「ハッ!」
霊力で生み出した剣で攻撃する。しかし、私の振るった剣は容易く受け止められてしまう。
「その程度か? ならば今度は此方の番だ」
「くぅ……」
先ほどとは比べ物にならない程の速度で零季の拳が迫りくる。私はそれを必死に避けていく。しかし、避けられない攻撃が段々と増えていく。
そして、攻撃を捌ききれずに一撃受けてしまう。その衝撃で吹き飛ばされるが、何とか体制を立て直す。だが、その隙を見逃す相手ではなかった。
再び拳が迫る。しかし今度は避ける余裕はない。
「クハハッ! まだまだこんなものではないぞ!」
「まだ……っ!」
迫る拳を何とか受け止める。だが、その力強さに思わず顔をしかめてしまう。
そんな私を嘲るように笑う零季だったが、突然ニヤリと笑みを浮かべる。そして次の瞬間、私の視界はぐるりと反転していた。
「えっ……」
一瞬遅れて自分が投げ飛ばされたことに気づく。地面に叩きつけられる瞬間受け身を取り衝撃を緩和する。それでもダメージは大きくすぐに立ち上がることができない。そんな私に零季はゆっくりと歩み寄る。
「弱いなお前」
「っ……」
「もう、飽きたな。これで終わらせてやる」
零季は拳に妖力を集中させる。そして、それを私に向かって振り下ろすつもりだろう。避けることはできない。まともに食らえば命はないことは明白だった。
「やらせるか!
霊剣を消し、新たに生み出した霊力でできた槍を零季に向け投げつける。
「ふん」
しかし、零季は槍を軽く避けてしまう。だが、それは想定通り。
「
私は再び霊力で剣を生成し零季に斬りかかった。その一撃は今度こそ直撃し、零季を吹き飛ばした。そしてそのまま壁に激突する。
「やったか!?」
しかし……
「……クハハ! 面白いぞお前!」
壁が崩れる中、零季が姿を現す。その姿は無傷で服も汚れていない。だが、確かにダメージは与えたはずだ。
「まだだ!」
私は再び霊力を練り始める。零季もまた迎え撃つつもりのようだ。拳に妖力を集中させるが……
(何っ!?)
今まで以上に強力な妖力を感じた瞬間、私の前に零季が現れていた。そしてそのまま蹴り飛ばされてしまう。
「っ!!」
その衝撃で地面を転がるが何とか体勢を立て直すが零季は一気に距離を詰めてくる。なんとか攻撃を捌こうとするものの、先ほど
とは比べものにならない速さで次々と繰り出される攻撃に次第に押されていく。反撃をしようにも攻撃が苛烈すぎて避けるだけでも精一杯だ。
このままでは確実に押し切られる。しかし、そう確信できたところで突然零季の攻撃が止まった。いや止まったのではない、動きが止まったのだ。
(チャンス!)
私は霊力を練り上げると、渾身の一撃を放つ。零季はその一撃を腕で受け止めると、ニヤリと笑みを浮かべる。
「もう見切った」
「なっ!?」
次の瞬間、強烈な衝撃が全身を襲う。そのまま吹き飛ばされ民家に激突してしまう。ダメージは大きく動くことができない。そこに零季はゆっくりと歩み寄る。
「つまらんなお前……もう死ね」
(くっ……)
ふと空を見ると最後の船が飛び立っているところだった。これで地上には私と零季だけが残されたことになる。これでようやく……
「ふふふ、くは……クハハハハハハハ!!」
突然笑い始めた私を見て零季は不気味そうな表情を浮かべる。
「なんだ気でも触れたか?」
「いや、そうじゃないよ……ふふ」
私はゆっくりと立ち上がる。体は既にボロボロで立っているのも辛い状態だがそれでも笑うことを止められない。何故ならこれで本気が出せるからだ。
「零季といったか。悪いがお前の負けだ」
「何を? いって──」
零季は次の言葉を出せなかった。なぜなら自分の腕が無くなっていたからだ。
それと同時に切断箇所から血が噴き出るが零季は微動だにしない。いや、する暇がないといった方が正しいだろう。何故なら私が斬りつけたからだ。
