【コミカライズ】探索者イリアスは人見知り   作:差六

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第二十話「黄金合成偽竜オーラ」

 太陽を背負い黄金の翼を広げる異形を前にして、アリス達は言葉も出せずに空を見上げていた。

 

 突然現れた未知の魔物、ということもある。先のジャイアントベアーに匹敵する程の大きさ、ということもある。だが最も彼女達を愕然とさせたのは、その大いなる様相だ。

 

 光り輝く二対の翼。全身を覆う黄金の鱗。研ぎ澄まされた剣よりも鋭い爪。丸太を束ねたかのように太く力強い尻尾。そして牙の隙間から火を漏らす、巨大な顎。

 

 伝承に語られる姿を目の当たりにしたユズリハは、無意識のうちにその名を零していた。

 

「……まさか、竜、なのか?」

「違う」

「ええ。『竜骸』さんの言う通り、これはただの紛い物。ヒノトリや黄金鳥、岩石トカゲの他にもとにかくたくさん。寄せ集めでどこまで高みに至れるのか、手慰みに作ってみた虚像の力に過ぎないわ」

 

 だが間髪入れずに差し込まれた『竜骸』の返事と、何よりも製作者であるワイラーの解説がそれを否定する。

 

「だからあえて名付けるのなら、黄金合成偽竜オーラ、といったところかしら~」

「……お前、生きてたのか」

「あら、当たり前でしょ。それとも死んでいた方が良かった?」

 

 ソマリは思い切り舌打ちし、ワイラーから目を逸らす。

 

 これに限らず研究所に到着してからも彼の言動には、心からの嫌悪と未だ捨て切れていない情が滲み出ていた。

 

 そして『竜骸』を除く二人、アリスとユズリハは抱く感情こそ、同族嫌悪と同情と大きく違えど、当然その感傷には気がついている。

 

 だが現在の彼女達に、その対応をする時間はない。

 

「来るぞ、構えろ!」

 

 上空に佇んでいた黄金合成偽竜オーラがその空虚な瞳を、溢れ出る暴威を、『竜骸』達へ向け始めたからだ。

 

 オーラは口から漏れる火を、いかなる手段か眼前へ収束させていく。やがて巨大な火球と化したそれを、彼は咆哮と共に獲物へと放った。

 

「『エアプレッシャー』!」

 

 もちろんユズリハが黙って見守る筈も無い。彼女は暴風を発するスキルを用いて火球の消滅、最低でも威力の減退を試みる。

 

 先の迷宮での一戦にて、強化キマイラの熱風すらも見事に防いだ暴風。しかしそれほどの力であっても、オーラの火球はびくともしていなかった。

 

「くっ、私じゃ止められない! 皆、早く」

 

 忌々しげに叫ぶユズリハの視線の先で、軽やかに跳躍した『竜骸』が火球を上空へと蹴り飛ばしていた。ちなみに常識ではあるが、火とは現象である。物理的に触ることは出来ない。

 

「ここ、から」

 

 更に『竜骸』は勢いそのままオーラのもとへ向かい、その顔面を軽々と殴り抜く。

 

 吹き飛んだオーラは轟音と共に地面に着弾、雑草と牧場の名残を弾き飛ばしながら転がっていく。

 

 立ち上る砂埃からアリスを守りながら、彼女は圧倒的な力への敬意とそれ以上の呆れを覚えた。

 

「……改めて、何度見ても訳分からないな、あの人」

「当然だ。あの『竜骸』だからな」

「なんでお前が自慢げなんだ?」

 

 胸を張るソマリと首を傾げるユズリハ。無造作に立つ『竜骸』を眺める二人から、既に緊張感は薄れている。

 

 それを取り戻させたのは、彼女に庇われていたアリスの声だった。

 

「あの魔物はダアト様にお任せしましょう。それよりもお二人とも、あちらをご覧ください!」

「あっちって、あっ地下室!」

 

 ワイラーが告げた実験体が、ヘーゼル達が閉じ込められているという場所がオーラにより露わになっていた。

 

 助けに向かうため早速駆け出そうとしたユズリハだったが、場にそぐわないワイラーの微笑みに足が止められる。

 

