枯れたオアシス   作:シャーレの先生


原作:ブルーアーカイブ
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6/5更新分のアビドス編3章を読んで書いた妄想です。
明日また3章更新になりますが、書いちゃってあったのでこの段階で一回投稿。
アビドス編3章完結後に修正するかもしれないです。

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枯れたオアシス

「死んだ昔の女と今の私たちとどっちが大事なんですか!!」

 アヤネの胸に、これは流石に言ってはいけないことを言ってしまった。踏み込み過ぎではないのか。そんな想いがよぎる。だがそれを無視。いや、踏み越える。

 これから行うことは、既に計画済だ。作戦を立案し始めた頃から、覚悟は出来ていた。ホシノを傷付けててしまうだけに終わるかもしれないが、アヤネにはこの方法しか思いつかなかった。

 猛禽の瞳が一瞬、たったの一瞬。アヤネを貫いた。

 これが暁のホルスを敵に回す、ということだと実感する。

 だがアヤネが我に返ったときには、もうホシノは柔らかく、だらしない、いつもの表情に戻っていた。

 ――やっぱりホシノ先輩は優しい。

 ――でもそれに甘えちゃいけない。私はもっとホシノ先輩を理解しなくてはならない

 ホシノ先輩は何やら言い訳を並び立てている。謝罪、反省、信頼。想定通りの内容。でも私に想定出来るということは、まだ足りないということだ。

 やはりやるしかない。

 アヤネは眼鏡の奥の瞳でホシノを睨む。緊張して、ネクタイを少し緩める。

 瞬間。ホシノの背中側から、何かが飛んでくる。それは正確にホシノの足元に転がり、爆発。アヤネは既に距離を取っている。

 爆発と同時に、隠れていた狼が駆け出す。その黒い影はホシノに近づきながら5.6mm弾をバースト射撃でばら撒く。砂埃の中心からは金属音。シロコは銃撃は既に盾で防がれていることを悟り、銃撃を諦め加速。砂埃の合間に構えられた盾を蹴る。ホシノはその蹴りを受け止める。その小さな体躯とは思えないほど盾が揺らがない。驚異的な体幹の強さだ。

 シロコはそんなホシノを信頼しているのか、盾にしっかり体重を乗せ、跳躍した。それと同時に抜け目なく盾の横から突き出されていたショットガンが火を噴いたが、弾丸はシロコの下方を搔き毟るだけに終わる。シロコは空中に展開したドローンを利用し更に下がり、ショットガンの有効射程から外れる。

 たった一回の攻防だが、どちらかが生半可な強さであれば、既に決着がついているであろう攻防。その見事な大立ち回りを見せたシロコだが、攻め立てているように見えて、ホシノの消耗は散弾が一発のみ。攻撃は完璧に防がれていた。散発的に牽制射撃をしてくるホシノに、シロコは弾薬を節約しながらときたま撃ち込み、ホシノを威圧する。これもシロコは攻撃をしているのではなく、攻撃をさせられている。攻める手を緩めればホシノの痛烈な散弾がシロコの意識を刈り取りに来る。弾薬を消費させられながら、ジリジリとホシノが有利になる間合いに誘導されている気がする。だがシロコは焦らない。これで良い。

 その間アヤネは3機の雨雲号を起動させ、飛び立たせていた。ホシノに落とされた雨雲号は、最低限のダメージで行動不能にさせられており、そのおかげで修理は楽に終えられた。感謝は火薬で返すつもりだった。

