ソマリの急なごめんなさいに隠れて盗み聞きしていた僕達は驚いたし困惑した。けどきっともっとびっくりしたのは、それを突然向けられたユズリハさんの方だろう。
その証拠に余裕綽々、大人のお姉さんって感じだった微笑みはもう完全に崩れている。代わりにいつものような気安い雰囲気が、腕を組み大きく首を捻るユズリハさんには満ち溢れていた。
「ごめんって、急にどうした? というか、何に対してだ?」
「前にお前を襲ったこと、まだ謝ってなかったから」
ソマリの後悔に、ルーシャちゃんの瞳が揺れる。
「兄ちゃんが、ユズリハさんを……?」
この分だとルーシャちゃんは知らなかったらしい。一瞬意外だなと思いつつ、すぐそれもそうだと考え直した。
あれを知ってるのは僕とエリーさんとシルヴァさん、後は僕が相談したアリスとオウルだけ。表沙汰にはしないと決めたことだから、わざわざルーシャちゃんに教える必要もなかった。
衝撃を受けて震えるルーシャちゃんとは反対に、ユズリハさんはけろっとした顔で問い返す。
「そうだったっけ?」
「そうだよ、もっと気にしろよ。お前襲われっぱなしだぞ、ムカつかないのか」
「まあ、普通ならそうだけど。あの時はそれどころじゃなかったからなぁ」
前の日にエリーさんが襲撃されたと思ったら、今度は守護者との戦いの後に突然ソマリが攻撃してきた。落ち着かせて事情を聞いて、協会に戻ってみればヘーゼルさんが攫われていて。そこから続けてあの『錬金術師』の人の研究所へ突撃。その後は金ぴかトカゲもどきが出て来て大乱闘。
確かにそれどころじゃなかった。うんうんと頷いてしまう。
そんな納得と同時に、まったく別の疑問が思い浮かんだ。それはそれとして、謝るの遅くない?
僕の感じた意地の悪い問いを、ユズリハさんは言葉を変えて、軽くしてから声に出す。
「せっかく謝ってもらったところでなんだけど、正直今更感あるな」
「ああ、俺もそう思う」
ならどうして。ユズリハさんにはそう言いたげだった。僕もそう思った。そしてその質問は、言葉にならずともソマリに伝わった。
ソマリは少しの間目と口を閉じていた。どう話せばいいか、そんな迷いを感じる沈黙だった。
それから顔を上げるまで、ソマリがユズリハさんを見つめるまで、十数秒くらいの時が流れた。
「……昔の俺はごめんとか悪いとか、謝ることに意味なんてないと思ってた。謝ったところで何も変わらないし、やったことが元に戻る訳でもない。だからどれも言った奴の自己満足だって、口先だけの挑発みたいなものだとすら思ってた」
「うわ、捻くれてるなぁ」
「知ってる。ほっとけ」
ユズリハさんの揶揄うような口ぶりに、ソマリも苦笑いを浮かべて返す。そしてそのまま、苦みを交えた口調のまま昔話を続けた。
「そんな調子だったからギルドに、パーチズに入れて貰えてからも、何かしでかしても謝りなんてしなかった。間違った時も、後で行動で示せばいいって考えてた」
「そんなんで大丈夫だったのか?」
「いや、全然。だから仲間と何回か大喧嘩をした後兄ちゃんに、ギルド長に呼び出されて思い切り説教された」
お説教をくらった思い出を語っているのにもかかわらず、ソマリの口元は少し緩んでいた。
「その時言われた。ごめんなさいは、一種の宣誓なんだって」
宣誓。ごめんなさいとはかけ離れているような気がする言葉の出現に一瞬面食らう。横のアリス達も、面と向かって聞いているユズリハさんも似たような反応をしていた。
それもソマリは予想していたんだろう。続けざまにその理由を、意味を、教えてもらった言葉を懐かしむように語る。
