勝ちアイドルが多すぎる!   作:Haiha87

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独自の設定・解釈含みます。
よろしくお願いいたします!


1話 月村手毬との出会い

蛇口を捻り、流れてくる水を一口。

カルキ臭さ、錆臭さもなく温度もちょうどいい。

やはりこの蛇口が一番美味しいな。

 

何年も続けている俺の審美眼は鈍ってはいないようだ。

喉を潤したところでスマホで時間を確認し、そろそろ食べ始めないとまずいなと気づく。

俺は持参した弁当を持ちながら大きなベンチに腰を下ろす。

 

それにしても……すごいな。

 

眼前に広がるのは綺麗に整備された芝生。

赤いレンガで組まれた道と、花壇には鮮やかな花々が咲いていた。

そして、少し遠くに目を遣ると一見この公園には不釣り合いな野外ステージが組まれている。

今も何らかの練習を行っているようだった。

あのステージすら、いくつもあるんだもんなぁ。

 

 

俺が入学した学校は初星学園。

この大アイドル時代に、国内最大級の規模を誇るアイドル学園である。

あるきっかけで、何とか初星学園に入学した俺は希望を胸にアイドルを担当しようとして……

 

既に2週間が経過していた。

別にさぼっていたわけじゃないが、一人暮らしは初めてで色々忙しいしで、完全に出遅れていた。

同期のプロデューサーはアイドルをばんばんスカウトしているらしい。

このままでは自らの進級すら危ぶまれる状態だ。

 

何とかしなきゃなぁと心の中でため息をつきながら、弁当箱を開ける。

何はともあれ、今は昼ご飯だ。

 

「うぅ」

 

横で誰かのうめき声が聞こえた。

少し驚きつつ声のした方に目を向けると、青い髪の生徒が同じベンチに座っていた。

完全に気づかなかった。

アイドル科の生徒だろうか。

顔がよく見えないので誰かは分からないけど。

お腹をおさえているらしく、何だか辛そうだ。

 

不審者かと思われるかもしれないが、一応話しかけるか。

急病かもしれないし。

 

「あの、大丈夫ですか?」

びくりと体を動かしながら、少女はこちらに顔を向ける。

「……平気です。別に病気とかじゃないので」

少女は冷たく返してくれた。

 

「あ、ああ。大丈夫ならよかったです」

結構心に来るものがあるな。

そこまで防御力無いんだ、俺は。

俺は気を遣って隣のベンチに移動し、弁当を開ける。

 

ようやく食べられると鮭おにぎりを開けたところで、視線に気づく。

じっと少女がおにぎりを見ている。

俺が目を向けると彼女はバッと下を向く。

見てないふりは無理があると思う。

 

再度食べようとすると、少女が物欲しそうにおにぎりを見ていた。

彼女はまたバッと下を向いた。

 

「あの」

「……何ですか」

「おにぎり食べます?」

「!わ、私がお腹すいてるっていうんですか!」

「だって私の弁当見てたじゃないですか」

「見てません!自意識過剰なんじゃないですか?」

少女はそう言って立ち上がろうとして、

くぅーと可愛いらしいお腹の音を鳴らした。

 

可愛いらしいというには俺に聞こえる位大きな音だったが。

彼女は顔を一気に真っ赤にして、ピタリと動きを止めた。

いや、ぷるぷると小刻みに震えている。

 

「あの大丈夫「大丈夫じゃないです!!」

「あなたのせいですから!美味しそうなものを私の目の前にこれ見よがしに見せつけて!

 うう、我慢しようとしてたのに」

「すいません……」

 

少女の猛攻に反射で謝ってしまった。

ダイエットしてたのかな?

アイドル科の生徒だったら食事制限も凄そうだし、悪いことしたかもな。

一旦この場から離れた方がいいか。

俺はそそくさと弁当をしまおうとしていたら、少女が俺の座っているベンチに移動してきた。

 

え、なんだ。

 

「それで、あのおにぎりは」

「え?ああ、おにぎり」

「くれるんですよね?」

少女は右手を突き出す。

俺は呆気にとられつつ、鮭おにぎりをぽんと右手にのせる。

 

「ありがとう」

少女は満足そうに初めて俺に笑顔を向けるのだった。

 

これが俺、温水和彦と青い髪の少女、月村手毬の出会いである。

 

 

 

 

黙々と少女が食べ始めてしまったので、俺もそのまま食べるしかなかった。

同じベンチで二人特に会話もなく、ご飯を食べる。

もし誰かに見られたら異様に見えるかもしれない。

まあ、見られて困る知り合いもあんまりいないけど。

十分ほどゆっくり噛み締めるように、おにぎりを食べ終わった少女はじっと俺を見ていた。

見られながら食べ続けるほど、俺に胆力はない。

 

「あの、何でしょうか」

「いえ、別にあなたが食べ終わるのを待っていようかと」

「私の方は大丈夫なので、話があるなら聞きましょう」

「そう。えっとご飯美味しかった、ありがとう」

彼女は少し目を伏せながら、ぽつりとお礼を言った。

 

「どういたしまして。ただ知らない人から食べ物を受け取るのはしない方がいいですよ」

「あげたあなたがそれを言うんだ……あの、名前を聞いてあげてもいいよ」

「そういえば言ってなかったですね。温水和彦と申します、プロデューサー科の一年です」

「ふうん、プロデューサー科の人だったんだね。私は月村手毬、アイドル科高等部一年生。まあ言わなくても知ってたかな」

 

んん、流石にアイドル科の生徒を全て知っているわけではないけど。

口ぶりから結構有名な生徒なのか。

月村手毬、どこかで聞いたような。

 

「もしかして月村さんって」

「……」

「沢山食べることで有名とか」

「違う!ホント最低!」

「すいません、あまりアイドル科の生徒のこと知らなくて」

「それもどうなの」

はは、と笑って誤魔化すが流石にもっと調べる必要があると実感した。

 

「何も知らなくて、話しかけてきたんだね」

「一目に辛そうですし、体調不良だと大変ですから」

「ふーん」

月村さんはぷいっと顔を背けてしまった。

まだ不機嫌な感じがするな。

 

「お詫びにもう一つどうですか?」

こぶりな梅おにぎりを月村さんの前に出す。

「機嫌を食べ物でとろうとするなんて、浅はかだね温水さん」

「じゃあ、要りませんか」

「食べないとは言っていない。もう知らない人でもないしね」

 

そう言って月村さんは少し機嫌が治りつつ、梅おにぎりを受け取った。

ちょろいな。

高校時代の部活動仲間を思い出しながら、俺は残りの弁当を食べ進めた。

 

 

偶然にも始まった月村さんとの昼食は、これからも何故か続いていくことになる。

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