自分をイケメンだと勘違いしていた俺、反省するも口説いてきた美女達が許してくれない。   作:恋愛を知らぬ化け物

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初初投投初投稿(はつはつとうとうはつとうこう)


焦り―――過ち?

 

俺と先生が今いる店は、かつて俺が先生を招待した店だ。

それまで俺のアプローチを軽くあしらってきた先生が、初めて言葉を失った場所でもある。

 

だから、俺と言えば、という発言に偽りはない。

彼女にとっても、印象が強い場所だろうから。

 

……だが何故、今ここに連れて来たのだろうか。

 

「いつものラーメン屋に行く物かと思っていました」

「それも悪くは無かったが、今日はディナーだからな。雰囲気のあるこの店の方が適していると判断した」

 

当然の事、みたいに言ってくるが、これまで何度も俺のディナーデートを一笑に付してきた女である。

今になって急に、なんて事は無いだろうし、多分そういう意図は無い。

 

それだけ『話』が大事なんだろう。

わざわざドレスにまで着替えて、気合十分のようだ。

 

「あ、そうだ。そのドレス」

「どうした?まだ褒め足りなかったか?」

「それを褒められる側が言いますかね。―――そうじゃなくって、一体どこで着替えて来たんですかって話ですよ」

「なんだ、わかっているものと思っていたが………下の階の一室を、予め取っていたんだ。ドレスはそこに置いていた物さ」

 

先生は軽い調子で語っているが、レストランの下にあるホテルは、一泊するだけで凄まじい料金がかかる。

わざわざ着替えるためだけに借りるなんて馬鹿馬鹿しい真似、流石にしていないと思うが………いや、酒も飲んでるし、泊まるつもりなのか。

明日は土曜日で、学校も休みだしな。

 

さっき店の入り口で待つように指示されたのはそういう事か、なんて思いつつ、水を飲む。

ノースリーブの黒いドレスを着た先生を見ていると、なんとなく緊張して、喉が渇いてしまう。

未成年と教師が夜に外食という『いけない状況』だから、だろうか。

 

「それで、話ってなんですか?」

「そう焦るな。まだ肉料理も来ていないぞ?───それとも、年上との会話は嫌か?」

「それを俺に言いますか?」

「お前だから聞いたんだ」

 

先生相手に口説くようなセリフを吐き、挙句はこんな高級レストランに招待した俺が、年上嫌いな訳ないだろう。

そう思って聞き返したが、先生は陰のある表情のままこちらを見つめる。

 

「嫌なワケ無いでしょう。嫌いだったら、こんな熱心に話しかけたりしません」

「………熱心に、か」

 

先生が呟くと同時に、ウェイターが料理を運んでくる。

目の前に置かれた分厚い牛肉に、つい感嘆の声を漏らしてしまう。

 

先生はそんな俺を軽く笑いつつ、肉を口に運んだ。

 

「食べながらで悪いが、そろそろ本題に入ろうか」

「……大事な話、なんですよね?」

「ああ。―――御堂」

「はい」

 

真っ直ぐにこちらを見つめながら、先生は躊躇う様に、ゆっくりと口を開いた。

 

「結婚に、興味は無いか?」

 

 

 

 

 

♡―――♡

 

 

 

 

 

田淵結、28歳。

彼女は今、窮地に立たされていた。

 

『―――あのね、結。私達も、そろそろ……ほら、歳が、ね?このままだと、もしもの時に手助けしてあげられないって言うか、寧ろ私達のお世話までしてもらわないといけなくなるっていうか……』

「………何が言いたいのかわからないな、ママ。けどちょっと疲れて来たし、そろそろ電話を切らせてもらうよ」

『そう?なら単刀直入に言うけど、いい加減結婚して孫を―――』

「うん、じゃあねママ。また今度」

 

無理矢理通話を終え、スマホを少し離れたベッドへと放り投げる。

淑女が出してはいけないような低く長い溜息を吐き出しながら、ミニテーブルの上に置かれた缶ビールを乱暴に掴み、思いっきり飲み干した。

 

「遂に来てしまった……!!親から結婚を催促されるアレが……ッ!!」

 

頭を抱え、絞り出すように声を発する。

その姿は普段の余裕ある彼女からは想像もできない程に切羽詰まっており、せわしなく右足を揺らしているせいで、ミニテーブルに置かれた空き缶が倒れ、転がり落ちた。

 

「確かに私の友達全員結婚したが。なんなら同級生、私以外全員結婚したらしいが。だからってそんな…………だ、だってまだ私は28ってもう28じゃないか!!アラサーじゃないか私!!」

 

ドンッ、と壁を叩かれる音が響く。

隣人からの「黙れ」のメッセージに少し落ち着きを取り戻した彼女は、親指の爪を噛みつつ現状を確認し始める。

 

