ゲヘナ生徒が嫌いなトリニティ生徒   作:Katarina T

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トリニティ生徒も偶には甘やかす

「……さて、と」

 

自室に戻ってきた私は、目の前にちょこんと立っているゲヘナ生徒へと視線を向けました。

 

当の本人はというと、なぜ自分がここまで連れてこられたのか、いまだによく分かっていない様子で、きょろきょろと部屋の中を見回しています。

 

「えっと……マヨイ?」

 

「何ですか?」

 

「私、何か悪いことしたかな……?」

 

「…………」

 

その言葉に、私は思わず額に手を当てました。

 

この子は……本当に、自分が何をしたのか分かっていないようですね。

 

「……三日間、一睡もせずに過ごしたことが、悪いことではないとでも?」

 

「え、えへへ……」

 

「笑って誤魔化さない!!」

 

「ひゃいっ!?」

 

全く……。

 

私はもう一度ため息を吐くと、部屋の隅に置いてあるソファを指差しました。

 

「とにかく、そこに座ってください」

 

「はーい!」

 

元気よく返事をすると、ゲヘナ生徒は素直にソファへと腰掛けました。

 

……返事だけは一丁前ですね。

 

私は棚から毛布を取り出すと、彼女の肩にそっと掛けてあげました。

 

「えへへ、ありがとう!」

 

「別に……風邪でも引かれたら面倒ですから」

 

「そっかぁ!」

 

「……本当に分かっているんでしょうね」

 

どうにも調子が狂います。

 

私は彼女の前にしゃがみ込み、その顔を覗き込みました。

 

目の下にはうっすらと隈ができており、普段なら元気いっぱいに動き回っているはずの尻尾も、今は力なく垂れ下がっています。

 

こうして改めて見ると、相当無理をしていたのでしょう。

 

……全く、無茶をするにも程があります。

 

「少し失礼しますね」

 

そう断ってから、私は彼女の額に手を当てました。

 

「ん? どうしたの?」

 

「熱がないか確認しているんです。……うーん、今のところは大丈夫そうですね」

 

「えへへ、心配してくれてるんだ?」

 

「違います!!」

 

「えー?」

 

「あなたが倒れたりしたら、私が余計な心配をしなければならなくなるでしょう!? それが嫌なだけです!!」

 

「そっかぁ……」

 

そう言いながら、彼女はなぜか嬉しそうに笑っています。

 

……なぜでしょう。

 

この子は本当に、私の言葉を都合よく解釈する天才ですね。

 

「とにかく、今日はもう何もせずに寝てください」

 

「えっ、でもまだやらなきゃいけないことが……」

 

「ありません」

 

「でも……」

 

「ありません!!」

 

「うぅ……」

 

ようやく黙ってくれました。

 

私は満足げに頷くと、部屋の奥へと向かいます。

 

まずは温かい飲み物でも用意しましょう。空腹のまま眠らせるわけにもいきませんし、何か軽く食べられるものも用意した方がよさそうですね。

 

……そういえば、先ほどのティータイムで出す予定だったお菓子が、まだ残っていましたね。

 

あれならば、きっとこの子も喜ぶでしょう。

 

そう考えながら準備を進めていると、背後から小さな声が聞こえてきました。

 

「……ねえ、マヨイ」

 

「今度は何ですか?」

 

「私、ここで寝てもいいの?」

 

「……は?」

 

思わず手を止めて振り返ると、彼女は毛布を両手で握りしめながら、少しだけ不安そうな顔をしていました。

 

「だって、マヨイのお部屋だし……迷惑じゃないかなって」

 

「…………」

 

何を今更。

 

そもそも、あなたをここまで連れてきたのは私でしょうに。

 

「……あなたという人は、本当に」

 

呆れたように呟きながら、私は彼女の頭に手を伸ばしました。

 

そして、少し乱れていた髪をそっと整えてあげます。

 

「いいですか。あなたは今、三日間もまともに眠っていないんですよ? そんな状態で帰したら、道端で倒れてしまうかもしれないでしょう?」

 

「うん……」

 

「ですから、今日はここで休んでいきなさい。……それに、私が許可したのですから、あなたが遠慮する必要はありません」

 

「……ありがとう、マヨイ!」

 

ぱあっと表情を明るくする彼女。

 

その笑顔を見て、私は思わず目を逸らしました。

 

……全く。

 

そんなに嬉しそうにされると、こちらまで調子が狂ってしまいます。

 

「ほら、温かいものを持ってきますから。大人しく待っていてくださいね」

 

「はーい!」

 

私は再び台所へと向かいました。

 

……本当に、手の掛かる子です。

 

ですが。

 

今日くらいは、少しくらい甘やかしてあげてもいいでしょう。

 

何せ、三日間も頑張ったのですから。

 

……もちろん、次からは絶対に許しませんけどね。

 

――その後、温かい飲み物とお菓子を口にしたゲヘナ生徒が、すっかり眠気に襲われてしまったのは言うまでもありません。

 

彼女は最初こそ眠気に抗おうとしていたものの、やがて瞼が重くなり、ソファの上でこくりこくりと船を漕ぎ始めました。

 

そして、ついには静かな寝息を立て始めたのです。

 

私は彼女が眠りについたことを確認すると、そっと毛布を掛け直しました。

 

「……本当に、困った子ですね」

 

そう呟きながら、私は彼女の寝顔を見つめます。

 

普段はあれほど騒がしく、自由奔放で、こちらの言うことなど聞きもしないくせに。

 

こうして眠っている姿を見ると、何だか少しだけ幼く見えてしまいます。

 

……まあ、今はゆっくり休んでください。

 

私は小さく微笑むと、彼女の頭を優しく撫でました。

 

「おやすみなさい」

 

……さて。

 

問題は、この子が目を覚ました後ですね。

 

三日間も寝ずに、一体何をしていたのか。きっちり聞かせてもらわなければなりません。

 

そして今後、二度と同じことをしないよう、しっかりと言い聞かせなければ。

 

……ふふ。

 

覚悟しておいてくださいね。

 

――もっとも。

 

その日の午後、私自身も彼女の隣でうっかり眠ってしまったことは、また別のお話です。

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