八坂神奈子と知り合って早くも一年の歳月が過ぎていた。
この一年間、私の周りにも多くの変化があった。例えば村が発展し里に。私を祀っていた(らしい)場所は私の家兼神社になった。そして今日、神奈子から何やら大切な話があるから訪ねるとのこと。
朝一番から気になる。一体なんの話なんだろうか? ここ最近忙しいようで顔を見せに来ていなかったし。さてさて、どんな話なのか……。
考え事をしながらお茶を飲む。今日も美味い。
◇
遅い、いつになったら神奈子の奴は来るんだ。まさか、道に迷って迷子に……なるはずもないか。それにしても今日は冷え込むな。
そうこうしているうちに、日が落ち始め辺りが暗くなり始め。日が完全に沈みきる頃、聞きなれた声がやって来た。
「ラグナ、居るかい?
「来るのが遅い。ともかく、早く入ってくれ。寒くてかなわん」
「待たせてすまない。それにしても今日は冷えるね」
「まあ、もう冬だからな。今年は特に冷える」
そう、今の季節は私の苦手な冬なのだ。冬はだめだ。寒すぎる……。
「それにしてもあんた、本当に寒いのに弱いねぇ」
神奈子にそんなことを言われた。……しかし、こればっかりは種族柄どうすることも出来ない。寒いのは本当にダメなのだから
「妖獣も普通の獣と同じで寒さに弱いんだよ。もっと寒くなったら冬眠に入ろうかと悩んでいる」
「冬眠ねぇ……。それじゃあ冬眠に入られる前に要件を伝えさせてもらおうかね。単刀直入にいうとうちの
「諏訪大国……、確か祟り神が納める国だったか。里に荷を卸している商人が諏訪の鉄器を称賛していたらしい」
「しかも、あろうこと向こうの神に直接、諏訪の国の技術と信仰を奪うと言っていしまったみたいでね、和解はほぼ不可能ときたもんよ。しかもそいつ自身気に報告してきやがったのよ」
「自慢気に言った後、『ぜひ、落とした曙には私に諏訪大国の管理を』とか言ってたんじゃないか?」
私の予想は見事に的中しているようだ。なぜわかったんだという表情を浮かべる神奈子に口には出さないが私も同じような言葉をかけれたからなんとなく察したのだ。
「あぁ、言われたよ……ハァ」
「アハハ。ご苦労さんだな」
「笑うんじゃないよ。もう……はぁ」
相当参っているようだ。いつも堂々としている神奈子だが、こう見えて悩みがあったりする。その度に私に相談してきたり、愚痴を聞いてもらったりしている。だが、今回の件に関しては相当参っているようだ。
「それでどうしたいのかね。神奈子さんや?」
「急にどうした変な口調になってるぞ……そうね、戦いたくないわ。昔から根付いている物を力で従わせようとしても付いてくるはずがないもの時間と労力の無駄ね」
「そんなにおかしかったか? 私と初めて会った時は『貴様の信仰をいただきに来た!』と言っていた神奈子がそんなことを言ってくるなんて」
「やめておくれ。恥ずかしい」
神奈子は顔を赤くしながら、そう言った。
しかし、これは軽口をたたきあってるが相当にまずい状況だ。諏訪大国の主神である祟り神、かなり厄介な存在なのだ。土着信仰という土地に根付いた信仰心がある限り何度でも復活するし、さらにその土地に発生する負の感情を吸い上げ強化されていく。そして彼の者が使役するミシャクジ様と呼ばれる存在も厄介だ。だからこそ穏便に和解したいというのが神奈子の心情だろう。しかし、大和の国側から喧嘩を吹っかけてしまいる為、穏便には済まない状況なのである。せめて、第三者の関与があれば話し合いの場を……
「第三者か。もしかすると解決できるかもしれないぞ」
「本当か? いったいどうやって」
「私が第三者として諏訪と大和の調停をする。だから今から諏訪の神をここに呼んでみようじゃないか」
「呼ぶってそんなこと無理じゃないか」
「ふふふ──まぁ、まかせなさい。ただ、準備があるから少しだけ時間をもらうよ」
◇
「よし、準備ができた。これより儀式を始める」
「ちょ、ちょいまて。いきなり儀式を始めるって一体何をするきなんだい!」
神奈子は慌てふためいているが私は無視する。手順を間違えるととんでもない事が起こりそうだからだ。
静かに目を閉じ、詠唱を始める。歌うように、言霊を紡いでいく。そして神奈子の焦り声から数秒後、部屋いっぱいに光が溢れだす。やがて光は段々と弱まり完全に光が消えるとそこにはぎょろりとした二つの目玉がついた帽子をかぶる少女が鎮座していた。
「あーう。何所さ、此処は」
「……彼方が諏訪の土着神の頂点、洩矢諏訪子様でよろしいでしょうか?」
「そうだけど。あんたは誰? 見たところ神のようだけど。私をこの場所に呼び出せるほどの神力を感じない」
諏訪子はそっけなく返した。まあ、当然といえば当然だ。向こうは先ほどまでいた場所から急に知らない場所に現れ、目の前には少量の神力を持った神と大和の神がいるのだから。
「一応、神様見習いでして」
そのような問答をしている二人をみて神奈子は呆然としている。そんな彼女の喉から出た言葉は……。
「何が何だか」
といった一言だけだった。
つづく