自分をイケメンだと勘違いしていた俺、反省するも口説いてきた美女達が許してくれない。   作:恋愛を知らぬ化け物

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バッドガール

 

突然現れ、ハルカさんを惨殺した謎の巨漢。その恐怖から逃れるべく、俺達は全速力で来た道を逆走し、ドアの開いた教室へと転がり込んだ。

 

「はぁっ、はぁっ―――くそっ、なんなんだよッ!!」

「ほ、本物……本物の、殺人鬼……?」

「あ!?ただの殺人鬼なわけねぇだろ!!………あの図体に、あの怪力だ。バケモンだよ、本物の」

 

ドアを閉め、机で簡単なバリケードを作り、一息つく。

だが磯垣でさえひどく混乱している状況。ただのお化け屋敷程度の認識だった時でさえ激しく取り乱していた磯垣弟と舞は、恐怖心だけで死んでしまいそうな程震えていた。

 

「どうする?リタイアするか?」

「それどころじゃねぇだろ!!バカか!?」

「そうですよ!人が……人が死んでるんですよ!?きっと、あのスタッフ達も………うぇっ」

 

人でなしを見るような目を向けられ、少々居心地が悪い。

まぁ、誰も気づいていないみたいだし無理もない。仮に気づいていたとして、ノリの悪いヤツに変わりはない。

 

………舞なんて、歯がガチガチ鳴るくらい震えてるし。そろそろ話すか。

 

「―――その事なんだけどさ。アレ、演出だよ」

「はぁ?」

 

何言ってんだコイツ、と言った視線が三つ、俺の体に突き刺さる。

 

ハルカさんが襲われて、そのまま惨たらしく殺された瞬間。飛び散った液体も、響いていた音も、全てが本物そっくりだった。

アレを見て、今更演出と言われたところで、信じるのは難しいだろう。

 

「多分、ハルカさんはスタッフの一人。驚かし役の人だ」

「そ、そんなわけ!」

「ハルカさんは俺達の前の挑戦者だって言ってたし、一緒に挑戦したのも女だけだったって言ってたよな」

 

立ち上がって否定しようとした磯垣弟の言葉を、意図的に遮る。

こういうのはさっさと言い切っておく方が良いのだ。

 

「おかしいんだよ。だって、俺達の前に並んでいたグループは、男女四人だったからな。それも、制服姿の」

「―――そ、そうだったか?」

「言われてみれば………磯垣さんが兄ぃに怒っていた時、こっちを見ていたのは高校生だったような……」

 

混乱、というよりは困惑か。俺の言葉を完全に受け入れ切ったわけではなさそうだが、しかし恐慌状態は脱したらしい。

 

ならば、と、敢えて大仰な手振りで―――勘違い野郎時代の俺に似た振舞いで、言葉を続ける。

 

「ハルカさんが殺される瞬間、体で隠れてどうなったのか見えなかっただろ?確かに音とかはリアリティがあったけど、多分そこも含めて演出。―――なにより、お化け屋敷には安全の為に監視カメラがあるはずだろ?ハルカさんがいる事は見えてるだろうし、ソレを無視して俺達の番を回すような事は、天下の絶望廃校様がやるとは思えないな」

 

三人が顔を見合わせ、代表するように磯垣が口を開く。

 

「………アタシらは、まんまと騙されたってか?」

「ま、そうなるな。―――ハルカさんは今頃、あの大男役の人と『大成功!』って笑ってると思うぞ」

 

実際どうなのかはさておき、ハルカさんが役者なのは真実だろう。

なんせ俺は、どんな細かな変化にも気づく事が出来る男。前に並んでいた人くらい、しっかりと覚えている。

 

ハルカさん殺害シーンは、何度も言うが凄まじかった。

最初からフィクションだと思ってみていた俺でさえ、本当に死んでいるのでは?と思わされるリアリティがそこにはあった。

 

それ故にか、一通り話した後でも二人の顔色は優れず、磯垣の訝しむような視線は変わらない。

だが、それでも「信じたい話」ではあったようで、一旦は飲み込んでくれたようだ。

 

「それに、この教室。2‐Bって、さっきは開いてなかっただろ?逆にさっき開いてた2‐Aが閉まってる。あの大男に『同行者』が殺されて、ソレを見て怯えて逃げ出す先が、次の目的地って訳だ」

 

実際俺達のように素直に教室へ駆け込む挑戦者が何人いるだろうか……とは思うが。

 