「ちょっと、二人ともどうしたのさ。そんなに怒って。おじさんが悪かったって」

 ショットガンに実包を込めながらホシノは言う。露骨な時間稼ぎなのはわかっているが、アヤネは答える。

「ユメ先輩と私たち、どっちが大事なのか、答えてください。私が欲しい答えはそれだけです」

「それは……」

「ホシノ先輩はきっとはぐらかして逃げます。だから最初に、動けなくしてから話をします」

「……。そっか。大きく出たね。アヤネちゃん。

 でも本気なら、動きがぎこちなさすぎ。サインがバレバレだよ。それじゃシロコちゃんの奇襲の意味がないって。

 それに、せっかく修理した雨雲号、また壊しちゃっていいの?」

 ホシノはシロコの弾丸を盾で受け止めながら、雨雲号を見て、アヤネに視線を投げかける。

 その視線に込められた感情は、呆れ。

「前に駄目だったのに、また繰り返すんだ」

 2色の瞳は、そう語っていた。

 ぷちん。とアヤネの中の何かがキレた。

 後にアビドス廃校対策委員会の書記以外の皆は語る。「その音、自分にも聴こえていた」と。

 アヤネはマイクに向かって冷たく言い放つ。

「第1フェーズ完了。第2フェーズへ移行します」

 雨雲号からミサイルの豪雨が降り注ぐ。

 ホシノは盾を置き去りにして雨雲号の方へ走る。跳ぶ。盾とホシノ、目標が分裂したような錯覚を覚えさせられたシロコはそれを足止め出来ない。雨雲号に飛び付かれれば、また前回と同じように落されてしまう。だが空中のホシノの軌道が変わる。脇腹に弾丸が突き刺さっている。空中に飛び上がり回避行動を取れないホシノを、雨雲号に乗ったセリカが怒りの弾丸で狙い撃ったのだ。盾を捨てているホシノはそれを受けるしかなく、地上へと墜落していく。

「じゃ〜ん✩ 可愛い後輩ちゃんたちをこんなに怒らせたら、めっ、ですよ! 覚悟してくださいね〜!」

 別の雨雲号からはノノミが姿を現した。腰だめに構えるのは7.62mm口径、最大毎分6000発の弾丸を射出する、「リトルマシンガンV」という名の機関銃。驚異的な火力が着地したホシノへ殺到する。

 シロコが雨雲号が飛び立つまでの時間を稼ぎ、アヤネが雨雲号を操る。セリカとノノミは雨雲号に乗り込み、雨雲号を守るともに空中から一方的にホシノを攻撃する。

 全員のチームプレーでやっとホシノにダメージが入る。

 全身を擦り剥き、頭から血を流すホシノは痛々しい。

 だが、これにより、ホシノの中でも何かが変わった。

 猛禽が疾走する。身体の中心に当たる有効弾だけを避け、弾丸の雨の中を強引に突っ切る。

 このままノノミが乗る雨雲号の下に潜り込まれてしまえばホシノがノノミの射線から外れてしまう。アヤネは雨雲号を下がらせるとともに機銃でホシノを牽制する。セリカが乗る雨雲号も回り込ませて、セリカに援護をさせるが、ホシノを止めるには至らない。シロコもホシノを追うが、間に合わない。

 ノノミの射線から抜け出したホシノは、そのまま跳び上がる。このチャンスを狙っていたセリカが再び狙い撃つが、ホシノは身を捻って回避。雨雲号に乗り込む。

 マシンガンの射撃音。ショットガンの射撃音が3発分。更にショットガンの射撃音が4発分。雨雲号が内側からメインローターを撃ち抜かれ、高度が下がる。

 ぐったりと力が抜けたノノミを抱えて、ホシノが雨雲号から飛び降りる。

「軽い脳震盪だからすぐに起きると思うけど、安全なところに連れて行ってあげて」

 ホシノはシロコにノノミを投げ渡す。シロコはノノミをお姫様抱っこの形で受け止め、ノノミを物陰に隠す。その間ホシノは身体を翻し、盾を拾い、セリカの乗る雨雲号へ向かう。

 ノノミをシロコに任せたのはホシノの優しさでもあると思うが、シロコの動きを封じられてしまっている。アヤネは焦る。ミサイルを撃つが、考えなしに撃ったそれはホシノの盾に簡単に防がれる。

 これではノノミの乗った雨雲号が落とされたときと同じだ。

「撃って!」

 セリカから一言通信が入る。ホシノがセリカの乗る雨雲号に飛び付いたのと同時に、セリカは自ら身を投げ出し、銃で雨雲号を狙っていた。

 セリカが雨雲号を守るよりも優先させたこと。何を撃つのか。アヤネはセリカの考えを読み取る。

 今飛んでいる雨雲号2機のうち、元々無人だった方に残ったミサイルを全て吐き出させる。狙いは、半分はセリカが乗っていた雨雲号本体。もう半分はそれに装備された残りのミサイル。

