前世がレッドのイーブイ先輩 作:ちゃっぱ
ピカチュウはある日、存在しない記憶が溢れ出した。
それは、普通であれば笑いの種になるレベルの物語。自分がかつて人間で────ポケモントレーナーとして活躍していた時のことを思い出したのだ。
ピカチュウにとってそれは寝耳に水の出来事。
しかもカントー地方から旅行でやってきたクソなトレーナーにキタカミの里の外れの方に捨てられた直後であった。
記憶を取り戻す前のピカチュウであれば「捨てないで!」と鳴き声を上げてトレーナーの足にすがり付いていただろう。
だが今は違う。
トレーナーが「お前弱っちいし、いらね」としてきたのでこちらから望んでトレーナーを捨てることにした。
ついでに電撃の一つや二つは別れ際にしてやった。
というわけで、自由になったピカチュウはやることがあった。
それは己を鍛え上げること。そして前世のライバルへの再戦である。
己がピカチュウであろうと関係なかった。ポケモンだからってトレーナーになれないわけじゃない。
ポケモンの進化にはまだまだ謎があるように、可能性は無限大。
ついでにポケモンがバトルを仕掛けてきたことで『あいつ』はどんな反応を見せるのか見てみたかった。
ピカチュウだからと油断しきったライバルの鼻をへし折る程度には負かして、アホ面を拝んでやりたいというちょっとした意地悪な気持ちもあったのだ。
自分が前世のライバルだと知ったときに『あいつ』はきっとずっこけるレベルの面白い反応を見せてくれるはずだ。
そう信じてピカチュウはまず金を作ってモンスターボールを手にし、トレーナーへの第一歩を踏み出そうとしていた。
己を鍛え上げるのは、ポケモンがポケモンを従えるというデメリットを無くすため。
トレーナーとして野生のポケモンと戦うときと一緒だ。
捕まえるためには野生のポケモンを弱らせる必要があるだろう。それはつまり、一定の強さを見せつける。自分が従ってみたいと思えるようなことをしなきゃいけない。
だから野生のポケモンを捕まえるためにバトルする。バトル以外にも「こいつには従ってもいいかもな」という意味で懐かれてゲットされるケースもあるが、つまりそういうことだ。
ピカチュウはまだ己が弱いと分かっていた。だな、まず己が一番強いのだと示さなければならない。
自分がボスだからモンスターボールに入れられるのだと思わせなきゃいけない。
そのために鍛えていた時に見つけたのは、姉から隠れこっそりバトルの修行をしているスグリだった。
スグリはピカチュウを捕まえようとしたが逆にボコボコにしてやった。
ついでに見たことのあるポケモンを目にしてちょっとトレーナーだった前世の血が騒ぎ、どう育成するべきか考えた。
スグリが茫然自失してる合間にオタチとヤンヤンマにバトル形式の戦術を一つ、実践させてやった。
そこらにいる野生のポケモン相手に無双出来るようになったので満足したピカチュウは彼らとお別れするつもりだった。
スグリが土下座して引き留めるまでは。
「お、お願いします! 師匠と呼ばせてください!」
話を聞くうちに鬼さまとかいうポケモンが大好きで、いつかそうなりたいと憧れを抱いていたらしい。
「強くなれば鬼さまみたいになれるって信じてる……から、その……」
「ピカ」
ピカチュウはサムズアップした。
強くなりたいなら歓迎しよう。そう思いスグリを弟子として扱うことにした。
その間にピカチュウがキタカミの里で修行と称してスグリと駆け回ったからか、実際に鬼さまたるオーガポンと遭遇したり、何か変な三匹が復活したのでボコボコにして捕まえたりとピカチュウは己の目標とは違うトラブルに何度か遭遇した。
スグリの姉のゼイユともちょっとした争いになったことはあるが、全部ピカチュウの狙いどおりである。
そして、それはやってきた。
「バトルフロンティア?」
「ええそうよ。スグ、あなた最近バトル頑張ってるじゃない? 最初の挑戦者としてやってみなさいよ」
スグリはまだ自分に自信がないからか、ピカチュウを頼った。
バトルフロンティアでポケモンが指示してポケモンバトルするという己にとってちょうどいいルールだったので、拒否するつもりもなし。
────というよりは、ポケモンがポケモンを指示するというのはまるで己のためにあるルールのようだ。
もしや自分以外にも前世の記憶を持つポケモンがいるのだろうか。
そう思っていたピカチュウは未だ疑問に思っていなかった。
いつから自分はピカチュウになったのか。
何故、前世の自分は死んでしまったのか。
────そして、ライバルが何故死んでないと思ってしまったのか。
「ピィカ!!?」
ライバルが自分のことを知ったらずっこけさせようと密かに目標を抱いていたピカチュウ────否、前世グリーンはかつてのライバルたるレッドが可愛らしいイーブイの姿になっているのを見て盛大にコケたのだった。