自分をイケメンだと勘違いしていた俺、反省するも口説いてきた美女達が許してくれない。   作:恋愛を知らぬ化け物

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突撃!―――まさかの!?

 

「はぁ~………」

 

気の抜けた声と共に、ゆっくりと湯船に沈んでいく。

一番風呂の特権ともいえる突き刺すような熱さを噛みしめながら、俺は天井を仰いだ。

 

―――放課後。一人で帰ろうと影を薄くしていた俺に、珍しく男子が声をかけてきた。

 

険しい表情のソイツは、松来と良く一緒に居るヤツで………まぁ、遠回しに色々と言ってきたが、端的な話『三宅は松来が狙ってるからお前は手を引け』との事だった。

 

なるほど。あの殺気はソレでか、と納得すると同時、面倒な事になったな、と嘆息した。

 

俺は全員の記憶から消え、新しい人生を歩もうと画策し、その作戦を実行している真っ最中。

恋敵だなんて、意識されてなんぼ、記憶されてなんぼの損な役回りをする訳にはいかないのだ。

 

「説明しても聞く耳持たないし。色々立て込んできたな………」

「入るよー」

「はぁ、俺の平穏はどこに―――は?」

 

独り言にかぶせるように、聞こえないはずの声が聞こえる。

思わず目を開けると、今まさにドアを開け、舞が入ってくる瞬間だった。

 

タオルで隠しているが、何ともまぁ無防備な姿である………ってオイ!?

 

「いやいやいやいや!!なんで入ってくんの!?」

「一緒に入りたいから?」

「その理屈が通るような歳じゃねぇだろ!!」

「えー?」

 

俺の叫びも虚しく、ペタペタと足音が近づいてくる。

俺が顔を背けているのをいいことに、シャワーまで浴び始めた。いや、コイツの場合、顔を背けていなくても堂々とシャワーを浴びたことだろう。そんな気がする。

 

「じゃ、湯船入るからスペース空けて」

「空けるか!同じ浴槽に入って良いとでも思ってんのか!?」

「ふーん。兄ぃは上に乗って欲しいんだ?」

「………」

 

質問に答える代わりに、体を縮める。舞は「よろしい」なんて言いながら躊躇なく入り、気の抜けた声を発した。

見ていないが、さぞ愉快そうな表情をしていた事だろう。今の「よろしい」はそんな声だった。

 

「で?なんで急に入ってきたんだよ」

「だから一緒に入りたいからだって。さっきも言ったじゃん」

()()()?」

 

敢えて舞の方を見て、語気を強める。すると舞は露骨に視線を逸らし、そしてすぐ観念したように息を吐いた。

 

「………なんでわかるのさ」

「お兄ちゃんだから」

「理由になってない。―――って訳でも無いか。兄ぃだもんね」

 

なんか違う受け取られ方をしている気がするが、特に訂正する事は無く。

舞は俺に背中を向け、ぽつりと語り始めた。

 

「………今日、さ。友達と………喧嘩、しちゃって」

「喧嘩、ねぇ」

「うん。ま、名前は言わないけどさ。その子と私、結構仲良いっていうか、波長が合ってる?って感じの仲で………友達の中でも、割と特別な感じっていうか」

 

いつに無く小さな声に、静かに相槌を打つ。

 

「仲良くなったの、割と最近だったんだけど。それでも、昔っから友達だったみたいにさ。一緒に居て楽しいし、気が楽だったの」

「そんな子と喧嘩しちゃった、と」

「………うん」

「なんで喧嘩したのかは、聞かない方が良いか?」

「………ダメ」

「なら聞かない」

 

換気扇の向こうから、救急車のサイレンが聞こえてくる。

家の前を通ったのか、結構な音だ。話すのに支障をきたす、という程でも無いが、自然と無言になってしまう。

 

完全に音が聞こえなくなった所で、舞が再び口を開く。

 

「色々あって、言い争いになって………酷い事、いっぱい言われて、言って………そのまま、喧嘩したまま帰ってきちゃった」

「なるほど?」

「最初はさ、やっぱ怒りの方が勝ってたっていうか、あんな言うこと無いじゃん!としか思ってなかったんだけど…………落ち着いてくると、結構酷いこと言っちゃったな、って。このまま、ずっと仲直りできないで、そのままなんじゃ無いかなって………」

 

言い終わると同時に、泣き始める舞。声を押し殺してすすり泣く姿は、何とも弱々しい。

 

