再転生した元神は転スラの世界へ   作:さすらいの旅人

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新たな厄介事

 翌日。魔国連邦(テンペスト)は何事も無かったかのように再び平穏の時間を過ごそうとしている。

 

 リムルは魔王ミリムの世話係となったが、今日は封印の洞窟へ視察する予定だった。大変ならば自分が代わりに行こうかと隆誠が提案するも、リムルは盟主として自分が視察すると丁重に断っている。

 

 その洞窟にはべスターが用意した貴重な実験道具などが置かれており、そこは謂わば魔国連邦(テンペスト)の研究施設も同然。だからミリムを連れて行けば、絶対に大惨事が起こると断言出来てしまう。

 

 だが、その懸念はすぐに解決する事になった。彼女は魔王でも女の子だから、シュナに可愛い服を用意させようと。それで時間が出来た為、リムルは安心して洞窟へ視察する事になった。因みに盟主補佐の隆誠も同行するのだが、他にやる仕事がある為に不参加となる。

 

 

 

 

 

 午前の仕事が一段落したので、隆誠は昼食にしようと一旦自宅へ戻っている。

 

 魔国連邦(テンペスト)での食事は朝と夕方の二回となっており、昼の時間帯に食堂は開いていない。

 

 人間は朝食、昼食、夕食の三食が基本になっている。これは嘗て人間だったリムルも当然理解しており、昼の時間帯には隆誠だけ昼食を取る為の時間を設けているから問題無い。尚、その昼食時に某スライムが同行する日がある事も補足しておく。

 

「なぁベニマル、お前は俺と違って執務中じゃなかったのか?」

 

「今は休憩時間だから問題無い」

 

 と言う理由で、今日は侍大将のベニマルが隆誠の家に来ていた。

 

 甘党(スイーツ)男子が来ているのだから今日の昼食はホットケーキにしようと、バイクのリアボックスとは別に、神の能力(ちから)で使っている『収納用異空間』から材料を取り出す。

 

 一通りの準備を終え、二つの熱したフライパンに牛乳(()鹿(じか)の乳)が入ったホットケーキの生地を入れる。それが焼かれている事で、キッチン全体に甘い匂いが広がっていく。

 

「ッ! おい隆誠、この甘い匂いは一体何だ!?」

 

 別の場所にも届いたのか、リビングにいるベニマルが血相を変えてキッチンに来た。

 

「いきなり入って来るな。少し待てば出来るから」

 

 隆誠はそう言いながらベニマルを追い出した後、ふっくらしたホットケーキを完成させ、既に用意してる二枚の皿にそれぞれ乗せた。

 

 ホットケーキを乗せた皿を持ってリビングへ行くと、そこにはベニマルが早く食べたいと言わんばかりの様子で待機している。

 

 相変わらず甘い物には目が無いヤツだと思いながらも、彼の前に本日の昼食を見せる。

 

「な、何なんだコレは? この丸い形状の物体から、凄く甘い匂いが……!」

 

「これは俺のいる国にある『ホットケーキ』と言う食べ物だ」

 

「ほ、ほっとけーき?」

 

 初めて聞く単語だったのか、ベニマルは不思議そうな顔をしながら鸚鵡返しをした。

 

 切りながら食べる事を教えると、彼は言われた通りホットケーキを分割させ、食べやすいサイズにして口に運ぶ。

 

「う、美味いッ!」

 

「待て待て、まだ一気に食べるな」

 

 ホットケーキの美味しさと甘さに魅了されたのか、一気に食べようとするベニマルを隆誠が即座に止めた。

 

「そのままでも勿論良いんだが、コレをかけるともっと美味しくなる」

 

 隆誠はそう言いながら、ホットケーキに欠かせないメープルシロップが入った容器を見せた。それの蓋を開封して自身が食べるホットケーキにトポトポとかけている。

 

「おいおい、それからも甘い匂いがするじゃないか……!」

 

「ああ。これは昨日の夕食で、リムルが見せた蜂蜜と似たようなモノだ」

 

「…っ!」

 

 蜂蜜と聞いた瞬間、ベニマルは『お前も一人占めしてたのか!?』と思いっきり睨んだ。

 

