黒の流星   作:ほせき

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小話3・再会

人の記憶から忘れていくのは、まず聴覚、次に視覚らしい。

ショウにとってはつい最近の出来事のため、全て明確に覚えている。衝撃的で印象深く、忘れがたい出来事だった、ということもある。

 

だけど向こうはどうだろう。何年、何十年、何百年かかってもと言っていた。

本当に現代まで生きていたとして、ヒスイと呼ばれていた時代からゆうに百年は経過している。

あれだけ執心していたポケモンに関わることだから、存在自体は覚えているかもしれない。だけどショウの声や姿形はどうだろう。

 

そしてショウは、何年か経っても覚えられているだろうか。

忘れるだけならまだしも、記憶を改竄せずに記憶し続けられるだろうか。

 

 

 

【 ウォロさんも捜したいと思ってるんですけど、現代で見て分かるでしょうか 】

【 動画ファイル1 】

【 動画ファイル2 】

【 イチョウ商会時代のものと、シンオウ神殿でのウォロ様の動画を生成いたしました。記録から声紋や色彩まで忠実に再現しております 】

 

ヒンがイッシュ地方にやってきたと、SNSを通して知ったショウが送ったメッセージへの返信。

ヒューマノイドで人工ポケモンの要素も入っているから、スマホに触っていれば即座に返信できるとは聞いていたものの、あまりにも仕事が早い。

 

動画はメッセージ通り、にこやかな商人時代のものと、正体を現してギラティナをけしかけてきた時のもの。

受ける印象が違うため、両方というのは分かる。しかし突貫で生成したとは思えないほどのクオリティで、当時を撮影していたかのような出来だ。

ショウが動画を見終わって返信する前に、再びヒンからメッセージが届く。

 

【 ウォロ様はシンオウ地方チャンピオンのシロナ様と非常によく似ているため、髪型や髪色を変えている可能性も十分にございます。参考程度ですが、髪色と髪型を変えたウォロ様の画像を幾つか生成しましたので送ります 】

【 画像ファイル1~30 】

【 ウォロ様の身長は190cmでした。わたくしより2cm高く、平均的なガブリアスやサイドンと同じ高さです。見目は変えられますが、高さと声はさすがに難しいでしょう。また、耳の形を変える方は多くなくメイクでは変えられないため、耳の形で変装を見分けるという方もいらっしゃいますのでご参考までに 】

 

確かに、吃驚するくらいシロナはウォロに似ていたため、変装している可能性は高い。むしろ、シロナが有名人でなくなってほとぼりが冷めるまでは別地方にいることも考えられる。

ヒンから貰った、ウォロの様々な髪型と髪色の画像を眺め、耳を拡大してみる。人の耳をまじまじと観察したことはないが、今後は注意して見てもいいかもしれない。

 

【 動画も画像もありがとうございます!参考にします 】

【 もしもイッシュ地方で見かけた際にはお知らせいたします。参考にしたい画像や動画があれば生成も出来ますのでいつでもどうぞ 】

【 イッシュで見かけた場合はどうにかして行くので、引き留めてくれたら助かります 】

【 かしこまりました 】

【 その時はお願いします 】

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

ショウは今、シンオウ地方をゆっくりと巡って旅をしている最中。

半年間も行方不明になっていたということで、実はシンオウ地方を旅することも両親には渋られた。

 

心配は分かるが、自宅の部屋で寝ていたのに過去に飛ばされたのだ。

ならどこにいても同じだと、ジムバッジを集めきるまでは他の地方へは行かないと約束して、シンオウ地方の旅は認めてもらった。

だからもしイッシュ地方で目撃されたら、全速力でジムを踏破しなくてはいけない。

 

今はヒスイ地方とどこがどう変わったのかを見るのが楽しいし、ヒンの手を煩わせるのも申し訳ない。

シンオウ地方を満足するまで旅して、手持ちもヒスイの時と遜色ないくらい育て上げられてから出会えるのが理想なのだが。

 

忘れないように、ヒンから送られたウォロの画像と動画を時々見て、人の耳の形や仕草にもよく注意を向けるようにしながら、ショウは時間をかけてゆっくりとシンオウ地方を巡り終えた。