 ホシノが雨雲号から逃げ出した様子はない。確実にダメージを与えるため、更に爆破された雨雲号に無事な雨雲号をぶつけ、地面に押し付けるように落とす。燃料が漏れたためか、再び雨雲号が爆発。瓦礫の山が炎上する。

「ホシノ先輩、生きてるわよね」

 雨雲号から飛び降りた際、背中を打ったのか、苦しそうな声を出しながらセリカがアヤネに近づく。

「むしろ逆の心配をした方がいい」

 少し離れたシロコからの通信。ホシノに聞かれるのを防ぐ為か。

「アヤネ、次の作戦は?」

「用意していたものは全て使い切りました。すみません」

「ん。充分。これで決める。援護して」

 シロコは雨雲号の残骸に油断なくジリジリと近づいていく。

 瓦礫が動き、ホシノが姿を現す。シロコはすかさず既にピンを抜いていた手榴弾を投擲。だがクレー射撃の要領で空中で撃ち落とされ、明後日の場所で爆発。

「流石に熱かったよ。あっつい。私、暑いの苦手なんだよね」

 瓦礫から這い出し、ショットガンに実包を込めながら、ホシノが言う。

 ホシノの口調は軽いが、全身はズタボロ、長く綺麗だった髪は焼け焦げ、その立ち姿は少しふらついているように見える。

 だがホシノは確かな動きでマガジンチューブに実包を送り込んだ。

 そして盾を構え、ショットガンを握り直す。

「悠長に待っててくれるなんて、余裕だね〜シロコちゃん。おじさんは、相手の隙を突けって叩き込んだはずなんだけどな」

「それだけダメージを負った先輩になら、勝てる。負けても言い訳出来ないようにハンデをあげた。負けたらちゃんとアヤネの言う事を聞いてもらう」

「なん……うおっ」

 シロコは言うべきことは言い終わったため、ホシノの言葉を遮るように射撃。今度は相手の虚を突く、ホシノ直伝の技術。

 だがホシノは驚いた顔をしながらも、盾に身を翻し、回避。身軽で動きが素早いこともあるが、相手の動きを観察し、その動き出しへの反応が異常に早い。

 盾を持った相手と遠くから撃ち合ってもダメージは期待出来ない。シロコは不利を承知でショットガンの射程、いやそれよりも内側へ潜り込もうとする。

 シロコの動きは荒々しくも高潔な獣の様だ。常に走り回り、急に飛び退き距離を取ったと思えば、また近づく。弾丸が吐き出させるタイミングも身体の動きからは読まれにくいもので、ホシノを釘付けにする。

 対するホシノは、その小さな身体から放たれているとは思えない巨大で重いプレッシャーを放ちながら、シロコの放つ弾丸を的確に受け、ショットガンを断続的に撃っている。かと思えば鋭く、優雅とも言える動きで盾の外に身を曝して猛烈な連射を行ってきたり、重いはずの盾を自在に振り回し近づいたシロコに打ち据えようとする。

 高度な攻防を前にして、アヤネとセリカは割り込めない。シロコの邪魔にならずに援護を行う技術がない。シロコが弾倉を取り替える隙をカバーしようと思っても、気がつけばそれが終わっている。ホシノが実包を装填する隙を突こうにも、いち装填しているのかさえわからない。

 セリカは焦り、ギリリと音が出るほどに歯を食いしばる。

 有利なのはどちらだろうか。弾薬の消費はホシノの方が激しい。だが常に動き続けているシロコの体力がいつ底を尽きるかわからない。

 逆に戦いが続くにつれ、先程までフラフラとしていたホシノの動きも、疲れていくはずのシロコの動きも精度が上がっているようにも見える。

 お互いに表情は表に出さないが、二人だけの舞踏が行われているようなものなのかもしれないと、アヤネは思う。

 繰り返される攻防の中、これまでよりも少しだけ鋭くシロコが前に出た。ショットガンが発火。散弾の下をくぐり抜ける。ショットガンがやや下方に角度を変え、再度発火。左手で地面を引っ搔き、無理矢理身体一つ分横に移動する。先ほどホシノがセリカに撃ち落とされたように、空中では動きが直線的になり、読まれやすい。それに走り続け、加速を続けた方が、相手にたどり着くまでの時間が短くなる。もし跳び上がるのであれば――