 そういえばいたなこいつ。というかこいつ、このまま放って置いていいのだろうか。

 

 思考は一瞬。一片の容赦も躊躇いもなく、彼女は手に持った木剣をワイラーの頭部へ振り下ろした。

 

 目を回して地面に倒れこんだワイラーを冷たく見下ろしてから、ユズリハは満足そうに頷く。

 

「思ったよりあっさりだったけど、まあこれでよし!」

「……これ、生きてるのか?」

「加減はしたから多分平気だ。とりあえず縛って、放置も不味いから連れて行こう」

「だったら俺が抱えていく。こいつ無駄に重いからな」

 

 意識を失ったワイラーをソマリが担いでからアリス達は地下室、研究所跡の穴に向かって駆けていく。足音か気配が届いたのか、やがて地下室から必死な呼びかけが聞こえ始めた。

 

 その声に答えるため穴を覗き込んだ彼女達に向け、穴の底から男が大きく手を振る。

 

「おーい、誰かいるのかー!?」

「お前は確か、傭兵のソドラン!」

「そういうあんたはエルフの嬢ちゃん! なんでここにって、そうか、兄貴を助けに来たのか!」

 

 ソドランの納得の声に、思わずユズリハ達は揃って顔を見合わせた。なお、相変わらずアリスの顔はローブにより隠されているため、正確には誰一人として見られてなどいないが。

 

 それはともかく、迷宮協会が派遣した傭兵が、ワイラーに捕らわれた者が確かに地下室にいた。ならば同行していたヘーゼルもここにいるのが道理。

 

 逸る気持ちを抑えつつ、ユズリハは周囲の様子を注意深く確認した。

 

「思ったよりも深いな。階段か、何か道具は」

 

 ソドランがいる場所までおおよそ地下三、四階程度の深度、あるいは高さがある。これでは降りることは出来ても、その後無事に登れるかどうかは分からない。まして、捕らわれた者の中に怪我人がいれば、間違いなく不可能だろう。

 

しかし昇降手段を求めて辺りを見回す彼女が見つけられたのは、オーラが破壊した階段の名残程度。縄の類でも探すべきかと顔を上げた瞬間彼女に、付近全てに影が差す。

 

 無傷のオーラが、彼女達を無機質な目で見下ろしていた。

 

「に」

 

 げろと続けようとした口は、またしても殴り飛ばされるオーラの姿により中途半端な状態で固まった。

 

 目も口もぽかんと広げた間抜け面と視線を交わした『竜骸』は、その視線をおもむろに地下室の方へと移す。そして誰にも気づかれぬよう、微かに首を傾げた。

 

 常人であるアリスに遠方の『竜骸』の傾きは見えない。けれども、彼の疑問は察知した。

 

 彼女は研究所跡の穴を手で指し示した後その場で軽く跳躍、それから両手を高く掲げてから斜めに交差させた。いわゆる×マークである。

 

 『竜骸』もそれで彼女達の状況を把握し、そのままあっさりと問題を解決した。穴の壁から螺旋状に巨大な石柱を次々と生やし、最下層への階段を一瞬で作り上げる。

 

「ありがとうございます!」

 

 礼を無言の背中で受け止めてから、『竜骸』は身じろぐオーラのもとへ再び移動した。

 

 それを見送ったユズリハとソマリは、それぞれアリスとワイラーを抱えて地下室へと下っていく。

 

 降りた先は、有体に言えば廃墟の様相を呈していた。

 

 階段や壁の欠片、折れた牢の鉄棒、色とりどりの液体が満ちたガラス瓶。それ以外にもとにかく様々なものが床に、もはや地面と呼んだ方が適切な場所に薄汚れて転がっている。

 

 そしてそれは、人も同じだ。

 

 足の置き場に苦労しながら進んだ先で待っていたソドランも、全身が土埃に塗れていた。

 

「無事か?」

「ああ、なんとかな。さっきの魔物のせいで何人か負傷はしたが、幸いどいつも軽いもんだ」

「治療をさせてください。その方たちはどちらにいらっしゃいますか?」

「全員こっちに寝かせてます。お手数かけますがどうか頼みます」

 