「ギミックが動いているのが、何よりの証拠ってか。―――確かに、また黒板になんか書いてんな」

「『図書室へ向かえ』………で、教卓の上には鍵の代わりに地図があって……」

 

現在地の上に指を置き、図書室へ向かって廊下をなぞる。

やはりというべきか、図書室へ向かうには家庭科室の前を通らなければならないらしい。

磯垣弟と舞が同時に嫌そうな声を漏らす。

 

「正直、リタイアするのも手だとは思うぞ」

「………ううん、大丈夫。兄ぃの話通りなら、命の危険はなさそうだし……家庭科室の方を見なければ、怖いのも少ないだろうし。ここまで来たなら、もうゴールまで頑張りたいかな」

「そっか」

「ほー。良い根性してるじゃねぇか。―――なぁ、いろは。お前も負けてられねぇよな?」

「うぅ、僕は全然帰りたいのに………」

 

嘆きつつも、リタイアした後の方が怖いのか、ボタンに触れるような事はしなかった。

 

恐怖心が帰ってくる前に進みたい、とのことで、俺達は早歩きで図書室への道を歩き始めた。

廊下は相変わらず何も無かったが、遠くの方から常に何かを引き摺っているかのような音が聞こえてきた。

音による恐怖演出は、絶望廃校の十八番だ。磯垣弟以外は、特に怖がる様子を見せない。

 

問題の家庭科室の前でさえ、特に驚かし要素は無く。強いて言えばハルカさんの死体が消えていたが、引きずるような音が聞こえていた時点で全員なんとなく察していた為誰も驚くことなく、ただただ嫌そうな顔だけして通り過ぎて行った。

 

―――そして、図書室へ到着した。

 

 

 

 

 

♡―――♡

 

 

 

 

 

「真っ暗で何も見えない―――って程では無いけど、かなり暗いな」

 

廊下よりもさらに数段暗い図書室。暗闇は人の恐怖心を否応なく煽るが、蓮司は今回が得意のスプラッタモノと理解しているからか、いつも以上に落ち着いている。

舞の手を優しく握りながら、躊躇することなく足を踏み入れる。

 

その姿を見て、ハルカの死で忘れかけていた怒りを思い出し、魅空が声を荒げる。

 

「さっきも言おうと思ってたけど、お前ら兄妹なんだよな!?」

「そうだけど」

「だったらその距離感はなんだよ!?手とか繋いだり………普通、そこまでくっついたりしねぇだろ!?」

「………まぁ、仲が良いとは自覚しているけど。でも割と普通なんじゃねぇの?」

 

少し考える素振りを見せつつ、蓮司は答える。

舞から好かれている、という事を抜きにしても、これくらい仲の良い兄妹はいるだろうと真面目に考えているため、その瞳に曇りは無い。

 

魅空は一瞬言葉に詰まり、何かを言おうとして、しかし口を噤んだ。

 

教室奥から聞えた、扉を乱暴に開き、閉める音。

本棚に隠れて見えないが、巨漢が入って来たのだ。

 

蓮司の話を聞いていても、恐怖心が完全に消えたわけではなく。

三人は咄嗟に、幸運にも目の前にあった巨大な机の下へもぐりこんだ。

遅れて蓮司が隠れ、全員で息を殺す。

 

「―――」

 

足音がゆっくりと近づいてくる。

それだけではない。同時に、何かが引きずられるような音も聞こえる。

 

何が引きずられているのか。

 

答えをなんとなく察していながら、敢えてソレを考えるような真似はしない。

ただ静かに、巨漢が立ち去るのを待つ―――つもりだった。

 

「ッ―――!?」

 

舞といろはが、声にならない悲鳴を上げる。

 

足音がすぐ目の前で止まったから?違う。いや、それもある。

だが彼女達が涙を流す程に恐怖した一番の原因は、引きずられていた物を目の当たりにしたせいだ。

暗闇に慣れてきた目が、ソレを鮮明に見てしまったからだ。

 

頭部が激しく損傷し、両手をだらしなく伸ばした、凄惨な死体。

―――ハルカだ。

 

唯一綺麗に残っていた左目が、彼女達を見つめる。

 

「いやぁあああああああッ!!!」

 

堪えきれずに叫び、舞が机から飛び出す。

同時にいろはも飛び出し、蓮司と魅空を置いて図書室の奥へ走り去っていく。

 

二人はすぐに追いかけようとしたが、先に巨漢が二人を追って歩きだした為に、動きを止めてしまう。

魅空については言うまでも無く、巨漢が殺人鬼である可能性を否定しきれずにいる為。

蓮司は純粋に、追いかけようにも巨漢が邪魔で通り抜けられないだろうと考えた為だ。

 