ヒスイにいた頃とはメンバーは異なるが手持ちも揃い、仲も良くなったしレベルも随分と上がった。ジムバッジも揃い、殿堂入りも果たした。

 

 

そうして次に旅をしたのはホウエン地方。

ヒンがしばらくイッシュ地方には来れないと前回連絡があったし、ならずっと環境が違う遠いところから、と思ったのだ。

イモモチを食べて、そういえばムベが暖かいところへ向かおうかと言っていたのを思い出したのもある。

 

ホウエン地方のバッジを集め終わり殿堂入りする頃には、ショウの身長も少し伸び、髪はバッサリと短くなっていた。

元々は憧れのいとこを真似て伸ばしていたが、暖かい気候で面倒になったのもあるし、別の意味で憧れている人を少し意識してもいる。

もうその人と会えることはないが、憧れて真似しましたと言えば「理解不能だ」と言って視線を逸らすのだろう。

 

ヒスイ地方のことを思い返しても、寂しさだけでなく純粋に懐かしさの方が大きくなった。無事に思い出にすることが出来ている。

体やバトルの腕だけでなく、精神面も成長したということなのだろう。

 

――そんな最中。懐かしい面影を宿した人と、ポケモンバトルをした。

 

 

 

 

「なんという卓越した強さ……! いやあ、ジブンもそこそこやれるものだと自負していたのですが、負けてしまいましたね!」

「そこそこだなんてそんな! ジムリーダーや四天王の人達くらい強くて吃驚しました」

 

服装は現代風に、髪型や髪色は、商会時代ともシンオウ神殿の時とも違っていたけれど。

その背丈、声、仕草、顔立ちは変わっていなかった。

声を震わせることなく、挙動不審になることなく、平静さを保ってポケモンバトルを持ちかけられたのは、ヒンにその秘訣や人の嘘を見分ける方法を聞いていたからだ。

 

さすがに手持ちも変わっていた。彼は長く生きられても、ポケモンはそうではないからだろう。

だけどバトルの癖は、戦法には覚えがある。

 

向こうは、ショウに気付いていないようだった。声も姿も忘れているのだろう。それに、ヒンのように記録から動画や画像を生成できるわけでもない。

ショウもまた恰好や髪型も異なっているし、背も伸びて体つきもちょっと女性らしくなり、顔立ちも大人に近付いた。勿論、手持ちもあの頃とは違う。

 

シンオウとホウエンのジムリーダー、四天王、チャンピオン等、強いトレーナー達と勝負し、現代のポケモンバトルの腕は随分と上達した。

外でのバトルでも野生ポケモンの乱入に神経を割かないでいい分、より集中できたのも良かったのだろう。

もう負けない。身を挺して守り庇ってくれたヒンはいない。

今度は絶対に負けられない、必ず勝つと、微塵も油断せず全力を出し切った。

 

「ハハハハ! その割には3タテずつされましたが……」

「はい! 一般トレーナーは入れ替えなしでも大丈夫ですけど、四天王やチャンピオンだとさすがに最低二匹は必要ですから」

 

ショウの言葉に、男は笑顔のまま少しだけ口の端を引き攣らせた。

普段はそんなことは誰にも言わないけれど全く以て事実だし、彼相手ならこれくらいは言ってもいいだろう。

ショウにその権利はあるはずだ。そしてちょっとした意趣返しをする権利もまた。

無事に帰れた今でこそ貴重な体験だったと思わなくもないが、もとをただせば彼の所為でひとり見知らぬ場所に飛ばされ、幾度も命の危機に陥ったのだから。

 

目と目が合ってポケモンバトルをした後は、知り合いでもなければ、それじゃあと別れるのが普通。男も、それではとショウに背を向けた。

何からどう言おうか迷っていたが、ショウは腹を決めた。まどろっこしいのは彼だけで十分、ショウは全部ストレートにぶちまけよう。

ポーチから例の物を取り出して構え、ショウは口を開いた。

 

「ウォロさん!」

「な、ぶぇっ!」

 

そして男が振り返る素振りを見せた瞬間、ショウは腕を大きく振りかぶり、全力で手に持ったポケモン図鑑を投げつけた。

腕は全く以て鈍っていない。狙い通り男の、ウォロの顔面にクリーンヒット。

むしろクリティカル!