なんで入ってきたのか、の答えにはなっていないような気がするが、まぁ良い。大方一人で居ると色々考えて不安になるからーとかそういう話だろう。

今日は父さんも母さんも帰りが遅いし、俺以外に甘えられる相手がいないからな。

 

「喧嘩とやらの内容を知らない以上、俺からは何も言わない。けどまぁ、一緒に居るくらいなら、別に良いよ。―――けど流石に風呂はダメだ。まぁ、今後も妹として扱われたいって言うならそれでも良いけど」

「それはヤダ!!」

「………おう、そうだろ。じゃあさっさと出―――」

 

食い気味に否定され、なんとも言えないむず痒さを覚えつつも、それをおくびにも出さずに出口を指差す。

舞は俺の言葉を遮るように勢いよく立ち上がり、体を隠そうともしないで出ていく。何とも色気の無い姿に、思わず笑ってしまった。

 

「………俺も、さっさと上がってやらなきゃな」

 

 

 

 

 

♡―――♡

 

 

 

 

 

 

「へー。兄ぃの学校、もうすぐ文化祭なんだ」

「もうすぐって言っても、まだ一か月はあるけどな」

 

御堂家は、両親の帰りが遅くなるとわかっている場合、必ずカレーが用意される。

今日も例に漏れず大鍋いっぱいのカレーが置いてあったので、二人揃っていただくことに。

 

食べながら、舞の気が紛れるようにと色々話題を振ってみた所、紅明祭の話に興味を持った様子。

気を抜くと愚痴メインになりかねないな………なんて思いつつ、取り敢えず事実だけを言ってみる。

 

「ただ、色々あって実行委員になってな。クラスをまとめたり、生徒会との橋渡しをやったりするらしい」

「あー。兄ぃなら大丈夫なんじゃない?生徒会の人達と仲良いでしょ?特に生徒会長さん」

「………なんで知ってんの?」

「兄ぃの交友関係は全部知ってますので」

「なんでだよ」

「妹だから」

 

なんだかどこかで聞いたような返しに、思わず口を噤む。

舞はそんな俺を見て自慢げに鼻を鳴らし、続きを促す。

 

「それで?そんな言い方するってコトは、何か実行委員だと面倒な事があるみたいに聞こえるけど」

「まぁ、な。実行委員だと、って訳でも無さそうだけど、先行きが不安になるような事が一つ」

「何々?」

「………俺と一緒に実行委員やる事になったの、三宅っていう女子なんだけどさ。その幼馴染の男子が、三宅を好きみたいでな」

「なるほど、三角関係だね」

 

三角というには三宅からの矢印が不明瞭なのだが、その捉え方で良いだろう。

何故かキメ顔の舞に頷きながら、水を手に取る。

 

別に、敵視される分には良い。というか仕方ない。

女子とあらば手あたり次第に口説くような男が、自分の好きな子と同じ役職に………なんて、何とも思わないでいられるヤツの方が稀有だ。ってかいるのかそんなヤツ。

 

ただ、弁明の機会が無いのが辛い。

松来の友人でさえ、三宅との間に何もない事を説明しても聞く耳を持たなかったのだ。まして本人なんて、もっと通じないだろう。

そもそも会話に応じてくれるかも怪しい。そんなレベルの殺気を向けられていた。アイツ、カラッとした性格に見えて存外重い男だったらしい。

 

「だからなんだ、って話ではあるけど。気まずいは気まずいだろ?それで少し憂鬱って話」

「なんかそれだけじゃ無さそうだけど………ま、良いや。それより兄ぃのクラス、何やるか決まった?」

「あぁ。お化け屋敷になった」

「お、お化け屋敷」

 

頬を引き攣らせながら復唱し、顔を背ける。

きっとその脳内では、あの地獄廃校がリフレインしているのだろう。

実際怖かったからな、アレ。グロい(そういう)の得意な俺でもかなりビビったし。

 

「そんな戦々恐々としなくても、普通のお化け屋敷になると思うし大丈夫だぞ。ってか、あの地獄廃校が特殊すぎただけで、普通はあんなグロくないから。あと高校の文化祭でやるお化け屋敷だからな?そんな大したモノにはならないって」

「でも兄ぃがやるんでしょ?」

「別に俺が参加した所であのレベルのモノは作れないからな?」

 

イケメンたるもの~とか言って色々やってきた俺だが、流石にお化け屋敷制作の経験は無い。いや、あったとして地獄廃校(日本一)と同等のモノを作れるわけが無い。俺以外が未経験の学生なのに変わりないし。

 

