「貴女は諏訪大国の土着神、洩矢諏訪子殿でよろしいか」
しかし、この帽子はどうなっているんだ? 目が付いていて気色悪い……うげぇ、睨まれた。
「うん、そうだよ。それであんたは誰さ?」
うげぇ……身体が動かなくなってきた。なんだこれ、もしかしてこれが祟りなのか? ……とりあえず、神力を全身に行き渡らせてっと、神力の操作はまだ慣れていないから操作する為に妖力を悟られない程度に放出して更にその上から霊力を張れば……よし、体が動くようになった。ここまでしないと動けなくなる祟りを戦闘中なんかにやられたら何もできないで終わる可能性すらある。まったく恐ろしいものだ。
「八坂神奈子……あぁ、あんたがあの礼儀知らずの親玉か。私をこんな所に呼び出して暗殺でも企んだわけ、私も舐められたものだね……。高々一柱と妖獣風情がこの土着神の王たる私に勝てるとでも思っているのか?」
おや? 物思いに更けているとえらいことになっていないか。それにさらっと私の正体もバレているじゃないか。召喚した際は妖力を完全に消していたはずなのに。もしかすると負の力に対しての感覚が高いのだろうか。
「お怒りご尤もな言葉だ、だがまずは話を聞いてはくれないだろうか」
神奈子は無礼の無いように最大限の敬意を表する態度で洩矢神に相対している。しかし、洩矢神から溢れ出る荒々しい神力が部屋を圧迫している。
……この状態はまずいな、洩矢神は完全に戦闘態勢に入ってしまっている。このままでは本当に戦闘が始まってしまう。
仕方ない、私が間に入るしかないか。
「まぁ待ちたまえよ、洩矢神。まずは話し合おうじゃないか。そういえば自己紹介がまだだったか。私が貴女を呼び出した神様見習いのラグナだ。どうやら貴女は私の正体を察しているみたいだが概ね正解だよ」
とりあえず間に入る事に成功したが、洩矢神から溢れる神力が私に対して向けられてしまった。普通の人間やそこらの妖怪ならばその荒れ狂う神力によって発狂してしまうだろう。洩矢神は軽く睨み付けた後、その神力を引っ込めて口を開いた。
「……で? その神様見習いが何の用で呼び出したのさ」
「まずは突然の召喚に謝罪を……そして本題だが、私たちは決して貴女を害する気はない。むしろ話し合いをする為にこの場に召喚したんだ」
「話合い? そもそもそこがおかしな話だと思うんだけど。普通話合いを所望するならそっちが来るべきじゃない?」
「それはもっともな意見だ。しかし、大和の国の神が貴女の国に入ったらそれこそ戦争が始まってしまう」
そう言って私は神奈子を指差した。洩矢神は神奈子に対して訝しげな視線を向け
た後、再び私へと向き直した。
「確かに大和の国の者が私の王国に足を踏み入れた瞬間祟り殺すつもりでいたけど……まさか、その大和の国の者の前に呼び出されるなんてね。はぁ……なんだか馬鹿らしくなってきちゃった。話でもなんでも聞いてあげる」
「それでは私から説明させてもらうわ。率直に言うとうちの馬鹿が行った宣戦布告を取り消させて貰いたい」
「はぁ!? ちょっと待ちなよ、話が全然見えないんだけど」
まあ、いきなり宣戦布告を取り消せと言われても訳がわからないのも当然か。神奈子は洩矢神の疑問を解き、諏訪国に宣戦布告をしたのは自身の部下の独断である事を伝えた後にその部下の処分を行う事を約束した。それを聞いた洩矢神は自身の国の安定を考えてか、この件について承諾したようだ。
これでとりあえず宣戦布告が取り消された事になるな。やれやれ……説得に何時間もかけるかと思ったが杞憂だったか。
「それにしても驚いたね。まさか大和の国の一柱が戦うことを嫌っていたなんてね」
「私は無駄な殺生はしたくないんだ。奪ってきた信仰に関しても部下たちの独断で奪ってきたからな……いい迷惑だよ、本当に」
「うーん、結局おたくの部下が血の気が多い連中ならまた独断で動くんじゃない? それこそ今度は宣戦布告なんかしないで攻撃してきたり」
「それはありえる……仮に処分を下したとて反感を買って勝手に動くのがオチだろう。やはりどうにかしないといけないか……」
神奈子は大和の国にいる部下たちに対して頭を悩ませているようだ。神も人間も悩むことは同じということだろうか。しかし、折角話が纏まったのに勝手な連中のせいで水の泡になるのも度し難い。ここは一つ案をだしてみようか。
「一つだけ、どちらも損のない方法がある」
洩矢神と神奈子は私に対して視線を向ける。
私はその二人の視線を受けて、自身の考えを話始めた。
……
……
…………
…………
………………。
私の案を聞いた二人はそれぞれ違う反応を見せた。諏訪子の方は驚きの表情を、神奈子の方は納得の表情といった具合だ。そして二人とも私にこう言ってきた。
それは名案だと、しかし本当にそんな事ができるのかと。
「出来るさ、だって私は妖怪だもの。神の世界の掟なんか知るものか」
「悪い顔を浮かべるねぇ……その面、里の連中には見せれないな」
「褒め言葉と受け取っておくよ。さて、そうと決まったら早速行動に移そうじゃないか」
「はー、すごいことを思いつくんだね。本当に何者なんだか」
「これに関して考えても疲れるだけだ洩矢殿」
「諏訪子でいいよ。私も神奈子とラグナって呼ぶからさ」
「そうか、よろしくな諏訪子」
洩矢神改め諏訪子は軽く微笑みながら私たちに握手を求めてきた。私は快くそれを受け入れて彼女の柔らかな手と握った。
「ところで、私はここどうやって帰ればいいのかな」
「あぁ、その事なのだが……非常に申し訳ないんだが呼び出すことは可能なんだが返すことはできないんだ。だから徒歩で帰ってもらうことになる」
「えぇー……それは流石にないんじゃない?」
「すまないが、本当に出来ないんだ」
「まぁ別に歩くのはいいけどさぁ……どーせなら瞬間移動とかできない? 転移とかさ。そんな便利な力を持ってるんだよ? それをちょっと使ってくれたらいいじゃんか」
「……使えたら使わしてもらってたさ」
「……」
「……」
「はぁ……じゃあ歩いて帰るよ。ラグナ、また今度ね」
「道中案内をしよう」
そう言って諏訪子は神奈子に案内をされて部屋から出ていった。
つづく