 昨日の夕食時に隆誠やリムル達がミリムと一緒にカレーライスを食べていた時、シオンは目ざとくも蜂蜜の存在に気付いたのだ。その所為でシュナやベニマルも便乗する事になり、観念したリムルは今まで秘密にしていた蜂蜜を露呈せざるを得なくなった訳である。

 

 因みに隆誠にだけ蜂蜜を貰っている事まではバレていない。理由としては、リムルは彼から日本産の食べ物をいくつか頂いているからだ。そのお礼と言う意味合いも兼ねて、貴重な蜂蜜を分け与えている訳である。

 

「言っておくがコレは俺の私物だ。前にお前が食べた羊羹と同様に、な」

 

「……すまない、俺の早とちりだった」

 

 今も秘密にしているお菓子と同様のモノである事が判明したことで、ベニマルは納得したかのように謝った。

 

 落ち着きを取り戻した彼を見た事で、隆誠は説明を始めようとする。

 

「このメープルシロップは花の蜜から作られる蜂蜜と違って、樹木から取れる樹液を濃縮したものだ。甘みはあっさりとしてるけど、香ばしいのが特徴でな」

 

 一度試食させようと、ホットケーキの皿の隅っこにメープルシロップを数滴垂らした。それを見たベニマルは、指で掬った後に舐める。

 

「これはっ……!」

 

 蜂蜜とは全く異なる甘さに驚くベニマル。どちらにしても美味しい事に変わりないようだ。

 

「それの味が分かったなら、今度はお前のホットケーキにかけてもいいか?」

 

「是非ともそうしてくれ!」

 

 持っているシロップのボトルを渡しても良かったが、全部使ってしまいそうな気がしたので、敢えて隆誠がやる事にした。

 

 待ってましたと言わんばかりにメープルシロップがたっぷりかかったホットケーキを、ベニマルは即座にかぶりつく。

 

「美味い、美味い……!」

 

(甘い物好きなのは知っているが、まさかここまでとは……)

 

 見るだけで幸せそうに食べているベニマルを見て、隆誠は苦笑しながらもホットケーキを食べている。

 

 今回食べた昼食については、当然秘密となった。女性陣のシュナやシオンが砂糖の発見に全力を尽くしている中、自分達だけ甘い物を美味しく頂いている事を知ったら容易に想像出来るから。

 

 

 

 

 

 

「では予定通りに建設を?」

 

「ええ。ゲルド殿に材料や人員を確認したところ、全く問題無いとの事です」

 

 昼食後、(ホットケーキを食べた痕跡を消す為の)支度を済ませた隆誠とベニマルは家を出て別行動を取る事になった。

 

 隆誠は午後から中央施設の建設予定地へ向かい、そこでリグルドと数名のホブゴブリン達と落ち合って、工事前の最終確認を取る為の視察をしている。これは本来盟主のリムルがやるのだが、今日はべスターやガビルがいる洞窟の視察やミリムの対応もあって、盟主補佐の隆誠が急遽代理として来たのだ。

 

「分かりました。では盟主には後ほど報告を……ん? 何か来る……!」

 

 視察が問題無く終わろうとしている所、隆誠は何かを感じ取ったかのように上空の方へ視線を向けた。

 

 リグルドやホブゴブリン達も釣られるように上を向くと、見慣れない集団が広場へ降りようとしてくる。

 

(何だアイツ等は? 人間、いや獣人か?) 

 

 突如広場に降り立った獣人の集団に隆誠だけでなく、リグルド達も少しばかり警戒を露わにしていた。

 

 これまで来訪してきた友好的な魔物達とは異なる雰囲気だった。加えて雑魚のチンピラ集団とは大違いの実力者揃いでもある。その中で一番に強そうなのは、黒染めの豪華な衣装に高価そうな武具を身に纏った黒髪の獣人で、オーラの量だけで言えばベニマルを上回っているのが分かった。

 

(ミリムには程遠い、か)

 

 昨日に規格外な魔力を持つ魔王が来た所為か、彼女と比べれば多少はマシだと隆誠は考えた。

 

 余裕で勝てる相手とは言え、決して油断出来ない。ああ言う実力者揃いの集団には、彼等より強い統率者がいるのがお決まりだと身を以て経験しているから。

 

「リグルドさん、あの連中は俺が――」

 

「いえ、ここは私がやりましょう」

 

 隆誠が対応しようとするも、任せて欲しいとリグルドが獣人の集団の方へ向かう。

 