だが舞は「またまた~」とだけ言って、テレビに視線を向けた。どうやら俺が謙遜したのだと思っているらしい。

訂正しておこうかと思ったが、意識が完全に向こうに向いてしまった為、諦めて食事に戻る。

 

やっぱ母さんの作るカレーは最高だな………。舞の為に甘口にしてるせいで若干物足りないけど。

 

「あ、ツバサちゃんだ」

「ツバサ?」

「知らないの?今話題のアイドルだよ。歌上手くて、ダンス上手で、すっごいビジュが良い」

「別に知ってるけど」

 

ツバサ。本名を一星(いちぼし)(つばさ)。今をときめく高校生アイドルだ。

元々とあるアイドルグループのメンバーとして活動していたが、頭一つ抜けた実力と美貌から人気が一極集中してしまい、デビューから僅か三か月で個人での活動にシフトする事になったという異例の経歴を持つ。らしい。

 

正直あんまり詳しくないが、彼女の歌とダンスは何度も見たし聞いたので知っている。

それに、実は何度か会ったことがあるのだ。それもイベントとかライブとかではなく、プライベートで。

 

と言っても、迷子になってるのを助けたりした程度なんだけども。

 

「やっぱ歌上手いね、ツバサちゃんは。私もうすっかりファンになっちゃったよ」

「え、ファンだったの?」

「そりゃもう!ツバサちゃんのパフォーマンスを見てハマらない人はいないよ!(もみじ)ちゃんだって―――っ」

 

立ち上がり、身振り手振りを交えて語ろうとしていた舞だったが、『椛ちゃん』とやらの名前を出してしまったせいか、表情を歪ませて座ってしまう。

 

なるほど。その子が喧嘩しちゃった相手か。

確かに知ってる。何度か話したこともあるな。

 

画面の向こうのツバサが、悲しみを押し殺しているかのような表情を浮かべながらこちらに手を伸ばす。

そういう振り付けというだけなのだが、歌声に込められた切実さも相まって、グッと引き込まれる。

歌詞の内容が、ちょうど舞と椛ちゃんとの関係を示すようなモノだったのもあるだろう。

 

大事な友達同士だった二人が、何気ない事で喧嘩して、そのまま………と、ストーリー性の高い曲。アイドルの曲か?と思わなくも無いが、これが彼女の曲の中で一番人気というのだから不思議である。

 

舞と椛ちゃんの方は、この曲みたいに悲しい末路を迎えないで欲しいモノだけど………。

 

「………無責任かもしれないけど、大丈夫だと思うぞ。なんで喧嘩したのかは知らないけど、椛ちゃんだってもう怒ってないで、舞と同じ不安を抱えてるかもしれないし」

「………そう、かな」

「原因がわからないから強く言い切れるわけじゃないけど、怒りってのは大体長く続かないから。事実、お前も怒りが収まったから不安になってるわけだろ?」

「………うん」

「なら、向こうもそうなってる可能性は大いにある。似た者同士だしな」

 

喧嘩の理由さえわかれば、もう少しちゃんとしたアドバイスが言えるんだけど………まぁ、言いたくないらしいし仕方ない。

それに、今のでも結構落ち着いてくれたみたいだしな。

 

今にも泣きだしそうな表情から一転、普段通りの舞に戻ったのを見て、ほっと一息。

ただ不安定な事に変わりは無いし、何かダメ押しに気を紛らせる何かを―――なんて考えて、ふとテレビを見る。

 

曲はまだ終わっていない。この番組は回転率重視で、どの曲も基本的には一番で終わらせられるのだが………彼女の人気度合いを鑑みたのか、まさに二番のサビに入った所だった。

 

彼女の歌声に、一つ思いつく。

 

「よし。じゃあ今度、ツバサのライブに連れてってやろう」

「え、良いの!?っていうか行けるの!?チケットの倍率、すっごい高いけど」

「多分大丈夫。向こうが覚えててくれればだけど、招待席に呼んであげるって約束してもらってるから」

「へー、招待席。なら安心だね」

 

舞も最後の一口を食べ終え、食器を片付けようと立ち上がる。

そして何を思ったか手に持った食器を全てテーブルに戻し、大きく息を吸い込んで―――

 

「―――はぁああああああああッッ!!?」

 

俺の耳は、死んだ。






花粉症が辛すぎるこの季節。
課題が重なりまくってさぁ大変という時に、何故か新作のアイディアばかりが湧いて出る。
我ながら、なんと都合の悪い頭をしているんでしょうか。


因みに舞と椛ちゃんの喧嘩の理由は蓮司にあります。この男、いい加減に刺された方が良いのかもしれない。
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