「行っちまったな……」

「命の危険が、とは言わないけど、怖がり二人だけだと心配だな………」

 

机から這い出て、同時に溜息を吐く。

 

「多分一本道だし、進んだら会える………と、思うけど」

「本当にあの野郎はバケモンでも殺人鬼でもねぇんだよな?」

「大丈夫だって。そりゃ100%とは言わないけどさ。ほぼ確実に役者だよ」

「………あー、でも気分が悪ぃ。さっさと追いかけんぞ」

「それは賛成」

 

図書室の中を軽く確認しつつ、二人と巨漢が向かった方へ進む。

家庭科室同様、ここは驚かしの為だけのゾーンだったらしく、ミッションの類は見つからなかった。

 

何も無いな、と話しつつ先へ進む最中、ふと魅空はある事に気づく。

 

(―――ん?今、アタシはコイツと、二人っきり………だよな?)

 

横目に蓮司の顔を見る。

普通の顔だ。平均より良いかと言われたらそんな事は無く、平均より悪いかと言われればそんな事も無い。

 

だというのに。本物の可能性を排除しきれない怪物に弟が追いかけられている最中だというのに。

心臓が跳ね、頬が急速に熱を帯びてしまう。

 

(お化け屋敷を、二人で並んで歩くって―――これ、これって……!!)

 

「で、でで……デートじゃねぇか……!!」

「え、いきなりどうした?」

 

蓮司と舞を無理矢理同行させたのは、純粋に『蓮司が他の女と二人で遊んでいる』状況が不愉快だったからであって、決してデート気分で誘ったわけではない。

要するに、覚悟も何もできていなかった。

 

以前からその片鱗は出ていたが、磯垣魅空は恋愛に関しては非常に疎く、初々しい。

手を繋いで歩いているカップルを見て、破廉恥な、と思ってしまう程には初心だ。

 

そんな彼女が、今自分が絶賛デート中だと意識してしまったら。

 

(やべぇっ、コイツの顔、見れねぇ……!)

 

「な、なんでもねぇよ!!一々変な事気にしてんじゃねぇぶん殴るぞ!」

「ノールックノーモーションで拳振り抜きながら言ってんじゃねぇよ!?」

 

文句を言いつつもしっかりと躱し、息を吐く。

頑なに自分の方を見ようとしない魅空を訝しみつつも、特にそれに触れる事は無い。

 

「―――そうだ、磯垣」

「なっ、なんだよ」

「結局、言おうと思って言えてなかったからさ。誤解の話。せっかく二人きりだし、今のうちに訂正しておこうと思って」

 

しばらく無言で何もない廊下を歩いていた二人だったが、なんの前触れもなく蓮司が口を開く。

 

恐らくは引きずられていたハルカのモノであろう血痕が、段々と薄れてきた。

 

「俺さ、別にお前の事が好きなわけじゃ無いんだ」

「………は、はぁ?何言ってんだお前。アレでアタシが好きじゃ無いって、どうしてそうなるんだよ」

「色々解くべき誤解はあるけど………一番は、お前の宣言を知らなかったって話だ」

「宣言?」

「アタシはアタシより強いヤツにしかー、ってさ。悪いけど、お前に言われるまで全く知らなかったんだ」

 

逸らしていた視線が、再び蓮司の方へ向く。

 

「じゃ、じゃあなんでアタシに勝ったんだよ?」

「逆になんでわざと負けるような必要があるんだよ。悪いけど、勝てたから勝ったってだけだ。特に理由はねぇ」

「じゃあ、アタシに可愛いとか言ってきたり………ぱっ、パンツを凝視したりしたのは……?」

「褒め言葉は恥ずかしがらず、惜しまずに言う様にしてるってだけ。そんでその、パンツの件は……いや、アレは不可抗力というか、男なら絶対に引き寄せられる引力があったっていうか………」

 

魅空の足が止まる。遅れて足を止めた蓮司が振り向くも、俯いているのと薄暗いのとで、表情がわからない。

ただ、今の話がどういう意味であれ彼女を不快にさせる内容だった事はわかっているので、すぐにフォローしようと口を開く。

 

………が。

 

「ま、まぁ。誤解させるような事をした俺にも問題があった訳だしさ。別に好きな人とかいないし、そのせいで勘違いされない様にーとかそういうのがおざなりだったっつーか。だからー」

 

