自分をイケメンだと勘違いしていた俺、反省するも口説いてきた美女達が許してくれない。 作:恋愛を知らぬ化け物
「おはよ、三宅さん」
「………」
朝。俺はいつも通りの爽やかな笑顔を彼女に向けて、挨拶を交わす。
いや、交わしてはいない。向けられた本人は迷惑そうな顔をして、何も言わずに自分の席に座るだけだ。
あ、近くの女子に挨拶した。
どうやら、俺は無視されてしまったらしい。
だが気持ちはわかる。照れくさいんだろうな。
なぜなら俺は───イケメンだから。
「無視は酷いんじゃない?」
「………あのさ。鬱陶しいって思われてるの、自覚無いの?態度で察するでしょ、普通」
「仮にそう思われていたとして、話しかけない理由にはならないかな」
「はぁ?」
ようやく体をこちらに向けて、目と目を合わせてくれる。
不機嫌に見えるのはご愛敬だ。
「迷惑がられてんのに、話しかける理由がどこにあんの」
「俺が三宅さんと話したい。───はははっ、そんな目で見ても、俺の理由はそれだけだよ」
剣呑な雰囲気を、隠そうともせず向けてくる。
トゲトゲしい女の子と話したことは多々あれど、三宅さんほど素直じゃない子はそうそういない。強いて言えば、九条さんくらいか。
こういう素直になれない女の子には、優しい笑顔を見せるのが鉄則。
特に誰が言ってたわけでもないけど、当たり前だろ?
「なにそれ、キモっ。キモすぎでしょ」
「そうかな?ただ話したいってだけで、他意はないつもりだけど」
「絶対嘘じゃん。仮に本当だったとしても、その方がキモイし。………ほんと、なんなのアンタ」
トントンと机を指で叩きながら、俺を睨む。
足を組んで体を前後に揺すっている姿からは、どうにも落ち着かないと言った印象を受ける。
これも、当たり前のことだ。
イケメンを前にした女子は、否、男子であっても、心かき乱されて当然。素直じゃない反応をする子が多いのも、仕方がないことなのだ。
そしてイケメンには、素直になれない子の心を開いてあげる義務がある。自分のせいで閉ざさせてしまったその扉を、優しく開け放ってあげる義務が。
ホームルームまで、まだ時間がある。珍しく話をしてくれる姿勢を取っているのだし、ここはゆっくりと対応しよう。
三宅さんの隣、金田さんの席を借りる。座って良いかな?と聞けば、頬をほんのり赤く染めて頷いてくれた。
ウィンクしながらお礼を告げると、恥ずかしいのか、慌てて離れてしまったが。
「………ほんっと、節操ないよね」
「んー。節操無し、とは違うつもりだよ?」
「じゃあ何」
「俺らしくしてる」
胸に手を当て、堂々と答える。
確かに最近は、九条さんとか生徒会長とか、一際目立つ女の子にばかり話しかけてしまっている自覚はある。そのせいで、俺の目的が『ソレ』一辺倒に見えてしまっているのも、自覚がある。
でも、きっかけは違う。
俺は、イケメンだ。鏡に映る姿が、両親の言葉が、道行く
イケメンとは何か?求められる人だ。男女を問わず、美貌という圧倒的な才能を持って生まれた人間は、人に求められて生きる。
そう。故に俺は、『みんなから求められている』という自覚をもって、積極的に話しかけている。女子も、男子も、大人も子供も、分け隔てなく。
………その過程で恋人が、とか、そういうつもりがないと言えば嘘になるけど。
それでも、
「はぁ?」
そんな意味を込めた発言だったけど、どうも三宅さんにはしっくりこなかったらしい。
「ははっ。いきなり言われても、そういう反応になるよね。………そうだな。俺と話してたら、いつかわかる日が来るかも?」
「………なら別に知らなくて良い。アンタのことなんて、知りたいとも思わないし」
「そう?俺は三宅さんのことをもっと知りたいけどね」
「ッ、アンタね……!」
三宅さんが身を乗り出してきたところで、タイミング悪く背後を通る男子が一人。
避けれると思ったのか、紙一重で避ける程度に体を傾けて通過しようとした彼は、案の定三宅さんを押してしまう。
ぐら、と前に倒れそうになった彼女を、俺はすかさず抱きとめる。
「っと、ごめ───おぉっ、御堂……」
「大丈夫?三宅さん。───磯村君。狭い場所を通るときは、もう少し体を寄せることをオススメするよ」
「あ、あぁ。そうだな。悪い三宅」
「へっ?あっ、うん………?」
ぶつかった男子、磯村君の謝罪に、三宅さんの反応は鈍い。
ぼーっと俺の腕のなかで、こちらを見つめて……あぁ見惚れているのか。
適度なボディタッチは心理的距離を縮めるというし、素直な一面が見えちゃった、って感じ?