「お前の言う通り、謝罪自体に意味はない。それでも人が謝るのは、こんな自分でもどうかこれからよろしくお願いしますって相手に頼むため。たとえ取り返しがつかなくてもそんな、なけなしの誠意だけでも証明、宣言するためだって」
「なんというかこう、固い人だな、意外と」
「ああ。カチカチの石頭で融通が利かなくて、誰よりも頼りになる人だった」
今まで聞いたソマリの声で、一番誇らしげな響きを感じた。
けれども、その誇りはすぐに裏返る。後悔と責任に満ちた面持ちを携えて、ソマリはユズリハさんを見上げた。
「だから」
そしてもう一度、深々と腰を曲げる。
「だからあの時はごめん、ごめんなさい。お前は何も悪くないのに、俺を信じてくれていたのに裏切って、あいつに売ろうとして」
切羽詰まった声で、それでもソマリはしっかりと言い切った。そしてじっと裁きを待つ罪人にように、ユズリハさんからの返事を待っていた。
その言われた側のユズリハさんは意味不明な動きを、手を虚空へ向けながらもじゃもじゃと。極めてよく分からない仕草をしている。とりあえず迷いと戸惑いだけは伝わった。
三十秒くらいして、ようやくユズリハさんの不思議な踊りは終わった。どうやら何か、かける言葉が思いついたみたいだ。
「まったく! 今だから言うけど、あの時滅茶苦茶傷ついたんだからな!」
「……本当に、ごめん」
「……そんなしおらしくされると、なんか調子狂うな」
だけどもそんな冗談めかした言い方は大失敗で、おちゃらけた口調に返って来たのは心からの後悔。止まっていた手をユズリハさんは自分の頭に運び、痛みを誤魔化すかのように揉み始めた。
これどうしよう。どうするんだろう。盗んで見聞きしている僕ですら手汗が出そうな心地がする。
何かこう、なんとか手助けとかするべきなのかな。アリスの意見を聞こうと横を見て思わずぎょっとした。咄嗟に声が出なかったのは奇跡だろう。
ルーシャちゃんの目が潤んでる。えっ泣きそう。本当にどうしよう。いっそ一回眠らせた方が。
焦りのあまりユズリハさん顔負けの踊りをしかけた僕の手足を、その時暖かく柔らかな声が止める。
「ソマリ」
「……」
「私の方こそ、ごめんな」
僕達がその声の主を見た、ソマリが顔を上げた時、ユズリハさんはもう深く頭を下げていた。
どうしてって、誰もが抱いた疑問がソマリの口から零れる。
「お前のこと友達だなんだと言っておきながら、そこまで追い詰められていることに私は最後まで気づけなかった」
「それは、俺が話してない、ずっと隠してたからで。絶対お前が悪いとかじゃ」
「家族が訳の分からない姿に変えられるのは、辛いよな」
そしてその答えは、ソマリとユズリハさんにしか分からないことだった。
「少なくとも兄さんが魔物にされた時、私はそうだったよ。幸い『竜骸』さんが治療方法を考えてくれて、すぐに『聖女』様が来てくれることになって。結局私が待ったのは一日もない。それでもあの時私は気が狂いそうになるくらい不安で、元に戻らないんじゃって怖くて、朝までずっと眠れなかった」
ユズリハさんは戦闘中も、終わってからも辛そうな素振りは見せていなかった。ずっと一生懸命戦っていて、あの『錬金術師』の人にも一歩も退かず立ち向かっていた。だからこんな、擦り切れそうな笑みを浮かべるほどに苦しんでいたなんて、想像もしていなかった。
「大変だったよな、たった一人であんな苦しい気持ち背負って。当てにならない希望を頼りに、ずっと戦い続けて」
「違う、俺は」
「お前は凄い。本当に今まで、よく頑張ったな」
大きく横に首を振って、自分を痛めつけるほどに強くソマリは否定する。その激しさを受け止めるかのように、ユズリハさんはそっとソマリの頭に手を置いた。この間のふざけ合いとは違う柔らかい手つき。
まったく力の入ってないそれは、ソマリの力強い反発をあっさりと止めた。