 彼が案内した先には忙しそうに看病や周囲の観察をする者達が三人、怪我を負った者達が九人座り込んでいる。どれも骨折や内臓損傷など軽症というにはいささか深いが、回復スキルを受ければすぐに歩けるようになる程度のものだった。

 

 癒やしの光が薄暗い地下室を照らす中、辺りを見渡しながらユズリハが問いかける。

 

「ところでソドラン。お前と一緒に兄さんも、エルフも捕まったはずだ。どこにいるんだ?」

「……あ、あぁ、実は、そのことなんだが」

 

 自分達を出迎えに来なかった以上、ヘーゼルは怪我をして無理矢理安静にさせられていると彼女は考えていた。しかし、アリスが治療した中に彼はいない。また、辺りを見ても姿は確認出来ない。

 

 そのため生じた疑問を受けて、ソドランは曖昧な息を漏らし、目を酷く泳がせる。

 

 動揺を露わにする彼の姿に、ユズリハの脳裏に嫌な予感が過ぎる。振り払うため更なる問いを重ねようとしたその時、彼女は誰かが走り寄って来ることに気がついた。

 

 その影はよろよろと頼りない足取りで、何度も瓦礫に足を取られながらも走り続け、やがて彼女へ辿りつき縋りつく。

 

 その影は、エルフの前里長ホリーは、ユズリハが昨日見た時よりも数十歳年老いたかのように焦燥しきっていた。

 

「……お、お祖父さま!?」

「ああ、あぁ! すまない、すまないユズリハ!」

「えっな、なんで泣いて」

「儂の愚かな考えのせいで、ヘーゼルが!」

 

 今のホリーにはユズリハの質問も困惑も受け止める余裕もない。ただ自身の過ちに懺悔をするだけ。エルフとしての誇り高さも高慢さも失くした、ただの哀れな老人がそこにいた。

 

 その痛ましい姿を目の当たりにして、ソドランもようやく決心がつく。

 

「嬢ちゃん、いきなりで悪いが落ち着いて聞いてくれ」

「……それ聞くの、今日二回目なんだが。なんか、とんでもなく嫌な予感するんだが」

「それは知らん。とにかく、今から言うのは冗談じゃなくて本当のことだ」

 

 一度息を吐き切り、それからソドランは上空を、ちょうど『竜骸』へ向け火球を吐いたオーラを指さす。

 

 続けて口を開きかけた瞬間オーラが殴り飛ばされたため、彼は説明の仕方を変えた。

 

「今あそこにいた、ぶん殴られたバカでかい黄金の魔物は見えたよな?」

「ああ。さっきから『竜骸』さんがボコボコにしてる、あれのことだよな」

「あれがヘーゼル、嬢ちゃんの兄ちゃんだ」

「……は?」

 

 

 

 『竜骸』の拳がオーラの胸に突き刺さる。肉がひしゃげ骨が砕け、肺や心臓、あらゆる内臓が一瞬で潰れて弾けた。通常であればどうしようもない致命傷、あるいは即死ものの傷である。

 

 しかしオーラは死なない。それどころかその全てが一瞬で再生した。これは『竜骸』の用いる非人道的不殺魔法、『絶対死にたくなる魔法』によるものだ。

 

 この魔法は攻撃が当たる瞬間に有害なほど過剰な強化、回復魔法をかけることで対象の命を保証している。その効果は絶大で、こと命においては万が一にも失われることはありえない。

 

 ただし、この『絶対死にたくなる魔法』には、不殺魔法として一つ無視出来ない欠点が存在する。

 

 もちろんそれは、強化と回復がもたらす感覚過敏が対象に死を望ませるほどの苦痛を与えてしまう非人道性のこと、ではない。

 

「またか」

 

 殴り飛ばされ地に落ちたオーラがすぐさま飛び上がるのを眺め、『竜骸』は静かに息を吐く。

 

 戦闘が始まってかれこれ十数発。何度地面に叩きつけられようと、オーラは何も響かぬ様子でその度に立ち上がっていた。

 

「……やはり、痛覚がないのか」

 

 『絶対死にたくなる魔法』最大の問題点。それは制圧能力において、対象の苦痛に大きく依存している点だ。

 

