永琳と約束を交わして一週間が過ぎた。あの日以来、永琳とは顔を合わせていない。そして、今日が私たち二人にとって最後の日だった。 しかし、永琳に会うことができない。この目の前に群がる妖怪達を止めるまでは。
「ラグナ様! 妖怪どもが結界を超えてきます!」
「なんだと!? 一体どうなっているんだ……住民の避難はどうなってる!」
「上のオヤジ共は我先にと全員乗り込んでますぜ。全くふざけた連中だ」
この都市に合わない斧を担いだ男が紫煙を吐きながらいう。この男は私の率いる部隊の連隊長をしている者、かなりの使い手であり私の訓練に弱音を吐くことなく着いてきた猛者の一人だ。
「滅多な事を言うんじゃない。それより、永琳……八意様は船に乗れているのか?」
「さっきほどうちの部下が声を荒げる八意様を船に乗せてる奴らを見たって言ってたんで多分乗ってますぜ」
「そうか、わかった。おまえは住民避難を最優先で終わらせろ。時間があまりない」
「おう!」
「ラグナ様! 住民の避難完了でございますぞ」
斧の男と入れ違いにやってきたのは長身の槍を背をった男だった。
この男も斧の男と同じ連隊長の一人。彼も同様に私の訓練から逃げずに最後まで全うした猛者だ。
「そうか……全員よく聞け! これより我々の部隊は妖怪の大軍共と殺りあう。援軍は無い、そして敵の数もわからない。死にたくない奴は船に行くがいい」
辺りが静まり返る。演説を聞いていた隊員たちは肩を揺らすばかりで一言も発さない。余程現状に恐怖しているようだ。これはもしかすると全員船に乗るのではないだろうか。
すると次の瞬間空気を震わせるほど大きな笑い声が辺り一面に響き渡った。
「隊長、笑わせないでくれ。俺達はあんたの部下だぜ? 誰が妖怪と戦わずに生き残れと? 俺らは最後の最後まで戦い抜きますぜ」
「そうですよ! 私たちは全員そろってここを守り抜くんです!」
「お前達……本当に呆れた。ならば馬鹿共武器をとれ!! 何があっても生きて守り抜くぞ!!」
「「「「オォ!!」」」」
◇
この一週間、結局ラグナとは顔を合わせることができなかった。そして、月への移住を間近にまるで仕組まれたかのような妖怪達の侵攻。どうも匂うわね。それに、この様子では彼女に会うことは不可能でしょうね。
「……ハァ」
「どうしました? 八意さま」
私を無理やり船に押し込んだ護衛の男さえ居なければ直ぐにでも船から飛び出してラグナの元へ向かうのに────。
一層の事不意打ちを喰らわそうかしら……駄目ね、頭がしっかり動いていないわ。
「いえ、何でもないわ」
「報告です。現在妖怪達の軍勢をラグナ殿の部隊が制圧しているとのことでございます。また、住民達の避難はすでに完了しておりラグナ殿の部隊が完全撤退後速やかに船の発進となります」
「そう、わかったわ」
ラグナ達の撤退後というけど彼女は多分戻ってこないでしょうね。まさか本当に最後の別れになってしまうなんて……ちゃんと伝えることは伝えておくべきだったわ。
「はぁ……後悔先に立たずとは、言ったものね」
「はい? 如何いたしましたか?」
「なんでもないわ」
◇
ラグナ達の部隊は近づいてくる妖怪を片っ端から切り捨てていた。
「右翼側の妖怪殲滅しました!!」
「そうか、右翼から中央に進め!!」
「左翼側も殲滅完了ですぜ」
「お前達は左翼から中央に進め」
「右翼左翼は妖怪が少ないか……本隊はこっちか?」
どうも妖怪達が統率されていることが気になる。それに、妖怪ではなく妖獣や弱小妖怪を左右に置いているののは何故だろうか。
「ぎゃあああ」
前方から悲鳴が上がる。そこには地に倒れ伏す部下と悲鳴の主を投げ捨てる妖怪がいた。
