黒の流星   作:ほせき

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空からの来訪者の話・小話壱

調査団の仕事に毎回、ノボリも付き合ってくれることになった。

ショウが落ちてきたという時空の裂け目は閉じてしまった。だからもうショウはヒスイ地方に定住する。そう思う者もいるかもしれないが、ショウはそう思ってはいない。

 

『すべてのポケモンと出会え』

 

おそらくショウを此処へ送り込んだアルセウスと名乗るポケモンはそう言った。

きっと、ヒスイ地方にいるすべてのポケモンと出会えば、図鑑を完成すれば何とかなるはず。誰にも言っていなかったことも含めて、その憶測をノボリには包み隠さず話した。ならばわたくしも微力ながらお手伝い致しましょう、そう言ってくれたのだ。

 

コトブキムラにいる間は、ノボリも自由行動をしている。シンジュ団は抜けたままだし、そもそもシンジュ集落はコトブキムラから遠い。

畑作隊や建築隊で力仕事を手伝ったり、ペリーラに頼まれて他の警備隊の面々のポケモンバトル及び対人戦の訓練の指導、それからシマボシ隊長とラベン博士の手伝いまでしている。毎日ではないし、一番手が足りない場所や気が向いた仕事を、ということらしいが。

何かあったらまたボタンを押せば駆けつける、と言い、夜は力を貸してくれるポケモン達と過ごしたりしているようだ。基本的にショウを手伝うなら調査隊と言ってもいいはず。シマボシ隊長に頼んで宿舎を用意してもらおうかと言ったが断られた。

アレルギーが多い上に、人に食べる姿を見られると嘔吐することもあると、ノボリが食事をしている様を見たことがない。ポケモンはともかく、人の気配がすると寝られない体質だと言われれば、無理にとは言えなかった。現代でも不便そうな難儀な体質だが、あれだけのフィジカルを保っているのだから何とかなっているのだろう。

 

ともかく、ノボリが一緒にいてくれるだけで心強いし嬉しい。

他の人であれば緊張したり、時空の歪みに入ってしまったりポケモンに囲まれたりしたら守る必要があるけれど、ノボリであれば彼の身を心配することもない。

周囲の警戒や食事作りも率先してやってくれる。ショウの事情も分かっているし、全面的に信頼している。甘えている自覚もあるけれど、それでいいのだと当たり前のように頷き甘やかしてくるので、遠慮しないことにした。

ショウは無理をして心身に不調をきたしたら本気で命の危機に直結しかけない仕事をしているため、無理は良くないのも確かだ。

 

「ラベン博士の手伝いの際、ポケモン図鑑を拝見いたしました。わたくしが見かけたことがあり、図鑑に載っていなかったポケモンがおります。お伝えしても?」

「えっ、本当ですか!? だいぶ調べたと思ってたんですけど……是非教えてください!」

 

アルセウスフォンに表示される地図を二人で覗き込みながら、ノボリは長い指で画面を指し示す。

 

「まずはナエトル。紅蓮の湿地、羽音の原で見かけたことがございます。最南東の草むらに隠れているため非常に見つけ難い。ピィは天冠の山麓のフェアリーの泉に夜のみ出現いたします。また、この地方特有のゾロアが純白の凍土にある洞窟内にいます」

「この地方特有、ですか?」

「ヒスイ地方にはノーマルゴースト複合タイプで白と赤の毛並みのゾロアしかいないようなので、お気になさらないでよいのですが……実はわたくしがいたイッシュ地方にもゾロアがおります。イッシュ地方のゾロアはあくタイプ単体ですが、こちらはヒスイの地で見かけたことはございません」

「リージョンフォームなんでしょうか」

「おそらくは。それから、時空の歪みにのみで見かけたポケモンもございます」

「あっ、ポリゴンとかズガイドスとかもですよね」

「はい。近代に人工的に作られたポケモンに、化石から復元して初めて蘇るポケモン。現代とどこかで繋がっている証左でしょう。ヒスイ地方で見るかくとうどくタイプのニューラではなく、あくこおりタイプのニューラを時空の歪み内でのみ見ております。進化系のマニューラも。検証回数が少ないため確かではございませんが、今のところ黒曜の原野でのみですね」

 

そう聞くと、出会っていないポケモンも多い。本当はまだいるらしいのだが、一度に聞くと混乱してしまうため、今回はこれでストップを掛けた。

数回見かけたり、一匹だけ捕まえて、まだ詳細な調査が済んでいないポケモンもいる。キングを鎮めたり空の色を元に戻したりは緊急だったため、調査任務が滞るのは仕方なかったのだが。