「こうなったら元カレに復縁を―――いや待て、彼氏なんていた事無いな。告白は全部断って来たし、誰かに惚れるような事もこの歳になるまでは無かった。じゃあ婚活?あまりいい噂を聞かないし、出来る事なら辞めておきたい………それに、焦って適当な相手と結婚、は好ましくない。ていうか無理だ。私はそういう事を適当に済ませられる人間ではない」

 

普段は一人で居る時は寡黙な彼女も、この時ばかりは独り言が止まらなかった。

28年間、これほどまでに追いつめられた事が無かったのだ。無理も無い。

 

しばらくの間あーでもない、こーでもないと頭を悩ませていた彼女は、一度冷静になろうとタバコを手に取り、ベランダへ出た。

 

完全無防備な下着姿。深夜とはいえ、少し不用心過ぎる。

だが普段の彼女ならいざ知らず、今の彼女にそんな事を気にする余裕は無かった。

 

「………難しく考えすぎていたかもしれないな」

 

月を眺めながら、白煙を吐き出す。

 

「どうせ好きでもないヤツを適当に選んでも後悔するだけ。なら、私の今の気持ちに、素直になれば良い………が」

 

そうなると、と再びタバコを吸い、そして吐き出す。

 

自分の気持ちに素直になる。

自分の中の『女』に従う。

 

それは、つまり。

 

「―――アイツ以外、あり得ないな」

 

『教師』として、なにより『大人』として、誤った選択をするという事。

 

 

 

 

 

♡―――♡

 

 

 

 

 

なんとなく、最近よく告白されるようになったなぁ、と思った。

ほとんどが純粋な告白ではないが、それにしたって凄い。

惜しむべきは、勘違い野郎時代ではなく、今されているという事か。

 

自信を失い、広い視野を持つようになった俺には、告白の裏にある()()がわかる。わかってしまう。

 

例えば今の、告白まがいのセリフ。

エセホストの俺ならきっと、喜んで受け入れていただろう。

 

『貴方との結婚なら、喜んで。大人と子供、教師と生徒───そんなしがらみは、俺達の間には関係ない』

 

……なんて痛いセリフを吐きながら、先生の手を握ってみたりして。

 

だが冷静に考えてみよう。付き合ってもいない男に、それも今まで子ども扱いしてきた男に、いきなり求婚するだろうか?

 

「………それは、()()()()()()に捉えてしまって良いんですかね」

「あぁ。―――私と、結婚しないか?」

 

嘘を吐いている様子はない。それに、俺をからかうことの多かった彼女だが、こういう方向でのからかいは一度たりともして来なかった。

 

「その心は?」

「………親に、そろそろ結婚しろとせっつかれてな」

 

そんなことだろうと思った。

 

しかし、先生も相当追い詰められてたな。いくら親に言われたからって、付き合うとかそういう段階を踏むことなく求婚、それも俺を相手にだなんて。

 

「俺がいきなり『結婚しよう』って言われてうなずくタイプの男だと思ってたんですか」

「もしかしたら、とは思っていたが………流石に無理か」

「未成年ですし。それに、付き合ってもいない人とは結婚できませんよ」

「なら、まずは恋人同士に」

「俺は愛の無い交際に興味はありませんよ」

 

親に言われて仕方なく、なんて交際はお断りだ。

少し語気を強めて言えば、先生は気まずそうに口を噤んだ。

しかし何か言いたいのか、唇がムニムニと動いている。

 

「………愛は……その」

「別に良いですよ。先生が俺のことを生徒の一人としか見ていないことは重々承知しているんで」

「いや、そんなことは」

「あります。まぁ、それは別にどうでも良いんです。問題は」

 

言葉を切って、先生を指さす。

 

「俺なんかにわざわざ求婚するくらい追い詰められている、今の先生ですよ」

「御堂、お前は少し勘違いをしているようだが」

「申し訳ないですが、今の先生の言葉を聞く気はありません。冷静さを失って、視野が狭くなってる―――昔の俺と同じだ」

 

自分がイケメンだという勘違い()に浮かされ、間違った行動をとり続けた俺。

結婚を親に強いられ、年齢的にも焦りがあり、好きでもない男に求婚してしまった先生。

 

同じだ。見ていて、心が痛くなる。

 

「このまま手当たり次第に求婚し始めて、変な男に引っかかったりしたら目も当てられませんし……」

「私はそんなことは」

「します。っていうか、現にしたでしょ。そうでもなければ、俺に声をかける理由がない」

 

テーブルに両手を叩きつけ、立ち上がる。

肩を怒らせ、こちらを睨んでくる。

 

―――ほら、やっぱり冷静じゃない。

 

「他のお客さんに迷惑ですよ」

「………お前、どうした?」

「どうもこうも、元々俺はこんな感じですよ。―――まだコースは途中ですけど、出ましょうか」

「なんで」

「いや、人の目が」

 