 盾を振り回されても当たらないギリギリの距離。シロコは胸ポケットの、画面を外側にして入れておいた端末に触れる。シロコが予め予約してあった命令をドローンが実行。シロコはスカートを翻し、跳躍。その瞬間ショットガンを蹴り、その銃口が地面へ向く。シロコが描く放物線から、ホシノは瞬時に着地点を予想する。ホシノが一歩下がれば、シロコは盾の目の前に着地することになる。ホシノはその着地の瞬間を狙い盾の影から引き金を引けば、それで戦いの決着がつく。しかしシロコが放物線の頂点に来たときに、これまでシロコの身体の影に隠れていたドローンと、そこから発射されたミサイルが見えた。シロコが落ちるよりも早く、ミサイルが盾に着弾。シロコは爆発の衝撃に身を乗せ、ふわりと浮く。ミサイルの破片で皮膚が切り裂かれるが、構わない。シロコはホシノの頭上で身を捻り、身体が弧を描く。その脚を青空に投げ出し、鋭い視線と、銃口をホシノに向ける。ホシノの盾を持つ左腕は、ミサイルの着弾による衝撃で痺れて動かせない。ショットガンを持つ右腕は地面へ向かっており、これから振り上げても間に合わない。ただホシノの視線と闘志のみがシロコを追う。

 青空に浮かぶ、見上げた銀色の月がフルオートで咆哮した。ホシノのヘイローを、頭を、顔面を、5.6mm弾――通常よりも少し重い、威力と射程を高めたシロコ愛用の弾丸が、容赦なく次々に殴り付けた。

 地面へ降り立ち、シロコは弾倉を取り替えながら振り返る。これで終わりだ。

 振り返ると、暗い銃口がこちらを向いていた。至近距離であれだけの弾を頭と顔面に受けて、まだ冷静に銃を構えられるのか。シロコはヒヤリとするが、動作は変わらない。予定通り最速で振り返り銃を構え、マガジン内の全弾をホシノに叩き込むことが、今やるべきことだ。

 しかしその決死の覚悟も虚しく、シロコが指先を引き絞る直前、ホシノの盾が動く。ホシノの弾丸とシロコの弾丸、お互いに撃ち合って相討ちにするしかないとシロコは考えていたが、盾で防がれてはそれすらも叶わない。

 だが盾が弾き飛ばされた。セリカが盾に弾丸を撃ち込み、自らも盾に突進して盾にしがみついていた。

 これで勝敗は決まった。仲間と一緒に戦っていたシロコと、一人で戦っていたホシノの差だった。

 シロコは微笑んでいた。ホシノも微笑んでいた。

 2種類の銃声が轟く。

 その残響が消えた頃、シロコは砂の積もった地面に倒れ伏していた。

「本当にシロコちゃんは強いよ。まさかここまでやられるなんて。セリカちゃんも頑張ったね。今度ちゃんと鍛えてあげなきゃ。こんなに楽しい戦いは久し振りだったよ。ありがとう」

 朦朧とした意識の中そう呟き、ホシノは盾を離す。それにしがみついていたセリカに散弾を2発撃ち込み、気絶させる。

 アヤネは、ずっとそれを見ていた。ただずっと見ていた。

 冷静に、脇の下に吊る提げていた拳銃を取り出す。アヤネの持つ「コモンセンス」はセーフティが存在しない。動作方式もダブルアクションのため、抜けば即発砲出来る。

 ホシノに近づき、

「私達の勝ちです」

 意識が朦朧としていたためか、度重なる爆発を食らって耳にダメージがあるためか、ホシノはアヤネが近づいてきたことに気づかなかった。

 アヤネが発砲。アヤネの持つ拳銃、「コモンセンス」は強装弾薬に対応し、ダブルカラムで装弾数も多い。あまり発砲する機会がなく、射撃も比較的得意ではないアヤネはその分高価で威力の高い銃を使用していた。

 その弾丸をホシノに全て撃ち込む。弾倉を抜き、予備の物と入れ替える。

 撃たれたことに反応し、最早意識があるのかないのか。だが素早く散弾が2発発射される。

 アヤネの全身を鉄球が叩く。眼鏡が割れ、吹き飛ぶ。散弾の3発目はない。ホシノのショットガン「Eye of Horus」の装弾数は最大8発。先程シロコに4発、セリカに2発。残りは2発。これを耐えきればもうその次はない。それがわかっていたから、アヤネは意識を失わずに済んでいる。