少しの間、沈黙が訪れる。動くのはソマリの肩とユズリハさんの優しい手だけ。僕らの間にも、呼吸音だけが流れた。
やがてソマリは震える声で、足元を見たまま呟いた。
「子供扱い、するなよ」
「してないよ。私も妹だから分かる。お前は誰よりも立派な男、格好いい兄ちゃんだった」
ソマリは呼吸まで震え始めた。これはまさかと考える前に、僕の袖が何度も引かれる。振り向くとアリスが静かに、それでいて強く首を横に振っていた。これ以上は絶対にいけませんって顔をしている。
アリスの言う通りだ。覗き見が駄目ってのは当然として、今のこれはそれ以上に超えてはいけないものを踏み躙ってしまう気がする。ちょうど、魔法の準備も出来たから早く動かないと。
「イリアスくん」
「……うん、もう平気。行こう」
ルーシャちゃんは無言で頷いた。
それから数分間こっそりせかせかと歩いた。ようやく外壁から離れた、ソマリ達の目も耳も届かない場所まで来てから、ルーシャちゃんがぽつりと呟く。
「……あたし、知らなかった」
声が漏れると同時に足も止まった。一緒に僕も、数歩遅れてアリスも立ち止まって振り返る。
夕焼けが眩しく辺りを照らす中、俯くルーシャちゃんの顔は見えなかった。それでもその表情が決して明るくないことは、いくら僕でも予想出来た。
「あたしが戻ってから様子が変なの、ユズリハさんのこと気にしてるからだと思ってた。してはしてたけど、全然理由違った。兄ちゃんずっと、あたしのために頑張ってくれてたんだね。なのに」
「……無理もありません。お二人はルーシャさんを気遣ってお話されていなかったのですから」
「なのにあたしは、何も気づかないで浮かれてばっかで。変な茶々入れてばっかで」
ぐずぐずと鼻を啜る音がしてからすぐ、地面にぽたぽたと雫が数滴落ちる。当然雨は降っていない。ルーシャちゃんがとうとう決壊してしまった。
泣いた子の相手なんて今までアリスしか。いったいどうすれば。また慌てかけた僕の動きを、ほかならぬルーシャちゃんが食い止める。
ルーシャちゃんは目尻に涙を貯めたまま勢いよく顔を上げた。そして両目をぐいぐいと腕で擦った後、そのまま自分の両頬を思い切り叩いた。痛そう。
「え、だ、大丈夫?」
「すっごく痛い! でも、これで覚悟決まった!」
目と頬を真っ赤にして叫ぶ姿はこの間の、雑貨屋で同じことをしていたソマリによく似ていた。やっぱり兄妹ともなると、気合を入れるための行動もそっくりになるらしい。
目を丸くしても無意識にルーシャちゃんへ手を伸ばす、治療しようとするアリスとは違って、僕はそんな呑気な感心を抱いていた。
治療の光が治まってすぐ、ルーシャちゃんはその場で忙しなく足踏みをし始める。そしてその体勢のまま、僕達に向けて勢いよく宣言した。
「あたし、戻るね!」
「戻るって、ソマリ達のところ?」
「うん! 戻って、覗き見したこと兄ちゃんたちにごめんなさいしてくる!」
「でしたら私たちも」
「アリス姉たちは駄目! 二人にも聞かれたって知ったら、兄ちゃんきっと恥ずかしくなって死んじゃうから!」
叩きつけるようにそう言ってから、ルーシャちゃんは返事も聞かずに駆け出して行った。足取りは子猫のように軽やかでその辺の探索者よりもよほど速い。さすが猫っぽい子、野性味がある。
距離も近いしあれだけ速ければ平気そうだけど、一応着くまでは気にしておこう。また危ない目に遭ったら大変だ。
爆速で走り抜けるルーシャちゃんの気配を確認しつつ、夕日に照らされるアリスの顔を覗き込む。心配そうかそれとも難しそうか。そんな顔をしてると思っていた僕の予想とは裏腹に、実際のアリスはとても穏やかな微笑みを浮かべていた。