 

「あちこち駆け回ることになりそう……あ、でも移動はどうしよう」

 

ノボリはオオニューラのキャプテンだったからオオニューラの力は借りられるだろう。だが、他のライドポケモンはそうではない。

全てのライドポケモンを乗りこなしてヒスイの地を駆け抜けられるからこそカイはシンジュ団のリーダーだと言っていた。ショウが追放されてから各地を駆け回ったときは緊急事態だったからみんな一緒に乗せてくれたし、場合によってはノボリ自身が走ったりフーディンにテレポートを頼んだりしていた。

ショウ自身の足で駆け回ることもあるが、ライドポケモンの力を借りることも多々ある。ガチグマなら大きく力強いからノボリが一緒に乗っても大丈夫だろうけれど。イダイトウやウォーグル辺りは心配だ。

ショウがノボリを見上げると、ノボリは小さく頷いて口を開いた。

 

「問題ございません。平地なら多少は自身の足で走れます。崖はオオニューラがわたくしにも力を貸してくれるでしょう。空も力を貸していただけるポケモンに心当たりがございますので、水辺も同じように」

「でもノボリさんはボールを使ってないし、ポケモンの気分次第だって……」

「はい。ですがわたくしと相性の良いタイプのポケモンであれば、事前に交渉しておけば可能です。シンオウ神殿でなければですが」

「そうなんですね。ひでんマシンもないから、無理だと思ってました」

「確かに、シンオウ地方では所持バッジの数に応じてひでんマシンを配布されますね。それはトレーナーの実力を見、ポケモンとの相性を確認するためでもあります。バッジの所持数ではなく、座学と実習があっての免許制で許可が出る地方もございます。ですから結局は、ポケモンと乗るものの技量や相性によります。高いところから落ちれば命の危険がありますからね。ライドポケモンは、人を乗せることに慣れ、また人が乗ることに適したポケモンですからそう問題はないのでしょうが」

「じゃあ、ノボリさんもバッジか免許を持ってたんですね」

「いえ、どちらも持ってはいませんでしたが、実際に幾度も力を借りコツは掴んでおりますので問題はございません」

 

実は思っている以上にノボリは高スペック……というより、フィジカルが規格外すぎるのではないだろうか。

ハマレンゲも十分に規格外だったし、カイも雪山であの薄着なのに暑いと言うくらいなのだから、過酷な土地に集落を築いているシンジュ団は、案外そんな人が多い可能性がある。シンジュ団に所属していたのは成り行きだったらしいが、類は友を呼ぶとも言うし、なるべくしてなったと言えるのかもしれない。

 

一緒に各地を巡って、ますますその気持ちが強くなるのだが。頼もしい限りではあるため、ショウは細かいことは気にしないことにした。

おかげで図鑑進捗が大幅に進み、ショウが調査中に怪我の一つもしなくなったのは事実なのである。

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

女子会をすることになった。

参加者はショウ、カイ、ガラナ、ヒナツ、ヨネの五人で、場所はコトブキムラのショウの宿舎。

本当は警備隊のミヨも参加する予定だったのだが、当日の昼に訓練で足を捻ってしまい、念のため医務室での療養を言いつけられているので今回は見送りだ。

現代のようにお菓子を持ち寄ってのパジャマパーティ、なんてことは出来ないが、比較的歳が近くて仲の良い同性の友達とお泊り会、というだけで気分は上がる。

長やキャプテン、隊員としてではなく一人の女の子としてワイワイ話すのを、決まったときからずっと楽しみにしていた。

 

当日、ちょうどコトブキムラに用事があるから、と都合をつけてくれたカイとガラナ、比較的近場でキャプテンをしているヨネ。そしてコトブキムラで暮らしているショウとヒナツがショウの宿舎に揃っていた。

可愛いパジャマなんて持っていないが、手作りのクッキーとアイスはノボリが用意してくれた。イチョウ商会で購入したカラクリつづらの中にロトムが入ってくれているおかげで、バッチリ冷蔵庫と冷凍庫の役目を果たしてくれている。

暑いし女子だけなのだからいいだろうと、パジャマどころか下着姿だったカイも、冷たいアイスにご満悦だ。ショウを含め、他の人達は暖かい格好をして少し食べた。美味しいし懐かしいし至福の時だったものの、やっぱり寒いものは寒い。こういうのは暑い夏か、暖かいこたつに入って食べるに限る。