とか思った次の瞬間には突き飛ばされる。声にならない悲鳴とともに、三宅さんが猫のような身のこなしで立ち上がり、なんか変なポーズを取る。
まるでウルトラマンみたいな………もしかして、身構えてるのか?
「な、なななっ!なにすんの!?」
「頭から倒れ込みそうだったから、受け止めただけだよ」
「だっ、だからって抱きっ……!?」
まぁなんにせよ。変なポーズを取れてるあたり、傷とかは無い感じかな?良かった。
なんともわかりやすく照れている三宅さんに、俺は微笑んで───
「なーにしてんだよ、っと」
「うわっ、松来!?」
「松来君か。おはよう」
───口を開こうとしたところで、背後から元気よく声をかけられる。松来君だ。
確か二人は幼馴染同士で……なるほど、転びそうになったところを見て、心配して声をかけてきたってところかな?
片手をあげて挨拶をすると、松来君は何故か少し間をおいてから挨拶を返してくる。
「………おう、おはよ」
何故か、先ほどよりも声が低く小さい。しかも視線も若干鋭い気がする。
松来君からここまでぶっきらぼうな態度を取られたのは、初めてかもしれない。
常に明るく笑顔を絶やさない、クラスのムードメーカー。
顔立ちも
今の彼は、まさしく他の男子と同じような―――嫉妬に似た感情を抱いているように見えた。
♡───♡
あの後。工具を取って戻って来た時には、既に松来も三宅も教室に戻り、各々が男子チーム、女子チームに交じって、いつもと変わらぬ様子で作業に取り組んでいた。
で、俺も俺で変に刺激したいわけでは無いので、落ち着き払って作業に戻って。本当は同じ実行委員の三宅さんと相談したい気持ちを抑えつつ、孤立気味の九条さんをメインに男女問わず各作業チームのところに顔を出して現状確認&必要に応じたお手伝いなんぞをやってる内に、下校時間に。
ここで俺は、ちょうど松来が一人になって、かつ誰にも見られないタイミングが来た事もあり、意を決して声をかけた。
この後、少し話せないか。と。
───で、結果。
『●AMチャンネルをご覧のみなさーんっ!』
「………落ち着いて話ができる場所かよ、ここ」
「人目を気にせず話すにはもってこいの場所でしょ?」
男二人。それも、絶賛不仲気味の二人が、カラオケの個室で向かい合うことになった。
義務で注文したドリンクが届けられ、完全に第三者の介入がなくなるまでは一応互いに笑顔だったのだが、ドアが閉まった瞬間に、松来の視線が鋭くなる。
そう。ここに来る途中、気まずい沈黙の中で思い出した、唯一彼に睨まれたあの日のように。
『どうもー、インディーズでーす!』
「………俺、結構インディーズ好きなんだよね」
「世間話とか要らねーから。さっさと本題入れよ」
またしても沈黙が続いたので、ちょうど聞こえてきた好きな新進気鋭のバンドについて話してアイスブレイクでも………と口を開いたのだが、今までの松来からは想像もできないような冷たさで拒絶される。
俺としてもさっさと話を済ませたいとは思っていたので、深く息を吐いてから、単刀直入に言う。
「三宅さんのことなんだけど、なんか勘違いされてるんじゃないかと思ってさ」
「……………勘違い……って?」
「多分だけど。松来君は俺と三宅さんがこう………イイ感じだと勘違いしてるんじゃないか、って」
返事代わりに舌打ちを一つ。なんともわかりやすい返答だろう。いつぞやの三宅さんを彷彿とさせる。
でも一応、ちゃんと彼自身の口から聞きたいので、黙って答えを促す。しばらく黙っていた松来は、いつまでも俺が喋らないことで諦めたのか、後頭部をガシガシと掻きながら口を開いた。
「………それの、どこが勘違いだよ」
「ほら、やっぱり。───三宅さんは別に、俺のことなんて好きでもなんでもないよ」
「ッ、どこが!!」
ガタンッ、と立ち上がる松来。こういうところも似ている。彼らの言う「幼馴染」関係がどの程度の親密度か俺は詳しく知らないが、割と
少しどうでも良いことに思考を割きながらも、俺は静かに義務ドリンクを飲む。
「俺が割と節操無しに色んな人に声をかけてたのは、松来君以外も知ってる事だとは思うけど。そのせいで俺の女子評価は……いや男子評価もだけど。とにかく低いんだよ、これもご存知の通り。で、三宅さんは低評価組の筆頭格なの」