 人間よりも魔物である自分の方が適任だと思ったのだろう。その気遣いを察した隆誠は、一旦彼に任せようと見守る事にした。もし荒事に発展すれば即座に前に出ようと思いながら。

 

「失礼。本日はどのような御用件でしょうか?」

 

 黒髪の獣人が悠然と町を見回して踏ん反り返っている中、向かっていたリグルドが声を掛けた。

 

「俺は魔王カリオン様の三獣士『黒豹牙』フォビオだ。獣王獣士団の中でも最強の戦士よ。ここはいい町だな。獣王様が支配するに相応しい。そうは思わんか?」

 

 余りにも偉そうで不躾な態度を取っている黒髪の獣人(以降はフォビオ)に、隆誠は眉を顰めていた。

 

「ご冗談を――」

 

 リグルドも隆誠と同じく思うところがありながらも笑顔で対応していたのだが、フォビオによって突然顔を殴られた。

 

「大丈夫ですか、リグルドさん!?」

 

 殴られて大怪我をしたリグルドに駆け寄る隆誠に、フォビオは途端に不快そうな目で見ていた。

 

「何でこの町に下等な人間がいるんだ?」

 

「それは俺の事を言ってますか?」

 

「お前以外に誰がいるんだよ」

 

 隆誠が確認の意味を込めて問うも、当然と言わんばかりに言い返してくるフォビオ。リグルドの時とは打って変わるように、蔑みの眼差しを向けている。

 

「ガッカリだな。矮小で小賢しく卑怯な人間とつるむなど、この町にいる主の程度が知れるな」

 

「……はぁっ。どうやら俺は、とんだ勘違いをしていたな」

 

 フォビオの発言を聞いた隆誠は、介抱しているリグルドから一旦離れ、ゆっくりと立ちながら彼と対峙する。

 

「礼節など一切無縁の獣臭い猫野郎だったか」

 

「何だと!?」

 

 隆誠が口汚く罵倒することに、フォビオは大きく反応する。彼の背後にいる獣人達は逆に驚いているが。

 

「貴様みたいな下品な奴が使者として来たのであれば、魔王カリオンとやらの程度が知れる」

 

「テメェ、俺だけでなくカリオン様も侮辱するか!?」

 

(どうやらこの男、俺の皮肉に全く気付いていないな)

 

 この時点で隆誠は失望した。先程までフォビオが見下していた発言の内容を、少しばかり弄って言い返されたのを全く気付いていない事に。

 

 三獣士と誇り高く名乗るからには、魔王カリオン直属の重臣と見て間違いない。だがその役職に就いてる者が、隆誠の皮肉に微塵も気付かずに激昂するのは重臣として問題にも程がある。

 

 魔王カリオンが相当な実力者であっても、力で何でも解決するだけの武道派でれば、まともな交渉が出来ないかもしれないと隆誠は少しばかり危惧してしまう。

 

「人間風情がカリオン様を侮辱したこと、後悔させてやる!」

 

「フォビオ様、この町の住民を殺すのは流石に不味いです!」

 

 隆誠を本気で殺そうと感じたのか、フォビオの配下である獣人が阻止しようとしていた。

 

「黙ってろ! 誇り高き三獣士が、カリオン様の侮辱を黙って見過ごす訳にいかねぇだろうが!」

 

 配下の制止を振り切ったフォビオが、両手に炎を纏わせながら隆誠に襲い掛かろうとするも――

 

親友(マブダチ)の子分に何してるのだぁぁぁぁぁ!!」

 

 突如大変聞き覚えの叫び声がした事で、隆誠とフォビオは揃って振り返った。

 

 拳にオーラを纏わせているミリムが此方へ向かって急突進している。

 

「おいおい!?」

 

「なっ……魔王ミリム!?」

 

 即座に距離を取る隆誠に対し、フォビオは『(ひょう)()爆炎(ばくえん)(しょう)』と言う技名を言いながら迎撃しようとする。

 

 間一髪で回避した隆誠は無傷であり、炎が上空へと巻き上げられながらミリムの拳が腹に炸裂したフォビオが地に伏す結果となったのは言うまでもない。

 

 これによって町は大騒ぎとなり、それを聞きつけた鬼人のベニマル達だけでなく、丁度町に戻っていたリムルも急いで駆けつけるのであった。




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