クリムをぶっ飛ばした白髪の少女の名は【エル】というらしい。
昨日このクエストを受けダンジョンを探索したが、なんの成果も得ることが出来なかった。
今日はダンジョンに見落としが無いかを調査しに来たらしい。
「あの…エルさんは…」
「呼び捨てで構わないよ」
「…エルは昨日ボス部屋まで行ったのか?」
「ああ。何も出なかったけどね」
「……」
(アルゴさん達だけじゃなくエルもボスには出会えなかった…街に居た人達もボスは見てないみたいだし…やっぱりバグでクエストが進行不可になってるのか?でもSAOのバグって結構早く修復されるよな?)
「クリム良かったから僕とパーティを組まないか?」
「え?構わないけど…逆に良いのか?俺と組んでもそこまでメリットは無いと思うぞ?」
「メリットは有るさ」
「どんな?」
「ダンジョンに入ればすぐに分かる。パーティ申請送るから入ってくれ」
「お、おう…」
パーティ申請が通り自身のHPバーの下にもう一つのゲージが追加された
Crim
El
「それじゃあ行こうか」
「ああ」
二人は扉を開けダンジョン内へと進んだ。
「中は意外と普通のダンジョンだな」
「そうだね。特になんの仕掛けも無い普通のダンジョンだ。だからこそ手掛かりを見付けるのが難しいんだけどね」
「…なぁ、エルは…」
『キシャーッッ!!』
「っ!?」
「来るよ!」
現れたのは第一層のダンジョンに居たのと同じ[ルイン・コボルトセンチネル]だった。
クリムは背中の赤い片手剣【レックスハート】を抜剣
エルは腰の白い刀【クイーンヘブンズ】を抜刀
コボルトは真正面からクリムに向かって突進して来た。
クリムは右に回避し、そのままコボルトの首に剣を振り下ろす。コボルトの頭は切断され残った肉体共々消滅した。
一方別のコボルトは助走をつけ跳躍し、空中から棍棒を振り下ろしてエルに攻撃を仕掛けた。
避けることも可能だったがエルはあえてその攻撃を刀で受け止めそのまま棍棒を弾いた。
胴体ががら空きになったコボルトに目掛け刀を突きコボルトの胴体を貫いた。コボルトのHPは0になりその肉体は消滅したのだった。
「情報通りあまり強くないな」
「その代わり数は多いけどね」
エルの言う通りパッと見るだけでも10体近くはいる。
入ったばかりでこの数なのだから、この先に進めば更に数は増えるだろう。
「ところでクリム、一つ提案があるのだが」
「提案?」
「このダンジョンのコボルトはさっき言った通り数は多い。だが、強さはそれ程じゃない」
「まぁそうだな」
「恐らく君と僕の実力にそこまでの差は無いし、昨日は僕一人でコボルトを殲滅できた。つまり!君一人でもコボルトを殲滅できるということだ!」
「…何が言いたい?」
「僕は娘さんが居た形跡が無いかを隅々まで調べるから君はコボルトの相手をしてくれ」
「…あの数を一人で相手にしろと?」
「元々一人で来る気だったんだろ?なら良いじゃないか」
「それはそうだけど…てかメリットってこの事かよ!」
「じゃあよろしくね」
エルは壁や床に触れ調査を開始した。
『キシャーッッ!!』『キシャーッッ!!』
「…やってやろうじゃねぇかよこの野郎!!」
クリムは怒りに身を任せ次々とコボルトをなぎ倒し、エルはクリムが戦っている間ずっと調査をしていた。そして気が付けばボス部屋の前まで来ていた。
「はぁ…はぁ…つ、疲れた…」
「お疲れ。いやーなにも手掛かりは見つからなかったね」
(…コイツ!)
