三枚もいらないし使わない。

 

『どうせ妹がお世話になってるから挨拶を、とか考えてたんでしょうね』

『それに考えてみれば『竜骸』様は空から落ちて来ましたから、そもそも会員証は使っていないと思われます』

 

 思い切り使いました。

 

 だからさっきシルヴァさんが言ったように、会員証を配った先辿られたら不味かった、のかな。でも今エリーさんが言った通りでもあるし、ヘーゼルさんにも送られてたから問題は無さそう。

 

 思いも寄らないところから正体を探られそうになって、その糸が数瞬で断ち切られて、ついついほっと胸をなでおろす。

 

 安心する僕とは反対に、映像の向こう側は露骨に雰囲気が落ち込んでいた。特に会長さん、シルヴァさんなんかはもの凄くやさぐれた空気を醸し出している。失礼だけど、見た目もあって呪詛に溢れた怪物のようにも見える。

 

 さすが仲良しと言うべきか、ヘーゼルさんはそんな呪いの塊じみたシルヴァさんを眺めても苦笑いするだけ。それどころか、滑らかに話題を転換する余裕すらある。

 

『思ったよりもがっかりしてる。じゃあ代わりと言ってはなんだけれど、画期的なエリーさんの警護方法を思いついたから聞いてくれないか』

 

 そしてヘーゼルさんが何故かしたり顔で語った作戦は、確かにエリーさんの身を絶対に守るものだった。

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