ちなみに、純白の凍土は天然の冷凍庫だからノボリはたまに作って置いておいてくれたらしいが、食べるのはカイとハマレンゲだけ。ノボリがシンジュ団を抜けてから食べられなくなったため、カイは大層嬉しがっていた。保存しておけるから、ショウがいるときは食べに来てもいいよと言っておいた。

 

ヒナツやミヨの布団も借りて、いつも寝ている場所に敷いて五人で寝ころべばもう、キツキツだった。

だけど何だかそれが楽しい。夕飯も食べて身を清めた後なのに、こっそりアイスやクッキーを食べるなんて物凄い罪悪感。しかも夜更かししておしゃべりまでしてしまうのだ。

全てが解決して平和になったから出来ること。調査隊の仕事も順調なので、明日寝坊してしまっても問題はない。

 

布団の上に寝ころんで顔を突き合わせて。最初こそ、話題はお互いの団のことや仕事、ヒスイ地方の現状や己と周囲の近況と、真面目で少しお硬いものが続く。

だけどそれが終われば、始まるのは雑談だ。五人も女の子が揃えば姦しいだけでは済まない。冷静なヨネも落ち着いたガラナも、いつもよりはちょっと騒がしくて口が軽い。カイがガラナちゃんと呼んでも、この場限りはと注意もしていない。

 

「そういえば、ツバキさんが幼い頃ノボリさんが子守りしてたって聞いたんですけど。カイさん達もノボリさんに面倒見てもらったんですか?」

 

ショウの言葉に、ショウ以外の全員が顔を見合わせた。カイはちょっと顔を顰めたし、ヒナツはちょっと苦笑いを浮かべている。

 

「そうだよ。あたしら以下の年齢のは全員って言ってもいいかもね」

「あ、じゃあツバキさんのおむつ換えたっていうのも本当なんですね」

「ノボリさん! 何でそんなことまで言っちゃってるの!?」

「カイは年齢考えると当然なんだからいいじゃん。あたしやツバキはもう少し早く出来るようになってれば……」

「まあまあ、うちのリーダーも実は頭が上がらないんだから。前リーダー達の要請があったとはいえ、あの人も意外に子供好きで面倒見がいいんだよね。あたしもよくゴンベと一緒に世話になったよ」

「カイの無茶ぶりにも、時間が許す限り付き合ってくれていましたものね」

「だってノボリさんが良いって言ったし、無茶じゃない!」

 

ノボリは昔から規格外であったらしい。そして団の垣根を越えていたのも本当のようだ。

幼い頃のことは仕方ないとはいえ、下の世話までしてもらったとなると、ツバキだけでなく思うところはあるらしい。セキは年齢的にさすがにおむつ交換はないだろうが、長としての威厳を損なうと思うような出来事があったのかもしれない。

 

「衣食の世話は皆共通として、男の子は無茶やって首根っこ掴まれて戻されたり、寸でのところでポケモンから助けてもらったりね」

「当人は強くてポケモンの扱いは上手くて、でも怖がりでも馬鹿にしたりせず、危険や不利益がないのなら融通も利かせてもらえますものね。男女問わず、ノボリさまに憧れを抱いている方は多いのですよ」

「分かる! 初恋の人を聞いたらノボリさんの名前を聞くこと多いもん」

「でもガラナちゃんはススキさん一筋でしょ?」

「勿論。憧れにも色々な意味があるのよ」

 

ノボリから軽く聞いてはいたが、思っていたよりもずっとノボリは貢献し信頼を集めていたらしい。今更だが、ショウのためにシンジュ団を抜けて大丈夫だったのだろうか。主にシンジュ団の面々が。

コンゴウ団もシンジュ団所属だったノボリに忌避感はなかったのかと問えば、ノボリが説明してくれたのと概ね同じ回答だった、

うんうんと話を聞いていたが、カイが真剣な表情をしてショウの名前を呼んだ。

 

「ショウさんはノボリさんとその……夫婦になるつもりなの?」

「へ?」

 

突然の質問に、ショウは目を見開いて呆けてしまった。まるで想定していない質問だった。

誰が? 誰と? これがまだ、調査隊の先輩であるテルの名前だったら分からないでもなかっただろう。歳もまだ近い方だ。

だけどノボリはずっとずっと年上だ。見た目から年齢は分からないし、そういえばちゃんとした年齢を聞いたことはなかったものの、セキくらいの歳に此処へ来て二十年ほど経っているなら、四十は超えているはずだ。ショウの父親より上だ。

