黒の流星   作:ほせき

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空からの来訪者の話・弐

ノボリに貰った発信機をお守りにすると言ったのは、危険な時空の歪みに何度も入ってまで集めて作ってくれた、その気持ちが嬉しかったからだ。

本当に発信機みたいになっているのか、自分で作ったのかはまでは分からない。ショウは機械に強いわけでもないので。

でもこの時代に機械っぽいものがないのは確かなこと。現代から持っていた貴重なものをくれたか、時空の歪みで拾うという労力を支払ってくれたのは本当だろう。

 

――だから本気にはしていなかった。

子供向けアニメに出てきそうな、分かりやすい起爆スイッチみたいな機械。それを押したところで、本当にノボリが察知してショウのところまで来てくれるだなんて。期待なんてしていなかった。

 

 

 

コトブキムラを、ギンガ団を追い出されてしまった。

ショウの居場所はコトブキムラだと言ったのに。まだジム巡りも一人旅もしたことがないのにも関わらず、現代よりずっと凶暴で強大な野生ポケモン達に身一つで向かって行って、体を張ったのに。マッチポンプみたいな面倒くさいこと、命を賭けてまで信頼を得たいだなんて思っていない。

 

ラベン博士やテルは惜しんでデンボクを非難してくれたし、シマボシ隊長は生きろと言ってくれた。でも他のコトブキムラの人達は、やっぱり、だなんて簡単に手の平を返した。

気持ちではどうにかしてあげたいと言ってくれる人はいても、皆立場があった。追放を言い渡したのは上司だし、彼ら自身もコトブキムラを出て、行く宛などない。

今まで世話になったけれど、ギンガ団と対立できないシンジュ団とコンゴウ団がデンボクの決定に口を挟めない。今まで中立の立場を保ってきたギンガ団と事を荒立てるわけにはいかないから味方できない。キクイとヨネにもそう言われた。

 

ショウにも帰る場所はある。シンオウ地方のトバリシティ、両親の待つ家。

でも帰り方が分からない。帰りたいのに帰れない。帰れるものなら、調査だとか荒ぶるキングだとか全て放り投げてとっくに帰っている。

だったらショウは、どこに行けばいいのだろう。空が赤くなったとして、原因が分からないのにどうしたらいいのだろう。

とりあえず今日は雨風を凌げる場所を探さなければとヨネに背を向けた直後、短いヨネの悲鳴のような声が聞こえて再び振り返った。

 

最初に視界に入ったのは黒。最後に見たときと変わらずピンと背を伸ばし黒い帽子のつばを掴んだ状態で、肩を大きく上下させたノボリが立っていた。

変わっているのは、黒い外套の下の服の色。シンジュ団の着物ではなく、黒い色のインナーを着ていた。大きく息を吐いたノボリは、じっとショウの顔を見つめて口を開いた。

 

「遅くなって申し訳ございません。お約束通り駆けつけました」

「ノボリさんその恰好……もしかしてキャプテンとシンジュ団は」

「かねてより後継者として教育していた方にキャプテンの任はお任せいたしました。見ての通りシンジュ団の着物はお返しし、途中で出会ったカイ様にも退団の意を直接伝えております」

 

視界の端で、ヨネが額を押さえて頭を振るのが見えた。

ノボリがシンジュ団を辞めた。成り行き上で、シンジュ団とコンゴウ団どちらでも構わなかったというような言葉を聞いてはいたけれど。

確かにショウは、黒曜の原野のベースキャンプに着いてすぐにボタンを押していた。今だってポーチの中にある。

 

「な、なんで……?」

 

思っていたよりもずっとか細い声がショウの口から漏れた。

でも、本当に来るわけないと思って、キャプテンもシンジュ団も辞めてだなんて思っていなかった。しかも天冠の山麓にいたのなら、全速力で走ってこないとこんな短時間で来られるはずがない。

小さく首を傾げたノボリは、ショウと視線を合わせるようにその場に膝をついた。

 

「いつでも、どこにいても、このヒスイにいる限りは駆けつけると、約束致しました。約束を果たすのに障害になるのでしたら、キャプテンの任もシンジュ団の立場も邪魔なだけでございましょう。よくボタンを押してくださいましたね。この先あなた様が帰れるまで、あるいはどちらかが動けなくなるまでは、何があろうと、わたくしは傍におります。……よく頑張りましたね」

 

思わず、ショウはノボリの首に抱き着いてしまった。

ちょうどいい位置にあったのと、相変わらず表情は固いのに声色と言動が一等優しかった所為だ。同じように背中に回されたノボリの大きな手が、優しくショウの背を撫でた。

 

 

それから、ノボリは本当にずっとショウと一緒にいてくれた。

イチョウ商会のウォロが当面の隠れ家を紹介してくれて行くべき場所を示してくれて、カイとセキが秘密裏に協力してくれるようになっても、ずっと。

あちこち駆け回る羽目になっても文句も言わず、当然のようにショウの傍にいた。ショウが疲れたときは周囲の警戒を買って出、ショウのために料理をしてくれた。

距離も随分と縮まった。ショウがノボリの前では虚勢を張るのをやめて、甘えるのを躊躇わないようになったからというのもある。ノボリの方もショウを甘やかすし、あからさまではないが、庇護すべき子供として扱っているからだ。

 

ずっと態度が変わらず、本当にひとりになったときも話しかけてくれたのはウォロも同じだが、彼は元から中立の商売人。ショウに声を掛けたのも、お得意様で利害が一致していて、好奇心を満たしてくれる可能性があるから、という理由に過ぎない。それに最初から親し気な態度でありながら、彼はどこか壁がある。

元々キャプテンもシンジュ団を辞めてそろそろ帰る手段を探すつもりだったから全く以て気にする必要はない、とノボリは言ったし、カイに聞けばその予兆はあったそうなのだが。

それでも、いの一番に駆けつけてくれたのは本当のこと。約束を守ってくれたのは、今も嘘にせず常に気遣ってくれているのは本当のこと。本当に欲しい言葉を、欲しいときにくれたのもノボリだけだった。

 

天冠の山麓のシンオウ神殿に行くときも、ポケモン達が共に来てくれないのを分かっていて、当然のように隣にいた。

ポケモン勝負だったから結局はショウの方から前に出たけれど、岩の門を先導し、立ち塞がるムベから庇おうとしてくれた。シンオウ神殿でも、少々落ち着かない様子だったのに伝説のポケモンの余波からの盾になろうとすらしてくれた。

 

そして諸々のいざこざが終わって、ショウがコトブキムラに、ギンガ団の調査隊に戻った後も、ずっと。

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