斯くして手に取るのだった   作:空ボトル

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2話

 

 何度も登校を繰り返すこと数日。4月の終わりになる頃にはだいぶ慣れてきたと言えることだろう。ちょっとばかりいつもの道を逸れたとしても道に迷うことはない。それでも地図のアプリは手放せないが。

 部活動も本格的に始まったようで、吹奏楽部の入部希望者は音楽室に集められた。1年生は席につき、先輩たちが周りを囲うようにして立っている。

 

それにしても顔がいい。

 落ち着きがない様子を装って周りを見てみる。うん、入学してから思っていたのだが北宇治高校はレベルが高くないか。あっ、新入生代表だった人もいる。あの人は別格だけど1年の美人率は高い、先輩達になるともっと高い。1つ2つ年が違うだけなのに、確実に上級生だと分かっているだけでも不思議と魅力が増しているように感じる。首から楽器をさげた部長らしき人もかわいい、先輩だけど応援したくなる感じが素敵だ。うわっ、あの赤縁眼鏡をかけた先輩とか美人すぎだろほんとに高校生? 

 

 なんて今後の学校生活を考えると口に出せないたわごとを考えているうちに楽器紹介が始まった。

 そうか、チューバはデカくてトロンボーンは細長いやつだったのか……。説明は聞いたけどよく分からなかった。というよりユーフォの説明で吹き飛んだ。中世古先輩と田中先輩はとても印象に残ったと言っておこう。

 

「各々やりたい楽器の代表のところまで行ってください。落ちたら第二希望に回します」

 

 それじゃどうぞ、と部長の声で楽器決めが始まった。しまったな、ちょっとぐらいリサーチしておけば良かった。

 

「なぁ、初心者でも弾けそうな楽器ってわかる?」

 

 横で座っていた塚本達に聞いてみた。

 

「初心者でも? うーん、どれも変わりないと思うけど。とりあえず俺がやりたいからトロンボーンに行かないか」

 

「有名どころは倍率やばいからなぁ、こだわりないなら気になったやつでいいんじゃね」

 

 落ちたら別のやつに行きゃいいんだし。そう言ったのは同じクラスの瀧川ちかお。もともと決めていたようでさっさと行ってしまった。トロンボーンってあのスライドさせるやつか。いかにも難しそうだったのでトランペットに向かうことにした。

 

 

「定員は3人だからごめんね。落ちた人は二次募集に向かってください」

 

 落ちました。

 眺めていたトロンボーンの適正テストでは塚本が吹いていたのだから自分も音を出すぐらいはできるだろうと高を括っていたが甘かった。全然音が出ねえ。音を出すのにはコツがいるんだよ、と塚本はニヤニヤしながら教えてくれた。先に言え。

 傍から見ていると滑稽だったろうに、嫌味のない笑顔と応援をしてくれた中世古先輩は女神だった。「マジエンジェル!」と言われるだけはある。できたらもう少し話を、と思った矢先に迫力のあるトランペットが音楽室の時間を止めた。

 割れることなくどこまでも響きそうなその音は、僅かであっても高度な技術を知らしめた。素人でもわかる。この人は上級者であることが。

 

「……これでいいですか?」

 

 事も無げに言い放つその姿は、彼女の孤高さをかもしていた。

 

「高坂さん上手だねぇ。どこ中なの?」

 

「部活の他に教室に通ってます」

 

「はー、それで上手いんだ」

 

「褒めてくださってありがとうございます。うれしいです」

 

 高坂と先輩とで温度差があるとはいえ会話が進んでいるこの現状。音すら出せないという足元すら及ばない人物はいたたまれなくなり、こそこそとその場を後にするのだった。

 

 人気があるところだから落ちるのは覚悟していたが、さらに落ちるとさすがにキツイ。塚本とは別れたもののどうしよう。ふと周りを見渡すと部長が楽器を決めた1年たちから名前を聞いていた。

 首にかけているのはたしか……バリサクだっけか。気のせいか輝いており、よく見るとカッコイイ。部長に教わるのも悪くないなと、下心がありつつも先輩の周りに人が減るのを待った。

 

 

 

待ってしまった。

 

「ねぇーキミィ。楽器はもう決まった?」

 

 え、と振り返った時にはその人がいた。肩にかかる艶やかな黒髪に、赤縁のメガネが理知的な印象を加えたその美貌。

 

「低音パートは大歓迎! 何しろ人気がないからねー。来てくれたら嬉しいんだけど、どうかな?」

 

 そんでもって、クールなようであっても笑みをうかべて明るく振る舞うその姿。嫌いになる要素がない。美人の女性に耐性がない武臣にはよく効く。

 

「え、いや、まだ、決まってはいないですけど……」

 

「よーし! じゃこっちに来ようか」

 

 もともと当てもなかったために断る言葉が出るはずもなく、ついて行くしかなかった。

 

「ジャーン! こちらが我が低音パートの楽器になりまーす」

 

 断りをいれられず、ついつい来てしまった。いくつか寄せられた机に置かれているのはチューバとユーフォニアム。形は似ているが、大きいのがチューバと言ったか。

 ふむ、デカイのはいい。重さはともかく、ところどころメッキが剥がれいるところがあれども大きくて金色なのはカッコよく思う。

 

「これってチューバでしたっけ。いいですね」

 

「おっ。きみ初心者でチューバの良さがわかる? いいねぇ、わかってるじゃん」

 

あはは、それじゃ。と踵を返すには遅かった。

 

「うんうん、チューバっていいよね! 私も運命的な出会いをしたんだよ!」

 

「大きな体で演奏を支える大事な楽器なんです! 素敵ですよね!」

 

 逃げ出すのを防ぐように追撃を仕掛けてくるのは、肌が日に焼けた溌剌そうな少女とコントラバスの経験者らしい小柄な少女。

 

「こんなに素晴らしい楽器なのに人が少なくてさー。あーあ、誰かやってくれる人はいないのかなー」

 

「……入ってくれると助かる」

 

 わざとらしくあすかが言いつつ、そばにいた大柄な男を小突いて促した。

 ……まぁいいか。

 

「……わかりました。チューバをやります」

 

「よっしゃ!」

 

 やったぁ、と喜ぶ女子一同。「計画通り」とメガネを反射させつつ小声が聞こえたのは気のせいだろう。

 

「……無理して入ることはない」

 

 そう言ってきたのは先程小突かれていた大柄な男こと、チューバを紹介していた後藤卓也。口下手ではあるようだがこちらを気づかってのことだろう。

 

「いえ、無理はしていないんで大丈夫です。初心者なんでどれも似たようなものですよ。後藤先輩……ですよね、これからよろしくお願いします」

 

 軽く会釈をすると返してくれた。いい先輩な気がする。

 ふと目線を向けると、電灯の光でもチューバは輝いているように見えた。

 





塚本は最初からトロンボーン希望でしたね。
上げてすぐに気づいたので少し付け加えました。
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