頼りになる年上の男の人、という認識はあったけれど、恋愛対象として見たことなんて一度もなかった。兄や父や先生のような認識だった。

そもそもショウはずっと帰りたいと思っている。此処で誰かと恋人同士になる、ましてや夫婦だなんて考えたこともなかった。

ショウは必死に首を横に振ってカイの言葉を否定する。

 

「な、ないない! 絶対ない! 何で!?」

「ノボリさん、ずっとショウさんと一緒にいるんでしょ? ショウさんのところに入り浸ってるって聞いたこともあるし」

「コトブキムラの外に出るときは一緒だけど、ずっとってわけじゃ……! 今だって、警備隊の訓練の指導かシマボシ隊長の手伝いに行ってるはずだし、ごはんは作ってくれたりするけど一緒に食べたこともなくて、ノボリさんはせいぜい板の間に腰掛けるだけで、靴を脱いでこっちに上がったこともない! 夜はポケモンと一緒に過ごしてるって、泊まったこともない!」

 

此処にいる全員、もしかしてそんな風に思っていたのだろうか。だったらノボリにも申し訳なさすぎる。ノボリも帰るつもりでいるのでヒスイの地で結婚する気はないだろうが、とんだロリコン疑惑だ。

飛び降りるときに手を貸してくれるとか、ショウの気持ちが沈んでいるときに慰めるために背を撫でてくれる程度の接触はある。だがそれ以外でノボリから触れたことはないし、何ならノボリの方からやんわりと回避したり良くないと咎めることすらある。ショウは全然意識していなかったからこそで、唯一の同胞で心から頼れる人だったからなのだが、こういう理由だったのだとようやく理解した。

ショウの言葉に、目を丸くしてヨネとガラナが顔を見合わせた。

 

「でも、全てを放ってまでひとりに肩入れするのってショウが初めてだし……」

「シンジュ団とコンゴウ団、両方の年長者達から誰か娶るように言われてもキッパリと断って、大人になった途端に女子への接し方を変えていましたから、そういうことなのだと……」

「接し方って」

「声を掛けるときに肩を叩いたり、早く来てほしいときに腕を引っ張ることもあるだろ? ノボリさん、不意打ちだろうがあからさまに避けるんだよね」

「怪我人はその部位にもよりますが、子供だと片腕に乗せるように抱っこしていたのに、体格が変わらずとも肩の上に担ぎ上げるようにして運ぶようになりますね。背の高い方は最初からそうですけれど」

「そういえば、しゃがんで視線を合わせてくれることもなくなるよね」

「そう。ショウのときはまあ事情も事情だったけど、わざわざ膝をついて抱き着くのも避けずに普通に抱き上げてたからね」

「……だったら、意図的、なの、かも?」

 

憶測でそう言えば、パッと皆の視線がショウに集中した。

この地に骨を埋める気はどちらもなくて、ノボリは女性側にそんな気を微塵も持たせる素振りを徹底してせず、縁談をことごとく断っていたのなら。

実際にはショウとも適切な距離を保っているのだから、周囲からそういう目で見られる可能性がゼロではないと分かっていたはずだ。ショウより情報通で、この時代についての知識もあって、人の心情を図ることも上手いノボリが、察せないわけがない。

 

「あたしもノボリさんも、誰かと恋人同士になったり、結婚したりする気がないから……」

「ちょっとも?」

「全然! ちっとも!」

 

力強く言い切ったショウに、ああ、とどこか納得したような表情でヨネは頷いた。

 

「防波堤ってわけね。もう怪しいって言う奴もいないし、何ならあんたにずっといてもらいたいって奴はいくらでもいるからね」

「ショウさまは強くて可愛らしい方ですもの。殿方が放っておきませんわ」

「だけど本人にその気が微塵もないんじゃあね。無理強いはさせないっていうことだね」

「でもショウがいざその気になった時にどうすんのさ」

「そこは当人達がノボリさんを乗り越えるしかないんじゃない?」

「何にせよ、ノボリさんに確かめておいた方がいいね。ノボリさんもそのつもりであえて現状を保ってるなら、あたしらも肯定はしないけど訂正したりもしないからさ」

「はい、明日にでも確認しておきます」

 

その後も女子会は続いたが、ショウは一番に寝落ちしたため、誰が最後まで何を話していたのかは知らない。しっかりと布団を被って寝ていたので、誰かがやってくれたのだろう。

