自分をイケメンだと勘違いしていた俺、反省するも口説いてきた美女達が許してくれない。 作:恋愛を知らぬ化け物
―――私には、好きな人がいる。
♡―――♡
「………
舞の尋問は深夜まで続いた。別にそんな語るような事も無いのに深掘りしようとし続けるもんだから、時間だけかかった。
あまりの眠さに欠伸と愚痴じみた一言が溢れるが、だからと言ってさっさと帰って寝ようとは行かない。
なんせここは会議室。今は各学年、各クラスの文化祭実行委員が一堂に会し、話し合いをしている真っ最中なのだ。
「それでは、実行委員長は東野さんにお任せする事となります。よろしければ、皆さま拍手をお願いします」
パチパチパチ………。
控えめな拍手に祝われながら、二年生の先輩が喜色満面に頭を下げる。
まぁ、内申点の為にはしっかり成功させなくてはいけないのだろうが、ここで堂々と手を挙げられる人が変なミスをしでかすとも思えないし。俺達木っ端役員は彼の指揮に従って粛々と働いていれば良いだろう。
委員長が決まれば、代わりに進行を務めていた生徒会長もお役御免となるわけで。彼女は東野先輩にマイクを手渡すと、そのまま自分の席に座り、ほっと一息吐いた。隣の副会長が、労いの言葉と共に飲み物を差し出している。
「では、まずは各クラスの出し物を―――」
意気揚々と進行を始める東野先輩を尻目に、つい数十分前の『紅明祭準備』で決定した、出し物の細かな情報を改めて確認する。
使用申請を出す教室は、第一希望が音楽室。第二希望が視聴覚室。第三希望が第二講堂。どれも普通の教室の二倍近い広さを誇る教室で、その上防音性が高いため、お化け屋敷にピッタリだ。
既にテーマも必要な品もほとんど決まっているので、予算案も完成している。
我がクラスの事ながら、まだ二日目なのにスムーズすぎやしないか?
まぁ、その分設営とかの準備に相当な時間と労力がかかりそうなんだけど。松来が『やるんなら超本格派のお化け屋敷にするしかないっしょ!』とか言って盛り上げちゃったからな。『学祭とかダリ~』って感じだった連中でさえ、その一言で気合十分になっちゃったし。
多分ウチのクラスが学年で一番燃え上がってる。間違いなく。
………でも松来のヤツ、なんであんなハイテンションになってんだろ。
そうこう考えている内に、全学年、全クラスの出し物が発表され、ホワイトボードに書き連ねられた。考えている内にとは言ったが、俺のクラスの分は俺が発表したので、そこまで他人事という訳でも無い。
へー、西城のクラスはカジノか。アイツがディーラーやったら凄い人気出そうだな。スーツ姿もバニー衣装も何でも似合うだろうし。
生徒会長の所は焼きそばか。鉄板の上でヘラを振るう生徒会長―――こっちはあまりイメージできないというか、似合わなそうだ。
「では各クラス、希望する教室の申請書類を提出してください。その後、すぐに抽選を行います」
「ね、御堂君」
「どうかした?」
「三回抽選に落ちたら、どうなっちゃうんだろうね?」
「うーん………流石に何かしらの配慮というか、便宜は図ってくれると思うけど………場合によっては狭苦しい中でやらないといけなくなるかもね」
ヒソヒソと話しかけてくる三宅に返答しつつ、書類を前に回す。
狭苦しい中でやらないといけなくなるかもしれない、なんて言ってみたモノの、他クラスの出し物を見た感じ、俺達と希望する教室が被っているクラスはほぼ無いと思うし、きっと大丈夫だろう。
………いや、これがフラグになったら困るな。黙っとこ。
「集計終わりました。えー、まず第一希望に被りが無かったクラスを発表します。一年三組、二年二組、二年四組、三年一組。以上四クラスは第一希望の教室で申請が受理されました」
「被り無しだって!良かったぁ」
「ははっ。確かに、なんかちょっと安心したかも」
言い忘れていたが俺のクラスは三組だ。西城が二組で、生徒会長は二年三組。
抽選に参加する生徒達を尻目に、特にすることも無い俺達は適当に雑談をして時間を潰す。と言っても今後のクラスでの予定や実行委員の仕事内容(先生から教えられたモノ)の再確認なんかが殆どで、世間話は無かった。
