あの戦いの後ー、しばらく行方不明と伝えられていた隊長はさらっと戻ってきた。
勿論あの人が死んだなんて思ってもいなかったが、あまりにも当然のような帰還に拍子抜けしたものだ。
隊長は前とは違い一人で全部抱え込むようなことはしなくなり、笑顔を見せたり、肩の荷が下りたような雰囲気を出すことも多くなった。
嬉しかった。
ブルーコスモスは依然としてなくならないものの、昔よりは勢力を落としていて、世界は平和への道を歩んでいる。俺達コンパスも、その平和のために…まぁ、色々やっていた。そんなある日のことだった。
「うーん…」シンの目が覚める。
シンの自室だ。昨日はキラと、夜通しどうでもいいバカ話を語り合っていた。こんな気の抜けた話が隊長とできるのも嬉しくて、舞い上がりそのまま寝付いてしまったのだろう。
布団から起き上がろうと……すると、自分が寝ていた布団の横に何かが入っていることに気付く。
人1人分程の、小さな膨らみ。
「……隊長…?」昨日寝た瞬間を覚えていない。ベット上でキラと話し通し、気づいたら寝ていた。ひょっとしたら隊長もそのまま……隊長と同じ布団で寝てしまったのかもしれない。
そう考えるとなんか微妙に気恥ずかしくなってきた。
夜通し話していただけあって今日は非番の日だ。しかし、自分の布団で隊長が寝ているのはなんともいえない微妙な気持ちにさせられる。申し訳ないが、起こそう。
そう思い布団をどけようとすると……
「……?」
布団の中から、長くひんやりとサラサラした感触が返ってくる。これは…
「…髪の毛…?いやでも隊長、こんな…え…?は…?」
そこにあるはずのない謎の感覚を感じながら、シンは布団をめくり上げた。
「起きてください、たいちょ……………………。…………ぉ…………?」シンの言葉はそこで凍りついた。
そこにいたのは、小柄でサラサラな茶髪を長く伸ばした、女性だった。目を閉じすーすーと可愛らしい寝息を立てている。しかし、これは。
「………たい…ちょ……お……?」
布団にうつ伏せになり、顔を横に向け、布団に抱きつきながら寝るその寝顔。
顔の雰囲気が、とても隊長……とその姉(妹?)らしいアスハ代表に似通っている。まるでもう一人姉妹が生えたか、髪の毛を伸ばした隊長にしか見えない。しかし隊長には他に姉妹はいない。
そして昨日は寝るまで一緒にいたのだ。これは隊長……の筈なのだが。
しかし、隊長は男なのだ。サラリと伸びた茶色の長髪。…これだけなら彼の髪が一晩で死ぬ程伸びた異変だと結論付けられたかもしれない。それでも十分おかしいが。
しかし、うつ伏せに寝るその姿の、身体を押し上げる豊満な胸、背中からお尻にかけて着っぱなしの軍服の上からでもはっきりとわかるくびれ。そのくびれから綺麗な弯曲を描く尻が、この人物は女性だと言うことをはっきりと主張させていた。おまけに軍服はいつもの羽織の下はミニスカートになっている。
こんな女性をシンは知らない。
キラにとても良く似た、しかし知らない女性が自分の横で無防備な姿で寝ていたことに困惑し、布団を掴んだまま固まる。
そんな凍りついた空間に。
「…うりゅ…?」と、鈴を鳴らすような声が響いた。
キラは昨日、シンの部屋に遊びに来ていた。久しぶりの非番の日の前日だったので、どうでもいいバカ話をして、笑って。
気が付いたら、布団の中だった。
「…うりゅ…」欠伸代わりの声が口から漏れる。寝ぼけていて、その声がいつもと違うことには気づかない。
そしてそのまま目を開けず、寝ぼけた頭で考える。
昨日、シンの部屋から帰った記憶がない。シンが部屋まで運んでくれたのか、それともそのままその部屋で、座っていたベッドの上で寝てしまったのか…
うつ伏せになっているが、何やら胸が苦しい、息が細い。締め付けられるような、圧迫されるような…。
「…うーん…」もしここがシンの部屋だったら申し訳ないが、まだ寝ていたいのだ。胸につっかえる何かをどかそうとする。
「…たい…ちょ……?…た…い…ちょ…お…?」
シンの声が聞こえた。つまりここはシンの部屋なのか。
布団の中に人の感覚はしない。起きているのか。となると自分も起きないわけにはいかない。人のベッドを占拠して寝続けるわけには。
「うーん…」キラは自分では気づいていない細い腕で身体を持ち上げ、キラは目覚める。
「…んん…?」起き上がると、前髪が頭に垂れる。
確かに長かったが、ここまでだったか?煩わしくどかしながらシンの方を見やる。
そこではシンが驚愕した顔でこちらを見て、固まっていた。
「え‥‥その‥隊長‥‥?‥たい‥ちょう‥です…か?」
シンは震える声で目前の女性に問いただす。キラに似たその女性は起き上がり、ベッドに膝立ちして、こちらを見据えている。
「ん‥?シン?え‥‥そうだけど。‥何言ってるの?」キラは当然のようにそう言い放ち、髪の毛を何気なく耳の後ろに流す。
「‥い、いや‥‥いやいやいやいやいや!!!!何ですアンタ!?!?隊長に似てるけど!!キラさんは男だ!!!なんで俺の布団に!?」
テンパり、大きな声で寝起きから捲し立ててくるシンに、キラは困惑する。
「え、いや‥‥何言ってるのシン?僕は男だけど‥‥?」
「ッ‥‥!?だったらその胸と服は何なんだよ!?!?!?」同じく訳の分からない状況と訳の分からない返に反射的にそう返した。
「胸……?」キラは困惑しながら、言われるまま反射的に視線を下に落とす。
そこには足元を隠す服を押し上げる2つの丘に気付いた。
「……え?」
勢いのまま指摘したシンは固まり、自身の胸元についた2つの膨らみを見て固まった。
「…え?え?」
キラは困惑しつつ、自分の胸に手を伸ばす。信じられなくて、否定したくて。
その膨らみに手が触れた。
「……んん…?」
なんとも言葉にし難い感覚が、身体に返ってくる。
シンはそんなキラの様子を正面から呆けた顔をして何も言えずに眺めているだけだった。
「ん…んん…?」
微妙な顔を崩さずに困惑を抱えつつ胸に手を当てる彼女。
「……僕……、女の子になっちゃった…?」