女子会は楽しかった、と皆に好評だった。シンジュ団の長にキャプテンと忙しい人達ばかりなので、次回があったとしてもずっと先の話だろう。でもショウもまた出来たらいいなと思うくらい楽しく気分転換ができた。

 

 

次の日、ノボリと合流して早々に尋ねてみれば、ノボリは綽々と頷いた。

 

「はい。皆様が誤解してくださることを期待しておりました。シンジュ団とコンゴウ団は元より、ギンガ団でも畑作隊と建築隊の仕事をゴーリキー達と共に手伝い、警備隊の訓練でポケモンバトルだけでなく物理的に他の方々を転がしてもおりますので、ショウ様に迫ったり妙な真似をする者はいないとみてよいでしょう。お互いにその気がないと思っていたための対応でしたが、勘違いされるのも不快であれば訂正して回りますが……」

「あ、大丈夫です。もし、その、男の人に何か言われても困るので、むしろ助かります」

「それならようございました。もし誰かに迫られる、あるいは誘われるようなことがあればわたくしに仰ってくださいまし。牽制し注意しておきます。困っていると言っていても、二人きりになろうとするなら避けてわたくしをお呼びください」

「分かりました」

「ショウ様は大人、十五歳だと認識されております。そこまで悪い人間はいないと思いたいですが……二人きりになったのだから合意したのだと判断する者や、既成事実を作ってしまえば後からどうとでもなる、等と考える不埒な者もいないとも限りません。ショウ様はポケモンバトルは強くとも、人に対してはそうではないでしょう。どうぞご注意を。そして遠慮なくわたくしを頼ってくださいまし」

「は、はい。でもノボリさんがあたしとそんな風に見られてるとは思ってませんでした。見た目はすっごく若いですけど、あたしのお父さんより年上だと思うのに……」

 

確かにショウも忘れがちだし、実際に接していて思ったこともないが、年齢的にノボリはおじさんなのだ。実際もそうだけれど、身長も体格も差がありすぎて大人と子供。恋人どころか夫婦なんて普通は思わない。首を傾げるショウを一瞥したノボリは、帽子を引き下げながら口を開いた。

 

「……今でこそ恋愛結婚は普通ですが、親が決めたり、相手の顔すら知らずに結婚するということは、昔であればそう珍しくはなかったそうです。結婚は家同士を結びつけるもの、あるいは家を存続させるためのもの。であれば、双方子供が作れる年齢ならば構わない、むしろ男性より明確に年齢制限があり体に負担のかかる女性は若い方がいいと。故に、子供を作れないほどの年齢でなければ問題とはされていないのだと思います。……申し訳ございません」

「えっ、何でですか!?」

「おじさんとそんな仲だと勘違いされているわけですから、ご不快でしょう。事情を汲んでくださる年齢の近い方にお願いする方がいいかもしれません。シマボシ様に条件の合う方を紹介していただいて」

「大丈夫! 大丈夫です! 他の人とだったら、断然ノボリさんがいいです! よく考えたらお父さんより年上なんだなって思っただけで、おじさんとか全然思ったことないです!」

「配慮が足りず誠に申し訳ありません。わたくしに気を遣わず、少しでも嫌だと思えば誰かを通してでも構いませんので遠慮なく仰ってください」

「はい、その時は言います!」

 

年齢を勘違いされたままの弊害までは考えていなかった。それこそノボリの方が不名誉ではないかと思ったが、この時代で普通のことなら大丈夫なのだろう。

ショウは何にも考えていなかったのに、知らず知らずの間に守られていた。感謝こそすれ、文句を言うなどお門違いだ。ノボリと実際にどうこうは考えたことすらないが、別に嫌ではない。

 

「……自衛のため、就寝の際には戸締りをしっかりして枕元にロックを外したボールを置いておくようにしてください」

「傍にはいつも置いてますけど、毎回確認します」

「また、依頼報酬などの明確な理由がない限り、できるだけ男性からの贈り物は受け取らない方が宜しいかと思います。断りづらければ、わたくしが嫌がるからと名をお出しください。他のことでも、遠慮なく使っていただいて構いません」

「? はい、分かりました」

 

ノボリの牽制が功を奏したのか、ショウがそういった意味で危険な目に遭うことは一度たりともなかったのだけれど。

それでも、後で他の人に聞けば実は縁談を持ちかけられそうになったり、下心ありきで贈り物をしようとしてた人がいたらしいが、一度ノボリの名前を出せばそれもパッタリとなくなった。

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