「………お前、何言ってんだ?」
「ははっ。意外だったかな?俺がちゃんと現実見てたってコト。これでも、他者評価もちゃんと気にしてたんだよ?」
ま、気にするようになったのは本ッ当に最近なんだけど。
先程までの怒り爆発!な表情から一転、心底意味がわかりません、といった顔をする松来に、俺はコップを置いて続ける。
「三宅さんって、割とズバズバ言うタイプじゃん?だからまぁ、他の女子が遠慮して言ってこないような、『迷惑』とかそういう感想、結構ストレートに投げられてたの。最近はあんまりないけど、ちょっと前までは………それこそ、九条さんと同じくらいには冷たかったよ」
他の女子と比べるのは御法度だけど、なーんて勘違い野郎の俺が言いそうなことを付け足して苦笑する。
そう。冷血姫だのなんだの言われる九条だが、別にアイツ以外が優しかったかと言えばそんなことは無い。
最近ではなんか向こうから話しかけてくることが多い三宅も、言葉の刃で突き刺しに来ることが多々あった。
ま、九条の鋭さや冷たさに比肩するような子は流石にいなかったけど。
「だから、ってわけじゃないけど………脈ナシだし、心配することは何もないよ。三宅さんに限った話じゃないけどね」
「は、ぁ……っ!?」
対面の机が揺れる。その衝撃がこちらにも伝わって、今しがた置き直したばかりのコップを倒しそうになる。
それをさりげなく手で押さえながら、松来の発言を待つ。
───ここまで明かして良いかどうか、悩まなかったわけでは無い。
これは、俺が『真実』に気づいてしまったと察されかねない発言だ。誰にも気づかれないまま、知られないままフェードアウトする事を目的としている俺にとって、最悪と言って良い一手と言える。
だが、そうでもしないとコイツは止まらないと判断した。
友人が勝手に釘を刺しに来るくらいには、自分からは動こうとしなかった松来の態度から察するに、このまま放置していれば「恋敵として意識はするが特に積極的な働きかけとかはせず、したとしても今日のように三宅に訴えかけるだけ」という、変に注目だけを集める………言い方は悪いが、俺にとって迷惑なことを続けるだろう。
それは大いに困る。俺はあの忌々しい過去を、存在感と共に消し去る必要があるのだ。それも誰にも気づかれないように、丁寧に。
賭け事も投資も、不確定要素のある物事は全て、長期的な視野が必要だという。
俺の場合も、今この瞬間に訝しまれたり注目されたりしても一喜一憂せず、最終的に影も形もなくすことが出来れば良い。そう考える――しかない状況なんだよなぁ、何故か。
溜息の一つも吐きたくなるが、あくまで堪える。勘違い野郎らしからぬ発言をしたからと言って、本来の俺まで見せる必要はないし、そんなつもりもないのだ。
結局、松来は一度ソファに腰掛け、無言でジュースを何度か飲んでから、大体十分程経過したところで口を開いた。
どんな間の取り方だ、と思わないでもないが、それくらい意外だったのだろう。
「………まさか、お前の口からそんな言葉を聞くことになるなんてな」
「自覚はあるよ。そういうこと、一番言わなさそうでしょ」
「あぁ。………気に入らねぇな」
なんとも厳しい一言だ。思わず目を瞑り、首を横に振る。
洋画さながらだ。高校一年生の若造が、何をダンディー気取ってんだって話だけどさ。
「お前、本当に何も見えてないんだな」
「そうかな?俺は見えてるつもりだけど」
「節穴にも程があるだろ。………何が、脈ナシだよ。なんだお前。まさか俺の口から
「敢えても何も、言わせようとしてることなんて何一つないよ。強いて言えば、俺への勘違いをさっさと失くして欲しいくらいで───」
「ふっざけんな!!!何が勘違いだよッ!!」
怒声と共に、机に拳を叩きつける。真っ赤に染まった手を見るに、さぞ痛かっただろうが、それでも松来は気にする素振りを見せず、俺に掴みかかって来た。
「三宅がッ………アイツが!!お前に惚れてる事なんてとっくにわかってるよ!!アイツがお前を好きな事くらいッ、わかってんだよ!!それでもっ……それでも、ずっと好きだから諦められなかったし……!お前がっ、あの冷血姫を落としたって言うからっ……九条と