 眼鏡がなくなったことで、視界がボヤける。だが銃は、同じ姿勢で撃てば同じ場所に当たる。そう授業で習った。全身が痛むがそれを堪え、教本通りの綺麗な姿勢で、先程と同じように腕を伸ばす。

 引き金を引く。反動で腕が少し跳ね上がるため、元の位置に戻す。引き金を引く。それを繰り返す。

 カチッと音がし、撃鉄が空を叩く。

 ホシノは意識を失い、仰向けに倒れていた。

 アヤネはもう一度言った。

「私達の、勝ちです」

 アヤネは崩れ落ちた。

 仰向けになって地面に転がると、視界いっぱいに青空が広がっていた。

 

「みんな―。無事ですか―」

 ノノミの声に最初に目を覚ましたのは、シロコだった。

「無事、だと思う。でも身体が少しも動かない」

「そうだったんですか。実は私も、起き上がれなくて、みんなの無事を確かめるためにここまで這いずって来たんですよ」

 それに目を覚ましたアヤネが答える。

「この中で一番ダメージが少ないと思われるのは私、とセリカちゃんだと思うので、二人で先輩方を保健室に連れていきますよ。

 ただ、私も、身体がピクリともしませんが」

 セリカが咳き込み起きる。

「うわっ口の中が砂で気持ち悪い。でも吐き出す元気もない。というか、ホシノ先輩の弾ってこんなに痛かったんだね。シロコ先輩よくこんなのと戦ってたわね……」

 全員動けなさそうなので、打つ手なし。沈黙が流れる。

 少しして、ホシノがうめき声を上げ、目を覚ました。

「おじさん、負けちゃったか〜」

「あ、ホシノ先輩、起きましたね。さぁ、ユメ先輩と、私達対策委員会、どっちが大事か答えてもらいますよ」

「うわっ、アヤネ、早速説教? 元気過ぎ……」

「ホシノ先輩が逃げられないチャンスなんて今しかないんです! 今答えてもらいましょう。ちょうど全員ここで動けなくて、ホシノ先輩の話を聞くことくらいしかやることがないんですから」

ずりずり……ずりずり……

「あっ、ホシノ先輩が這いずって逃げようとしています! みんなで追いましょう✩」

ずりずり………ずりずり……ずりずり……ずりずり……

「負けたらなんでも言う事を聞く。それが決まり」

「ここまで大変な目にあって、逃がしてたまるかー!」

「ホシノ先輩、この状況で逃げないでください! 生徒会長命令ですよ!」

ずりずり………ずりずり……ずりずり……ずりずり……ずりずり………ずりずり……ずりずり……ずりずり……ずりずり………ずりずり……

 ホシノを除くアビドス高校廃校対策委員会の皆は、砂上はいずり鬼ごっこの末、シロコが右腕、セリカが左腕、アヤネが右脚、ノノミが左脚を捕まえ、見事ホシノを確保した。

「例えヘイローが砕け散ろうとも、この手は絶対に離しません!! さぁ! まずはユメ先輩のことを教えてください。ユメ先輩との思い出を、みんなに、教えてください!」

「わかった。もう観念する。うへ〜。ここまでするなんて、みんなおじさんのこと好き過ぎなんだよ〜」

 ホシノは語った。自分の中に閉じ込めていた思い出を。時が経ってもなお色褪せない、青春の日々を。

 いつしかホシノは泣いていた。ユメ先輩が死んだときに、もう枯れていたと思っていた悲しみが、次々に湧き出してきた。その声は段々大きくなり、子供のように泣きじゃくっていた。

「ユメ先輩のことが大好きで大好きで忘れられなくて、ずっと忘れられなくて、ユメ先輩みたいになりたくて、ユメ先輩みたいにならないといけなくて、ユメ先輩に頼まれたからみんなのこと守らないといけなくて、でもそんなこと関係なくみんなのことも好きで、私のせいで大好きなユメ先輩と大好きなみんなが守りたかったアビドスがなくなっちゃったら嫌で、私のせいでみんなが死んじゃったらと思ったら怖くて、私は先輩だからみんなを守らないといけないから、またみんなが死んじゃうかもだから!」

