一悶着あった後、私は気絶させた八坂神を背負い村人の案内の元、彼らの住む村へと訪れていた。
村についてからもほかの村人たちから囲まれ拝まれ始めたときは驚いたが、なんとかその場を切り抜けた。
その後、使われていないという民家へ案内され、八坂神を寝かせた所だ。流石に騙し討ちで伸したままにするのは気が引けたからだ。
「うぅ……八つ目ウナギッ……ハッ!? 此処は何所だ!?」
おかしな言葉をを発しながら起き上がる八坂神こと八坂神奈子。そしてすぐさま自分が気絶させられていたことに気が付いたようだ。
この様子だと頭の方も異常なし……っと。
少し安心したのもつかの間、起き上がった彼女は私につかみ掛かろうとしてきた。だが私はそれをひょいっと躱すと勢いを殺しきれずに頭から地面へと倒れこんだ。地面に頭を擦りつけながらバタバタと手足を振り回している。その様子はさながら陸に揚げられた魚の様で神様とは到底思えない。
「さっきまで目を回していたんだ急に立ち上がると扱けるにきまってるだろ……ゴクッ」
飲んでいた酒を一気に煽ると私はいまだ倒れ伏している八坂神に近寄っていった。どうも手足を振り回していた疲れが出てきたのか肩で息をしている。
そんな彼女だったが私の気配に気が付いたのかすぐさま起き上がった。そして距離をとりながら私を睨んでくる。
「き、貴様! いきなり殴るとはどういうことだ! って酒臭!?」
「まぁまぁ。これを飲みなさい。ヒック」
「あぁ……どうも。ごく……ごく……プハァ!」
「うむ、うむ。もう一杯」
「ちょ」
「酒が足りてないぞぉ!」
私はそんな八坂神に酒をどんどんと勧めて酔わせていった。騙し討ちで気絶させたことを酔わせてうやむやにする流れに持っていくためだ。そして夜が明けた。
「あー。頭がズキズキする」
「たった十石じゃないか。正直まだ足りないわ」
たった、ではない。人間なら死亡する可能性もあるが彼女たちからすれば「頭が痛い」ですむという時点で異常なのである。
頭の痛みで悶える八坂神をよそ目に私は残っていた酒をすべて飲み干し立ち上がる。少し物足りないが酒も尽きたことだこのくらいにしておこう。
「お前さん、とんでもない蟒蛇だね。所で本当に何者なんだい。神にしては日が浅いくせにその身に纏う神力は尋常じゃない」
「さてな、今は、ただの
にやりと笑って見せると八坂伸は呆れた様子で溜息を吐いた。
「いまは普通の人間ねぇ。なら、お前さんは妖怪にでもばけれるっていうのかい」
「ああ。そのとおり、妖怪になってやろうか?」
どうもふざけ半分で言った八坂神に対して私は真面目にそう答えた。
すると彼女は呆れたような笑いを浮かべる。私としてはふざけてなどおらず、至極まじめに答えたつもりだったのだがな。
「どうせはったりなんだろ?」
「煽ってくるな。はぁ、仕方ない本来の姿を見せてあげるよ。変転『妖怪化』」
ボフンと音と共に煙が私を包み込んだ。そして煙が消えると私の姿は懐かしの狐耳と七つの尻尾を生やした姿となっていた。
どうも眠っていた間に尾の数がまた増えていたようだ。妖力のせいか周りが歪んでいる。
「なぁ!? なんだ、この異常な妖力は」
「久しぶりに元に戻ったからな。どうも妖力が増えてたみたいだ。すぐに抑えるよ」
もう一度ボフンと煙が私を包み込む。煙が晴れた後、姿はそのまま尾の数だけが減っていた。この姿なら妖力の影響で空間が歪んだりしないだろう。
「やっぱり普通じゃないじゃないか! なんなんだあのバカげた妖力は!」
「確かに結構増えていたな。それにまだ全力じゃないぞ」
「あれで全力じゃない……ってあんた一体いつから生きてるんだい。いや下手な詮索はやめておくよ」
私と八坂神の目が合う。しばしの沈黙の後、彼女は腹を抱えて笑い始めた。
何がおかしいというんだ。笑うところなど何処にも……ってそういうことか。
私は自分がかなり長生きだということをすっかり忘れていたようだ。普通に考えたらただの妖怪が異常な妖力を持ったりするわけが無いのだ。変に思うのは当然といえるだろう。そして私が、普通の妖怪じゃないことに気が付いたからこそ笑っているということだな
「ま、ただの長生きな妖獣だよ」
「仮に長生きだとして人妖大戦の生き残りだと言われても驚きはしないね」
そういいながら八坂神は立ち上がる。酔いも大分覚めたようで少し足取りが覚束ないがまだ歩けるようだ。後世には零季率いる妖怪の軍団と私の部隊の戦いが人妖大戦として語られいるのだろうか。もしそうだとしたら人間の代表となっていることに笑いがこみ上げるが。
「その人妖大戦ってのはしらないけど確かに昔、妖怪の軍団と戦ったことはある。私は人間側の生き残りの一人だからな」
「妖怪が人間側で戦っていたねぇ……まぁ、お前さんは人を襲うように見えないから真実なんだろうねぇ。所でお前さんの名をまだ聞いてなかったね。教えてくれないかい」
八坂神の言葉に私は頷く。確かに今思えば彼女に対して名を明かしていなかったこと思いだす。名乗る前に気絶させてしまい、それから今に至るまでまともに名乗っていなかったのだ。それどころか一緒に酒を飲んでいたにもかかわらず名乗っていなかったことに呆れるしかない。
そして私は軽く咳ばらいをすると改めるように言う。
「私の名はラグナ。しがない妖獣だ。所で君のことは何と呼べばいいだろうか? 八坂神? それとも大和の神と呼んだほうがいいか?」
「そんな堅苦しい言い方はよしておくれ。私のことは神奈子と呼ぶがいいさ」
「じゃあ、改めて。これからよろしく。神奈子」
「ああ、よろしく。ラグナ」
つづく