潤んだ瞳が俺を突き刺す。
浴びせられた激情に、思わず言葉を失った。
俺目線、三宅も九条も、他の女子だって、俺をうっすら嫌がっていることは変わらない。
他でもない俺が、あんな
………確かに、最近は皆の態度も変わっているような気がする。
九条も西城も、生徒会長も先生も………他の女子たちだってそう。話しかけた時の反応が、話しかけなかった時の態度が、以前と違うような気がする。
だが、向けられ続けた拒絶と嘲笑が、
……ただ、それは言えない。言うわけにはいかない。
俺は消える。消えなくてはならない。こんな恥の塊みたいな過去と共に、気づかれずに消えなければならない。
言えるもんなら伝えてやりたいくらいだ。
俺がフェードアウトしようとしていると伝えれば、三宅が取られるかもしれないという不安も無くなる。こうして突っかかってくることも、変に注目を集めさせるようなことも、しなくなるだろう。
だがソレを伝えるのは、確実に計画の破綻に繋がる。短期的にも長期的にもアウトだ。
―――じゃあ、どうすれば良いんだろう。
甘く考えすぎていたのかもしれない。松来なら、話せばわかってくれると。話せる範囲で説明したら、和解できると。
そのせいで今、こうして絶対に言ってはいけない事を言うか、言わないかの瀬戸際に立たされてるわけで。
「………
襟を掴まれたまま考えて、結局飛び出したのは言ってはいけない発言……に、ギリギリ抵触しているかどうかの疑問文だった。
俺にしては珍しく声が低かったからか、或いはその言葉の意味がわかりかねたからか、掴む手が少し緩む。
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。―――嫌われるようなことをしてる自覚はあったんだ。だからこそ、松来君のいうような『惚れられてる』とか『好かれてる』が信じられない。何を言われてもね」
「なっ」
何やってんだろうな、俺。このままだと本当に全部言いそうだ。
「似てるのかもね、俺達って。松来君は松来君で、俺に三宅さんが取られるって思い込んで、何を言っても考えを変えようとしない。俺は俺で、自分の考えをどうしても変えられない。―――本当は、すんなり話し合いが終わって仲直りー……くらいのつもりだったんだけど。どうも無理そうだ」
殆ど力の入っていない手をほどいて、立ち上がる。
まだまだ退室時間まで余裕があるが、これ以上話してもロクな事にならなさそうだ。
呆然とこちらを見てくる松来に、財布から自分の分だけ出して手渡しつつ、最後に一言告げる。
「考えを変えろ、とはもう言わないよ。俺もそっちに言われても変わらないし。だから、まぁ………せめて、目立つ所でいがみ合うのはやめようか。せっかくの紅明祭が、皆にとっても嫌な記憶になって終わるなんて、申し訳ないからね。―――俺達二人の問題だってこと、忘れないようにしよう」
どの口が、と思わないでもない。松来に言わせれば、そもそも俺が女子たちに───三宅に積極的に話しかけなければ起こらなかったいがみ合いだ。
だが起こってしまった物はもう仕方がない。ならばせめて、周りに迷惑をかけないように………そして注目を集めないように、二人だけで解決しよう。そうじゃないと困る。
頷いてくれたかどうかは確認できていないが、松来も悪いヤツでは無い。恋に全力なだけ、なのだ。クラスメイト達にまで迷惑をかけたくない、という気持ちはきっとあるはず。
これで、少なくとも大勢の前で揉め事を起こしたりするような真似はしなくなる……はずだ。
問題の根本的な部分を解決する手段は、正直全く思いつかないんだけどさ。
なんかzetaやってたらライバルキャラに「御堂蓮司」って名前のヤツがいて面白過ぎたので復活しました。
嘘です。復活したのは、それを望んでくださる方々の感想があったからです。なおzeta云々の話は事実。
―――プロットと設定集、消えてました!!
過去話を遡って確認して、ついでに自分の頭の中に残っている範囲で続けてみますが、ちょっとキャラの口調とか性格とかのエミュが精度落ちてるかもしれませんので違和感等ありましたら是非教えてください。情けない作者で申し訳ない……。
大まかな流れは頭に残ってるのでその辺は大丈夫なので……。