「何も出ないとは思うが一応転移結晶は準備しておきなよ。突然ボスが現れるかもしれないからね」
「わかってるよ」
ストレージから転移結晶を取り出し、ボス部屋の扉に手を添える。
「開けるぞ?」
「おう」
2人で扉を開けボス部屋へと進む。しかし、情報通りこの部屋にボスは居なかった。
「…やはり居ないか」
「…なあエル、なにか聞こえないか?」
「え?」
エルは耳を澄まして音を聞こうとするが何も聞こえない。
「なにも聞こえない」そう言おうとした瞬間、それは確かに聞こえた。
バサッバサッと大きな鳥が翼を羽ばたかせる様な音にエルは感じた。
その予想は半分当たっていた。それは確かに翼を羽ばたかせていた。しかしそれは鳥ではなく…龍だった。
「なっ!?」
「ドラゴン!?」
その龍は地面に着地し鋭い目でクリムとエルを睨みつける。
龍の頭に一本のHPバーと名前が表示される。赤い身体に鎧を身に着け、巨大な手が特徴的なその龍の名は…
ボルシャック・ドラゴン
「ボスは出ないはずじゃ…エル!逃げるぞ!」
「わかってる!」
二人は転移結晶を掲げ転移先の名を叫ぶ。
「転移!アルゲード!」
しかし転移結晶は全く反応しない。
「なんで!?」
ボスの出現によってこの部屋は転移不可能エリアとなっている。
「仕方ない!扉から…」
エルが扉へ向かおうとした瞬間、ボルシャックの口から炎の塊が吐き出され扉の前に着弾する。扉の前が炎で包まれ逃げるとこが不可能となってしまった。
「…戦うしか無いか」
「そうみたいだね」
二人は剣を抜き臨戦態勢に入る。
「どんな攻撃が来るかわからない。様子を見るぞ」
「了解だ」
二人とボルシャックの動きは一瞬止まったが、静かな空気に耐えられないかの様にボルシャックが先に動き出した。
『グルァァァッッ!!』
ボルシャックは拳を上げながら猛スピードで2人に突進して来る。
すぐにクリムが前に出て攻撃を受ける体勢に入る。
『グルァッ!!』
ボルシャックの拳を剣で受け止めると、キンッ!!と金属同士がぶつかる様な音と衝撃波が部屋中に広がった。
「くっ…!」
衝撃波で吹き飛ばされそうになったエルだったがなんとかその場に踏み止まる。
(なんだよ…コイツの力!)
クリムは拳を弾こうとするがピクリとも動かない。
(くそ!気ぃ抜いたらこっちが吹き飛ばされる…全く動けねぇ!)
もし吹き飛ばされたらクリムは後ろの炎の突っ込むことになる。もしそうなれば彼のHPは減るだけでは済まないだろう。
『グルァァッッ!!』
ボルシャックは更に拳に力を加える。
(クッ…もう…ッ!?)
キンッ!
という音と共に拳の力が弱まるのを感じた。
視線を上げるとボルシャックの胴体に刻まれた十字の傷と刀を振り下ろしたエルの姿が見えた。
彼女はクリムがボルシャックを足止めしている間に間合いまで近づき、カタナ二連撃ソードスキル【辻風】を発動しダメージを与えていた。
「うおおおおおッッ!!」
クリムは全ての力を振り絞りボルシャックの拳を弾くことに成功した。
バランスを崩したボルシャックにソードスキル発動後の硬直が解けたエルが追い討ちを掛ける。
「はあああああッッ!!」
カタナ三連撃ソードスキル【緋扇】を発動し、上段、下段、中段の三段突きでボルシャックを吹き飛ばしHPを半分近くまで減らすことに成功した。
「エル!助かった!」
「君こそよく持ちこたえた。次来るよ!」
『グルァァッッ!!』
吹き飛ばされ倒れていたボルシャックだったがすぐに起き上がり二人に向かって最初に撃ったのと同じ炎を吐き出した。しかしクリムは右に、エルは左に避け炎を回避することに成功した。だが…
『グルァッ!!』
二人が避けた瞬間ボルシャックはクリムに向かって先程以上のスピードで向かって行った。
「なっ!?」
「クリム!!」
クリムは咄嗟に防御姿勢を取り、エルはクリムの下へ全速力で走り出した。
(さっきよりも速いけど動きを止められれば…)
またダメージを与えられる。そう思った瞬間、突如ボルシャックが体の向きを変えエルの方へと進路を変更した。
「なッ!?エル!!」
「ッ!?」
エルの顔にほんの一瞬焦りの表情が見られた。しかしボルシャックにとってはその一瞬があれば十分だった。エルは既にボルシャックの間合いに入っており、ボルシャックの巨大な爪が彼女に襲いかかる。
(“あの技”は間に合わない…受け止めるしか!)