 

ヒスイ時代の分厚い紙、ラベン博士が詳細にまとめたそれは、なかなかの重量がある。ギガトンボールでも余裕で投げてきたショウの投擲力と合わさると、よほどの衝撃だったらしい。

咄嗟に掴んだのだろう図鑑を左手に、ウォロは背を丸めて右手で顔面を押さえている。そんな彼に近付いて、ショウは言った。

 

「どうです驚きましたか? 驚きましたよね。だって驚かせたんですから! ウォロさん、今は平和な時代だからいいものを、ヒスイ地方だったらポケモンに背面取りをされて先手を取られちゃってますよ!」

「……アナタ、まさか、時空の裂け目の……!」

「あ、さすがに名前忘れちゃいましたか? 百年以上は経ってますもんね。ギンガ団調査隊隊員、ショウです。お久しぶりですウォロさん」

「どうしてアナタが此処に」

「どうしてって、此処はあたしがいた時代ですから。アルセウスに元の場所に戻してもらって、ゆっくり旅をしているところです」

 

アルセウスの名を出した途端、ウォロの顔が物凄く歪んだ。好青年のような顔は見る影もない。

ショウとアルセウスが会って勝つところなんて見たくない、とそれきり二度と姿を見せなかったのだから、その反応も当然だろう。

ふん、と鼻を鳴らしてショウを睨めつけるが、ショウに効きはしない。あの頃より経験を積み、心身ともに成長し、心にはずっと余裕がある。

 

「……それで、アルセウスに帰してもらったというのに、ワタクシに何の用事が? 未だアルセウスを従えていないワタクシを嘲笑いに来たとでも?」

「いえ別に。従えるとか言ってるからアルセウスも会いたくないんじゃないかとは思いますけど。目的はそれです」

 

ウォロが左手に持ったままの図鑑を指差すと、彼の視線も下がった。

 

「ラベン博士に聞きましたよ。図鑑、完成を本当に楽しみにしてたって。だからわざわざ、あー、ノボリさんが博士の図鑑を複写してくれたんです」

「は……これを渡すために、ですか」

 

目を丸くし、口をポカンと開けて呆けた表情をするウォロ。彼の視線が、ショウと図鑑を行ったり来たりする。

小さく首を傾げながらも、ショウは頷いて手の平を向けた。

 

「はい。どうぞ。ウォロさんのおかげで見つけたポケモンもいますし」

「……どうも」

 

正直なところウォロはショウが嫌いだろうし、腹いせも兼ねて本当に顔面に叩きつけたため、いらないと突っ返されたり、この場で地面に叩きつけられることも予想していた。

だがウォロは非常に複雑そうな顔をしながらも、丁寧な手つきでリュックに図鑑を仕舞った。楽しみにしていた、というのは真実だったのかもしれない。

面倒だから今は素直に受け取っておいて、後で捨てたり売ったり燃やされたりする可能性もゼロではないものの、百歩譲って路銀か薪になるなら許そう。

 

ショウにとっては、憎み切れない人ではあるのだ。

尤も、せっかくヒンが複製してくれた図鑑を本当に粗末に扱った場合、それが分かった時点で、またポケモンバトルでボコボコにした上で顔面にパワーウエイトを投げつける所存ではあるが。

 

本当にあのときの姿のまま、しかも旅に出て数年以内に出会えるとは思っていなかった。何なら、世界中を回り切っても無理かもしれないと考えていたため、嬉しい誤算ではある。

ウォロとあんな形で別れたきりだったのは些か心残りでもあったし、これでヒンに良い報告が出来る。自然とショウの顔に笑みが浮かんだ。

 

「ウォロさんも元気そうで良かったです! それじゃあ、あたしも旅を続けますから、またどこかで会えたらバトルしましょう!」




あとIF話を一話投稿したらとりあえず終わりです
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