 この魔法の影響下ではどこをどれだけ傷つけられようと、過剰な回復魔法により全て修復される。つまり精神面はともかく、対象は肉体的には完全に無傷となる。よって対象の動きを止めるのは、全身に走る絶望的なまでの痛みのみだ。

 

 そのためその痛みが、相手に痛覚がなければ、『絶対死にたくなる魔法』は真価を発揮出来ない。

 

 今なお羽ばたき平然と空に飛び立つオーラの様子は、彼がその弱点を突いていること、彼に痛覚がないことの証明だった。

 

 ならば死なない程度の攻撃で制圧すればよいのだがが、今の『竜骸』にそんな細やかな芸当は難しい。よって出せる力は過剰か、過小か。この場合間違っても殺める訳にはいかないため、どうしても手加減が過ぎたものとなる。

 

 現に遠慮に遠慮を重ねて放った数十の魔槍はオーラの翼を穴だらけにしたものの、彼の活動を止められていない。

 

 その上与えた傷も、オーラが呼吸をするたびにじわじわと塞がり始めている。

 

「微かに再生能力もある。面倒だな」

 

 あくまでも『竜骸』の目測ではあるが、黄金合成偽竜オーラの戦闘力は以前アリスを救助した際に倒したバジリスクと同等。その気になれば一振りで終わる程度でしかない。

 

 また、何度も見たブレスもどきの火球にその辺の野鳥と同じ飛行速度、そして一つの傷に数十秒もかかる再生能力。そして膂力はジャイアントベアーにも届かず、鱗や爪、牙も鋼を精々数段上回るくらいの硬度。

 

 『竜骸』からすればどこを取っても拍子抜けだった。仮にも、偽であっても竜を名乗るには程遠く、微かに抱いていた期待はとっくに粉々である。

 

 何も面白くないし飽きて来た、とやる気をなくしつつある『竜骸』の耳に、その時少女の必死な声が届いた。

 

「ダアト様、こちらに来ていただけますか!?」

 

 まるで誰かの命が掛かっているかのような、大きく懸命な呼び声。

 

 その声に振り向けば、いつの間にか捕らわれていた傭兵の一団が地表へ登っている。そのすぐ近くでアリスが『竜骸』に向け大きく手を振っていた。

 

 普段落ち着いた彼女がああも焦っている。釣られて『竜骸』が、イリアスが雑にオーラを凍らせてから、急いで駆けつけようとするのも自然な反応だった。

 

 アリスが力いっぱい叫んで、なくした酸素を求めて大きく息を吸って。その瞬間にはもう、『竜骸』は彼女の目の前に移動していた。

 

 あまりの速度に誰もが反射的に一歩引く中、アリスだけは待ってましたとばかりに一歩踏み込む。

 

「ダアト様、戦闘中に申し訳ございません」

「構わない」

「大変なことが分かりました。あの魔物、あれは、あちらは元々ヘーゼル様で、ワイラーの手により変異させられてしまったものらしく」

「知っている」

「……え?」

「器が変わろうと、魂は同じだ」

 

 だがその情報は、『竜骸』にとって既知のものだった。

 

「だから加減をしている」

 

 そもそもの話ではあるが、『竜骸』が殺すつもりであればオーラは日の目を見ていない。もしくは研究所から飛び出た、日の光を浴びた瞬間に命を落としている。

 

 未だに彼が生きていることが、『竜骸』が加減をしていること、そして最初から正体を察していたことの証明だった。

 

 それはそれとして、全身氷漬けのオーラを見て誰もが抱いた疑問をソドランが代表して問いかける。

 

「いや、あれでか?」

「今は死なない程度に凍らせている。数分もすれば、氷を破り飛び出すだろう」

 

 咄嗟に凍らせたにしては、ものすごく上手に手加減出来た気がする。そんな自画自賛は当然周囲には伝わらない。むしろ一瞬で氷の彫像にされたオーラの姿に、大抵の者は思い切り引いていた。

 

 引いてない者の一人、そんな余事を気にする余裕のないホリーが『竜骸』の下へ駆け寄り跪く。

 