刀で爪を受け止めなんとか直撃を免れることはできた。しかし、クリムの時よりも高い威力で攻撃されてしまいエルは耐え切れず後ろへ吹き飛び壁に激突してしまった。
「エル!!」
「ハァ…ハァ…」
痛みは無い。しかし確実にHPが減っているのがわかる。
(…このまま死ぬのかな…嫌だ…死にたくない)
HPがどんどん減り、ゲージの色がイエロー、レッドへと変色していく。
「お…父…さん…」
そう呟きエルの意識は途絶えた。
「エル…そんな…」
クリムは動けなくなり、倒れている彼女を呆然と見ることしかできなかった。
「ハァ…ハァ…」
その姿がかつて死んだ親友の姿と重なり、急激に心拍数が上昇し呼吸が荒くなった。
「ハァ…ハァ…俺は…また…」
大丈夫だよ。紅一。
「…え?」
そう聞こえた気がした。今は亡き親友の声で。
「大丈夫って…ハッ!」
クリムはすぐにエルのHPバーを確認する。そして僅かではあるがHPが少し残っている。彼女は気絶しただけで生きているのだ。
「エル…良かった」
しかし安心するのはまだ早い。
「グルァァァァッッ!!」
「ッ!?」
ボルシャックはまだエルを狙っている。自分にダメージを与えた彼女にとどめを刺せることを喜ぶかの様に雄叫びを上げていた。
「…させるかよ」
クリムは剣を地面に叩きつた。するとキーーーンッと甲高い音が鳴り響きボルシャックはこちらに視線を移した。
「ボルシャックゥゥゥゥッ!!」
奴の名を叫びクリムは走り出した。ボルシャックの狙いを彼女から自分に移すためである。
そして狙い通りボルシャックの意識はクリムに向けられた。
『グルァァァァッッ!!』
ボルシャックも雄叫びを上げながらこっちに迫ってくる
(今だ!)
ボルシャックが動いた瞬間、片手剣ソードスキル【ソニックリープ】を発動し、奴の元まで一気に跳躍した。
「はああああッ!!」
ソニックリープはボルシャックの顔に直撃し『グルァァッ!』
と声を上げながら倒れた。
(HPは残り2割!このまま畳み掛ける!)
ソードスキル発動後の硬直が解け、続けて片手剣7連撃ソードスキル【デッドリーシンズ】を発動し最初の三連をボルシャックに喰らわせる。
(3連で1割削れた!このまま!)
『…グルアアアアアアッッ!!』
ボルシャックは雄叫びと共に立ち上がり4連撃目を拳で防いだ。
「ッ!?…はああッ!!」
防がれた事に動揺しつつも5連撃目をボルシャックに叩き込むが…
キンッ!
これも拳で防がれてしまった。
続く6、7連撃目も全て防がれ、クリムはスキル発動後の硬直により動けなくなった。
「くそっ!」
ボルシャックは天に掲げた拳の狙いをクリムに定める。
(まずい!俺が死んだらエルまで…それだけは絶対に駄目だ!!)
しかし、そう思っても身体が動くことは無い。
(動け!動け動け動け動け…動け!!)
身体が動くことは[絶対]に無い。
(頼む…もう誰も失いたくない…だから…動け!!)
『グルアアアアッッ!!』
「ッ!?」
ドオォォォンッ!!
と大きな音を立てボルシャックの拳は…地面を殴っていた。
そしてボルシャックの背後から赤い光が輝いていた。
その光はクリムが発動しようとしている片手剣ソードスキル【ヴォーパルストライク】のライトエフェクトの光だった。
本来クリム身体は動かない筈だったが、彼の想いに呼応するかの様に目が紅く輝いた。
その瞬間身体の硬直が解け、ボルシャックの攻撃をギリギリで回避することができた。
『グルアアアアッッ!!』
背後に気付いたボルシャックが後ろを振り返り、即座にクリムに拳を叩き込もうとした。
「はあああああああッ!!」
ボルシャックが拳を出すのと同時にクリムもヴォーパルストライクを放ち、剣と拳がぶつかり合う。
「はああああああッ!!」
『グルアアアアッッ!!』
ボルシャックの拳は数秒耐えたが、段々と拳にヒビが入り始めついにその拳は貫かれてしまった。
「はああああッ!!」
更に切っ先から伸びたライトエフェクトがボルシャックの拳だけではなくその胴体まで貫いた。
『グルアアアアッ!!…』
パリンッ!
ボルシャックのHPは0となり光の結晶となって消滅した。
「はぁ…はぁ…勝った…のか?」
あまり実感が湧かなかったが、ボス部屋の上に[Congratulations]の文字が現れようやく実感することができた。
「ああ…やっ…た…」
ドサッ
ボスを倒した安心で緊張の糸が切れたのかクリムは気絶してしまった。
数時間後目を覚ました二人は転移結晶でアルゲードへと帰還した。
だが二人は気付いていなかった。あのボス部屋の奥に新たな扉が出現していることに。
第2話を読んで頂きありがとうございます。
戦闘描写が本当に難しい(泣)
というわけでこのSS初のクリーチャーはボルシャックドラゴンでした。
ボルシャックを出した切っ掛けは、単純に切札勝舞の初代切り札だという事と
この小説の構想を練っていた時に使っていたデッキが赤緑ボルシャックだったからです。
こんな理由でボルシャック使っていいのかと思ったのですが…
まぁ良いでしょう(適当)
第3話も時間見つけて進めるので失踪しないように頑張ります。