何が起きたのか理解していないようで呆然とした表情を浮かべている。私はそんな零季に今度は連撃を叩き込んだ。それによりようやく自身の状態に気が付いたようだ。
「どうなっている!? 貴様! 何をした?!」
「何をしたか? ただ斬っただけさ」
「馬鹿な! 俺様の速さについて来れなかった貴様が何故だ!?」
「なに、簡単なことさ。私は力を隠していただけだ。周りに味方がいたんで本来の半分も出せていなかったのさ」
その言葉に零季は絶句してしまう。無理もないだろう、自分が手を抜いていたと言われたようなものだからな。
「ふざけるな! 聞いていた話と違うじゃないか!」
「なるほどな。私を消したがっている上層部の人間がいるのは知っていたがまさか
「ふざけるな人間風情が! この俺様が負けるなどあっていいわけがない!」
「残念だったな。お前は私のことを人間と勘違いしてるようだが……私は妖怪だ」
その言葉に零季は驚愕の表情を浮かべ、激怒する。そして襲いかかってきた。
「ふざけるなぁあ! 霊力を操る妖怪なぞ居るわけがない! 俺様を馬鹿にするなァ!」
零季は無くなった腕を再生し妖力を全身に纏い突進する。確かにその一撃は今まで以上の威力を秘めていた。しかし……
零季の攻撃を軽々と受け止めると、そのまま押し返す。そして斬撃を浴びせていくが相手は妖力を込めた腕でガードする。
「埒が明かないな……変転『妖怪化』」
変化は一瞬だった。私の体に纏う膨大な妖力。その大きさは零季を遥かに超えていた。
「どうだ? これが私の本来の姿だ」
「な、七つの尾だと?」
「ああ、久しぶりに元の姿に戻ったよ。改めて名乗らせてもらおう。大妖獣天狐が娘──妖狐ラグナだ。さて続きを始めようか」
「くっ!」
零季は距離を取ろうとするがそれよりも早く私は距離を詰める。そのまま連続で斬撃を浴びせていく。
「ぐっ……くそぉ! 何故だ!? 何故俺様の攻撃が当たらない!?」
零季は必死に攻撃してくるがその全てを躱していく。そして隙を見て蹴りを入れると、吹き飛び壁に激突する。しかしすぐに立ち上がり再び襲いかかってきた。
今度は妖力弾を大量に作り出しそれを一斉に撃ち出す。しかし私はそれを全て避けていく。そしてそのまま零季の懐に入り込み、腹部に拳を叩き込む。
「ぐはっ!?」
「お前は妖力の使い方がなってないな。見せてやるこれが本当の妖力の使い方だ」
掌に妖力を集中し極小の球体へ変化させる。そして出来上がった球体は零季の持つ妖力とは比べ物にならない程の密度を持っていた。
「なぜだ!? なぜその程度の量でその密度の妖力が作り出せる!」
「単純なことだ。お前の妖力は無駄に出鱈目に練り込んだもの。その点私は違う」
零季は必死に防御態勢を取ろうとするがもう遅い。
「喰らえ、これが本来の妖力の使い方だ!」
極限まで圧縮された高密度の妖力を零季に向けて放つ。その一撃は強力な衝撃波を伴いながら零季を都市を飲み込んでいく。
◇
「ラグナ……」
はるか下、私たちの住んでいた都市のある位置が急に光に包まれた。光は都市だけでなく周りの森林を飲み込んでいく。やがて光が収まった時には光にのまれた場所だけえぐり取られたように消え失せていた。
「八意様。ラグナ様はきっと無事ですぞ……」
大槍を担いだ、幽鬼と呼ばれる男がそう呟く。しかし、その顔はどこか悲しそうだった。
「兄貴、そろそろ月に着くぜ」
そう言って部屋に入ってきたのは大斧を担いだ佐助と呼ばれる男だった。「そうか、わかった」
二人は部屋の主へ頭を下げ、そのまま部屋から出ていく。
「……ラグナ、きっと生きているわよね」
私はそう言って窓の外に視線を移す。そこには丸い大きな月が浮かんでいた。
◇
死ぬかと思った……まさか、都市ごと吹き飛ばす威力だったとは……。
「妖力もすっからかんだ。っと……眠気が」
私は意識が遠のくのを感じた。意識が落ちる前に結界を張り、そのまま体が倒れていく感覚を最後に感じると、私の意識はそこで途切れた。