東方狐著聞集   作:稜の幻想日記

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十一尾 狐と宴会と巫女さんと

 二柱の神(ふたり)と談じてから太陽が七度沈んでいる。今日も私の周りは平和だ。

 あの日以降、二人は忙しそうに動き回っており、顔を合わせる機会が無かった。先日届いた文にて諏訪子の神社、洩矢神社を「守矢」と改称する事で表向きには諏訪子へと信仰しているように見せ、実際には神奈子に信仰が渡る様にしたらしい。確かに提案したがまさかこんな上手くいくとは思わなかった。やはりあの二人は優秀なんだろう。

 そして現在、なぜか私はその守矢神社の鳥居に縄で縛られて居る。意味が分からない。

 

「なぁ……なんで私は縛られてるんだ。たしか、自分の神社で寝ていたはずなんだけど」

 

「んとね、ラグナが以前私に使った術を試しに使ってみたんだよ。そしたらさ、まさかの成功ってワケだよ」

 

 にっこりと諏訪子は悪戯が成功した子供の様に笑い私の頬を突いてくる。くすぐったいからやめてほしい。彼女は洩矢諏訪子、件の一柱だ。

 

「ほう、あの術を……私しか使えないと思ったんだがな……ふむ」

 

「まぁ、おいそれとはできないけどね。準備だけで結構素材なりなんなりを使うからあまり効率も良くないし。それより宴会するよ!」

 

 まぁ、あの術は一度きりの使い切り方術だから、そう何度も使えるものではない。しかも、無理やり作った方術で至る所に問題点があったはずだ。所で宴会だと? 

 

「宴会か! 是非やろう! すぐにやろう!」

 

 

「諏訪子やい、ラグナは呼べたって……どういう状況だよこれ」

 

 

 

 ◇ 

 

 

 

 

「なるほど、あの出鱈目方術を試してみたら本当に発動したのね。まあ丁度いいか……ラグナよく聞いて欲しい」

 

「な、なんだ改まって」

 

 神奈子に事情を説明し終えた諏訪子は私の前に立ち神妙な顔で私を見据える。

 それを訝しげに見る私をよそに諏訪子はゆっくりと口を開いた。

 

「私たちはさ、ラグナの提案のおかげで戦わずにすんだんだよ。だからお礼を込めて宴会を開こうって思ってね。術の方に関しては本当にたまたまだけどね」

 

「二人とも……」

 

「まあ、半分は息抜きも兼ねてパッと酒を飲みたいだけだがな」

 

「おい! 私の感動を返せよ!」

 

 神奈子の一言でしんみりとした空気が台無しだ。というか諏訪子も呆れた目で見ているぞ。

 

「まぁまぁ。という訳で今夜、宴会を開きます。神奈子、人を集めろよ!」

 

「わかったよ。私も参加する。その前に神社に戻らせてくれ。いきなり消えてうちのモンが慌て蓋めいているかもしれないから事情を説明したい」

 

「わかったよ。ほれ、アンタたち解いてやりな」

 

 諏訪子の指示で何処からか現れた蛇たちが縄を切り裂きそのまま消えてしまった。あれは多分ミシャクジ様と呼ばれる土着の神だろうか。

 

「また夜に来るよ」

 

「うん、待ってるよ」

 

 ◇ 

 

 

 

 

「ラグナ様! いったいどこに行っていたのですか!」

 

 

 洩矢神社改め、守矢神社から全速力で帰ってきた私を待っていたのは背後から擬音が出ている巫女さんだった。あちゃー。怒っていらっしゃる。

 

 

「あー、諏訪子に拉致されてました」

 

「そうやってまた人のせいにする! 今日という今日は許しませんよ。お話し合いです!」

 

 

 その後、私は小一時間ほどお説教をされた。

 

「あぁ、そうだ。私からも伝えておかないといけない事がある」

 

「何でしょうか」

 

 急に正座をして、私に向かって畏まった巫女さん。巫女さんも何だかんだ言ってちゃんと聞いてくれるからなぁ。

 

「そろそろ旅に出ようと思っている」

「……そう、ですか」

「ん? どうかしたのか?」

「いえ……なんでもありませんよ。ただ少し寂しいなと」

「随分と素直だな」

 

 いつもなら意地でも隠そうとするのに、本当に珍しい。何か悪い物でも食べたんだろうか。いやそれは失礼だな。だが、巫女さんは私の言葉に頬を膨らませて不満を露にした。可愛いなぁ。

 

「……私だって人です。たまには素直になりますよ! それで旅にはいつ出られるのですか?」

 

「……直ぐにでも行こうと思っている」

 

「本当にラグナ様はいつも急なんですから。わかりました……偶には帰ってきてくださいね。里の方たちも心細いと思いますので」

 

「すまない。旅に出たら数百年は戻るつもりはないんだよ。最悪戻ってこないと思って欲しい」

 

 私の返答に巫女さんは眉を顰めた。

 恐らく、怒っているのではなく悲しんでいるのだろう。

 他の人が見たら鉄仮面だの何だの言うだろうが私にはわかる。それに本当に良くしてもらったのだ。だからこそ、私という存在に縛られずに残りの人生を楽しんで欲しい。

 

「わかりました。ですが……里の方達は納得しないのではないでしょうか」

 

「それは大丈夫。里長には話をつけているし結界に関してもこの神社がその役割を担うようにしている。だから君も残りの人生は自由に生きて欲しい」

 

「ラグナ様。一つ言わせてもらってもよろしいでしょうか」

 

「構わないよ」

 

 先程までの悲しみを感じさせない声で私に問いてくる巫女さん。一体なんだろうか、これ以上に言う事なんてないと思うんだけど。

 

「例え、この地に戻られないとしても私がラグナ様の巫女を辞めるなんてことは絶対に有り得ません。私は未来永劫貴女の巫女なのですから」

 

「……そうか。なら、私の留守の間は巫女さんに任せるよ」

「はい! ありがとうございます!」

 

「あぁ、そうだ。今夜諏訪子と神奈子から宴会のお誘いを受けているんだが巫女さんも一緒に来るかい?」

 

「是非行きたいのですが今夜はやることがありますので申し訳ないのですがお留守番します。そうだ、以前神奈子様が美味しいと言ってらしたお酒を持って行っては如何でしょうか?」

 

 あぁ、そういえば前に神奈子に振る舞った酒が好評だったか。あれは確かに良い出来だったな。

 

「それじゃあ四本くらい用意しておいてくれ。私は体力を回復させる為に夜まで寝る」

 

「わかりました。では」

 

 つづく

 

 

 

 

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