「―――では、これで今日の会議でやるべき内容は終わりですね。最後にですが、次回はオープニングムービー及びエンディングのアイディア募集、並びに司会の募集を行いますので、ある程度考えておいてくだされば助かります。―――本日は以上です。お疲れさまでした」
司会、ね。―――うん。絶対やんない。流石にこっちは目立つどころの騒ぎじゃないからな。
「司会って、男女二人ずつの計四人らしいけど。………えっと、御堂君は、やっぱり立候補するの?」
「いや、しないかな。―――その。実をいうと、実行委員ってだけで責任重大な気がして、割といっぱいいっぱいでさ。これ以上慣れない事に挑戦して、総崩れになったら目も当てらないし。やめておこうかなって」
「そっか。確かにそうだよね。私も立候補とかはやめておこうかなー」
「―――あら、本当によろしいのですか?」
会議室を後にする生徒の波を抜け、テーブルの反対側に座っていたはずの生徒会長が、いつの間にやら俺達の下まで来ていた。
相変わらずの
「せ、生徒会長さん………」
「こんにちは。貴方は確か………えっと、どちら様でしたっけ」
「は、はじめまして、こんにちは。み、み、
「三宅さん、ですね。はじめまして。そんなに緊張なさらないでください。生徒会長と言っても、所詮は貴方と一つしか歳の変わらない一生徒に過ぎないのですから」
柔和な笑みを浮かべる生徒会長に、しかし三宅は強張ったまま。愛想笑いを何とか浮かべようとしているが、口元が引き攣っているだけにしか見えない。
………そう。この生徒会長、カリスマオーラと言うべき独特の雰囲気のせいで、大抵の人間は蛇に睨まれたカエルみたいになるのである。
別に、嫌われているという訳ではない。むしろ逆だ。二年生になってすぐに生徒会長を任せられるほどに、彼女は全校生徒に愛されている。
ただ、真正面から相対すると、呑まれてしまうのだ。その雰囲気に。
ちなみに、今は俺も気まずい。
花火大会以来、生徒会長と会っていなかったからだ。あの重苦しい雰囲気と、有無を言わさぬ攻撃的な笑みが彼女の最後のイメージだったからだ。
見たところ、普段通りの彼女ではあるが………大方、あの日の話をしに来たのだろう。
「こんにちは。生徒会長」
「こんにちは、御堂君。立候補するとは思っていましたが、実行委員になれたのですね。もし困った事があれば、是非頼ってくださいね。先輩として、色々お手伝いしますので」
「はははっ。ありがとうございます。生徒会長も、実行委員を?」
「はい。文化祭実行委員は他の委員会活動と兼任可能ですから。人を導く仕事を積極的に行うようにと、お父様にも言われていますし。当然、私がそうした立場を好んでいるというのもありますが」
実際、生徒会長以上に『人の上に立つ』のが似合う人は、この学校には居ないだろう。
俺の隣に腰掛けた生徒会長は、咳払いを一つして、本題に入ろうとする。
―――さて、一体どんな事を言われるやら。
「話は変わりますが、御堂君。これを聞くために来たのですが………。ツバサ、というアイドルの方をご存じですか?」
「……………。ツバサ、ですか」
予想を外れた問いかけに―――そしてその内容があまりにタイムリーであった事に、思考が停止する。
なんで急にその名前を?と考え込む俺の代わりとばかりに、三宅が口を開いた。
「私知ってます。っていうか、今時知らない人いないんじゃないですか?」
「そうですね。あまり芸能に詳しくない私でさえ、彼女の名前と曲は知っていたくらいですし。愚問でしたね」
「………まぁ、愚問かどうかはさておいて。知ってますよ、俺も。ただ、どうして急にツバサの話を?」
「その事なのですが………三宅さん、申し訳ないのですが、少し離れていてもらえますか?」
「私が聞いたら、ダメな話なんですか?」
「恐らく………?」
生徒会長も生徒会長で、なんだかよくわかっていない様子。しかし渋る理由も無いのか、三宅は言われた通り俺達からほんの少し距離を取った。内緒話なら、聞こえる事は無いだろう。
でも、本当になんの話をしようとしているんだ?