不思議に思ったから、あとはもう一個他の質問もあったから、そのままアリスに聞いてみる。
「いいのかな? 僕達も謝らないで」
「心苦しいですが、私たちは胸にしまっておきましょう。明かさない方がよい罪も、世の中にはありますから」
「なんだか深そうな、それっぽい話。お説教みたいだね」
「こう見えて私、実はそういったお話に詳しいんです」
アリスはちょっとおどけた風に微笑んだ。デルファに来る前のことを考えれば詳しくて当然だから、これはきっと一種の『聖女』ジョークだろう。
珍しくアリスが昔のことを話してくれた、しかも冗談までつけてくれた。せっかくだから、ここは僕も乗ってみよう。
「聖教ってそういう訓練とかするの? 冗談とか芸とかそういうの」
「はい。教義として積極的に奨励していますし、各地の教会でも時々教室を開いています」
「えっほんとにしてるの?」
「『汝、隣人を愛せよ』という教えからの発展です。芸とは人を楽しませるためのものですから」
「へー。じゃあやっぱり、聖教って芸人さんの集まりだったんだ」
「そこまで言ってしまうと、さすがに語弊があるような気がしますね」
くすくすと笑い合って、お互いの顔を見て、ふと夕日の赤が強くなっていることに気がついた。こうなれば後は日も落ちるだけ。もうすぐ真っ暗に、夜になってしまう。約束の時間になってしまう。
「そろそろ急ごう。遅れちゃうかもだし」
「はい。一刻も早く、この事件を終わらせましょう」
そのために僕達はいつも通り手を繋いで、いつもよりちょっとだけ早足で歩きだした。
僕達はなんとか日が落ち切る前に目的地へ、とある大きな病院に辿り着いた。僕は怪我も病気もしないからまったく縁がないけれど、ここは結構な評判があるそう。近所の『癒やし手』ウィザさんが得意げに前教えてくれた。なんでも教え子が働いてるらしい。
そんな大病院の受付でユズリハさんから貰った手紙、紹介状のような物を見せると、すぐに案内の人が飛んできた。高そうな服を着た落ち着いた雰囲気の人。偉そうじゃないけど偉そうな人だ。その人に連れられるまま病院を進み、やがて奥まった部屋へ到着する。
部屋の前には武装した人、ヘーゼルさんの見張りか護衛の人達が二人立っていた。その人達にもさっきと同じく紹介状を確認してもらって、それでようやく病室に入ることが出来た。
護衛の人はついて来ない、扉を開くだけ開いて待っている。話を聞かれたら困るから、当然一緒に部屋に入るだろう護衛はなんとかしないと、なんてアリスとしていた相談は必要なかったみたいだ。
「ヘーゼル様、お約束されていたお二人が到着されました」
「ご苦労様。ゆっくり話をしたいから、君達は下がっていてくれ」
「……はっ」
その対策はヘーゼルさんがしてくれたらしい。ヘーゼルさんと護衛の人のやり取りでなんとなく伝わった。
扉が閉まり、改めて僕達はヘーゼルさんと対面する。そしてその相貌を見て、二人してぎょっとした。
「よくおいでくださいました。この度はこのような時間にご足労かけて申し訳ありません」
「……えっ。だ、大丈夫なんですか、その格好」
「ああ、気にしないでください。これは皆が大げさなだけですから」
そうは言うものの、ヘーゼルさんは心配になるのも当然の姿をしていた。
ぐったりとベッドに寝転んでいるし、目の下のクマはもの凄いし、しかも服から覗く肌は薄く弱く青白い。ついでに手足も細くひょろひょろで、僕じゃなくアリスが小突いても容易くへし折れそうだ。まさに満身創痍って言葉がよく似合う。
身体がぼろぼろだって聞いてはいたけれどここまでなんて。ついこの間見た時とはまったく異なる様子はさすがのアリスでも予想していなかったのか、二の句が継げないでいる。
