74層ボス攻略よりも前の時系列です
薄暗く広い不気味な場所…何度も見た光景だ。
ああ…またこの夢か…
少年はすぐにこの光景が夢であると悟った。あの日から何度も見た夢。脳裏に焼き付いて離れない…目を背けたくなるような現実。
悪意、正義、殺意、憎しみ…様々な感情が交差する戦場。
少年に矛先が向けられた鋭い刃、何度も見た。解ってるはずだ。しかし、これは過去の光景…どんなに必死に逃げようとしてもその身体は決して動かない。そして、少年の目の前に彼が現れる。
夢の中でくらい俺を見捨ててくれよ…
少年に突き刺さるはずだった刃は彼の心臓を貫いた。
「零くんッ!!」
彼の名を叫び身体を支えるが、彼の身体は既に光の結晶に変換されかけている。
「クリム…またな…」
パリンッ……
少年に別れを告げ、彼…蒼井零は光の結晶となって消滅した。それはこの世界…いや、現実の世界でも死を意味する。この…ソードアート・オンラインの世界では。
2024年10月
「ハッ!?」
「オハヨー。随分うなされてたナ」
「…またあの夢見ちゃって」
先程の夢の主はこの赤茶色の髪の少年…クリムである。
「またカ。まぁ無理もないカ…アイツが…ゼロが死んでからまだ2ヶ月しか経ってないもんナ」
「…見張り交代するんでアルゴさんは休んでください」
クリムと一緒にいる少女は情報屋のアルゴ。
クリムが彼女と共に行動している理由は一言で言ってしまえばアルバイトである。
稼げるクエストがあまり無く、彼女の情報収集に協力する代わりに報酬を貰う約束をしているのだ。
森の奥に隠しダンジョンやクエストNPC等が居ないかを探すのに夢中になっていたら周囲はすっかり暗くなってしまい、夜の森を歩くのは危険だと判断した二人は見張りを交代しながら野宿をしている。
「大丈夫ダ。オネーサンは夜更かしに慣れてるから、もう少し休んでロ」
「いや…その…今寝るとまた同じ夢見そうなので…」
「そうカ…しょうがないな!眠れるまでオネーサンが抱きしめてしてやるヨ!」
「おやすみなさい」
「おいコラ!!」
アルゴの誘いを無視しクリムは再び横になった。
朝日が昇り視界が確保できたため二人は森を抜け街へと戻った。
「おつかれ、助かったヨ。これ報酬ナ」
クリムは報酬の1万コルを受け取った。
「ありがとうございます」
「そうだ!オマケにクエストの情報を教えてやるヨ!」
「いいんですか?」
「いいヨいいヨ。情報と言っても最近発見されたばっかで何も分かってないんだけどナ」
「え?アルゴさんでも分からないクエストがあるんですか?」
「当然ダロ?SAOは無数にクエストが存在するんだから。」
アルゴは手帳を開きクエストの説明を始めた
「50層にNPCの営んでいる花屋があるんだガ、その花屋の前に店主の女性がいるんダ」
「50層って俺のホームじゃん。花屋なんてあったのか」
50層は迷路のように入り組んだ街なため、そこに住んでいるプレイヤーですら全容が把握できていない。
「その女性はいつも自分の娘を探しているんダ」
「娘?」
「ああ。なんでも、数ヶ月前にダンジョンにある綺麗な花を取りに行くと言ったきり戻って来なくなったそうダ」
「…それってもう」
「ああ、死んでる可能性が高いナ。でも店主は今でも娘が生きてると信じて探し続けてるんダ」
「…それでアルゴさんはそのクエストを受けたんですか?」
「受けたゾ。キー坊と一緒にナ」
「キリトと?」
黒の剣士キリト
SAOでもトップレベルの実力を持つプレイヤーである。
第一層攻略の際に彼と出会い交流を持つようになった。
「ダンジョンがあるって情報は噂で聞いてたから複数人いる方がいいと思ってナ。キー坊なら実力も充分だし何より暇そうだからナ」
「ああ、納得」
「まぁそれも取り越し苦労だったんだけどナ」
「え?」
「あのダンジョンは道中に雑魚モンスターがいて奥にボス部屋があるんだが…」
「ボス部屋って…まさかたった二人で入ったんですか!?」
「ああ。と言っても最初はただ覗くだけのつもりだったんダ。転移結晶も用意してナ」
「…ボスと戦ったんですか?」
「いや…居なかったんダ」
「え?」
「あの部屋にボスは居なかったんダ」
「そんな…ボスの居ないボス部屋なんて…」
「その後二人で部屋の中を隈無く調べたが、隠し部屋も仕掛けも何も無かったんダ」
「そんな…じゃあ花屋の娘さんは?」
「娘さんも居なかった。居た形跡すら無かったヨ。当然死体モナ」
「……」
「気になるダロ?」
「…はい」
「ヨシ!それじゃ花屋の場所を教えてヤル!ダンジョンまでの道は店主が案内してくれるからナ」
「ありがとうございます」
アルゴから情報を聞いたクリムは早速50層の花屋へと向かった。
アインクラッド 第50層
花屋 【Lotus】
「これが例の花屋か。読み方は…ロータスで合ってるかな?」
店の前には店名の通りに色々な種類の蓮のような花が並んでいた。
(蓮の花…そういえば昔、零が蓮は英語でロータスだって教えてくれたな。なんで教えてくれたか忘れたけど…)
クリムが花を眺めていると店の中から女性が出て来て叫び始めた。
「誰か私の娘を見ませんでしたか!?」
(この人が花屋の店主か)
「もう何ヶ月も帰って来て無いんです!!」
「おいおいまた始まったぜ」
「ダンジョンに行っても何も無いしバグなんじゃね?」
通行人達は五月蝿そうに店の前を通り過ぎて行く
