東方狐著聞集   作:稜の幻想日記

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閑話 桜色の髪と角

「ゴホッ!?」

 瓦礫の中から体を起こした桜鬼は口から血を吐きだしながらも笑っていた。しかし、その表情からは普段の余裕は感じられず悔しさに染まった顔だった。

 

「久しぶりに負けちまったよ……あの人間強かったねぇ」

 

 体の傷を見ると最後に喰らった箇所以外は治りかけていた。それもそのはず彼女は鬼神桜鬼(おうき)。鬼族と呼ばれる大妖怪なのだから、体の自己再生能力は非常に高い。彼女はただこの暇な日々に飽いていた。だからこそ本気で殺し合いをできる存在を渇望し、胡散臭いと思っていた同族の鬼、零季の提案に乗ることにした。

そして、そこで出会った好敵手とも呼べる人間、ラグナは強かった。彼女もだが戦いの中でラグナも本気を出しているようには感じられなかった。だが、それでも彼女には十分に強敵と感じられていた。そして結果は敗北、色々と思うこともあるが負けは負けなのだ。

 

「あぁ、クソ……本気で戦ってみたかった」

だが、悔しさと同時に少し楽しかったと思う自分もいた。だが、奴は人間である上に零季には勝てるとは思えない。あぁ……これからまた暇な日々が続くのかと思うとため息が溢れるが、こればっかりはどうしようもなかった。だが、もし次に奴と戦えるとしたら絶対に勝つと彼女は心に誓っていた。

そんなことを考えながらも住処に戻る。都市を襲うのはもうどうでもよくなっていた。ただ、この退屈な日々をどう過ごすかが問題だった。

 

 

 

 零季と名乗るこの鬼は冷酷非道な男だった。幽玄の桜鬼と対をなすといわれる彼もその実力は間違いなく上澄であるのは間違いなかった。

だからこそ都市に住むある人間から『ラグナ』と呼ばれる人間の殺害を依頼され、ついでにそこに住む人間どもを喰らってやろうと思慮していた。

そして、標的である『ラグナ』と対峙した零季は、所詮その程度の人間と見下していた。自身の速度についてくるのもやっとの『ラグナ』に失望すると同時に、己の前にこの程度の実力で立つことへ怒りが湧き上がっていた。

その感情と共に苛烈な攻めを繰り返す零季に対して、ラグナは防戦一方だった。しかし、それも奴が自身の部下をどこかへと移動させてから急に変化した。

奴の纏う霊力があり得ないことに妖力へと変化したのだ。人が妖力を持つなど聞いたことも無い。そして気が付いたら己の腕が切り飛ばされ最後には極限まで圧縮された高密度の妖力の塊によってこの世から跡形もなく消え失せた。

 

 

 

 

現在、桜鬼は自身の住処で一人酒を煽っていた。都市から撤退し住処の洞窟へと戻ってきたのだ。

どうやら我らが大将が死んだようだ。奴に対して何の感情も浮かばないが所詮その程度の妖怪だったのだ。しかし、死者を弔うためにこうして一人酒を煽りながら酒を飲む。

本当に退屈な日々だったと思い出す。ただ、最後の戦いだけは違った、あれをもう一度味わいたい。最後にあの凄まじい霊力と妖力が衝突する感覚が忘れられないでいた。

 

「眠い……少しだけ横になるか」

そう言いながら桜鬼は眠る為に横になる。少し先の未来、鬼の長と君臨することになる一人の妖怪はいつか会遇するであろう強者を夢見て。

 

つづく

 

 

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