「何があったんだ!」
「こ……光線銃の効かない鬼です!!」
「なに⁉︎ お前達は下がれ、私が相手をする」
「ん? 次はおまえさんが相手かい」
その鬼は一本の角と腰まで届く薄い桜色の髪を靡かせ笑っていた。しかし、その姿からは一寸の隙がない。そしてこの迸る妖力
「ッチ──大妖怪クラスか。私の名はラグナ、貴殿の名を教えていただこうか」
「ほぅ、礼儀がなった人間だね。うちの名は
「桜鬼……では、やろうか」
「かかってきな、人間。私を楽しませてもらおうじゃないか!」
「ハァッ!」
「甘い!! 覇ッ!!」
私の放った拳は気合の入った蹴りによって迎え撃たれる。その蹴りは重く、そして速い。しかし、この程度では私は止まらんぞ! 私の拳が弾かれた瞬間、桜鬼の腹部に拳を叩き込む。
しかし、桜鬼はニヤリと笑いそれを受け止める。そして、そのまま私の腕を掴み背負い投げをしてきた。私は空中で体制を立て直し地面に着地する。
すると今度は桜鬼が私に向かって突進してくる。
その速度は尋常ではなく一瞬で間合いを詰められる。
「ハッ!」
私は桜鬼の繰り出す拳を躱し蹴りを放つ。しかし、それを予期していたかのように軽々と腕で受けられてしまう。
そして桜鬼はもう一方の拳を握り再び私に向かってくる。
「ハァッ!!」
私はその拳を受け止め桜鬼を投げ飛ばす。しかし、桜鬼は空中で体制を立て直し地面に着地する。
すると今度は桜鬼が私に向かって突進してくる。
「ハッ!」
私は桜鬼の繰り出す拳を受け流し蹴りを放つがそれを受け止められてしまう。
そしてそのまま投げ飛ばされるが地面を転がりすぐに立ち上がる。
(なんて奴だ、全く隙ない)
私が立ち上がると同時に再び間合いを詰めてくる。
「どうした! 人間!! その程度か!?」
「まだまだだ!」
私は拳を桜鬼に向かって放つ。しかし、それは簡単に受け止められてしまう。そして今度は蹴りを放たれるがそれを腕で受け止める。すると今度は私の腹部に衝撃が走る。
「グフッ」
「どうした? もう終わりか?」
「まだだ!!」
私は桜鬼の顔面目掛けて拳を放つがそれも受け止められてしまう。そしてそのまま投げ飛ばされるが空中で体勢を整え着地する。
(クソッ! 全く攻撃できない。やはりあれを使うしかないか)
「すまないな。なるべく消耗を抑えたかったんだが……そうも言っていられなくなった」
「ん? 何を────」
私は拳に霊力を込める。そして霊力は姿をなし弓の形へと変化する。これは私の技の一つ、全てを穿つ神風。
「霊弓・神風」
私は弓を引く、矢をつがえずに。しかし射たれた矢は鋭利な刃物のような風となり桜鬼へと襲いかかる。
「なっ!?」
流石に予想外だったのか反応しきれず直撃する。そしてそのまま吹き飛び建物に衝突して瓦礫の下敷きとなった。
「やったか?」
「隊長! あれを!」
隊員が指差す方向を見ると瓦礫の中からゆっくりと立ち上がる桜鬼がいた。その体には無数の傷があり血が出ているがどれも浅いものばかり。
「く……くくっ、ハハハハハハ!!」
「ハァッー!」
笑う桜鬼に一瞬で肉薄しその腹に拳をめり込ませる。流石にこれは効いたのか口から血を吐き出す。しかしそれでも笑い続ける桜鬼は私を見て言う。
「いいねぇ! あんた最高だよ!! あぁ、楽しかった。良い死合だった」
そう言い残し桜鬼は頭から地に倒れ伏す。
そのまま動く事もなく、どうやら本当に倒せた様だ。
「ハァハァ……霊力が切れたか。だがこれで先に進める────全軍前進!」
「お、オウ!」
我々は妖怪を倒し只前に進む、守るべき物の為に。
つづく