(バグか…確かにその可能性は高いな…だとすると本当にこのクエストを受ける意味なんて…)
「お願いします!どんな些細な事でもいいんです!娘を…娘に…会いたい…」
「……」
店主は泣いていた。NPCなのだから感情などある訳が無い。この涙だってプログラムされたものに過ぎない筈だ。しかし…
「…寂しいよな」
そう呟きクリムは店主に声を掛けた。
「あの、娘さん探すの手伝いますよ」
「…本当ですか!?」
「はい。お話を詳しく聞かせてください」
「わかりました…ありがとう…ございます!」
店に入り店主から話を聞いた。だいたいはアルゴから聞いた話と同じだった。娘の名前は【マリー】というらしく、数ヶ月前、ダンジョンに綺麗な花を取りに行くと言ったきり帰ってこないそうだ。
「私のせいなんです…店の経営が危ういのが娘にバレてしまい…きっと私の態度や生活に出ていたのでしょう…娘は綺麗な花があればお客さんが来てくれると言って…止めはしたんです!でも…次の日の朝にこの手紙が置いてあって…」
手紙にはこう書かれていた
お母さんへ
ダンジョンにお花を取りに行ってきます。お母さんは止めてくれたけど、私もお店の役に立ちたいから探してくるね。二人でずっとこのお店を守ろうね。
「…私がもっと強く止めていれば…ダンジョンがどれだけ危険かをちゃんと教えていれば!!」
「…あまり自分を責めないで下さい。それより、その綺麗な花と言うのは?」
「私も見たことはないのですが、冒険者だった夫が昔そのダンジョンで見たことがあるそうなんです。黒い蓮の様な花だと聞いています」
「旦那さんは今どこに?」
「三年前に他界しました…だから私にはあの子しか…」
「…わかりました。取り合えず俺はそのダンジョンの中を探してみます。なにか手掛かりがあるかもしれませんし」
「…本当に…ありがとうございます。ダンジョンまでご案内致します」
店主に連れられダンジョンへと向かった。そしてダンジョンに到着したのだが…
「…これがダンジョンの入口ですか?」
「…はい」
なんと街の路地裏の地面に四角い穴が空いているのだ。その穴をよく覗くと梯子のような物が付いている。
「こんなダンジョンは初めてです…」
「主人も昔同じ事を言っていました」
「…まぁ取り合えず行ってみます。なにか分かったことがあればすぐに教えますね」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ、それでは行ってきます」
クリムは娘マリーの捜索のためダンジョンへと続く梯子を降り始めた…だが…
「…長い…長すぎる」
体感10分程度梯子を降りている気がするが一向に下に着く気配がない
「…途中まで落下するか」
クリムは梯子から手を離し落下し始めた。
「おお!速い速い!これならすぐ着きそうだな!あ、でもこれだと下が見えないな…確かランタンがストレージに…」
ストレージからランタンを取り出し灯りを付ける。
「よし!これで下も見え…もすそ!!」
もすそとは「もうすぐそこじゃん」の略である。つまり地面までの距離がほとんど無かった。
「…し…死ぬかと思った…」
地面に激突する寸前で梯子を掴み事なきを得た。
「さて、ようやく下までたどり着いた…これは…」
梯子から降りてすぐ目の前に巨大な扉があった。
「なるほど。これが本当の入口って訳か」
更に暗くて分かり辛かったが、ランタンをもって周囲を見渡すと壁や天井に何個か穴が空いている。
「あの梯子以外にも入口が有ったのか」
しかし梯子に比べればどれも危険そうなうえ、天井の穴に至っては落ちたら即ゲームオーバーだろう。
「俺は一番安全なルートだったって訳か…さて」
クリムは扉を見つめ決心を固める。
(もし何らかの原因でボスモンスターが出たとしても転移結晶が使えれば問題はない…道中のモンスターも一層レベルの雑魚だってアルゴさんも言ってたし)
「…よし」
扉を開けようと手をかけたその瞬間…
「ん?なんだ…この音」
微かに小さい音が聞こえた。しかし、だんだんとその音が大きくなりその音が人の悲鳴であると気付いた。
「ウワァァァァァァァァーーーーッッ!!!!」
「え?ウワァァッッ!!」
悲鳴は左横の壁の穴から聞こえてきた。そしてその穴から勢いよく少女が飛び出して来たのだ。穴から飛び出た少女の足は勢いよくクリムの左脇腹にクリーンヒットした。
「グエェェェェッッ!!」
汚い呻き声を叫びながら吹き飛び右側の壁に思いっきり激突した。
「痛…くはないけど…HPは…あれ?減ってない?」
(…そうか!ここはまだ圏内なんだ。じゃあ梯子なんて使わずに最初から落ちてくるんだった…)
「すまない。大丈夫かい?」
彼女は手を差し伸べ心配そうにクリムを見る。
刀を腰に携え、白い髪に青い瞳の少女。しかしその瞳はどこか冷たく悲しげであった。
この少女が生涯の相棒となることをクリムはまだ知らない。
はじめまして皆さん
紅の英雄譚を読んで頂きありがとうございます
かなり前からSAOのSSは描きたいと思っていたので、今回ずっと頭の中にあった構想を形に出来たことをとても嬉しく思います。
第1話は全然デュエマ要素はありませんでしたが、2話からはちゃんとクリーチャー出します。
まだまだ誤字や読みにくい部分、戦闘描写の説明不足等があると思いますが、投稿しながら読みやすい文章に出来れば良いなと思っております。
ぜひ第2話も読んで頂ければ幸いです。