先生が大きな音を立てたせいでこちらに視線を向けた客たちが、ドレス姿の女性と学生服の男が一緒に食事をしている、という状況を意識し始めたのか、ヒソヒソと話し始めた。

 

辺りを軽く見渡した先生は、小さく咳払いをして、荷物を整理し始めた。

 

「………下の部屋に行こう。まだ話さないといけないことがあるしな」

「構いませんけど、それ誰かに見られたら不味いんじゃ」

「ディナーを見られた時点で同じだ。―――行くぞ」

 

 

 

 

 

♡―――♡

 

 

 

 

 

「あの、先生」

「なんだ?」

 

レストランのあるフロアの、二つ下。

先生が取ったという部屋は、流石は高級ホテル、と言った豪華な部屋だった。

 

明らかに、複数人で泊まる用の。

 

「………いえ、なんでも」

「そうか。―――話の続きの前に、少しシャワーを浴びてきても良いか?」

「えっ、俺が居るのにですか?」

「………ここだと、汗の匂いがわかってしまうかもしれないだろう」

「あ、あぁ……えっと、じゃあ俺、適当に外で時間潰してるんで……」

「ダメだ。補導されるぞ」

 

そこまで遅い時間という訳でもないし、大丈夫だとは思う。

しかし先生の鬼気迫る様子を見ると、なんだか不安になってくる。

 

「はぁ、わかりました。ここで待ちます」

「そうしておけ」

 

先生の姿が見えなくなったところで、俺は深く息を吐いて、近くのベッドに腰かけた。

先生の荷物が置かれていない方のベッドだ。

 

「なんでわざわざベッドが二つある部屋取ってるんだよ先生……一人部屋にしとけよ、高いだろ」

 

スマホを取り出し、適当にSNSでも確認―――あ、PAIP。

 

【まだ外に居るの?二人とも心配してるよ】

 

送り主は舞。怒っているウサギのキャラクターが『はよこい』と言っているスタンプもセットで送られてきた。

取り敢えず「ごめん、まだちょっと掛かりそう」と謝ると、同じキャラクターが『は?』と怒っているスタンプが送られてきた。

 

いや、だからごめんって。

 

【もしかして、女?】

 

間髪入れず送られてきたメッセージに、軽く戦慄。

これが女の勘か、なんて思いながら誤魔化すようなメッセージを送り、強制的に会話を終える。

この時間に先生と二人って言うのは、流石に言えないからな。

 

そのまま静かにSNSに興じていると、シャワーを終えたらしい先生が、俺の前に立った。

顔を上げてそちらを見ると、彼女は何故かバスタオル一枚という無防備極まりない姿でそこに居て。

 

「うぉっ!?」

「―――すまんな、御堂」

 

両手を抑えられ、ベッドに倒される。

突然のことに目を白黒させている俺に、先生淡々と告げた。

 

「私は今から教師として、大人として、間違った事をする」

「い、いやいや、なんとなく言わんとしてる事はわかりますけど!流石に、それは」

「ここまで大人しく着いてきておいて、今更何を言う。わざわざドレスに着替え、酒を飲み、ホテルに連れ込んだ………何を意図しているかわからない程、お前はバカではないだろう?」

「そりゃ残念ですね、俺は相当バカですよ。先生に限ってそんな事は無いって思っていましたから」

 

やばいやばいやばいやばい。

ドキドキする。色んな意味で。

 

正直悪い気はしない。これはつまり、先生から求められているという事で。

少なくとも憎からず思ってもらえているという事の証明なわけで。

 

ただそれを受け入れるとなると、色々問題がある。

 

「先生、落ち着いてください。まだ話は終わっていないんですから、先に続きを」

「名前」

「………はい?」

「前は呼んでくれただろ、名前を」

「………まぁ、極稀に」

 

勘違い野郎時代の俺は、ここぞという時に名前呼びにしてタメ口にする、という攻め方を主に使っていた。

 

正直なんの意味も無いと思っていたが、先生はまさか、名前呼びを望んでいる……?

 

「今くらい、名前で呼べ」

「もしかして、かなり酔ってます?」

「うるさい。敬語もやめろ」

「―――わかったよ、結」

 

その言葉を聞くと、覆いかぶさっていた先生が渋々と言った様子ながらも離れていく。

その隙に乗じて脱出!―――なんて真似はせず、大人しく会話に応じる姿勢を取る。

 

 

これはまた、大変な事になりそうだ。

そんな嫌な予感をひしひしと感じつつ、俺は口を開いた。








こういうお色気シーン的なのって、見ている分には「良く耐えるなぁ」ですけど、自分が当事者だったらって考えたら手を出した時のリスクとかが頭を過って、結局耐える選択しかなくなりますよね。

え、僕だけ?
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