まさかの先制攻撃でわたわたとする僕達にヘーゼルさんは平然と椅子を勧め、それから何でもないように本題を切り出した。
「さて、早速事件の顛末についてお話したいのですが、大方妹がある程度は既に説明しているでしょう」
「あっはい」
「ですのでお二人がお聞きしたいことを私が答える、という形でもよろしいでしょうか?」
こくこくと二人して頷いて、それからお互いに目を見合わせた。
僕達はいったい何を聞きたいのか、何を確かめるべきなのか。お誘いを貰ってから何日も経っているから、もうとっくの昔に相談は済んでいる。
だからそれを、まず最も確認すべきとアリスとオウル二人に言われたものを僕は口にした。
「これは、あの、直接事件とは関係ないことなんですけど。それでもいいですか?」
「もちろんです、何でもお聞きください。何でもお答え、お教えしますから」
「じゃ、じゃあ、僕とヘーゼルさん、昔会ったことありませんか? その、秘密基地、的な場所で」
ヘーゼルさんがトカゲもどきから戻った、寝顔を見た時に思ったこと。この顔、前にもどこかで見たことがある気がする。そんな気づきから思い出した記憶。
今よりずっとずっと前、まだ僕が森にいた頃の話。先生の目を盗んで魂喰み森林の端っこに、こっそり一人で遊ぶために秘密基地を作っていた時のちょっとした出来事。
長くなるから一言でまとめると、なんかぶっ倒れていたヘーゼルさんを介抱して、ついでに襲ってきた魔物達をその日の夕食にしたというだけのこと。
すっかり忘れていたことを踏まえた僕の問いかけに対し、ヘーゼルさんは劇的な反応をした。
いきなり飛び出しそうなほどに目を見開き、震える喉で深々と息を吐く。そしてまるで雷にでも打たれたみたいに一度大きく、びくりと跳ねるように身震いをした。
「思い出していただき光栄です、クロガネ様」
そして続けて、僕に向けて恭しく礼をする。
「く、クロガネ様?」
「以前お会いした際は御名前を頂戴出来なかったのですが、里の者を誤魔化すために失礼ながら私が仮名をつけさせていただきました。貴方の御師様であるシロガネ様の御名前、御姿に倣い、新たな守り神のクロガネ様と」
「えっと、それじゃあ、この街での僕の名前も」
「存じております。ご活躍のお噂や絵姿からもしやとは思っておりましたが、先日お会いした際に確信いたしました」
だからエリーさんの喫茶店で会った時、なんだか様子がおかしかったんだ。
納得して、次の質問を頭の中で用意する。けれどもそれは口から出す前に、先回りしたヘーゼルさんが宥めるような口調で答えてくれた。
「ご安心ください。誰にも、ユズリハにもシルヴァにもこのことは伝えておりません」
「あ、ありがとうございます」
もしも話をしていたら、なんだかんだで今頃デルファは大惨事になっていただろう。だからヘーゼルが本当に内緒にしてくれていたことは分かる。アリスの瞳も全然きらーんってしてないし。
とにかく予想通りヘーゼルさんは僕のことを、僕の正体を知っていた。だからこの場合、次はアリスの番。アリスに心配していること、ずっと疑っていたことを聞いてもらう。
「……それでは、私からも一つよろしいでしょうか?」
「ええ」
「先日エリーさんが襲われた件についてです」
「彼らの、襲撃者の処遇でしょうか? 彼らのために『聖女』の力を借りることは出来ないので」
「いいえ、そうではありません。私の問いは、別にあります」
一度言葉を区切り、一呼吸置く。それから凛とした眼差しでヘーゼルさんを見つめながら、アリスはあくまでも冷静な口ぶりで問いかける。
「彼らにエリーさんを殺めるよう指示したのは、貴方ですか?」
ヘーゼルさんの微笑みは微動だにしなかった。