「実は―――」
生徒会長が耳打ちしてきた言葉に、俺は思わず叫んだ。
「―――はぁああああああああッッ!!?」
♡―――♡
「ふぁあ………」
「お疲れ様。今日の仕事はこれで終わりよ。ただ、明日も早いから、今日はこのまま帰って休むのをお勧めするわ」
「………ん」
ソファに横になり、疲労困憊した姿をマネージャーに見せる深紫色の髪の少女。
ツバサ―――今や知らない者はいないとすら言われる程の知名度と人気を誇る彼女は、油断しきったその姿すら、目を焼かれてしまうかのような
「ね。来月の、アレ。オッケーもらえた?」
「まだよ。昨日の今日でもらえるわけないでしょ。向こう、かなり混乱してるわよ。ギャラ交渉どころじゃないレベルね」
「えー。もっと『お願い』『いいよ』くらいのノリだと思ってたんだけど」
「あのねぇ………」
目が疲れているのか腕で顔を覆いながら話す翼に、マネージャーは作業の手を止め、体を彼女の方へ向けた。
「あなた、自分がどういう人間か自覚あるの?トップよトップ。トップアイドルなのよ?全盛期のKasumiにさえ引けを取らない、若手の頂点なのよ?そりゃあ、あなたがその辺の木っ端アイドルだったら今回の申し出も全然あり得ない話じゃないし、向こうも変に混乱したりしなかったでしょうけどね。あなた程の有名人が『文化祭でライブやらせてもらえませんか』なんて、普通送ってこないのよ。いくら天下の帝黎高校でもね」
「………あそこ、かなり有名だけど」
「確かに有名よ?だけど今のあなたが頭を下げるような相手じゃない。言い方は悪いけど、高校の文化祭
溜息交じりのそのセリフが、果たして通じているのかいないのか。
多分後者だな、と、無防備にへそを出してソファの上を蠢く翼を見ながら、彼女はさらに溜息を吐いた。
思えばこの子の面倒を見るようになってから、溜息が増えた気がする―――そんな事を考えながら、再びパソコンと向き合う。
「でもさ。もう三か月以上会ってないんだよ。蓮司と」
「………それ、本当に外で言わないでよ。スキャンダルにもほどがあるわ」
「別にいいじゃん。今時、アイドルの熱愛報道なんて珍しくも無いよ」
「だーから自分の人気をちゃんと鑑みろって言ってんのよ!!あなたとその蓮司って子の関係がすっぱ抜かれてみなさい!『悪夢』の再来よ!アイドル人生、即終了だわ!」
「………だから、私は元々アイドルに興味はなかったって」
「知ってるわよ。でも、今はアイドル。多くのライバルをその才能と努力で踏み潰して突き進んできた、カリスマ中のカリスマ。それが、アイドルになる気は無かったとか言って放り投げるだなんて、許されて良いはずが無いじゃない」
不貞腐れたように頬を膨らませる。しかし反論は無いようで、それ以上何かを言うことは無かった。
『帝黎の学祭、来月らしいんだけどさ。ゲストで出たいなーって。だから、もう連絡しておいた。後はよろしく』
それを伝えられたのが昨日の事。どこか自慢げな彼女に一時間近く説教したのも昨日の事。
いたずらと勘違いしていた帝黎に謝罪し、交渉を持ちかけたは良いものの、以降連絡は途絶えている。帝黎が非常に混乱している事の証左と言えよう。
そんな大事をなんの断りも無しにしでかしてくれた担当アイドルに思う所が無いわけではないが、それ以上に彼女は恐怖していた。
彼女にそれをさせる程に、その心を奪ってしまった男。御堂蓮司という、一般人を。
「会いたいなー。デートして、連絡先交換したいなー………」
足をプラプラさせながら呟く翼に、深い深い溜息を吐く。
アイドルの自覚がまるで無い。何度言葉を尽くしても、彼女の意識は変わってくれない。
それもこれも全部御堂何某のせいだ。会ったら一発ぶん殴ってやる。
そんな決意を胸に秘めつつ、マネージャーはたった今帝黎から送られてきたメールに―――ゲスト出演を依頼する旨の連絡に、返信するのだった。
『三宅榛名』
・栗色の髪の少女。高校入学時からゆるふわパーマをかけており、夏休み前まではそれなりに伸ばしていた。なお現在はボブカット。九条のロングヘアーに対抗してのイメチェンであったが、しっかり褒めてもらえた。(第一話参照)
・松来とは幼稚園からの仲で、彼から好意を寄せられているが、その事に気づいていないばかりか、小学生の時に受けた度を越えたいたずらのせいで割と本気で嫌っている。
・『いたずら』のせいで男性恐怖症気味だったが、蓮司の勘違いイケメンムーブにより完治。男子とも普通に話せるようになっている。
・あざと可愛い系の見た目ながら、本質的には男子から『ゴリラ』とか揶揄われるタイプ。非常に気が強く姉御肌なので、見た目とは裏腹に女子人気の方が高い。なお蓮司の前だと見た目通りのキャラになる。