 その先の言葉は声に出なかった。

 その先の言葉はシロコが引き継いだ。

「だから、ホシノ先輩が代わりに死ぬの?」

 シロコがそれに自分で答える。

「私たちは死なない。ホシノ先輩がいる限り、ホシノ先輩はいつも私たちを守ってくれるから。そしてホシノ先輩は、私たちが守る。ホシノ先輩の敵は私が倒す。ホシノ先輩の障害はノノミが取り除く。ホシノ先輩の背中はセリカが守る。ホシノ先輩が困ったらアヤネがサポートする。お互いがお互いを守る。これで私たちは最強で最高のチーム。ホシノ先輩が欠けたら最強で最高じゃなくなる」

 ホシノは、でもみんな死んじゃ嫌だよ〜〜と、我儘を言う子供のような言い方で、更に泣いた。

 アヤネは、それを聞いて目を丸くしていたが、同時にこれが聞ければもう大丈夫だと安心した。

 いつの間にか、皆ホシノに抱き付き、「死なない死なない」とホシノの身体を撫で回していた。

「うん。わかった。誰も死なないように、私も死なない。みんなで守り合えるように、一人で勝手にどっか行ったりもしない」

 たっぷり時間をかけて慰めた後、ホシノは最後にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「だからみんな半分砂に埋もれながら、パイレーツドッキング6 巨大ロボ戦士 ビッグ皇帝〈エンペラー〉みたいになってたんだね」

 後日、シャーレのオフィスを訪れたホシノの話を聞いて、なるほど。と先生は頷いた。

 アヤネからホシノを倒すために作戦を考えたいから、協力してくれと要請を受け、何度か打ち合わせを行ったのち、どんな結果になったのか気になった先生は、作戦決行当日、事が終わったであろう夕暮れ時にアビドス高校を訪れた。

 砂に溺れかけていながら笑い泣きしている対策委員会メンバーを見つけたときは、死の間際で頭がおかしくなってしまったに違いないと大層焦って皆を掘り起こしたが、その程度じゃ生徒はそうそう死なないとのことなので、先生は改めて生徒たちの不思議に感心した。

「それはいいの。先生、これからが今日の本題」

 バン、と机を叩き、ホシノが身を乗り出してくる。

「なんか頭がぼーっとして、セリカちゃんとアヤネちゃんのこと2発も撃っちゃったし、ノノミちゃんになんて雨雲号に撃とうと思ってたスラッグ弾を3発も撃っちゃったし、シロコちゃんとはいつも勝負してるからいいとしても、みんながおじさんのこと心配して勝負を仕掛けて来てたのはわかってたのに、なんか追い詰められちゃったから思わずみんなに反撃して気絶させちゃって、シロコちゃんのムーンサルトで顔面撃たれたときに気絶すべきだったよね!! そのときならまだおじさん、少なくとも可愛い後輩に手をかける前だったよね!!」

 あちゃー! と頭を抱えて叫ぶホシノ。これまでのホシノよりも、少し子供っぽく、無邪気になった印象を受ける。少し肩の荷が下りたみたいだな、と先生は少し笑った。

 アビドスのみんなは、ホシノと勝負して、お互いに正面から向き合うことが出来た。

「お説教はアビドスのみんなから散々されたみたいだから私は何も言わないけどさ」

 横を向き、遠い目をして、ポツリと先生が呟く。

「私も、ホシノに消えて欲しくないと思ってるうちの一人だってこと忘れないでね」

「わかってる。この間も泣きそうな顔で、私達のこと掘り出してくれたもんね。でも先生も、自分が犠牲にさえなれば他のみんなが助かるってなったら、迷わないでしょ?」

「ホントはそんなの嫌なんだけどね」

「でもやるでしょ?」

「……。」

「だから、そうならないように、『みんなで』頑張ろうね。約束だよ、先生?」

 ずりずり、と先生は椅子ごと徐々に後ろに下がっていくことしか出来なかった。




ホシノの強いとこ書こうと思ってたらホシノが強いとこ書くとホシノが勝っちゃうのでホシノが強いとこ書けなかった。

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