「お、お初にお目にかかります、『竜骸』ダアト殿! 恥を忍んで、御無礼ながらお願い申し上げます!」

「……」

「どうか、どうか孫を、ヘーゼルをどうかッ!」

 

 そしてホリーは、叩きつけるように地面に頭を擦りつけた。

 

 約三十倍は歳の離れた老人にそんなことをされてしまえばさすがの『竜骸』、イリアスもそれなりに気まずくなる。

 

 かといってキャラづくり上止めることも出来ない。そのため彼は自然な動作でホリーから視線を逸らし、ついでに確認のためソマリへ意識を移した。

 

「体を元に戻す手段は、既に見つかっているのか」

「……えっと、俺とルーシャのか?」

「恐らく理屈の上では同じ現象だ。器、肉体を他種族へ変容させている」

 

 よってソマリが元の体を取り戻す方法をワイラーから聞いていれば、それをそのままオーラに、ヘーゼルにも流用すればいい。

 

 期待の籠った視線がソマリに集まる。だが、彼は腕を組んでしばらく考え込んでから、そっと首を横に振った。

 

「いや、多分まだだ。一応研究はしてるけど、まだ分からないって一昨日こいつが」

「嘘を吐いてるかもしれない。叩き起こして聞いてみるか?」

「無駄だと、思う。こいつはどうしようもないクズだけど、研究で嘘は吐かない、はず」

「ならば不可能だ。この場では治療出来ない」

 

 これまでの二週間でユズリハは何度も『竜骸』が常識外れの振る舞いをするのを、様々な障害を理不尽な力で粉砕する様子を見せつけられていた。

 

 だからこそ今回の困難、ヘーゼルの変容すらも『竜骸』ならばきっと、と信じて、目を閉じ妄信することで、彼女はなんとか平静を保っていた。

 

 だがそれが裏切られてしまい、気丈にも耐えていた彼女の声が揺れる。

 

「そ、そんな。だが、それでも、えっと、そ、そうだ、あれは、エリクシールはどうだ!? 奇跡だって、何でも治せるってあの力なら、今の兄さんだってきっと」

「回復薬や回復スキルの本質は対象の器の修復、もしくは復元だ。器が変質した者に効果はない」

 

 身体に刻まれているあるべき姿が、言うなれば参照元の設計図が書き換えられてしまっている。

 

 万物に干渉する魔法であれば当然この設計図も操作は出来る。しかし正しいもの、元々のヘーゼルの詳細が分からない以上、いたずらに変えてしまえば取り返しのつかないことになる可能性が高い。

 

 自身の力量をよく理解している『竜骸』はそうした魔法を使えばヘーゼルがよくてトカゲ、悪くてニワトリになる未来を予期していた。

 

 希望が挫け肩を落とすユズリハと、膝から崩れ落ちるホリー。

 

 失意に暮れる二人のエルフへ痛ましく思う、沈みかけた心をアリスは理性で押さえつけた。今は同情など役に立たない。思うべき、考えるべきはヘーゼルの治療方法、解決策。

 

 そのきっかけを毛先だけでも探し掴み取るため、彼女は『竜骸』へ声をかけた。

 

「……ダアト様、それではこの後は」

「殺すつもりはない。殺めれば、依頼は失敗となる」

「ではこのまま戦いを続け、弱ったところを抑えるのでしょうか?」

「弱らせたところで、あれは体力の限界まで暴れ続けるだろう。そして見たところ、あれは体力を補う機能は持っていない」

 

 心臓や肺など動くための内臓は保持していても、胃をはじめとした生命活動に必要な組織がないことを『竜骸』は戦いの途中に気がついていた。

 

 つまりどうあってもオーラは、ヘーゼルはやがて餓死、衰弱死する。

 

 ならばどうするのか。介錯するのか、それとも放置して死を待つのか。いずれにしても、ヘーゼルの命を見捨てることに変わりはない。

 

 当然『竜骸』は、イリアスはそのような未来を選ばない。

 

「考えはある。そのためにも、一時的に封印をする」




オーラ君は冷蔵庫の余りもので作ったチャーハンみたいな感じです。金色なので多分卵多めです。
次回「蒼の理」です。
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