どういうフォローが正しいのかわからない上、そもそも自分がフォローする余地があるのか自信がない以上、碌な言葉が出て来るはずもなく。

 

たどたどしく言葉を発する蓮司の胸倉が、乱暴に掴まれた。

 

「―――え」

 

だが、蓮司が目を丸くしたのはそれだけが理由では無く。

魅空自身が、困惑したような表情をしていたからだ。

 

「わ、悪ぃ。別に、怒るような事じゃ無かった。アタシが早とちりしてたってだけで………」

「い、いや。俺にも一応、非はあったし」

 

咄嗟に掴みかかってしまった事に、本人が一番戸惑っている。それだけでは無く、しおらしく謝罪してくる。

彼の知る魅空に、彼女の知る自分に、あるまじき行為だった。

 

(別に、コイツがアタシの事をどう思っていようと関係ないだろ。好かれてねぇなら、寧ろ変に意識しなくって良くなるし。それで終わりで良い―――はず、なのに。なんで今、すっげぇヤな気分になったんだ?モヤモヤして、ズキズキして………)

 

気まずい沈黙に、耐えかねた蓮司が移動を再開する。

魅空はその少し後ろを歩きつつ、先程の自分の行動と、去来した感情について、無言で考え始めた。

 

早とちりも勘違いも、何度もしてきた。それを指摘される事も、多々あった。

だが、それに対して反射的に手が出るなんて初めてだし、照れ以外の感情を覚えるなんて以ての外だった。

 

(相手がコイツだったから?早とちりの内容のせいか?それとも―――)

 

磯垣魅空は、自分を女らしさとは縁遠い人間だと評価している。

がさつで粗暴で、直情的で短絡的。何かあればすぐに暴力で解決を図るし、その力は大人数人がかりであっても跳ねのける程。

向けられる視線は恐怖か、或いは羨望か。それだけだった。

 

他者からの評価は、自己評価にも強く影響する。

まして魅空の場合、幼少期からずっとこんな生き方をしてきたのだ。

 

気に入らないことがあればすぐに手を出し、捻じ伏せて我儘に生きる。

それが磯垣魅空だった。

 

―――故に、敗北も、年ごろの少女としての扱いも、受けたことが無かった。

 

無論、蓮司からすればかなり雑な対応なのだが、彼女からすればそれでも十分だった。十分過ぎたのだ。

 

(………いや、そうか)

 

扉の空いた教室を見つけた蓮司が、魅空の方を向く。

声をかけるついでの、特に意味のない行動。

 

(逆だったんだ)

 

じっと彼の方を見つめていた魅空と、視線が交差する。

そして再び、彼は瞠目した。

 

(コイツがアタシを、じゃ無くって)

 

たった一度の敗北から、どうにもその存在が頭に残って消えなかったのも。

妹と遊びに来ていた所を、強引に連れ込んだのも。

好きじゃ無い、と言われた事に、強いショックを受けてしまったのも。

 

何より、自分を好きだという事にしてしまいたいと、そう思ってしまったのも。

 

(アタシがコイツを、好きだったから―――)

 

潤んだ瞳に、熟れたリンゴのように真っ赤な顔。

それはまさに、恋する少女の姿だった。

 

当然、肝心なところで鈍感な蓮司が彼女の心中を察する事は無い。

だがそれでも、己の想いをようやく自覚した魅空に、確かに目を奪われた。

 

ここがどこで、今どういう状況なのか。

全てを忘れて無言で見つめ合っていた二人が我に返ったのは、遠くから舞のものと思しき悲鳴を聞いた時だった。







滅茶苦茶に待たせてしまって申し訳ございませんでした。
すっごく、もうすっごく難産で、その上今回でお化け屋敷終了のつもりだったのに終わらせられませんでした。
話を綺麗にまとめるって難しいですね………。

因みに絶望廃校のモチーフはコープスパーティーです。僕が一番好きなホラーゲームその1です。その2は廃深。

アンケートのご協力、ありがとうございました!
心理描写全員分の後で良い、という意見が一番多かったので、もうしばらく後にします。
また、キャラ設定だけ更新されるとー、みたいな意見も頂いたので、出すときはちゃんと話の続きも出しながらにしようと思います(予定)

できたら良いな。

ヒロインの設定資料的なヤツ

  • すぐにでも欲しい
  • ヒロイン全員の心情描写やってからで良い
  • 正直要らない
  • ヒロイン以外の情報も含めて欲しい(早)
  • ヒロイン以外の情報も含めて欲しい(遅)
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